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それだけのこと

「手繋ぎに、キスやハグ、それからその先もオケ!」


ニヤニヤしながらマヒロが言った。


今はちょうど高校からの帰り道。

とりま、まだ恋人同士になった訳ではないが、

俺は幸せにも高嶺の花でモテモテのマヒロと

一緒に帰れている。


ま、これ、幼なじみの特権ってやつだと思う。


周りの男連中からしたら、

なんで、陰キャが、美少女と帰れてるんだ?

と言ったところだが、俺とマヒロは長年付き添った幼馴染ってなわけで、最初こそ、

不良や性格の悪いイケメンに文句言われて絡まれたが、マヒロが、うちら幼なじみだから!と

一蹴してくれたおかげで、暗黙の了解で、

現在は平和に帰れている。


ま、欲を言えば、

幼なじみから一歩階段を上がって、

ステータスを恋人同士にしたいのだが。


中々それは難しかった。


今度、俺に出された条件は。


弱小吹部でフルートを吹いてるヒョロヒョロ陰キャな俺が。


陸上部の長距離選手で。


県選抜で全国女子駅伝に出ちまうような実力者が。俺相手に、


「校内のマラソン大会、私に勝ったら

何でも言うことを聞いてあげる」


なんて言いだされても。


完全に、負けが見えてる。


「無理だ....天地がひっくり返ったっておまえの優位は変わらない...どうせ、あれだろ。

一位でゴールしちゃうんだろ?それもぶっちぎりでさ。バスケ部の男子や野球部の男子なんか

蹴散らしてさ...」


「さぁ...?どうだろうね??」


マヒロは意味深な笑いを浮かべた。


俺が勝てる可能性なんてだな。


1ミリもないのさ。


マラソン大会は今日から二週間後に控えてる。


例えば、俺が頑張って走り込みをしたところで。

ま、もっともそんな苦しいことはしたくないのでやんないが、


そんな急に長距離が得意になったりはしない。


せいぜいあれだな、

練習しないより、したほうが、

ちょっとばかしタイムが縮まるんじゃないか?

という感じか。「走り込み、するでしょ??」


「私に勝つためにさ....!」


「てか、私に勝って、イチャイチャするためにさ...!!」


上目遣いでそう聞かれたが、俺は即答した。


「いや、しない」


「え、なんでよ!?シンジ、いつも条件出したら、その条件満たそうと頑張って努力してきたじゃん!その甲斐あって、今はそこそこ見た目イケメンだし、勉強も全然やんなくて、

赤点組だったのに、それを脱して今は、

トップクラスにいるじゃん...!!」


「まぁな。それは、手の届く、努力だったまで。

いいか、俺は弱小高校の吹部。

例えば、全国大会常連校の吹部だったら、

肺活量を鍛えるために、延々と顧問の先生が校舎のまわり走らせるだろーがよ。

残念ながら、ぬるま湯で今のいままで

きちまったんだ。だからな、

今回は俺、諦めようと思う...」


敗北宣言をしたら。


マヒロが喚いた。


「それで、いいわけ...!?」


「ああ。いいんだ。俺はインドア派。

外走るより、家でフォートナイトやってたい。

ゲームのレベル上げをしたいんだ...!」


「ムカつく...!私とイチャつくよりゲームの

レベル上げに興じていたいってこと?」


「いや、今回は無理だから諦めて、

他の条件の時に頑張るってゆーか...」


「待ってよ...!私が他の男と付き合っても良いって言うの!?」


「え?」


「それは一体どういう状況で...?」


「実は私、しつこく迫られているの...!」


「誰に?」


「サッカー部のエースストライカーの

藤島くん...!」


「あー、あの、超絶イケメンにして運動神経抜群の男...。陽キャのなかの陽キャか...」


「マラソン大会で、藤島くんが一位とったら

私と付き合うことになってんの...」


「え」


「阻止してよ。シンジ...!!」


「そんな約束したの...??」


「あまりにもしつこいから、つい...!

まぁ、でも、私が負けることはないと思うんだけどね...。今、シンジに提示した、私に勝ったら、の条件はさ、保険でシンジが一位取ってくれたらそれで、私の初めては守られるってゆーか!」



「え」


「おまえ、何懸けたの?

私の初めて?はぁ?」


「あまりにも、藤島くんが、私の幼馴染のシンジのことをバカにするから、彼は本気出したら凄いのよって

言っちゃったの...」


「遡ること、二日前...」


「おまえさ、好きなやついんのか?」

って聞かれて告白されたから、正直に言ったの。幼馴染のシンジのことが大好きだって。

そしたら、藤島くん、大笑いしちゃってさ!

凄い頭にきたの!」


「は?シンジってあの、山吹シンジ?

吹部の?あんなやつのどこがいいんだか、

わからねぇな。頭はいいけど、っつても、

俺よか悪いけど、運動神経悪すぎだぞ。

サッカーの授業もバスケの授業もずっと見学だし、、、陸上でも基本的に見学だ」


「そう言われて、なにも言い返さなかったけもね、、本当はシンジは凄いんだって言いたかったけど...」


「ねぇ、シンジ、サッカーで昔、怪我した

左足はもう完治してるんでしょ??」


「本気を出せば藤島くんなんかに

負けたりしないよね?」


痛いところをつかれたぞ。


思い出したくもない。

あれは確か。


俺が中三の春だった。

県選抜チームに選ばれて

全国大会での優勝試合でのことだった。


結果的には試合には勝ったが、

途中、凄く嫌な想いをした。


後半35分を過ぎた頃だったか。


俺は敵のディフェンスと派手にぶつかり合い、

それは向こうの反則プレーだったんだけど、

派手に流血して左脚を何針も縫う大怪我した。


そんな経緯があって、

俺は激しく敵とぶつかるサッカーやバスケ、

バレーとかてか、もう身体を動かす運動は嫌になり、体育はずっと見学していた。


吹部でいいんだ、俺は。


俺は自分が燻っているのを感じだが、

吹部は、部員が少ないからレギュラー争いもないし。


この、ほのぼのーとした

文化部の雰囲気がえらく気に入っていたんだ。


たまに。


サッカーボールが恋しくなることもあるが。


あんなに好きだったサッカーだが。


大怪我が俺をサッカーから遠ざけた。


それだけのこと。




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