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空を翔ける調査員  作者: 雪野雫
第一章 浮蛇島編
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第一話 浮蛇島の異変

 ゴゴゴゴゴ……


「この音……」

「揺れてる?」

「揺れてるよね!」

 机の上にあった食器が滑り落ちて嫌な音を立て、棚から本がバサバサと落ちてくる。


「……本当に地震が多いな」

 一家は不安げにため息を漏らす。


「まだこれくらいで済んでいるけど、そのうちもっと強いのが来ると思うと……」

 母親がため息をついた。

「頭領が国に調査願を提出してくれたらしい。受理されることを祈ろう」


 家族は、机から落ちてしまった食器を片付け始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 山を崩し、街を踏み潰し、大波を起こす力をもった大蛇に支配された島があった。


 人々は大蛇の要求通り、酒や漁で獲れた魚を献上していた。もし大蛇に気に入らないことがあれば、その巨体の矛先が自分たちに向くのだ。


 人々は大蛇に怯えながら日々を暮らし、大蛇の機嫌を損ねないように、神経をすり減らす日々が続いた。


 ある日、一人の琴を奏でる旅人が島に訪れた。


 その旅人は人々の現状を知ると、『私が大蛇を鎮めましょう』と言った。


 旅人は、人々から大蛇の好物が『龍の火酒』だと聞き出すと、すぐさまそれを大量に作らせた。


 そして大蛇を呼び出すと、強力な睡眠剤と弱体化を促す魔法薬を入れた『龍の火酒』を飲ませた。

 大蛇は途中で異変に気付いたが既に遅く、旅人によって封印された。


 島には平和が戻り、人々はその旅人を王と崇めた。

 旅人が大陸に国を作った際、その島は浮蛇島と名付けられ、国に所属することとなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 有名な浮蛇島に関わる建国神話の一節を思い出しながら、僕はラテの背中で風を感じていた。


 昨日、僕は上司に最近地震が頻発している浮蛇島の調査に出向くようにと言われた。


 僕にはラテという、生まれたときから育てた相棒のグリフォンがいる。


 彼女は陸と空を移動できるが、人は一人しか乗せられない。

 そのため、僕一人で調査に行かされることが多いのだ。

 大人数が移動するとその分費用もかかるから、上にとっては都合がいいのだろう。


 僕は一人で寂しい気持ちもあるが、ラテがいるから平気だ。


 そうこうしているうちに浮蛇島が見えてきた。


 この島は七本の川と河口に十六個の間欠泉があり、その雄大な景観から観光地として人気がある。

 この川には少量ながら魔力が流れているようで、夜になるとポウッと淡く青緑色に光る。


 それがまた幻想的で、新婚旅行先としても根強い人気を誇っている。


 ラテが海沿いの白い砂浜に降り立った。

 僕はラテの背から降りて、軽く髪と服装を整える。

 まずは頭領を探さなくては。


 ラテとともに、丘の上にあるという頭領の家へ歩いて向かう。

 乗ったままで行けばいいじゃないか、と思うかもしれないが、そうはいかない。

 いきなり自分の敷地にグリフォンが降りてくるなんて誰でも怖い。


 それに、新しい場所に出向くときは必ず陸路から入る必要がある。

 こうすることで、相手に対する距離感と礼儀を示すのだ。


 それにしても美しい島だ。

 閉鎖感のある寂しい島もたくさんある中、ここは僕が見てきたどの島よりも栄えている。

 学校や娯楽施設もあって、住みやすそうな雰囲気だ。


 今は地震のせいで観光客はまばらにしかいないが、普段はもっと賑わっているのだろう。


「お待ちしておりました」

 丘の上に着くと、頭領とその妻だという一組の夫婦に出迎えられた。

 見たところ三十代後半といったところか。

 頭領というくらいだから、もう少し年上かと思っていた。


 こちらも名乗り、グリフォンが一緒で驚かせて申し訳ないと伝えた。


 頭領は笑って答えた。

「いやあ、全然構いませんよ。なにせ『空を翔ける調査員』の話は、こんな辺境の島にも伝わっております」


 ん? なんだって?


 どうやら、グリフォンと協力して各地に出向く調査員の噂は有名らしい。

 別に隠しているわけではないが、そのような呼び名があることは知らなかった。

 少し恥ずかしい。


 ラテを外で待機させて家に上がらせてもらい、本題に入る。


 地震が起こるようになったのは約一年前。

 当時はただの自然現象だろうと思っていたところ、ここ最近は頻度が増え、数日に一回以上は地震が起こるらしい。


「はっきり言って、この回数は異常です。しかも、段々と揺れの大きさも強くなっているようで。そのため、あなた様には地震の原因を解明していただきたいのです」


 解明したところで、自然災害が相手では手の打ちようがない可能性もある。

 それについてもしっかり説明すると理解してもらえた。


 気付いた頃には日が傾き始めていた。

 本格的な調査は明日にして、今日は用意してもらった宿に宿泊することにした。


 家を出るとちょうど、頭領の子ども二人が帰ってきた。


「「ただいま!」」


 二人は母親のもとに駆け寄っていったが、横にいた僕に気付くとハッとしたように挨拶をしてきた。しかし、弟は母親の後ろに隠れてしまった。


 気にしないで、こちらこそお邪魔しましたと伝えたが、まだ緊張している様子。


 そのとき、弟が庭に待機させていたラテに気付くと、興味のこもったキラキラした眼差しになった。

 姉もラテに気付き目を輝かせたが、少し戸惑いや恐怖も混ざっている。


 ラテに目線を送り、その後子どもたちを見る。

ラテは立ち上がってこちらを見ていたが、察した様子でゆっくり座り、前足を体の下に入れた。


 頭領たちに許可を取り、子どもたちにラテに触ってみるか聞くと、二人は嬉しそうな顔になった。


 二人はおそるおそるラテの茶色い体毛に手を伸ばした。

 ラテはじっと座っている。

 彼女は人に触られることに慣れているのだ。

 なぜなら、幼少期から僕が撫でまくって育てたからである。


「貴重な経験をさせていただいて、本当にありがとうございます」

 頭領たちはしきりに頭を下げていた。

 女の子は十歳、男の子は七歳らしい。


 二人がラテを撫でている間、頭領と談笑していると、ラテが首をこちらに向け、子どもたちを驚かさないようにゆっくりと立ち上がった。

 その瞬間に地鳴りが響き、足元が揺れ始めた。


「こんな感じの地震が多くて……。すみません」

 頭領の表情は、心なしか固い。

 謝ることではないですよ、と言いつつ、これは大変だと感じる。


 揺れがそこまで大きくないとはいえ、こんなことが日常的に起こるようでは不安だろう。

 もし火を使っていたり、寝ている最中だったりしたらと思うと気が休まらない。


 ラテとともに頭領の家を後にしながら、僕は原因の解明に対して、決意を新たにするのだった。


 このまま手配してもらった宿に行こうかと思ったが、暗くなるまでまだ時間がある。


 せっかくだから、浮蛇島名物の間欠泉と夜に光るという川を見に行くことにした。


 この島に来るのは初めてで、どうせなら観光もしたかったのだ。

 同僚にも、一回は行っておくべきだと何度もすすめられた。


 川沿いにある道を下りながら歩いていく。


 まだ少し明るいため、鮮明には見えないが近くに寄ると川が光っていることが分かる。

 八本の道の間にある七本の川がほぼ平行に流れ、光っている様子は確かに神秘的だ。


 ちなみに、島民たちはこの川の水を飲み水や生活用水として使わない。


 頭領によると、『この川には大蛇様の魔力が込められている、と私たちは信じています』とのこと。

 『大蛇様の力に耐えられる人なんていません。伝説では川の水を飲んだ人の皮膚にはウロコができ、最終的に蛇になったとされています』とも言っていた。


 普段は各家庭で雨水を貯めて使い、足りない分の水は国から購入しているらしい。


 かなり降りてきたなと思ったところで、間欠泉が見えた。

 一つあたり百人はすっぽり収まりそうな大きさだ。


 ラテが興味津々で近付いていき、間欠泉の一つを覗き込んだ。

 途端にその間欠泉から水が吹き出し、ラテは慌てて後ろに飛び退いた。

 僕がそれを見て笑っていると、体毛と羽が濡れて少し不満げなラテが『分かっていたなら教えてよ』といった、ジトーっとした目つきでこちらを見てきた。


 僕はラテが体を震わせて水を飛ばすのを待ってから、常備しているくしで体毛をすいて水分を取ってやる。

 ラテは体を伸ばし、気持ちよさそうに目を細めた。


 間欠泉は一本の道につき二つずつある。

 十六個の間欠泉が海沿いに一列に並ぶ様は壮観だ。


 暗くなってきたので、そろそろ宿に行くことにする。

 この島で採れるふかふかの水草で作った、ラテ用の寝床も準備してくれたらしい。

 明日からの調査に備えてしっかり寝ておこう。

お読み頂き、ありがとうございます。

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