↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

第4話 凪紗と田中隼人さん(後編)

田中さんは、左の肩から肘の部分にかけて……異常な程、曲がっていた。

右の肩から左までは、正常。左だけ異常に……。


「何か左腕だけを酷使されるお仕事をされてますか?」


私は田中さんにお尋ねした。

今後の施術に関わるから。

理由によっては、私の手に負えない場合もある。


「……分かりますか? 実は、獣医師をしているんです」

「えっ? そうなんですか?」

これが、始まりだった。


牛さんのお尻から左手を突っ込み、腸を調べるのだと言う。


そのため、田中さんは、自分の左肩の近くまで……牛さんのお尻に腕を突っ込むため、sまるで職業病のように、ご自身の肩が曲がってしまっていたのだ。


「色々、マッサージに行ってみましたけど……そこまで聞かれたのは初めてですよ」

田中さんはそれ以来、うちを御贔屓にして下さる。


「いえ……知っておかないと、施術に影響するので」

私は当たり前の事を答えた。


――


――


――


「では、お着換えお願いします」

「はい、分かりました」

私はそっと、襖を閉める。


田中さんは月に1回、必ずメンテナンスとして来て下さる。

150分のコースで入られるので、他にお客様を入れることが出来ない。


……でも、売り上げ的には、十分。


時間も午後からの施術になるので、午前中は色々と準備をこなしている。


「お願いします」

襖の向こうから田中さんの声が聞こえる。


「――失礼します」

150分。温熱を使ったリンパ流しがスタートする――


――


――


――


「……田中さん。……お疲れさまでした」

「あっ……はい……寝てました」

眠気眼な様子で、ははっと田中さんは笑った。


「いやぁ……今回もありがとうございました」

「いえいえ、だいぶ左腕も良くなってきたんじゃないですか?」

「凪さんの所でお世話になってるお陰ですよ」

「……何言ってるんですか。しっかり毎月、来て頂けているからですよ」


田中さんは「距離感」が上手い。

変ないやらしさを、私は感じる事が無い。


「じゃ、また来月もお願いします!」

「暑いので……お体、大切にされて下さい」

「はい、それじゃ失礼します」


(ほんと、爽やかだよなぁー……)

(CMとか出てそうだもんなぁー)


ハリアーが右折して、見えなくなるまで私はお見送りをする――


「ふぅー……」

お付き合いが長いお客様といっても……正直、150分は長い。


(ほんと、良い人だ)


「さて……片付けだー」

私は蒸し暑い、サロンの中へと戻って行った。


「リラクゼーションサロン凪」は、女性専用サロンにしている。


4年前、初めて自分でサロンをオープンさせた時

なりふり構わず、誰でも入れた。


これまで沢山のお店で働いてきたけれど、独立して自分で責任を持ってやるのは初めて。

良くも悪くも……沢山の事を、経験できた。


ドタキャン……

暴言……

数々の体験を経て、今は「女性専用」としてひっそりと運営している。

田中さんは、一番初期からのお客様。


ご自分の体のメンテナンスと割り切って、通って頂いてるのが分かるので……お断りをする事無く、ずっと続いている。


本当に良いお客様の1人。


「さてっ」


田中さんが来る日は、どうしても終わりが遅くなる。

時計を見ると、もう夕方6時になろうとしていた。


(……今日は久し振りに)


私はジャージに着替えて、家を出る。

スーパー「スズミヤ」とは逆の方向に歩くこと5分。


信号を渡った先に、私の目的地がある。

その名も、居酒屋「さと」


私はここのママさんが大好きなのだ。


「営業中」の立て札を確認して、ガラリとドアを開ける。


「こんばんはー……」

「あっ! 凪ちゃん! いらっしゃい」

奥からママの、大きくて温かい声が響く。


今日の仕事後の一杯は、「さと」で――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。