第2話 裏目に出た知識
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雨模様です!
私の諸事情により更新は不定期になってしまいます。(すみません涙)
それでも頑張って書きますので応援よろしくお願いします。
(疫病を解決しただけで終わっていれば、まだ良かったのに……)
揺れる籠の中で目を閉じると、あの日々が鮮明に蘇ってくる。
私の「平和な田舎暮らし」を完全に止め刺した『第二の災難』——それは、疫病が去った直後の夏に訪れた、恐ろしい冷害だった。
日照りが続き、本来なら青々と育つはずの稲が、寒風に晒されて次々と首を垂れていく。村人たちは再び頭を抱え、ただ神仏に祈るばかりだった。
(このままじゃ、冬を越せずに家族が餓死してしまう……)
またしても、私の「スローライフ願望」より「家族の生存」が優先された。
静かに暮らしたいのに、背に腹は代えられない。私は重い腰を上げた。
前世の農家としての知識と、生薬の知見を総動員する。
土の酸度を整えるための灰や落葉を混ぜ込んだ特注の堆肥を作り、畝を高く張り直して冷気が根に直接当たらないよう工夫を凝らした。さらには山で採った特定の薬草を煎じた汁を撒き、害虫や病気の発生を未然に防いだのだ。
当然、周囲の反応は冷ややかだった。
「文の奴、また妙な作業を始めたぞ」
「土にゴミや草の汁を混ぜるなんて、作物が腐ってしまう!」
父親ですら頭を抱えていたが、私は意に介さず黙々と作業を続けた。手札をすべて明かすつもりはない。ただ「こうすれば育つ」ということだけを淡々と示し続けた。
秋が訪れたとき、周囲の村の田畑は惨憺たる有様だった。
どこもかしこも枯れ果てた、黄金色にもならない出来損ないの稲ばかり。
だが——我が村の、特に私が手掛けた田畑だけは、信じられないほど丸々と太った稲穂が垂れ下がっていた。
「な、なんだこれは……! 奇跡だ!」
村人たちは歓喜し、隣村の者たちは呆然と立ち尽くした。
疫病を退け、大飢饉から村を救った「才女」。
私の思惑とは裏腹に、文という名の少女の噂は尾ひれをつけて広がっていった。
(やばい、目立ちすぎた……! これじゃスローライフどころじゃない!)
焦った私は一転して引きこもり生活を決め込もうとしたが、時すでに遅し。
その噂は地方の役人の耳に入り、巡り巡って、この国の頂点——都の権力者たちの耳にまで届いてしまっていたのだ。
ある日の朝、村を揺るがすほどの豪華な牛車と兵士たちがやってきた。
現れた役人は、威厳たっぷりに一枚の書状を読み上げた。
『次期皇后候補、明明様のお目に留まり、その知恵と手腕を買う。本日より、都の後宮にてお召し抱えとなる』
拒否権などあるはずもなかった。
貧しい農民の家族が権力に逆らえばどうなるかなど、目に見えている。涙を流して見送る両親に「絶対に元気で帰ってくるから」と約束し、私は着慣れない上質の服を着せられて籠に乗せられたのだ。
◆
「文様、お着きになりました」
静かな声とともに、牛車の帳が開かれた。
眩しい陽光とともに目に飛び込んできたのは、絢爛豪華な朱塗りの宮殿。そして、その前に整列する色鮮やかな衣装を纏った侍女たちだった。
(はぁ……結局、ここまで来ちゃったか)
前世の激務から逃れるために手に入れた二度目の人生。
スローライフを送るはずが、気がつけば国で一番ドロドロした欲望が渦巻く「後宮」の真ん中に放り出されてしまった。
だが、私は籠からゆっくりと降り立ち、着物の裾を整えた。
(いいわ。こうなったら腹を括るしかない。明明様とやらがどんな高慢ちきな姫様か知らないけれど、目立たず陰で重宝されて、ちゃっちゃと手柄を立てて手切れ金をもらって村に帰ってやるんだから!)
元看護師としての度胸と、隠し持つ知識を胸に。
私は、後に「この国を揺るがす野花」と呼ばれることになる一歩を、後宮の冷たい砂利の上に踏み出したのだった。
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