011話
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斬られたスライムの体は、どろりと溶けていく。そして数秒後には完全に消滅し、地面には小さな半透明の結晶だけが残っていた。
「おぉ……」
俺は思わず声を漏らす。
「死体が残らないんだな」
『魔法生物だからな【ファースト】』
『スライムはそうなる【ゼノン】』
『魔石だけ残るぞ』
地面へ落ちていた結晶を拾う……【魔石】という表示が出た。
「へぇ……じゃあゴーレムは?」
『あれは物質系だから残る』
『石とか鉱石とかだな』
『魔法生物だけど、スライムとは別』
「意外と細かい設定あるんだな」
『設定じゃなくて素材関係だぞ【ファースト】』
なるほど、素材集めが経済活動の一部になっているゲームだ。そういう部分はかなり作り込まれているらしい。
俺は魔石を収納へ放り込みながら草原を歩くと、コメント欄の流れが少し変わった。
『そういやさ』
『ファーストとリアル知り合いなん?』
『幼馴染って言ってたよな』
『どこ住み?』
「そこは秘密だ」
即答する。
「学校とか住んでる場所とか、そういうのは流石にな」
『正しい【ゼノン】』
『ネットリテラシー◎』
『まぁそうなるわな』
『でもファースト結構話してたぞ?』
「え?」
『昔からの友達いるとか』
『キャンプ好きとか』
『料理上手とか』
『コーヒー好きとか』
『KIRIN児とか』
「最後おかしいだろ」
コメント欄が爆発した。
『wwwww【ゼノン】』
『出たwww』
『KIRIN児?【シェリー】』
『彼女いない歴=年齢児』
『ファーストリスナーには有名www』
「何で有名なんだよ!」
『ファースト談』
『本人談じゃなくて草』
『幼馴染に暴露されてるぞ』
「ファーストォ……」
現実で一発殴ろう……本気でそう思った。
『怒ってて草』
『仲良さそう』
『これが幼馴染』
「違う。あれはただの裏切り者だ」
『本人見てるぞ【ファースト】』
「知ってるわ!」
そんな雑談をしていると、少し離れた場所に新しい敵を発見した。
背は低い、緑色、耳が尖っている……そして何より、醜悪だった。
「うわ……」
『ゴブリンだな』
『初心者の壁』
『初人型おめ』
「全然おめでたくないんだが」
ゲームだ……ゲームなのは分かっている。だが、ファングボアやスライムとは違う……あれは人型だった。
ゴブリンがこちらへ気付くと、棍棒を持ち上げながら走ってくる。
「っ!」
薙刀を構える……相手が振り下ろした棍棒を避ける。
反撃ができない……頭ではゲームだと理解している。それでも、斬るという行為に妙な抵抗があった。
『迷ってるな』
『初めてだとそんなもん』
『人型だしな』
ゴブリンが再び突っ込んでくる。避ける。距離を取る。またゴブリンが突っ込んでくる。また避ける。
『20秒以内に倒せなかったら……』
突然コメントが流れた。
『筋肉ダルマのマッスル談議をしてもらうようにお願いするわ【ファースト】』
「は?」
一瞬で嫌な顔になった。
『wwwww』
『何それ?』
『そこまで露骨に嫌な顔する?』
脳裏に暑苦しい笑顔が浮かぶ……筋肉・筋肉・筋肉……
「それだけは嫌だ!」
気付けば体が動いていた。踏み込み、薙刀が閃く……ゴブリンの首を斬り裂く。
そのまま追撃、返す刃で胸元を薙ぐと、ゴブリンは崩れ落ちた。
「……倒した」
一拍置いてコメント欄が爆発した。
『早ぇwww』
『必死すぎるwww』
『筋肉談議がそんなに嫌なの草』
『本音出たなw』
「いや、だって筋肉ダルマの筋肉談義だぞ?」
『説得力ある【ファースト】』
『それは仕方ない』
『許された』
何故か全員納得していた。
その後も狩りを続ける……ファングボア、スライム、ゴブリン……慣れてくると少しずつ戦闘にも余裕が出てきた。
コメント欄との雑談も増える。キャンプの話、コーヒーの話、リアルで料理をしている話、KIRIN児ネタを擦られるたびにスルーする。
気付けば15戦ほど終わっていた。
「っと……」
時間を確認する。
「そろそろ帰らないとまずいな」
『リアル優先』
『お疲れー』
「その前に一つ聞きたいんだが」
俺は周囲へ転がるファングボアの死体を見る。
「解体ってみんなどうしてるんだ?」
コメント欄が反応する。
『慣れ』
『根性』
『諦めるな』
「参考にならん」
『大収納の魔法カバン買うまでは地道に運ぶ【ゼノン】』
『それなりに高いけど便利』
『解体して高い部位だけ取るのも普通』
『解体スキル取れ』
『解体スキル付きナイフもあるぞ【ファースト】』
「そんなのあるのか?」
『刺して待つだけ』
『後はシステム処理』
『初心者の味方』
「それ欲しいな……」
本気で欲しかった……現実で解体経験なんてない。キャンプは好きだが、流石に猪を捌いたことはない。
「よし。当面の目標決めた! 解体スキルか、解体スキル付きナイフを手に入れます」
『頑張れー』
『初心者目標としては良いな』
『おつ』
「それじゃ、今日はこの辺で」
軽く頭を下げる。
「初心者フレアの活動日記2日目、これで終了です。ありがとうございました」
『おつー』
『またなー』
『KIRIN児頑張れ』
「それは頑張りたくない」
最後にそう返して配信を終了した。
ホームへ戻りログアウトする。
▽▼▽
現実へ帰還すると、風呂まであと30分ほどだった。
「解体なぁ……」
マルチギアを操作する……解体スキル・解体講座・初心者向け解体方法……色々調べるけど、決定打になる情報は少ない。
結局は慣れろという結論ばかりだった。
「参考にならん……」
そう呟いたところで通知が鳴る。入浴可能通知だ。
浴室へ向かい、湯船へ浸かりながら再び調べる。
しかし結果は同じだった。解体スキル・解体ナイフ……その辺りが最適解らしい。
「明日ハジメに聞くか」
そう結論を出して風呂を上がり、そのまま就寝する。
翌朝、俺は家を出ると、そのままハジメの家へ向かった。
合流してあいさつを交わしてから、大学へ向かう。道中で昨日の出来事を話した。
「解体か」
ハジメが頷く。
「それなら使ってないナイフあるぞ」
「マジで?」
「解体スキル付き」
「神か?」
「貸すだけだ、お金貯まったら買い取れ」
「それで十分ありがたい」
初心者にとっては救世主だった。そんな話をしている内に大学へ到着する。
「やあ諸君!」
聞き慣れた声が響いた……正宗である。
「君たちは、覇気がないな。そんな君たちに良い話をしてあげよう!」
「逃げるぞ」
「賛成」
「待ちたまえ!」
俺とハジメは即座に方向転換した。
「筋肉は人生を豊かにするんだ!」
後ろから声が聞こえるが、聞こえないふりをする。
「まて~!」
そのまま講義棟へ避難し、正宗の熱弁を回避した俺たちは、少しだけ達成感を覚えながら教室へ向かうのだった。
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