020話
アクセスありがとうございます。
昼食を食べ終えた俺は、自室の椅子へ座り込んだ。
どうするか……とりあえずハジメへ連絡することにした。
この世界で電話と言えば、マルチギアを通したネット通信のことだ。半世紀前に使われていた電話とは違い、映像も音声も簡単に繋がる。
呼び出しを送ると、すぐに応答が返ってきた。
『おう』
「暇か?」
『暇じゃない』
「どっちだよ」
するとハジメが少し笑った。
『どうした』
「いや、今日の配信でさ、喫茶店の常連客に見つかった」
『……は?』
明らかに理解できていない声だった。
「だから、配信してたら喫茶店の常連客に見つかった」
『何で?』
「俺も知りたい」
簡単に流れを説明する……キャンプ用品を見ていたこと、コーヒーの話をしたこと、喫茶店で働いていると話したこと、そのあたりで特定されたっぽいこと。
そこまで説明した瞬間だった。
『ぶっはっ! お前、何やってんだよ!』
「俺が聞きたい」
しばらく笑い続けている。
「そんなに面白いか?」
『面白いだろ。ゲーム配信で常連客に見つかるとか、なかなか聞いたことねぇよ』
俺も聞いたことがないけど、実際に起きてしまった。
その後もしばらく話したが、ハジメはどうやら出掛ける予定があるらしい。
『じゃあ俺行くわ、またな』
「おう」
通信を切り、静かになった部屋で、俺は椅子へもたれた。
「さて……」
暇だった……今日は1日ゲームでもするかと思っていたのだが、いざ時間があると妙な感覚になる。
ずっとゲームするのって、こんなに大変だったっけ? 昔やっていた携帯ゲーム機の狩猟ゲームを思い出す。あの頃は2時間程度なら一瞬だった。気付けば夕方になっていることも珍しくなかった。
なのに今は少し違う……ゲーム自体は楽しいけど、狩りだけを延々と続ける気分でもなかった。
「歳か?」
いや、まだ大学生だ。流石にそれは早すぎる。
とはいえ今日は本当にすることがない。講義で出されたレポートは終わっている。友達とも遊ぶ約束をしていない。本当に暇だった。
考えてみれば、俺の周りにはバイト仲間も多い。だから日曜日より平日の方が人が集まっている気がする。バイト終わりに合流することもあるし、急な休講になれば遊びに行くこともある。
その方が予定も合わせやすいのだ。
「穂乃果は……」
妹の顔が浮かぶ……来年受験生だが、現時点で竜胆大学の合格圏内にいる秀才……友達と遊びに行っているんだっけ?
俺はハジメに教えてもらいながら何とか合格したのに。同じ両親から生まれているはずなのに理不尽である。姉貴もそうだったよな……
姉貴もほとんど勉強していなかった記憶が……それなのに普通に合格していた。意味が分からない。
そういえば姉貴、今日はバイトだったか……何のバイトをしているのか知らないけど、結構稼いでいるらしい。違法なことをしていないか少し心配になるが、母さんは知っているので問題ないのだろう。
考えていても仕方ない、ゲームを始めれば気分も変わるだろう。
俺は再びマルチギアを装着し、ダイブする。
ハジメに以前言われていた、狩りをするなら一応配信しておけ、と。今日も配信するか。
全年齢対象
タイトル
【初心者フレアの活動日記6日目 狩りをしながら雑談】
配信内容
【タイトルのまま。ANYTHING初心者のフレアの活動日記。基本的には雑談中心のノンビリ配信となります】
入力を終え、そのまま開始ボタンを押した。
「みなさん、こんにちは。フレアです」
いつもの挨拶、視聴者数は1人……しばらくすると2人、また1人になる。時間も時間なので、人が少ないし出入りも激しいな。
「今日は狩りをしながら雑談です」
街を抜けて狩場へ向かい、ゴブリンを見つけて倒し、素材を回収する。
ビッグボアも狩る……特に変わったことはない。いつもの狩りだった。
だが開始から30分ほど経った頃だった。
『本当に狩りしてるな』
『フレア君だ』
『痛そうな見た目だけど本人だね』
『ゲームだと派手だね』
「来たな」
見覚えのあるコメントだった。
「何でいるんです?」
『暇だから』
『日曜日だから』
『見に来た』
絶対示し合わせている。そんな気がした。そんなやり取りをしていると、
『お、また配信してるじゃん【ゼノン】』
『こんにちはー【シェリー】』
いつもの二人が現れた。
『なんか賑やかだな【ゼノン】』
『知り合い?【シェリー】』
当然の疑問だった。
「喫茶店の常連客です」
『は?【ゼノン】』
『え?【シェリー】』
2人とも固まった。
『何でゲーム配信に喫茶店の常連客いるんだ【ゼノン】』
「俺も聞きたい」
『偶然だ』
『偶然ですね』
『たまたまだよ』
コメント欄が全く信用できない。ゼノンとシェリーも半分呆れていた。そこからは妙な流れになった。
『フレア君って店でもこんな感じ?【シェリー】』
『もっと大人しい』
『いや結構喋るぞ』
『どら焼き上手い』
『コーヒーはまだまだ』
するとシェリーが笑う。
『面白いなぁ』
『普段どんな人なんです?【シェリー】』
『真面目』
『働き者』
『苦労人』
『からかうと面白い』
「最後余計ですよね?」
コメント欄が笑いで埋まる。一方で常連客たちはゲームについて質問し始めた。
『このゲームって難しいの?』
『初心者でもできる?』
『課金いる?』
ゼノンとシェリーが丁寧に答えてくれる。
『慣れれば簡単ですよ【ゼノン】』
『月額かかりますが、1000円ほどですね【シェリー】』
『自由度高いですし【ゼノン】』
『へぇ』
『孫がやってたな』
『うちの子どもも遊んでる』
『始めてみるか?』
『面白そうだな』
妙に前向きだった。本当に行動力がある人たちである。俺はゴブリンを倒しながら思った。
学校ではそこまででもないけど、家でも喫茶店でもゲームでも……
「何でどこ行ってもからかわれる側なんだろうな……」
『愛されてるから』
『人気者だな』
『頑張れ』
「絶対違う」
だが誰も信じなかったけど、楽しい時間は本当に早い。気付けば配信開始から3時間近く経過していた。
「そろそろ終わります」
『おつかれー』
『楽しかった』
『またな』
『狩り頑張れ』
『店も頑張れ』
最後まで余計な一言が混ざっていた。
「ありがとうございました」
配信を終了する。そして今日の戦利品を売却するため、街へ戻る。
素材をまとめて換金……表示された金額を見て思わず頷いた。
順調だった。
毎日少しずつだが確実に増えているから、初心者としては十分だろう。
「いい感じだな」
財布代わりのインベントリを確認する……装備更新まではまだ距離があるけど、目標が見えてきた。こういう積み重ねは嫌いじゃない。
俺は満足しながらホームへ戻った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




