022話
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目が覚めると、まだ少し早い時間だった……枕元の時計を見る。
もう一度寝てもよかったが、目が冴えてしまっている。今日は朝食当番の日だったので、そのまま起きることにした。
杠葉家では朝食は持ち回り制で、担当の日は朝食を作る。と言っても、献立は決まっているので考えなくていいので楽だ。
今日はご飯、焼き魚、みそ汁、漬物という定番だ。
「朝っぽいというか、定番というか」
呟きながらキッチンへ向かう。ご飯は昨日のうちに母さんが炊いてくれているから、俺がやるのは、焼き魚とみそ汁だけだ。
冷蔵庫から鮭の切り身を取り出して眺める。
「そのまま焼くのもな……」
ふと思いついた。軽く油を敷いたフライパンへ鮭を置き、両面と皮を焼きながら軽く火を通し、一度取り出して骨を抜く。
鮭を焼いている間にキャベツをざく切りにして、鮭を焼き終わったフライパンへ敷き詰め、その上へ冷凍庫に常備されているキノコミックスをひとつかみ。
「キノコ便利なんだよな」
塩コショウを振り、鮭を戻し、蓋をして蒸し焼きをする。
次はタレ……みりん、料理酒、砂糖、味噌、少量の醤油も加えて混ぜる。
「こんなもんか」
タレを全体へ回しかけると、じわじわと湯気が立ち始め、味噌の香りが広がった。
もう一品はみそ汁だな……冷蔵庫を見ると、なめこがあった。
「なめこと豆腐でいいか」
お湯を温め、出汁の素をいれて、なめこと豆腐を投入する。味噌を溶き入れて完成。
「キノコと味噌率高いな」
朝食としては十分だろう。テーブルへ並べ終えた頃、両親が起きてきた。
「おー、美味しそう」
母さんが嬉しそうな顔をする。
「ちゃんちゃん焼き風か?」
父さんも席へ着いた。
「風だね」
その後、穂乃果も降りてくる。
「朝から豪華だね」
「冷蔵庫にあった物で作っただけだ」
「お兄ちゃんにしては頑張った」
そんなやり取りをしながら朝食が始まったが、姉貴の姿はない。
いつものことだ。姉貴は1限の講義を取っていないので、家を出る前に食べることが多い。
一方で俺は1限からが多い。だから穂乃果と起きる時間は大体同じことが多い。
食事を終えると、穂乃果も慌ただしく出掛けていった。
「行ってきまーす」
「気を付けろよ」
父さんと母さんも仕事へ向かう。気付けばリビングには、俺だけが残っていた。
「片付けか」
姉貴はまだ起きていない。つまり皿洗い担当は俺である。流し台に並んだ食器を洗いながらため息を吐く。
「まあ、朝飯作ったんだからこれくらいは、誰かにやってもらいたいものだ」
全部片付け終えた頃だった。
ピンポーン……
チャイムが鳴る。
玄関を開けるとハジメがいた。
「おう」
「おう」
いつもの挨拶をして、2人で大学へ向かう途中で、配信の話になった。
「常連客また来てたぞ」
「知ってる」
「何でだよ」
ハジメも配信を見ていたらしい。リアルタイムじゃなくて、アーカイブの方だと思うけどな。
そんな話をしているうちに大学へ到着すると、視界に入った。
「おはよう!」
元気よく手を振る女性……最初は誰か分からなかった……数秒見てようやく思い出す。
姉貴の友達だった。喫茶店へ来たメンバーの1人である。
だが服装が全然違う。……へそ出しのトップスにショートパンツ……かなり活動的な格好だった。喫茶店で見た時の雰囲気と違いすぎる。
「分からんかった」
「酷くない?」
笑いながら近付いてくる。正直かなり美人だったから、余計に目のやり場に困る。
俺だけではない、ハジメも政宗も微妙に視線を逸らしていた。
KIRIN児には刺激が強い。
「じゃあまたねー」
手を振りながら去っていく……3人とも少しだけ安堵した。
「眩しかったな」
「分かる」
「筋肉でも防げない刺激だった」
政宗だけ意味不明。講義を受け、気付けば昼になる。
いつもの3人で食堂へ向かうと、見慣れた顔がいた。
「おーい」
手を振っていたのは、銀城茂、高校時代からの知り合いである。頻繁に一緒に行動するわけではないが、それなりに交流は続いていた。
「珍しいな」
「たまにはね」
4人で席に着く。食事を受け取って戻ると、茂が小声で言った。
「フレア君、配信始めたんだね」
「やっぱり分かるのか」
「声で分かったし、よく見れば顔もそのままフレア君だしね」
知り合いなら気付くかもしれない。
「茂も見てるのか?」
「見てるし、僕も配信してるし」
「マジで?」
「エニシングのグループに所属してるからね」
さらに彼女も同じグループらしい。エニシングの話題で盛り上がっていると、今度は政宗が口を開いた。
「俺もエニシングはやっているぞ」
一瞬、全員が固まった。
「え?」
「マジで?」
「政宗が?」
思わず3人とも外を見てしまう……槍でも降ってくるのかと思った。
「筋肉というのはな、常に動かしていればいいというものではない」
なぜか真面目な顔だった。
「休息も重要だ。その時間にエニシングで格闘術を学んでいる」
「ゲームでまで筋肉かよ」
「当然だ」
肉体美研究部へ入るために格闘技も勉強しているらしい。そして体を休める時間を利用してゲーム内で研究しているとか。
「筋肉への情熱だけは本物だな」
「褒めるな」
「褒めてない」
そんなくだらない話を続けていると、茂のマルチギアへ通知が届いた。
「あ、彼女からだ」
嫌な単語が聞こえた。
「呼ばれたから行くね」
席を立つ……その瞬間、
「「「リア充爆発しろ」」」
3人の声が重なる。もちろん本気ではない。羨ましいだけである。茂は笑いながら去っていった。
「くそっ」
「羨ましいな」
「筋肉でも彼女は作れない」
俺たちKIRIN児の中で、卒業が一番近い政宗に言われると、なんかむかつく……肩パンをすると、
「ふんっ」
簡単に弾かれてしまった。殴った拳の方が痛いって……こいつの筋肉おかしいだろ!
午後の講義を終えた後も3人で合流した。せっかくなので遊びに行こうという流れになり、久しぶりのゲームセンターへやってきた。
対戦ゲームをしたり、クレーンゲームをしたり、馬鹿みたいな体感ゲームで盛り上がったり……気付けば夕方になっていた。
「じゃあ俺はこっちだからいくわ」
政宗が俺たちから離れて帰っていく。ゲームをしていたのに、最後まで筋肉の話をしていた気がする。
俺とハジメは並んで帰路についた。
「平和な一日だったな」
「そうだな」
配信もなく、特別な事件もない。大学があって、友達と笑って、遊ぶ。濃いメンバーが周りに多いせいか、こんな普通な時間が貴重に感じる。
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