024話
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目の前に現れた木製の宝箱を見ながら、俺は思わず首を傾げた。
「えっと……このゲームで、モンスターから宝箱がドロップするとは思っていなかったんだけど……」
するとコメント欄に、見慣れない名前が流れた。
『基本的にモンスターは、自分で解体する必要があるけど一部例外がいて、レアモンスターと呼ばれる敵と、ボスモンスターと呼ばれる敵からは、確率で宝箱がドロップします【ペディア】』
『百科大先生、ちーっす』
『ちゃーっす。何番目の百科大先生ですか?』
コメント欄が妙な盛り上がり方をする。
「百科大先生?」
聞いたことのない単語だった。
『知らないのか』
『初心者だからな』
『説明おじさん集団』
『エニシング名物』
どうやら有名人らしい。百科大先生……どこからともなく現れる説明おじさんで、同じ名前を使って複数人……ペディアは推定で1000人に使われているそうだ。
そういうネットワークがあって、許可が出た人だけが使える名前らしい。その大先生が、俺の視聴者にいたんだ……
『あ~初心者配信だから、見に来ている大先生がいるのか』
誰かが納得したようにコメントする。言われてみれば、大先生は上級者の配信より初心者の配信の方が出番が多そうだ。教えることも多いだろうしな。
「えっと……ゲームの宝箱というと、罠があったりするイメージがあるんですが……開けて大丈夫ですか?」
RPGあるあるだ。宝箱を開けた瞬間に爆発したり、毒を受けたり、ミミックだったり……そういう印象が強い。
『モンスターから出る宝箱には、罠は仕掛けられていない。罠があるのは、ダンジョンにポップする宝箱だけだ【ペディア】』
「なるほど……ならこの宝箱は、問題ないってことですね。早速開けてみます」
そう言って宝箱へ手を伸ばした……大きさからして、片手剣とかが入っているようなサイズではない。入っていたとしても手甲やアクセサリーのような小物だろう。
パカッ
中に入っていたのは、一組の手袋だった。
「手袋?」
革製だが普通の手袋ではない。手の甲部分には赤色の金属板が取り付けられている。
『初心者からしたら、良い物が出たな【ゼノン】』
『その手袋は、中級者まで使える『力の手袋』だな。手袋シリーズで2番目に当たりと言われている【ペディア】』
「見ただけで、種類が分かるんだ」
『手の甲についている金属の色で判断できるぞ。赤だから力だな』
「へぇ……」
なるほど、色で判別する仕組みなのか。
俺はアイテム情報を開いてみる。確かに名前は【力の手袋】になっていた。
「せっかくだし装備してみるか」
そのまま装備欄へセットすると、ステータス表示が変化した。
「おぉ、本当に力が上がってる!」
思わず声が出た。さらに確認すると力だけではない。
「他のステータスも防御力も上がってるな。初心者装備ではステータスは、上がらなかったのに……」
『初心者装備は、多少防御力があるだけだからな』
『そうそう、それでもないよりははるかにいいから装備は必要だけどな』
『自分に合った防具を探すのも、このゲームの楽しみだな』
コメントを見ながら頷く……装備ごとに特徴が違うのか。
力重視、速度重視、器用重視、体力重視などなど……あるいは全体的に少しずつ上げるバランス型、逆にステータス補正を抑えて、防御力だけを極端に高める装備なんかもあるらしい。
そして防具だけではなく、武器にも補正が存在する。
攻撃力が高い武器はステータス補正が控えめだったり、単純に数字だけを見ればいいわけではないようだ。
『タンクは防御重視だな』
『前衛でも速度型いるし』
『回避特化とかもいる』
『器用型はPS必要だけど強い』
思った以上だった。今まで俺は攻撃力しか見ていなかった。
薙刀の攻撃力……それだけで選んでいた。だが本格的に装備を揃えるなら、その辺りも考えないといけないらしい。
「俺はどうなんだろうな」
ふと考える……今のところ明確な方針はない。ただひとつだけ言えることがある。
「たぶん攻撃重視になると思う」
『だろうな』
『薙刀だし』
『盾ないからな』
コメント欄も納得していた。実際、薙刀は両手武器だから、盾を持てない。攻撃力が高いタイプなので、攻撃性能を伸ばした方がいい気がする。
もちろん将来的には変わるかもしれないが、少なくとも今のところはそんな感じだった。
その後も狩りを続ける。
ゴブリン、スライム、ファングボア、コボルト……見慣れた相手を倒しながら雑談を続けた。
せっかくなので、視聴者へ質問してみる。
「みなさん、どんな装備使ってるんです?」
するとコメントが一気に流れ始めた。
『重装盾戦士』
『短剣二刀流』
『弓』
『回避特化』
『魔導杖』
『拳』
『斧』
「本当に色々いるな」
戦い方も全然違うのだろう……そんな中、ふと思い出したことがあった。俺がこのゲームを始めたきっかけとなった、姫騎士と黒騎士の戦闘……あの2人の戦いを見て始めたと言ってもいい。
「そういえば気になってたんだけど、姫騎士と黒騎士って、どんな装備構成なんです?」
『姫騎士は器用と速度を重視した装備と言われ、黒騎士は力と防御力を重視していると言われている【ペディア】』
少し考える。
「イメージ的には、姫騎士は遊撃で、黒騎士はサブタンク的な感じ?」
『ちょっと違うけど、イメージ的には間違ってない』
『だいたい合ってる』
『説明すると長くなる』
『大先生案件だな』
トッププレイヤーの世界はやはり別らしい。同じ武器を使っていても、考え方や装備構成で全く違う戦い方になるのだろう。
いつか自分なりのスタイルも見つかるのだろうか? そんなことを考えながら狩りを続けた。
時間はあっという間に過ぎていった……気付けば、かなりいい時間になっている。
「さて、そろそろ終わりますか」
『おつかれー』
『今日も楽しかった』
『宝箱おめでとう』
『次も頑張れ』
『力の手袋大事にしろよ』
「ありがとうございます。それじゃあ、また次回」
配信終了ボタンを押すと、コメント欄が消え、静寂が戻った。
インベントリを確認する……今日の成果は悪くない。
レアモンスターと宝箱……そして力の手袋。予想外の収穫だった。お金的なプラスはあまり変わらないが、装備が手に入ったのはでかいな。
目標の薙刀まではまだ遠いが、確実に近付いている。そんな手応えを感じながら、俺はホームへ戻ってログアウトした。
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