表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
三章:異常なる『正常者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/828

第77話 【万物鑑定】

side 狂信者


 さて、どうしたものでしょう。

 テーレさんに与えられた感染者観察という仕事も大切なのですが、それよりも先に対処すべきはこちらですかね。


「ルビアさん、大丈夫ですか……いえ、今の質問は違いますね。大丈夫ではなくとも構いません。今は安全です、ゆっくりでいいので気を落ち着かせてください」


 ルビアさんの顔色が非常に悪いです。

 血管が黒くなっているわけでも目の焦点が合わなくなってきているわけでもないので感染したというわけではないと思うのですが……まあ、無理はありませんかね。精神的なものです。


 目の前で村人たちが凶暴化し、互いを襲い合う様など見てしまったのですから。流血が苦手なタイプの女性には少々ショッキングな光景だったでしょう。

 それでも自身が噛まれる前に走り出せたのですから大したものだとは思いますが。


「……落ち着いてはいます。ただちょっと……どうしようかなって思っちゃって……」


「なるほど、確かにそうですね。取りあえず、コットンさんがいれば当面の食糧は何とかなるはずですし、この土蔵に籠城ですかね。解決の糸口を見つけるまでは」


「解……決……?」


「はい、正確には『最善の解決法』の糸口ですかね。解決自体は不可能ではないので、せっかくならなるべく皆さんを傷付けずに元に戻す方法を考えようかとさっきテーレさんと話し合っていたのです」


 思考を放棄して最悪の形で解決していいのなら、すぐにでも解決できる話です。

 しかし、それは怠惰というものでしょう。

 まだ時間があるのなら、より幸福度の高い結末を求めるべきです。


「何をすべきかわからないなら、まず何をすべきか考えるところから始めましょう。そうすれば……」


「そうすればどうなるってんだよ!」


 おや、私はルビアさんに話しかけていたつもりなのですが、どうやら他の方にも聞こえていたようです。


 私たちの後にここを見つけて逃げてきた、二人の方。杖を抱えて座るご老体と、若い男性。

 服装を見るに職員さんではないようですが、『患者さん』にも見えませんねえ。

 叫んだのは若い男性の方です。


「ちっくしょう! こんな所に入れられてようやく家に戻れるかもしれないってなってたのによお……クソが!」


 ふむ、情緒不安定気味ですね。

 しかし、それでも感染者の方々から隠れて逃げてこられる程度には冷静さを保てていたはずですが、気が緩んだおかげで不満が爆発したというところでしょうか。


「不安なのはわかりますが、それを隣人にぶつけてもしょうがないでしょう。それもこの狭い空間で。悪循環に陥りますよ」


「うっせえ! ならさっさと中に入れろよ! 何で入れねえんだよ!」


「用心のためです。私たちは彼らとかなり近付いたことがある。病原体を内部に持ち込まないために準備をしながら観察期間を設けているのです。心配せずとも、彼らはこの土蔵に近付いて来ることもなく徘徊しています。一度落ち着いて」


「つまりはお前らの誰かが感染してるかもしれないってことだろ! どいつだ! 早く出て行けよ!」


 言葉の前後が矛盾し始めてますね。

 予想外の事態に弱いタイプなのでしょうか。喚いても何も解決しないでしょうに。


 というか、自分が感染している可能性とか、そうやって喚くことが狂暴化の前兆として排除されてしまう可能性とかを考えないのでしょうか。


 私の所感では悪手も悪手、どんな理論でそれの選択を実行に移したのか、私の頭では過程が想像できません。

 自分が悪役(ヒール)を買って出るというのなら本当に脱帽せざるを得ない名演技なのですが、それにしてもまだ早いでしょう。それをやるならもう少し状況が硬直してからです。


「落ち着かんか、馬鹿たれが」


 おや、ご老体はかなり冷静なご様子。

 思えば、この状況で杖を突く身でありながら彼らから逃げ果せたのですから、かなりの場数を踏んでいるのかもしれません。

 彼は私の方を向き直り、片目を瞑りました。そして、問いかけます。


「黒服のあんた……冒険者か?」


「はい、まだ二ヶ月も経たない新米ですが」


「そうか……おらぁ、昔それなりに長いこと冒険者やって食ってたがな。あんたほど肝据わった新米は見たことねえ。それに……あんたほど、危ういやつもな」


「というと?」


「そこの馬鹿たれ、あんまり騒ぐようなら落とそうと思ってんだろ。この屋上から」


 若い男性はビクリとしてこちらを向きます。

 はあ……まあ、選択肢の一つとして考えてはいましたがね。そこまで警戒されてしまうとやりにくくなりますね。

 こう、隙を突いて怪我をあまりしないように上手く落下させるには下手に抵抗されない方が確実なのですが。


「まあ、アンナさんの結界もあるようですし、土蔵の周りなら安全でしょう。私たちの誰かが突然発症した場合に危険にさらされたくないという彼の要望とも一致しますし」


「……馬鹿たれ、騒ぐのはいいが、やるんなら覚悟しとけ。そのにいちゃん、本気だぜ?」


 はてさて、このくらいの高さからの落下ならこの世界の人間は相当運が悪くない限り大怪我はしないと思いますが。

 何故そんなに怯えたような視線を私に……ああ、なるほど。


「これは配慮が足りませんでした。高所恐怖症という可能性を失念していましたね。下へ降ろす際にはここに来たときのようにコットンさんに頼んで緩やかに下ろして頂くのでご安心を」


「ヒッ!」


 何やら静かになりました。

 どうやら、このくらいの高さは我慢できるということのようです。万一の場合を考えると避難者は近くに固まっている方がいいのでありがたい。


 しかし、そうですね。

 誰ともわからない者に指図されるというのも気持ちのよいものではないでしょう。


「ではせっかくなので、自己紹介をしておきましょうか。私は『狂信者』などと呼ばれている者です。これは称号であると同時に冒険者としての二つ名なので、私の名前のようなものだと思っていただいて構いません。成り行き上、会話の進行役のような振る舞いをさせていただきましたが、人は本来平等なもの。我こそはこの屋上部隊のリーダーに相応しいという方があればこのポジションはすぐにお譲りします。どうでしょう、冒険者の大先輩様」


「……シロヤナギ、俺はシロヤナギでいい。冒険者つってもとうに隠居だ。若いもんに譲ってやら」


「ありがとうございます。しかし、先程も言いましたが私は新米なのでどうぞ容赦なくご助言をお願いします。ちなみに、こちらの院長さんのご息女、ルビアさんとティアさんのことは知っていますが、あなたは知りませんね。どう呼称するべきでしょう?」


 今後の円滑なコミュニケーションのためにも可能ならば今のうちにしておくべきことです。時間を無駄にできない状況ですし。

 若い男性は私の視線に何故か怯えるように肩をビクつかせながらも、ちゃんと質問に答えてくださいました。


「ロック・ウエイトマン……ロックでいい」


「ありがとうございます、ロックさん。高所は不安かと思いますが、もうしばしの我慢を」


 シロヤナギさん、ロックさん。

 この治療院で避難に成功した方々が会話に不自由しない人ばかりだったというのは幸運と言うべきか……それだけの判断力がない方々は逃げきれなかったと見るべきか。

 感染者の方々は小走り程度には速いですからね。単純に走って逃げるには、それなりに体力と気力が必要でしょう。

 それに……


「……感染者の皆さん、『静か』ですね。攻撃態勢に入ると声を上げますが、基本的な移動の際にはあまり音がしない……というより、無駄に激しい動きをしていないという感じですか」


 地面にもよりますが、足音とは本来そこまで騒がしくはないもの。

 走ったりして足音が激しく鳴るのは、足を高く上げて落とすエネルギーの一部が音として発散されているためです。


 逆に、足を最小限にしか上げず、地面との摩擦を起こさず最小限浮かせて歩くだけならさほど音は発生しません。いわゆる摺り足と同じです。

 彼らの歩き方もその気があると言いますか、攻撃態勢に入らずに徘徊している所に偶然出くわすと奇襲をかけられる形になってしまうと言うべきですか……


「気配を殺していると言うより、エネルギー消費を抑えている感じですかね。となると……五日のタイムリミットは、むしろ好都合だったかもしれませんね」


 『噛みつき』はしても『捕食』はしていないようですしね。

 そして、道具や家屋を利用するような動きも、その中の食糧を漁るような動きもなし。食物を求めて人間を襲っているのならば捕食か食糧漁りのどちらかはしそうなものです。


 理性が消えて獣としての本能で動いているわけではない、となると生存のために最小限必要な食事や睡眠もとらない可能性がある。

 ならば、彼らが限界まで身体を酷使して動けるのも……後遺症を残さず助けられるのも、五日程度が限界かもしれません。


「となると、何が目的で噛み付いてくるかですが……」


 テーレさんにもアドバイスしましたが、ゾンビ映画ではその理由に幾つかパターンがありますね。


 一つ。脳の理性を司る外側が腐り、動物的本能を司る内側が行動の主導権を獲得。そして、強く結びついた性欲と食欲の区別が付かなくなり、同種生物を捕食しようとする。


 一つ。生物兵器として改造された菌や怨霊の呪いといったものが『人間的な悪意』に由来する行動として人間を襲わせる。


 一つ。人間の都合とは関係のない、人外的な存在の意思による変異。


「吸血鬼……とかは、いるんですかねこの世界」


 ライリーさんも血液という形で魂をエネルギーとして得ようとしていた辺り、吸血を好む悪魔はいくらでもいそうですが、感染性がある者がいるかどうか、という話になると……


「ルビアさん、確認したいことが」


「え、あ、はい。なんですか?」


「彼らは噛み付かれてからどの程度の時間で変化し始めましたか? 血管が黒くなり始めたりとか」


「えっと……腕とかだと、一分くらい。首や肩だと三十秒もかからなかったと思います」


「ふむ、心臓に近い方が速いと……それは、首や肩を噛まれた方が理性を失うのも速かったという認識で構いませんか?」


「……はい。そうだった、気がします」


「では、その時……『出血』は、すぐに止まりましたか?」


「……え?」


「噛み傷からの出血です。肩はともかく首は致命的かと思いますし、理性を失って傷口を押さえていられなくなったのならそのまま死んでしまいそうな気がしたので」


 私は噛まれた村人の集団を見ましたが、彼らは首が噛まれていても歩いていました。服に付いた流血の跡も、さほどひどくはなかったはずです。

 職員さんなどは最初、服の柄かと思ってしまう程度だったのですから。


「血は……すぐに、止まってました。血が黒くなってからは流れ出てないはずです。黒い血が飛び散ったのを見てないので」


 なるほどなるほど。

 『黒くなった血は飛び散らない』……つまり、変異した彼らはいかなる方法かによって血液を保持しているということ。


 そして、それが傷の箇所に関わらず完璧だとすれば……それは、ある種の『魔法』の可能性が高いでしょう。

 血液が急激に固まって瘡蓋になっているようには見えませんでしたし。かといって傷口の皮膚が超回復しているようにも見えません。

 つまり、彼らの血管は水道管に明らかな破断があるのに水が全く漏れることなく流れ続けているような状態に見えます。『魔法』でもなければ不自然でしょう。

 となれば……


「ありがとうございます。ルビアさんにはショッキングな光景だったであろうものを思い出していただいて。これはかなり有益な情報です」


 アプローチをかけるべき方向性が見えてきました。

 正直、これが純粋なウイルス性の病気なら対応は厳しかったかもしれませんが、おそらくは魔力が関わっているというのなら話は別です。


 魔力を利用できるのは『知性』だけであるはず。

 感染者の知性を利用して魔法的現象を起こしているだけという可能性もあるので断定はできませんが、病原体そのものに群体としての『知性』があるというのなら……


「さて、急造品のマジックアイテムは壊れやすく精度が安定しないとのことですが、運がよければまだ使えるでしょう」


 『鑑定鏡』。

 この治療院へ来る途中にテーレさんに作っていただいた即席素材のものですが、まだ数回くらいなら使えそうなので持ち歩いておいてよかった。


 『鑑定』の魔法は残留思念からその物品の真贋、それが作り手自身の心から湧き出たアイデアによるものなのか、あるいは他者がそれに似せようとしたものなのかを判別する魔法ですが……どういうわけか私が使うと、どうやらその真偽以外の残留思念も拾ってしまうそうです。


 おかげで『違い』はわかっても『真贋』がどちらかわからないことも多々あるのですが……まあ、その判断が必要なときはテーレさんに頼るとして。

 私が行った場合の『鑑定』で他の方が使った場合と最も大きく異なる点は……その気になれば『生物』を鑑定できてしまうことだったりするのです。


 いえ、私からしてみれば特別とは思わないのですがね。

 別に『人造物』でなかろうと、この世に実在するのならそれは『被造物』であるに決まっているのですし。何処(どこ)何方様(どなたさま)の創造物かは流石に見えませんが、それが如何なものか評価するのは無理にしても『同定する』『見分ける』というだけなら文字通り一目瞭然です。

 やろうと思えばヒヨコさんの雄雌を本職の方のように素早く区別してそれぞれの箱に分けることだって可能です。


 まあ、私の『鑑定』の話はこのくらいにしておいて。今この場で何がしたいのかと言いますと……


「【万物鑑定】。血液が主な媒介だというのなら、その色を参照してみましょうか」


 上手く行けば、ここに避難した方々に病原体が潜伏しているか、発症の可能性があるかどうかがわかるかもしれませんし……おや?


「ほうほう、これはこれは……ちょっと予想外の事態ですね」


 一番感染の可能性が高いのは私かルビアさんかと思いましたが……


『ライリーさん』


『え、なに? 敵意の探知なら頑張ってるところだからちょっと待って……』


『ライリーさん、もしかしたら今回の事件。解決の糸口はあなたにあるかもしれませんよ』


『……え?』





『魔法紹介』


【万物鑑定】


 狂信者の半オリジナル魔法。

 『真作・贋作』の白黒(モノクロ)判定ではなく、その対象が持つあらゆる属性(生物としての種族・性別・成立過程・素材etc)が混色した光のように見える。ピント調節(色眼鏡で見ること)によって特定の色の強さの度合いを判断することも可能。

 プライベートを考慮してやらないが、『その対象物の製作にどれだけの情熱が費やされたか』、つまり対象物が『人間』であれば『その人間がどれだけ親に愛されて育ったか』なども見えてしまい、あまり使いたくはない。


 ちなみに、本気を出し過ぎると大気や空間まで色付いてしまうおかげで『見え過ぎるせいで何も見えない』というのが狂信者専用の鑑定魔法【万物鑑定】の暴走効果。

 一応『解釈(ピント)』を合わせることである程度対象や同定の属性は絞れるものの、『模倣作品(パロディ)』として創られたものと『独自創作(オリジナル)』を見分けるだけの通常鑑定と違って、『解釈』によって『偽物』も『独自の二次創作という意味での本物』になってしまうので通常鑑定のような『世間一般での価値を認められる本物』を見つけ出すことが難しい。


 基本的には『創造理念』や製作者の『熱意』などを識別しているので、偽金みたいな他人の価値観を踏みにじるような(『こんなもんに騙されやがって馬鹿じゃねえのww』とか思いながら作られたような)ものは『見ていて気持ちのいいものではない』と認識される。



 転生者ノルマ『鑑定魔法を使いこなす』……達成(?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ