010話
アクセスありがとうございます。
ダイブ特有の浮遊感が収まり、視界が安定する。
「うっぷ……やっぱりダイブするのに慣れないな……」
胃の辺りが少しふわふわする。慣れた人は何ともないらしいが、完全に順応するには時間がかかりそうである。とりあえず時間を確認する。
「えっと、お風呂の時間が2時間後だから……1時間くらいは配信できるかな?」
メニューを開いて配信設定を確認する。
全年齢対象。
タイトル。
【初心者フレアの活動日記2日目 初めての戦闘編】
配信内容。
【タイトルのまま。ANYTHING初心者のフレアの活動日記。基本的には雑談中心のノンビリ配信となります】
「よし、問題なし」
配信開始を押す。意味はないのだが、何となくストレッチをする。肩を回し、首を回し、軽く屈伸。
昨日ハジメから『準備段階から流した方がネタになる』と言われたので実践してみているのだが、本当に需要があるのだろうか。
自分ではよく分からない。
「まぁ、やるか」
配信開始の表示が出たので、俺は軽く咳払いした。
「みなさん、フレアです。よろしくお願いします。今日もタイトルのまま、初めての戦闘をしていこうと思います」
早速コメントが流れ始めた。
『乙w まだ2日目だからか、かたいなw【ゼノン】』
『おつ。配信始まったのに、準備体操してて何かと思ったよw【シェリー】』
『初見ヨロ~ 本当に初心者なの?』
「おぉ、ゼノンさん、シェリーさん、昨日から引き続き視聴ありがとうございます。初見さん、初めまして。趣味でキャンプなんかをこの世界で楽しんでいましたが、幼馴染に誘われて一昨日あったトーナメントを見て、戦闘もしてみようかなと思いまして、どうせなら活動日記として配信しています」
『へ~キャンプが趣味なんだ。それも配信するの?【シェリー】』
『最近は戦闘しないで趣味を楽しんでる人も多いな【ゼノン】』
『戦闘は初心者ってことね』
「ん~、配信するかは分からないな。でもお気に入りの道具とかは紹介してみたい。リアルでカフェのマスターにコーヒーの淹れ方を教わったから、山頂とかで淹れて雰囲気を届けるのは面白そうだと思う」
そこでふと気付く。
「……あれ?」
沈黙。
「戦闘しようと思ったけど、武器持ってないわ」
一瞬コメント欄が静止し、次の瞬間。
『わろすwwww【ゼノン】』
『お前wwww』
『本当に初心者で草』
『お金はあるの?【シェリー】』
「初心者装備っていくらくらいするんですか?」
『1000ゼニーあれば武器防具揃うぞ【ゼノン】』
『最低限だけどね【シェリー】』
「それなら問題なさそうだな」
街のガイド機能を開く。便利なことに武器屋まで案内してくれるらしい。
「まずは武器を選ぶところからお楽しみください」
『通販番組かw』
『雑で草』
コメントを見ながら武器屋へ向かう。到着した武器屋は、まさにファンタジー作品に出てくる武器屋そのものだった。
「おぉ~、アニメや漫画で見たやつだ」
1階が防具、2階が武器……まずは武器を見に行く。
展示された武器の数は圧巻だった。
剣・槍・斧・大剣・弓・鞭……他にも見たことがない武器が大量に並んでいる。
試しに手を伸ばす……すると武器は持ち上がらず、警告が表示された。
【商品です。続けると衛兵が来ます】
「うわっ!?」
『俺もやったwww【ゼノン】』
『懐かしいwww』
普通にビビった。そして薙刀コーナーへ移動する。
『え? 薙刀?』
『マジで?』
『珍しいな』
やはりマイナー武器らしい。長さ違いで数種類並んでいた。店主に相談すると試し振りできるとのことだったので、一番長い物と中くらいの物を試させてもらう。
何度か振ってみる。
「ん~」
長い方がしっくり来る。
「長い方が使いやすいかな」
『長い方が扱い難しいだろ』
『現実で何かやってた?』
「いや、特には」
少し考える。
「あえて言うなら、床掃除するモップかな?」
一瞬の沈黙。
『なぜそれを挙げたwwww【ゼノン】』
『私も使ってるわw【シェリー】』
『俺の会社のモップの方が長い』
『比較対象おかしくて草』
面倒なので流す。
「次は防具だな」
『流したぞwwww』
『なかったことにしたw』
防具は革鎧にした。金属鎧は格好いいが、どうにも動き難そうだった。
「何となく冒険者っぽいな」
『いや冒険者だろww』
『昨日ギルド登録しただろw』
「そうだった」
完全に忘れていた……気を取り直して街の東門へ向かう。途中でコメント欄から狩場情報をもらう。初心者向けは東の草原らしい。
街を出ると視界が一気に開けた……広大な草原、遠くまで続く地平線。
「おぉ~」
思わず声が出る。
「日本じゃ見られない景色だな」
『北海道』
『試された大地』
『道民いて草』
『私は青森から見た【シェリー】』
「青森は修学旅行で北海道行くの?」
『行った』
『羨ましい』
「俺は中学で善光寺、高校で沖縄だったな」
そんな雑談をしながら進んでいると、警戒エリアへ入ると、周囲の空気が少し変わる。
そして――
「第一魔物発見!」
『そのネタ古くね?【ゼノン】』
『半世紀近くの前のネタは、懐かしすぎるw』
現れたのはファングボア……牙の生えた猪だ。
しかし……
「何で牙が前向いてるんだ?」
普通は上か下だろう? どう見ても親知らずが前に伸びたみたいになっている。
『俺も思った【ファースト】』
「お、ファースト来たのか」
『今来たw【ファースト】』
初戦闘だ、薙刀を構える……ファングボアが前脚で地面を掻いた。突進の予備動作だ。
俺は下段に薙刀を置く。牽制のつもりだった。
だが、ファングボアは無視して突っ込んできた。
「マジか!」
刃に当たりながらも止まらない。
慌てて横へ避ける。初心者モンスターらしく速度は遅いから、余裕で回避できた。
『リアルなら効くけどゲームだからな【ファースト】』
『上位モンスターになると変わるぞ【ゼノン】』
なるほど……考え方を切り替える。
ここは現実ではない、ゲームだ。
次の突進……今度は余裕を持って回避する。
そして首筋へ薙刀を突き込んだ。
クリティカルのエフェクトが発生し、HPが全損する。
ファングボアはその場に倒れた。
「おぉ、倒せた」
しかし死体が残っている。
「あれ? そういえば解体だっけ?」
『そうだぞ【ファースト】』
『経験値も入る』
初心者セットから解体ナイフを取り出して、固まる。
「……どうやるんだ?」
誰も教えてくれなかった。
『リアルと同じ【ゼノン】』
「知らんがな!」
『解体師って職業あるくらいだし【ファースト】』
無理である……ナイフをそっと仕舞う。
「見なかったことにしよう」
『逃げたwww』
「現実で猪解体したことある人の方が少ないだろw」
『正論』
次のモンスターを探して歩き出す。すると少し先にスライムを発見した。
「おっ、あれなら簡単そう」
近付き、石突きで突く。
ぷるん……弾かれた!?
「え?」
もう一度突くと……ぷるん。
「え?」
『打撃耐性www【ファースト】』
『斬れ斬れw』
「先に言えよ!」
慌てて刃の方を突き出す……すると今度はあっさり倒れた。
『完全初心者観察配信で草』
『見てて新鮮』
『保護者目線になる』
「保護者って何だよ」
そう言い返しながらも少し笑う。気付けば視聴者数は昨日より増えていた。大半の人が、2窓以上でいくつかの放送を見ているだろうが、嬉しいかぎりだ。
戦闘はまだまだ下手だし、知識も足りない。それでも、初めての戦闘は思った以上に楽しかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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