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空を翔ける調査員  作者: 雪野雫
第一章 浮蛇島編
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第二話 いざ調査へ

 翌日、僕はラテに乗りながら島を散策していた。


 頭領との話し合いで、この地震が解決できるようなものではなかった場合の備えも作ることになっている。


 まずは丘のふもとや海沿いといった、被害が大きくなりそうな場所の視察だ。

 大きな地震が起きたとき、同じ島内でも比較的安全な場所はどこか、優先的に避難させるべき場所はどこかを常に把握しておかなければならない。


 地質調査もしておきたいところだ。


 頭領の家がある丘の下に着いた。


 斜面にある木は何本か根本が露出してきている。

 地面には少しひび割れも見える。

 このままでは土砂崩れが起こるかもしれない。


 周りにいる島民たちからの視線を感じる。ガン見されているわけではないが、横目で見られているようだ。

 何をしているのか興味津々といった様子。


 少し背中がむず痒いが、仕方ない。


 ラテから降りて、地質調査のために持ってきた道具で地面を掘ろうとしたところ、ある老人に声をかけられた。

「調査員さん、来てくれたのはありがたいが、蛇神様のお体に傷をつけるのはやめていただきたい」


 詳しく話を聞いてみると、この島自体が大昔に、島を守護していた蛇神から与えられた土地だという。


 その言い方に僕は違和感を覚えた。


 建国神話では、かつて浮蛇島にいたという大蛇は恐怖で島民を縛っていた存在のはずだ。

 敬われるような対象にはならないだろう。


 頭領も大蛇“様”と言っていたし、もしかしたら僕の認識とずれがあるのかもしれない。


 僕はここで、無理に調査を進めるべきではないと判断した。

 地域の人々の信仰を無視するようでは、調査員として、人としての信頼を失う。


 次に間欠泉が並ぶ海沿いまで来た。

 ここは土地が低く、容易に地震による大波が到達できそうだ。


 救いなのは、観光スポットが中心に立ち並んでいて居住地が少ないことだろうか。

 とはいえ、いつも観光客が多くいるのだから被害はそれなりに出そうだ。


 そしてもう一つ目的があった。


 可能性は低そうだが、海の中から島の断面を見て地層を調べられないかと思ったのだ。

 しかしラテはもちろん、僕も泳ぐことができない。

 海水浴に来たのに海に入らないから、何しに来たんだとよく同僚に言われていた。


 それに間欠泉があるくらいだから、水温はそれなりに高いだろう。


 来たはいいものの困り果てて、波打ち際でしゃがんでいると、青みがかった肌にヒレと水かきをもつ魚人の青年が近付いてきて、気さくに声をかけてきた。

「お困りっすか?」


 どうやら彼は調査員という役職に興味があるらしい。

 先程まで話しかけてみようか悩んでいたそうだが、調査の邪魔をしてはいけないと見るだけにしていたようだ。


 そんなときに僕が海を見つめて困っている様子になって、これは良い機会だと話しかけてくれたらしい。


 僕は彼に水中から島の地質調査をしてみたいことを話した。

「自分、潜れるんで任せてください!」

 彼は胸を張ってそう言い、快く協力を申し出てくれた。


 礼とともに然るべき報酬を渡すと申し出ると、彼は言った。

「お金なんていいっすよ。……どうしてもって言うなら、これまでの調査員としての話とか聞きたいっす!」


 よし、決まりだ。


 僕は彼に記録魔法が内蔵された撮影機を渡した。

 これは国の魔法局・魔道具課が最近開発した優れもので、まだ世に出回っていない。


 使い方と、写した風景を記録して後から別の場所で見ることができると言う機能を説明すると、彼はめちゃくちゃはしゃいでいた。

「すごいっすね! 大陸にはこんな便利なものがあるなんて!」


 一通りはしゃいでから、彼は撮影機を首から下げて海に潜っていった。


 彼はかなり長い時間、海から上がってこなかった。


 魚人は、人とは比較にならないほど長く息を止めていられると聞く。


 それでも流石に心配になってきたころ、彼が近くの水面から顔を出し、撮影機を掲げた。

「撮れたっすよ!」


 撮影してくれた画像を一緒に見ていく。


 彼はかなり深いところまで潜ったり、島から遠くに移動したりしながら全体像を撮ってくれたりしたようだ。

「楽しくて、つい遠いところまで行っちまったっす!」


 そして、記録の中で気になるものがいくつかあった。


 どうやらこの島の表層は薄い岩のような物が折り重なってできているようだ。

 そして遠くからの全体像を見ると、一本の道の両脇にその岩よりも大きな三角形が一つずつあることが分かる。

 三角形といっても少し曲がっていて細長く尖っており、岩よりも明るく、白に近い色をしている。


 彼も岩とは何かが違うと感じたらしい。

「これっすか? 触ってみたらつるっとしてたっす。薄い岩もつるつるしてたっすね。こんな感じになってたなんて知りませんでしたよ。大きさは、自分の身長より少し大きいくらいっす」


 どうやらこの島では潜り漁をしないらしく、海に入って遊ぶことはあっても島の構造なんてまじまじ見ることはないのだそう。

 加えて、潜ったところで、貝や海藻といったものは何も無いんだとか。


 ちなみに、水温に関しては『ちょっとぬるいくらいっすね』と言っていた。


 話がひと段落したところで、僕は気になっていた疑問を彼にぶつけてみる。


 それは、大蛇に対する島民たちの考え方についてだ。

 建国神話では、大蛇はかつて恐怖で支配していた、いわば邪神である。


 しかし島民たち、特に老人たちからは、むしろ大蛇を崇拝しているような雰囲気を感じる。


 言葉を選びながら聞いてみると、彼は困った顔になった。

「それ、俺も不思議だったんすよね。じいさん世代は特に大蛇様を崇拝していて、建国神話を嫌っていますよ。あんまり考えたことなかったっすけど、それでもみんな無意識に大蛇様を完全に悪者だと思っていないかもしれないっす。……そういえば『蛇神伝説』ってのがあるらしいんで、聞いてみたらいいんじゃないっすかね」


 彼は、僕が先程会った老人の家まで教えてくれた。


 改めてお礼を言い、夜にまた集合して調査員としての話をするという約束をして別れた。


 これが地震に関係しているという確証はないが、疑問は解決しておくべきだろう。


 ラテのところへ向かうと、待つのに飽き飽きしていたのか、足踏みして翼を広げた。


 行き先を伝えて背中に乗る。


 頭領が島民たちに周知してくれたらしいから、これからは自由に空を飛ぶことができる。


 振り返ると魚人の彼が、満面の笑みで大きく手を振っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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