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話し下手な僕たち  作者: もーりんもも


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4 家出じゃないんですけど

お読みいただきありがとうございます。

 八畳ほどのこぢんまりしたリビングには、キッチン側にダイニングセットがあり、窓の方に二人がけのソファとローテブルがあった。

 あゆちゃんがソファーに座っていたので、僕はダイニングテーブルの椅子に座った。

 ダイニングテーブの方は四人分の椅子がある。


 祖母は、「ちょっと待っとってな」と言ってキッチンに引っ込むと、あっという間にスイカを持ってきてくれた。

 長方形のお盆の上に三角に切られたスイカが並んでいる。

 三人しかいないのに六切れもある。


 あゆちゃんがスッとダイニングテーブルまで移動して、僕の向かいに座った。


「タネはそのままそこに置いといたらええから」


 この家のルールなのか、お盆の端に種を置くらしい。

 あゆちゃんはとっくにカプッとかじりついている。


「いただきます」


 普段は言わないのに、一応それなりに格好をつけてからスイカを手に取った。

 シャリッとした食感の後、甘味が広がる。すごい糖度だ。

 よく見ると、皮の白い部分が二、三ミリくらいしかない。あまり見たことのない品種だ。


「甘いですね」


 無言で食べ続けるあゆちゃんの代わりに、よそ行きモードで感想を言うくらいには空気を読んでいる。

 いや、小学生を前にして大人ぶっているだけかも。


「あ、そう? よかったー。甘いのに当たって」



 僕とあゆちゃんは二切れずつ食べたけど、祖母は、「私は後で食べるから」と手をつけずに片付けてしまった。

 あゆちゃんが部屋に行くと、祖母が入れ替わるように僕の真向かいに座った。


「この辺で三峰ゆうたらうちとこぐらいなんよ。元は備前のほうじゃあゆうとったなぁ。ここに来たんは私の親の代からなんよ」


 この人――喋り方は全然違うけど、やっぱりお祖母さんに似ている。


「ええと、恵人君じゃったっけ? ご両親は?」

「母しかいないんですけど。今、入院してまして」

「うわあ、そうじゃったん。? もしかしてそれで親戚を頼ったん? もお、家出して来たんか思ぉたわぁ」


 ……どうしよう。

 あんまり嘘はつきたくない。


「ほんなら家には誰もおらんのんじゃなぁ。電話したって誰も出んわなぁ」

「……」

「恵人君は今いくつ?」

「十五歳です。高一です」

「高校生か。夏休みじゃもんなぁ。そうか……」


 祖母が黙ると沈黙が(こた)える。


「まあ、せっかく来たんじゃし、泊まっていかれぇ」


 え? 泊めてくれるの?


「あの――」

「うわっ。布団がないわ。いや、あるんじゃけど、つこぉてなかったからなぁ。干すの、てつどぉてくれる?」

「あ、はい」


 それからは、アレをやってコレをやってと祖母に言われるがまま手伝った。


 彼女と話しながら、部屋を片付けたりあれこれ運ぶのを手伝ったりしているうちに、祖母が四年前に離婚して、二階建ての一軒家に母子二人暮らしということが分かった。

 僕はその離婚した父親が使っていた部屋を使わせてもらえるらしい。


「あゆみには悪いことしたと思うんじゃけど、こればっかりはなぁ……。小学校に上がる直前じゃったから余計になぁ。入学式の写真を撮るのも嫌がっとったわ。私と二人だけで撮るのが嫌じゃったんじゃろうなぁ」


 僕の場合は物心ついた時から母と二人だったから、あゆちゃんとはまた違うんだよな。


「それでもあの子なりに気をつこぉてくれとんのは分かるんよ? 親に余裕がないと子どももストレスを感じるんじゃろうな。小学校に入ってすぐ喧嘩したことがあったんじゃけど、学校から連絡をもろぉてもすぐには行けれんでなぁ。私が行った時にはあゆみ一人だけ残されとったんよ。何かあっても親が来んて思うたんじゃろうな。それからは呼び出されたことが一回もないんよ」


 祖母は僕のことを親戚の子と思っているから気を許して話してくれたのかもしれない。

 ちょっと罪悪感を感じた。





 部屋でやっと一人になれたので、ちょっと落ち着いて現状を整理することにした。

 スマホを見たら相変わらずの圏外。信じられない。

 そこまでど田舎って感じでもないのに。

 

「あー、でも人が全然いなかったから、その点は田舎だよな」


 リビングのテレビがなんともいえないレトロな代物だった。

 昭和の遺産? って思ったけど、田舎の人を馬鹿にしているようで、慌ててその感想を振り払った。


「どうしよう。岡山駅まで戻れば繋がるかな……」


 でも、「wi-fiがないから岡山駅まで行ってきます」とは言いにくい。

 部屋にいてもスマホが使えないんじゃ何もできない。

 モヤモヤしたまま一階に降りてリビングにいくことにした。





 一度気になるとリビングに入ってすぐにテレビに目がいった。

 そういえば、田舎だとNHKと民法が一つか二つくらいしかないところもあるって聞いたことがある。

 ここがそうなのかな。だからテレビを買い変えようって気にならないのかな。

 テレビの後ろの壁に大きなカレンダーがかかっている。

 三分の二は風景写真で、下段に二ヶ月分のカレンダーが左右に載っている。


 …………‼︎

 …………いや…………はぁ?!

 …………ちょっ、ちょっ、ちょっ、まっ、えっ?!

 

 カレンダーの左端に大きく「1997年」とある。

 はあ!?


 祖母はどこだろう?

 家の中を探してもいないので外に出てみると庭を掃いていた。


「あっ、あの! スマホ見せてもらえませんか?」


 自分でもびっくりするぐらいの大声が出た。

 

「スマホ? 何それ?」


 ……え? ええと。


「スマートフォンです。これですけど」


 手に持っていたスマホを警察手帳みたいに見せた。


「うわあ。何それ? なんかすごそうじゃなあ」


 え? スマホを見たことない? じゃ、ガラケーなのかな。 


「ええと。あのう、お母さんは――」

「そんな呼び方せんといてえぁ。おばさん言われるのもなぁ。名前でええわ。律子さんにしてくれん?」

「あ、はい。その、律子さんの携帯電話を見せてもらえませんか?」

「携帯? 何のことじゃろうなあ。私はもっとらんけど、電話なら好きにつこぉてええからな」


 ヤバい。マジで通じてない。

 もう直で聞くしかない。


「あのう――今って、何年でしたっけ?」

「は? ほんまにどうしたん?」


 律子さんは笑って相手にしてくれない。


「西暦だと――」

「テレビの上にカレンダーがあるから見てみられぇ。1997年じゃ」

「……‼︎」


 ありえない。ありえないんですけど!?

 これ以上なんて聞けばいいのか分からない。

 よろよろと家の中に戻って、カレンダーに近づいて確かめたけど、そこにある文字は変わっていない。

 ――1997年。


「まさか――そんな――僕――1997年にタイムスリップした? いやいやいやいやいやいや」


 叫びたいのに喉の奥がキュッと閉じてしまって声が出てこない。


 祖母の住所に住んでいる二人は、母と同じ名前の三峰あゆみと、祖母と同じ名前の三峰律子。

 アラフォーの母が小学生?


「何だよ! どうなってんだよ!」


 古いカレンダーなんていくらでもあるけど。

 もし1997年が現実なら、僕はどうなってしまったんだろう?

 車に轢かれて死んじゃったとか?

 それか、夢? うん。それが一番ありえそう。

 じゃあ起きたら解決? どうやったら目を覚す? 夢の中だけど眠ってみる? 

 試す価値はありそうなので、二階の部屋で横になって眠ることにした。

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