025話
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配信を終えてホームへ戻り、ログアウトすると、視界が切り替わり、自室の天井が見えた。
「ふぅ……」
今日はレアモンスターにも遭遇したし、なかなか収穫の多い1日だったな。そう思いながらマルチギアを確認すると、メッセージ通知が入っていた。
『寝てないなら、ちょっとリビングに来て』
送信者は母さんだ。
「10分前か」
この時間ならまだ起きているだろう。俺はベッドから起き上がり、そのままリビングへ向かった。扉を開くと、父さんが夕食を食べていて、母さんはソファーでくつろぎながら缶チューハイを飲んでいた。
「フレア、起きてたのね」
「課題終わらせたから、ゲームして遊んでた」
「そうなのね。何のゲームしてたの?」
「エニシングだよ」
「あぁ、あれね。勉強しているなら、何も言わないけど、遊び呆けるのだけは駄目よ」
「それは理解してる。で、呼んだ理由って何?」
「ちょっと、お酒のおつまみ作って」
「またかよ……」
「お姉ちゃんも帰ってくるから、軽い料理も作ってあげてよ」
「明日も仕事だろ? そんなに飲んでいていいのか?」
「残念でした~。私は明日休みなのよ。仕事が前倒しになって、連勤した時の代休が明日なの」
なるほどな……平日に酒を飲んでいる理由はそれか。
俺は冷蔵庫と冷凍庫を確認した。
「食材少ないな……」
明日、定期購入している食材が届くのだろう。奥まで確認すると、冷凍された鳥皮を発見した。
「これなら何とかなるか?」
賞味期限を確認する……問題なし。1cm幅にカットして耐熱皿へ並べ、そのままレンジへ投入する。
加熱が始まったのを確認してから、今度は姉貴の夕食を考えた。
「おかん、姉ちゃんって酒飲んでたりするかわかるか?」
「今日はバイトだから飲んでないはずよ」
「普通の飯でいいか」
冷蔵庫の中身を見回す。白菜、ニンジン、冷凍キノコミックス、シーフードミックス。
「中華丼だな」
食材を切り始める。その途中でレンジが鳴ったので、鳥皮を取り出すと大量の脂が出ていた。
キッチンペーパーで油を拭き取り、再びレンジへ。
その間にフライパンで中華丼の具を炒める。香りが立ち始めた頃、再びレンジが鳴った。
取り出してみると、パチパチと音を立てているが、まだ少し柔らかい。
「もう1回」
さらに油を拭き取り、3度目の加熱。
中華丼の方は鶏ガラスープで味を整え、水溶き片栗粉でとろみを付けた。1人前だけ作る方が難しいので、3人前くらい作っている。
最後にレンジから取り出した鳥皮へブラックペッパーを振る。
パリパリだ。これは美味いな。皿へ盛り付けて母さんの前へ置く。
母さんの目が輝いた。
「さすがフレア!」
そのまま父さんまで参加して飲み始めた。夕食を食べた後なのに、普通に鳥皮を摘まんでいる。
「よく食うな……」
うちの家系は全体的によく食べる。しかも太らない……姉貴も穂乃果もそうだし、父さんと母さんもそうだ。羨ましい……
俺は運動しなければ普通に太るから、大学のジムへ行くことも多い。もちろん理由の半分は政宗だ。ジムへ行けば筋肉談義を聞いてくれる仲間が大量にいるから、俺たちが犠牲にならなくて済むのだ。
そんなことを考えていると、
「ただいま! お母さん、ご飯ある?」
姉貴が帰ってきた。
「フレアが代わりに作ってくれてるわよ」
「あ~ん、フレアったら、お姉ちゃんのために夕食作ってくれたのね。チュッてしてあげるわ」
抱き着こうとしてくる。もちろん阻止だ。頭を押さえて距離を取る。
「照れ屋なんだから」
「愛花! フレアは私の物だから、勝手に抱き着いたりキスしたりしないの!」
始まった……母さんの謎所有権主張である。
「いやいや、お母さんの物でもないでしょ」
「私の物よ!」
面倒になってきた……逃げよう。
そう思った瞬間、
「頭使い過ぎて小腹空いたー」
穂乃果まで降りてきた。
「フレアが、お姉ちゃんの分と一緒に作ってくれてるわよ」
「ラッキー」
そう、姉貴が遅い日は、穂乃果が夜食を一緒に食べることが多い。そして両親も飲み終わるとご飯物が欲しくなる。だから3人前作っていたのだ。どうせ全員食べる。
俺だけ拾い子なんじゃないかと思う時もあるが、冷静に考えると、一番両親の特徴を引き継いでいるのは俺らしい。
見た目じゃなくて体質を引き継ぎたかった……頭の出来とかも……
リビングに残ると面倒に巻き込まれる。俺はさっさと撤退した。
「おやすみ」
「あら、もう寝るの?」
「明日大学だしな」
部屋へ戻り、ベッドへ倒れ込む……妙に疲れていた。精神的に……目を閉じると、気付けば眠っていた。
翌朝、目を覚ますと、既に穂乃果が朝食を作っていた。
「おはよう」
「おはよう、お兄ちゃん」
食事を済ませ家を出て、途中でハジメと合流した。
いつもの流れで大学へ向かうが、到着して違和感があった。
「筋肉がいないな?」
ハジメも周囲を見回す。
「いつもこの時間に合流するのに」
「風邪でも引いたか?」
「あいつが?」
「まさか」
2人で笑った。政宗が病気? 想像できない……虫歯すらないらしいしな。筋肉は虫歯菌も倒すのかもしれない。
そんな馬鹿話をしていた時だった。
「あ……」
「は?」
2人同時に固まった。
正宗が女性と一緒に歩いていた。
身長は高めで、膝丈ワンピースに薄手のカーディガン……かなり綺麗な人だ。
正宗はいつもの黒Tシャツに黒めのワイドストレートのジーパンだった。
女性の方は明らかに楽しそうに話している……しかも! どう見ても好意がありそうだった……だがきっと気のせいだ。
俺たちKIRIN児の精神衛生上、その方が都合がいい。
近付いてくる2人を見ていると、正宗は美容の話をしていた!?
美容である! 筋肉ではなく、美容の話だ! 違和感しかない……
俺たちと合流すると、女性が手を振った。
「じゃあまたね」
そして去っていく……俺たちは即座に尋問を開始した。
「あれ誰だ?」
「2年の先輩マネージャーだな。来る前に会って、一緒にここまで来ただけだな」
なるほど、安心した。KIRIN児はKIRIN児だった。
だが別の疑問が浮かぶ。
「お前って美容に詳しかったのか?」
そう聞くと、政宗は深いため息を吐いた。
「はぁ……お前らは筋肉のことを何もわかってないな」
嫌な予感がした。
「筋肉だけが形良くても、シミや肌がザラザラだったら魅力は半減するんだぞ!」
始まってしまった……
「キレイに筋肉を魅せるためには、肌についても詳しくならないといけない!」
暴走開始である……俺とハジメは顔を見合わせた。そして無言で政宗の背中を押した。
「ほら講義だ」
「続きは後で聞く」
そんなやり取りをしながら講義へ向かった。結局その日も色々あったが、大きな事件はなかった。
講義を受けて、昼を食べて、また講義を受ける。
気付けば全て終わっていた。校門前で2人と別れる。
「じゃあな」
「また明日」
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