019話
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目を覚ました俺は、しばらく天井を眺めていた。今日は喫茶店が休みだから、バイトがない。世間一般の感覚で言えば、日曜日こそ喫茶店が賑わいそうなものだが、マスターの店は違う。
理由はよく分からない。
ただ、マスター曰く、日曜日は常連客があまり来ないらしい。だから休みにしている。
営業時間も短く、日曜日も休みなので、ガッツリ働きたい学生には不人気だった。 面接にきてマスターのお眼鏡にかなって、結果として働いている。
「ありがたい話ではあるんだけどな」
俺としては十分だった。学業との両立もしやすいし、何より店の雰囲気が好きだ。
朝食を食べ終え、自室へ戻る……今日は1日自由時間。特に予定もないから、ゲームでもしようと考えた。
「たまにはこういう日もいいよな」
マルチギアを起動する……昨日までは狩りや素材集めが中心だった。
だが今日は、狩りを始める前みたいに、キャンプギアを見て回ろうと思っていた。エニシングには現実の商品を再現したキャンプ用品が大量に存在する。
実際に使うこともできるから、気になる商品を試してみるには最適だった。
配信する予定はなかったが、ハジメに予定を聞かれた際、キャンプギアを試すつもりだと話したら、
『一応配信しとけ』
と言われ、理由も聞いた。
『キャンプ見る層とゲーム見る層は違う。でもフレアに興味持った奴が見るかもしれんから、流しとけ』
なるほど、と思った。
確かにゲーム配信やキャンプ配信として見れば地味だが、雑談配信としてなら成立するかもしれない。
「まあ、やるだけやってみるか」
俺はダイブして、ホームへ到着する。
配信準備を整え、タイトルを入力する。
【フレアのキャンプギア体験】
説明文も簡単に書いて、配信開始。
「みなさん、おはようございます。フレアです」
挨拶をする。視聴者数はゼロ人……予想通りである。アーカイブとして残るので、一応いつものように挨拶はしておく。
「今日はキャンプ用品を見ながら雑談していこうと思います」
そう言った直後だった。
『何やってんだw【ゼノン】』
『草【シェリー】』
即座にコメントが流れる。
「あ、おはようございます」
『狩りじゃないのか』
『急に方向転換してる』
「今日は休みなんで」
『なるほど』
『頑張れw』
2人とも様子を見に来ただけだったらしい。軽く挨拶を交わした後、
『じゃあ俺は狩り行くわ【ゼノン】』
『またね~【シェリー】』
と去っていった。本当にちょっと見に来ただけだった。
「自由だな」
苦笑しながらショップを開く……テント、焚き火台、ランタン、テーブル、キャンプチェアー……様々な商品が並んでいた。
見ているだけでも楽しい。実際に召喚し、触って確かめていく。
「これ結構いいな」
そんなことを言いながら時間を潰していると、新しいコメントが流れた。
『リアルじゃないキャンプギア配信って珍しいな』
「そうですか?」
『実際のキャンプの方が人気があるから、ゲームは少ないんだよな』
「なるほど」
確かにそうかもしれない……一応、俺は今回の経緯を説明した。
「リアルでキャンプへ行けないので、ゲーム内で試してるだけです。普段はエニシングで狩りしたりしてます」
『へぇ、そういう感じか』
意外と反応は悪くなかった。この人たちは、ゲームにはあまり興味がないらしい。だが朝からキャンプ配信を探していて、たまたま流れてきたそうだ。
「せっかくですし、おすすめあります?」
聞いてみると、すぐ返事が来た。
『X社のハイバックチェア、背もたれが高いタイプ』
「探してみます」
検索すると見つかったので、そのまま召喚する。
思ったより大きい。普通の椅子より存在感がある。
「キャンプチェアーにしては、結構大きいですね」
座る……数秒後、
「あぁ……これは、人をダメにするクッションに通じる物があるな……」
『分かってくれたか、最高だぞ』
コメントから満足感が伝わってくる。
確かに快適だった……立ち上がりたくなくなる。
どうやら先ほどの人の知り合いが来たらしく、気付けば5人ほど増えていた。
「他に、おすすめあります?」
そう聞くと次々にコメントが流れる。
『このランタン』
『折りたたみテーブル』
『軽量コット』
『焚き火台』
俺は一つずつ試していった。実際に触り、組み立てる。想像以上に面白かった。
「キャンプ沼ってこうやって始まるのかもしれないな」
『それ』
『間違いない』
『財布が死ぬぞ』
コメント欄も和やかだった。次は何を見ようか……
そう思いながら一覧を眺めていると、コーヒー用品が目に入った。
「お」
ドリッパー、ケトル、ミル……様々な道具が並んでいる。
するとコメントが流れた。
『フレアってコーヒー好きなの?』
「好きですよ」
俺は素直に答えた。
「喫茶店で働いてますし」
『へぇ』
「マスターのコーヒーが美味しいんですよ。だから自分でも淹れられるようになりたいんですけど、全然追いつけなくて」
その瞬間だった。
『え? まさか……フレアってあのフレア君なの?』
「どのフレア君です?」
『喫茶店の常連なんだが』
「え?」
俺も固まる。
『マジで? 本人? 昨日、どら焼き作った?』
「待ってください」
嫌な予感しかしない。
「何でそんなに詳しいんです?」
『呼んでくる、マスターの店の関係者召集』
数分後……視聴者数が急増した。
「増えた!?」
10人……20人……
『来たぞ』
『よく見たら似てるね』
『これは本物だな』
『いつもの声だ』
『フレア君だ』
常連客らしい人たちだ。話している内容から、間違いなく常連客だと思う。
「何でこんなに集まるんです?」
『日曜だから』
『暇だから』
『店休みだから』
『ネットで集まってた』
納得したくなかったが、妙に納得できてしまう。
「みんな暇なんですか?」
『失礼だな』
『たまたまだ』
『偶然だ』
『偶然20人集まっただけ』
「絶対嘘だろ」
コメント欄が笑いで埋まった。しかし雰囲気は悪くない。むしろ最初からいたキャンプ好きの人たちも面白がっていた。
『人気者じゃん』
『面白いなこの流れ』
『喫茶店勢力強すぎる』
『愛されてるな』
「絶対違います」
だが誰も信じなかった。その後も、
『ちゃんと働け』
『マスター困らせるな』
『どら焼きまた食べたい』
『コーヒー練習しろ』
など好き勝手言われ続けた。キャンプ好きの視聴者たちも混ざり、
『その椅子買え』
『焚き火台もおすすめ』
『コーヒー道具揃えよう』
と話題が広がっていく……思った以上に楽しい時間だった。
気付けば昼を回っていた。
「そろそろ終わりますか」
『おつー』
『楽しかった』
『次もやれ』
『キャンプ回また見たい』
『店でも頑張れ』
最後の一言が余計だった。
「ありがとうございました」
配信を終了する……静かになったホームで、俺は深いため息を吐いた。
「何でゲーム配信で常連客に見つかるんだよ……」
だが悪い気分ではなかった。少なくとも、キャンプ好きの人たちも楽しんでくれたみたいだからな。
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