第5話 野花の毒消しと黒い視線
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雨模様です!
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翌日、後宮の庭園で開かれたお茶会は、優雅な見た目とは裏腹に、粘りつくような異様な緊張感に包まれていた。
色鮮やかな絹を纏った皇后候補たちが集う中、ひときわ眩しい笑みを浮かべていたのは、大貴族の娘・橘の姫だった。
「あら、明明様。相変わらずお美しいことですわね。でも……なんだか今日はお顔色が妙に冴えないようですが?」
扇で口元を隠し、クックックと喉を鳴らして笑う橘の姫。その瞳は爛々と怪しく光り、まるで獲物が罠にかかるのを今か今かと待ち構える蛇のようだった。
(……ゾワッとするような悪意ね)
明明様の斜め後ろに控え、私は手元の手帳と周囲の配置に視線を走らせた。
昨夜、私は明明様の「筆頭秘書」として、届いた贈答品の検分を行っていた。その際、白粉に混ぜ込まれていた「劇薬の生薬」を速攻で見破り、ハーブとアロエの特製美容液で毒を完全無効化・肌のコンディションを最高状態に仕込んでおいたのだ。
明明様が優雅に扇を開く。
そこに現れたのは、毒など微塵も感じさせない、透き通る真珠のように磨き上げられた素肌だった。
「ご心配には及びませんわ、橘の姫。私は至って壮健です」
「な……っ!?? な、なぜ……!?」
橘の姫の顔から血の気が引いていく。
目を見開き、絶句する表情には露骨な恐怖が張り付いていた。
(よし、秘書としてのファーストミッション、クリアね)
心の中で冷静にチェックを入れた私だったが、追い詰められた橘の姫の執念は終わらなかった。
「……フン、お顔色が良くても、連れている侍女がそれじゃ台無しですわ! そこの貧乏くさい娘、喉が乾いたからお茶を淹れなさい!」
橘の姫は、グラグラと煮え立つ毒々しいお茶を差し出し、さらにすれ違いざまに自分の着物の裾を伸ばしてきた。お茶を運ぶ私を転ばせ、熱湯を浴びせようという算段だ。
(まったく、段取りが甘いわね)
私はゾクリとする冷や汗を覚えつつも、秘書としての危機管理能力をフル回転させた。
転ぶ直前で自然にステップをズラして罠を回避。さらに袖に忍ばせていた「冷やした竹筒の水」を器の底へ一瞬だけ当て、秒単位で急冷・適温化させる。
「お待たせいたしました。温度も最適に調整しております」
何事もなかったかのように、完璧なマナーでお茶を差し出す。
「なっ……熱くない!? 転んでも、いない……!?」
「まあ、なんて見事な手際なの」「秘書のように完璧な立ち振る舞いだわ」と周囲の侍女たちから感嘆の声が漏れ始め、仕掛けた罠をことごとく封じられた橘の姫は、顔を紫に染めてヒッ……と悲鳴を漏らした。
(よし、これで明明様の優位は確定。スケジュール通りね)
完璧な秘書仕事に胸を張り、明明様と小さく視線を交わしたその時だった。
——ぞくっ。
背後から、これまで感じたこともないほどの凶悪な圧迫感が肌を刺した。
お茶会の庭園から遠く離れた、影の差す高楼の欄干。
そこに、漆黒の衣装に身を包んだ一人の男が立っていた。
冷徹な光を湛えた瞳で、じっと私を見下ろしている。
(……誰……? 皇帝……!?)
男の視線は、皇后候補の二人ではなく、裏で完璧に場を支配していた「秘書である私」だけに注がれていた。
ただの侍女ではない異常な手際と頭脳を、彼は最初からすべて見抜いていたのだ。
ゾワゾワと鳥肌が立ち、動悸が激しくなる。
ドロドロとした女たちの嫉妬以上に恐しい「本当の怪物」に目をつけられてしまったことを、私はまだ知る由もなかった——。
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