014話
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フィアデルシアへ戻ると、夕暮れ色の空が街を染めていた。
俺はインベントリを開く。
今日の収穫はファングボアの肉や牙、皮、スライムの魔石、それからゴブリンが落とした雑多な素材だ。
決して悪くないが、今の俺に必要なのは素材ではなく金だ。冒険者ギルドへ入ると、受付の横にある買取窓口へ向かう。
「買取お願いします」
素材をまとめて提出すると、職員が手際よく査定していく……数分後。
「こちらになります」
表示された金額を確認する。
「おぉ」
初心者の俺からすれば十分な額だった。もちろん大金ではないが、昨日までの所持金と比べればかなり増えている。
そのまま受け取りを済ませる。
「全部売ったのか?」
近くにいたプレイヤーが少し驚いたように聞いてきた。
「ああ」
「残さなくていいのか?」
「必要になったら買う」
ハジメから色々聞いたが、序盤素材に特別な価値はほとんどない……レア素材なら話は別だが、初心者狩場のドロップ品だ。
売ってしまった方が楽らしい。ホームにも荷物は置けるが、倉庫ではないので無限に置けるわけではない。
下手に溜め込むより金に換える方が便利なのだとか。それに中級者になり始める頃の装備なら、オークションでも普通に購入できるから、初心者ほど現金を持っていた方が色々と便利らしい。
このゲームにレベルは存在しない。だから強くなる方法は単純だ。
金を稼ぎ、装備を更新する。
少し上の狩場へ行ってさらに稼いで、また装備を更新する。
それを繰り返していく。
そして上級者になる頃には、お金よりもレアアイテム目的でモンスターを狩るようになる。ハジメが言っていた。
「まずは装備だな」
今の俺は初心者装備……目標は分かりやすい方がいい。
少しずつでも強くなろう。そう考えながらホームへ戻り、そのままログアウトした。
翌日、大学へ到着した瞬間だった。
「諸君!」
聞き慣れた声が響く……正宗である。
「筋肉とは!」
「逃げるぞ」
「賛成」
「待ちたまえ!」
いつもの流れだったが、今日は結局捕まってしまい、俺たちは講義が始まるまで筋肉談義を聞かされることになった。
「大胸筋はな!」
「へぇ」
「そうだな」
半分どころか9割くらい聞いていない、相槌のために話の流れを聞いている感じだ。それでも正宗は満足そうだった。本人が幸せならそれでいいのかもしれない。
たぶん……
講義を受け、昼食を食べ、午後も終える。
そしてバイト先の喫茶店へ向かった。
マスターが出迎えてくれ、常連客が集まっていた。最近、恒例となっているコーヒーの練習に付き合ってくれるメンバーだ。
マスターが指導してくれ、それを見守ってくれる常連客……無茶ぶりをしてくるが、優しく見守ってくれるいい人たちだ。
バイトが終わり、家に帰って夕食を食べる。風呂、軽い家事、いつもの日課を終えた後、俺はエニシングへログインした。
視界が安定すると同時に通知が届く。
【ファーストからパーティ招待】
「お?」
受諾すると即座にメッセージが飛んできた。
【コラボするぞ】
「いきなりだな」
だが断る理由もない。指定された場所へ向かう。そこにはファーストが待っていた。
挨拶をして、改めて姿を見る。
「ファーストって皮鎧なんだな」
何となく意外だった。大剣を使うから金属鎧のイメージがあったのだ。
するとファーストが笑う。
「このゲームで布装備が魔法防御高くて、金属鎧が物理防御高いのは知ってるよな?」
「ああ」
「皮鎧はその中間なんだよ」
なるほど。
「器用貧乏?」
「半分正解、皮鎧は布装備みたいに魔法を補助してくれるんだ。だから俺みたいな魔法剣士スタイルには相性がいい」
「へぇ」
近付いてよく見ると、胸や肩など重要そうな場所には金属プレートが埋め込まれていた。
「急所は補強してるからな」
「防御足りるのか?」
「十分だ」
しかも金属鎧ほど重くないから、動きの制限も少ない、だから人気らしい。
ふと思い出す。
「姫騎士と黒騎士の人たちって金属鎧だったよな?」
「ああ」
「魔法も使ってたぞ?」
するとファーストが吹き出した。
「あれは、ロールプレイだからな」
「ん?」
「皮鎧の見た目を金属鎧に加工してるんだよ」
「そんなことできるのか」
「できる」
何でもありだな、このゲーム。
「ただし、金も手間も素材もめちゃくちゃかかる」
「なるほど」
簡単には真似できないらしい。俺にはまだ縁のない話だった。
「行くぞ」
ファーストが歩き出したので、俺は後を追った。向かった先は昨日よりランクの高い狩場だった。
森だ。見た目は似ているが空気が違う。
「ここは?」
「ホブゴブリン、ビッグボア、たまにオーク」
「初心者卒業くらい?」
「そんな感じ」
正直1人なら怖いが、今日はファーストがいる。それだけで安心感があった。
狩場へ到着すると、俺たちはライブを開始した。
「みなさん、こんばんは。フレアです」
「ファーストだ」
コラボ配信が始まる。画面には共有チャットが表示されていた。色が違うので、どちらのリスナーか分かるらしい。
『こんばんはー』
『コラボだ』
『フレア君だ』
『KIRIN児コンビだ』
「開幕からやめろ」
『草』
『言われてるぞw』
挨拶は簡単に済ませ、指導が始まった。最初に驚いたのはファーストの戦い方だった。
「防御しないのか?」
「するぞ」
「してないだろ」
「してる」
意味が分からない……だが戦闘が始まると理解した。
ホブゴブリンが剣を振るうと、ファーストは大剣で受ける。しかし完全に止めるわけではなく、弾いて流す。
ホブゴブリンとは違うが、ファーストも少し姿勢を崩す。
そして……スキルを使い、一瞬で姿勢を立て直しながら反撃すると、ホブゴブリンが吹き飛んだ。
「なるほど」
「攻撃だけじゃないんだよ」
スキルは姿勢制御にも使える。それが面白かった。俺も真似してみるがうまくいかない。
「難しいな」
「そりゃそうだ」
登録しているスキルが違うし、経験も違う。それでも少しだけ感覚は掴めた。
「面白い」
「だろ?」
雑談をしながら狩りを続けると、案の定、コメント欄の流れがおかしくなった。
『KIRIN児って本当?』
『ファーストのリアル教えて』
『彼女いないの?』
『モテそうなのに』
「やめろ」
即座にファーストが返す。
『反応早いw』
『怪しい』
『図星?』
「図星だろ」
俺が言う。
「こいつ高校の頃……」
「待て」
「……ゲームしてた」
「普通だった」
『草』
『普通だった』
『止める必要あった?』
コメント欄が盛り上がる。ファーストも負けじと反撃する。
「フレアだってな」
「何だよ」
「料理できるしコーヒーも淹れられるぞ」
『高スペック』
『モテそう』
『なのにKIRIN児』
『なぜだ』
「余計なお世話だ」
俺はため息を吐く。次第にもう1人のKIRIN児の話題で、自然と正宗へ移った。
「正直な」
ファーストが言う。
「一番最初に卒業しそうなの正宗だと思う」
「分かる」
俺も頷く。
「筋肉しかないのに」
「筋肉しかないのにな」
『ひどいw』
『でもモテそう』
『筋肉需要あるぞ』
『マネージャー候補いるんだろ?』
「いる」
「いるんだよなぁ」
俺とファーストが同時にため息を吐いた。
『wwwww』
『嫉妬か?』
『草草草草草』
『大草原』
『KIRIN児の悲鳴』
コメント欄が大爆発する。俺たちも思わず笑ってしまった。
そんな雑談を続けながら狩りを行い、気付けば予定時間になっていた。
「そろそろ終わるか」
「だな」
最後に挨拶をする。
「今日はありがとうございました」
「またな」
『おつー』
『楽しかった』
『KIRIN児頑張れ』
『筋肉ダルマに負けるな』
「そこ応援するとこじゃないだろ」
最後まで弄られながら、俺たちは配信を終了した。
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