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話し下手な僕たち  作者: もーりんもも


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22/27

22 行方不明

 律子さんは真っ青な顔で立ち尽くしている。

 他人の気持ちに疎い僕でも、律子さんが酷く傷ついていることくらい分かる。 

 しかもそのきっかけを作ったのは僕だ。

 あ、でも今はそんなことより。


「律子さん。すみません。とりあえず、僕があゆちゃんを連れ戻しますから」

「……」

「探しに行きます!」


 それだけ言って外に出たけれど、あゆちゃんの姿はなかった。

 え? 一分も経っていないのに?

 どっちに行ったんだろう……。


 いつもなら右側に、美観地区や倉敷駅へ行く方に向かうけれど。

 左へ行くとどこに着くんだろう。

 何も考えずに行くとなると、自然と足が向くのは行き慣れた右の方じゃないかな。

 それとも考えなしにどこかに行く訳じゃなく、行く当てがあるとか?


 そういえば仲の良い友達がいるって言っていた。

 その子の家が近くかどうかぐらい聞いておけばよかった。

 普通なら話の流れでそういうことを聞けるんだろうけど、僕が会話下手なせいで付属する情報を何一つ聞けていない。


 まあ、でも。

 さすがに律子さんは連絡先くらい知っているだろうから、あゆちゃんが帰って来なかったら電話するだろう。

 ここでじっと考えていても差が開くだけだから、とりあえず大通りまで出てみよう。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 倉敷中央通りまで来たけれど、あゆちゃんらしき子どもはいない。

 運動が苦手な僕だって、一生懸命走れば小学生の小走りよりは速いと思ったんだけどな。

 こっちの方には来ていないのかな。

 それとも大通りを渡ってその向こうまで行っちゃったかな。


 美観地区へ行ってみようか。

 普段は行かなそうだったけど、こっちの方に来たのなら、ふと頭に浮かんで行くこともあるかもしれない。


 



 川沿いを歩いてみたけれど、小四の女の子の姿はない。

 ここには来ていないのか……。

 あゆちゃんのことをそれほど知らないのに、彼女を見つけるなんて無謀だったかな……。

 土地勘もない僕じゃ、他に行きそうな場所は思いつかないし……。

 ……はぁ。

 この役立たずが。何をやってるんだ。


 

 それでも捜索場所を一箇所でも減らすべく、白壁の建物がある範囲を、図書館の中も含めて探して回った。

 結局あゆちゃんを見つけることはできなかったけれど、『美観地区にはいなかった』とはっきり言える。

 あゆちゃんは手ぶらで出て行ったから、駅から電車に乗るようなことはしないと思う。

 まずはいったん戻って律子さんと相談しよう。

 もし友達の家に行っていたら、そこの家の人が律子さんに知らせてくれているかもしれない。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 玄関を開けると、タタタっという足音と共に律子さんが飛び出してきた。


「恵人君! あゆみは?! え……?」


 僕一人だけなのを見て、律子さんの表情が瞬時に曇った。

 すぐに後を追ったから、高校生なら小学生を見つけられると思ったよね……。


「すみません。すぐに追いつけると思ったんですけど、家を出てみたらもうあゆちゃんの姿が見えなくて。それで駅前の大通りの方を探してみたんですけど、そこにもいなくて。美観地区周辺も、あ、図書館の中も見て回ったんですけど、見つけられませんでした。すみません」


 情けないことに、最後の方は声がちゃんと出せなかった。

 律子さんの焦り具合を見るに、あゆちゃんがどこにいるのか彼女も把握できていないんだ。

 きっと心当たりには全部聞いたに違いない。


「律子さん。どうしたらいいんでしょう?」


 母親としての――大人の意見を聞かせてほしい。

 

「僕にはあゆちゃんが立ち寄りそうなところの見当がつきません。友達の家も知りませんし、普段よく行く場所とかも――」

「……」

「カッとなって飛び出しただけだから、待っていたら戻ってくるんでしょうか?」


 あゆちゃんは小四にしては、どこか大人びているから、冷静になったら戻ってきそうだけど。


「こんなんは初めてなんよ……。あそこまで怒って言い返されたんもな……。友達の家にも行っとらんみたいで。ほんまにどこに行ったんじゃろ……」

「あの。あの時、あゆちゃんは手ぶらだったと思うので、電車やバスには乗らないと思うんですけど、念の為お財布を置いていったかどうか――」

「見てみるわ!」


 律子さんがあゆちゃんの部屋に直行したので、僕もついていく。

 ドアを開けっぱなしにしたまま、あゆちゃんの机を調べていた律子さんが、振り返って、「ここに置いとるわ」とお財布を見せてくれた。


「じゃあ、歩いていける範囲ってことですね」

「そうじゃなぁ……でもあの子……小銭くらいは持っとるかもしれん……」

「え? どういうことですか?」

「あゆみは一人でおることが多いけぇ、『なんかあった時に家に電話できるよぉ、ポケットには小銭をいっつも入れとかれぇ』って小さい時から言い聞かせとったからなぁ……」


 そうだったんだ。

 あ、僕もそうだった。僕の場合はスイカだったけど。

 残高だけはいつも確認するよう言われていたなぁ。


『うっかり使ったとしても、千円切ったら言いなさいよ』


 千円あったら都内のどこにいても電車で家まで帰れるから。



 ……え? じゃあ、あゆちゃんは電車にも乗れるかもしれないってこと?


「あの、律子さん。万が一電車に乗ったとしたら、あゆちゃんが行くのは――」


 律子さんはとっくにその可能性に気がついていたみたいで、「そうじゃろうなぁ」と言いながらリビングに戻り、家電の受話器をとった。



「あの、三峰律子です。はい。ご無沙汰しております。あ、いえ。ええ――」


 添田家にかけたんだ。

 僕は会話を聞いちゃいけない気がして、そっと二階に上がった。





 五分経ったのを確認して下に降りると、律子さんがダイニングテーブルの椅子に座っていた。

 僕の顔を見るなり、「一応、あの子の父親には伝えといたわ」と教えてくれた。

 無理して笑おうとしているけれど、強張ってうまくできていない。


「あの。倉敷駅に行って聞いてみましょうか? 女の子が一人で改札を抜けたら覚えているかもしれないし」

「いやあ。さすがにぎょうさんおるからなぁ。どうじゃろ……」

「そうですね」

「……」

「……」

「あと一時間だけ待って、それでも帰ってこんかったら、その時は警察に言おう思うんよ」


 …………‼︎

 大変なことになってしまった。

 でも、そうだよ。子どもが行方不明って、そういうことだよ。

 あれ? あゆちゃんが出て行ったのって何時だっけ?

 あれからどれくらい時間が経ったんだろう?

 今は五時過ぎか。


「六時。六時になっても戻らんかったら――」


 どうしよう。どうしたらいいんだろう。

 僕にできることは何かないかな?



 黙りこくった律子さんに声をかけることもできず、僕も俯いたままじっとしていることしかできなかった。


 時計の針を凝視しても時間が過ぎない。

 律子さんは電話が鳴るんじゃないかと家電を時折みている。



 ――五時半。


 息苦しい。律子さんの息遣いも荒い気がする。

 



 ――五時四十五分。


 律子さんの顔色が悪過ぎて心配になる。

 こんな時に気の利いた声かけもできないなんて。



 ピンポン。ピンポン。


 突然の玄関のベルに律子さんが飛び跳ねるように体を起こした。

 玄関にダッシュした律子さんは裸足のまま玄関を開けた。

 そこには、あゆちゃんのお父さんが立っていた。

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