第166話 通りすがりの……
side 狂信者
さて、ライリーさんのお陰で多少なりとも元気になれましたが……それはそれとして、困りましたねえ。
どうやら私は、来る者拒まずのはずの『永遠の停戦地』から出禁を喰らってしまったようです。境界面に触れると反発するように押し返され、手首まで侵入することすらできません。
さらに、その設定をしたであろう荒野さんは私に対してそれなりに複雑なルールを組んだようです。先程から色々な方法を試行していますが、手応えがありません。
「私自身が入れないというだけでなく、物を投げ込んでも出てきてしまいますか。物体だけでも投入できたのなら手紙をテーレさんへ届けてほしいという形でメッセージを送ることもできましたが……」
実験として近くの川から取ってきた粘土の塊を、オーバースローで『永遠の停戦地』の純黒な境界面に押し込んでみます。
これまでは手紙や石、枝などでしたが、どれもポイと放り捨てられたかのように排出されてしまいました。
それが、単なる結界面の反射だというのなら『ルール』の穴を見つければルーブ・ゴールドバーグ・マシン(俗に言うピタゴラ装置です)を使って『私が投げ込んだものではない』と判断させることができそうですが……
押し込んだ粘土の塊は、やはりポイと排出。
しかし、その表面には大きな手型がハッキリと残っています。
「やはり、結界越しに『鬼』がこちらを見張っていますか。私たちの目には結界の内から外は見えませんでしたが、鬼や荒野さんがそんなルールに縛られる必要はないでしょうし、こちらの様子を見ながら遠隔操作していると考えると欺くのは難しいでしょうねえ」
誰か、この空間に侵入を試みるという方に手紙を預けてみるという案も望み薄です。画一的なルールならともかく、ルールを制定できる人間に個人として目を付けられている状態では小細工を弄したところで対応されてしまいますし、仮に一度それを出し抜いたところで最終到達点であるテーレさんの周りでガードされてしまうでしょう。
「ゼットさんの擬似精霊魔法で真上に飛んで【神を試してはならない】……というのは、やめておきましょうかね」
『何者にも持ち上げられない石』に身を変える【神を試してはならない】ですが、相手は世界を隔てる結界。跳ね返されることはないとは思いますが、限りなくゼロに近い高度低下を続けることになると困ります……魔法を解除したときに反動で星空まで飛んでいくとか御免被りますし。
この結界を突破するには、小細工でも力業でもダメでしょう。
できるとすれば、それはこの能力そのものの弱点を突くような攻め方しかありませんが……
「それを効果的に行うには、やはりどうにかして内側に入り込まなければいけないと。さて、困った困った、どうしたものか……」
「あの、また追い出されちゃったんですか?」
おや、この声は……考えてみればまだ名も知らぬ、剣の少女さんです。
結界の前で腕を組んで立ち尽くしている私を心配して声をかけてくださったご様子……というか、そろそろ巡回さんの詰め所に行かれた方がいいのでは? いえ、私たちが心配でここに留まってくださっているとしたらそのようなことを言える立場ではないのですが。
「これはまたお会いしましたね。そして、質問にお答えするのならば今度は追い出されてはいないはずなのですが、見ての通り出禁をくらってしまいましてね。ご覧の有様です」
結界に背中から寄りかかり、途方もなく巨大なクッションに体重を預けているような反発力を披露します。存外気持ちいいですねこれ。もう少しだけ弾力を弱めれば人をダメにするクッションになりそうです。ある意味、内部は既にそれどころではない空間なのですが。
「え……わたしは入る度に追い出されるだけなのに……おにいさん、何やったんですか?」
何故か引かれました。
入る度に追い出されてしまうのと一歩も踏み入らせてもらえないのでは警戒度も違うというのは確かですが、そこまでですか。
「私は何も悪いことはしていないつもりなのですがねえ。むしろ、テーレさんを奪われた被害者みたいなものですよ。いえ、厳密にはテーレさんが勝手にあちら側に留まりたいと言っただけで、奪われたというのも違いますが……説得の機会を奪われてしまうとは、少々あんまりです。かなり手詰まりですし」
「そうですか……じゃあ、中に入った他の人達も……」
……そうでしたね。
この剣の少女さんは、学院からの調査団に付いてきて、他の方々が皆、この空間に誘引されて取り残されてしまったのでしたね。彼女の話では中に入って鬼と戦い、そして鬼を倒してしまったことで空間外に弾き出されたとか……つまり、一人だけ耐性があったが故に、あの祭りに心奪われた知人友人を異常と認識し、無理矢理に外に連れ出そうとして失敗したのでしょう。
ここで待っていたのも、私たちを心配していたというより、私たちがこの空間異常を解決してこの黒い壁が消失するのではないかと、今か今かと待ち続けていたわけです。だとすれば、期待させておいてかなり悪いことをしたことになりますね。
「……あなたは、この内部の空間を見たのですよね。あの中に留まりたいとは思わなかったのですか?」
「あ、いえ……確かに、楽しそうだとは思いました。けど……あそこには、わたしの一番大切な人はいないので、どんなに楽しくても意味がないなって思って」
「なるほど、大切な人が外にいるから、その一念で精神影響を振り切ったわけですか……それは、とてもすごいことです。偉大なる愛の力ですよ」
「あ、愛の力! あ、いや、わたしなんかが愛だなんて、ただ、わたしの存在意義というか生きる理由ってだけで……」
「いえいえ、何かを愛することに『自分なんかが』などという卑下はいりませんよ。あまり相手に迷惑をかけてはいけませんがね、想うのはこちらの勝手です」
「それは、そうかもしれませんけど……わたしの、大切な人、あの人にとって、わたしなんてホントちょっと便利な才能があるから目をかけてるだけっていうか、人間扱いされなくても全然いいくらいなのに優しくしてもらって申し訳ないっていうか……本当は、この中に入っていっちゃったみんなの方が、ずっと役に立つし、大事な機材とかもあるし、私だけ無事で帰るのもできなくて……」
「なるほど、それで立ち往生していたわけですか。才能を見込まれているのなら、無事に帰るだけでも喜ばれると思いますがねえ。そもそも、入った者が誰も帰ってこないと言われている場所を調べに行かせて、学院の初等部学生が一人で帰還したのを責め立てていたらそれは指示をした方の間違いですよ。あなたを送り出したその人は、そこまで横暴……失礼、そこまで怒りっぽい方なのですか?」
「い、いえ、そんなことは全然! だけど、その……後で助かったら、大人のみんなの方はすごい怒られるかもしれないけど……」
「まあ、何か不測の事態があったとしてもあなたのような『未来を期待されている才能の持ち主』を危険に巻き込んだわけですし、仕方ないかと」
「き、期待だなんて! わ、わたしはただの……」
ふむ、どうやら彼女は褒められることに慣れていないようですね。私としてはあの空間に入って出られたというだけでも大したものだと思いますが。というか、あの鬼って倒せる物なんですかね。冒険者の方は袋叩きにされていましたし、何か特殊な攻撃方法でもないと通じないような気がしますが。
しかし、嘘でないのなら……この少女さんも戦力として考えるべきでしょうか。
「何はともあれ、あなたもこの空間から助け出したい……いえ、連れ出したい人物がいる。つまりは、目的が一致しているということで間違いはありませんか?」
「え、あ、はい……一応、そうなります、よね、たぶん」
「では、情報共有と行きませんか? 正直言ってしまうと、私は既にかなり手詰まりです。この空間をどうにかする方法が全く思い浮かばない……というわけではないのですが、攻略手段として思いつくものはあまり現実的ではありません」
「え、現実的じゃないってことは……どうやれば、これを消せるかはわかってるってことですか?」
「消せるかどうかはわかりませんが、この結界をかなり不安定にすることは可能でしょうねえ。そして、結界が不安定になって中に入ることができるようになれば……一応は、試せるかもしれないという手はあります。問題は、そもそも中に入ることができないということですが」
「わ、わたしは……一応、ちょっとだけ中に入ることは。だけど、すぐに黒い鬼がでてきて襲ってくるから、それを倒したら外に戻されちゃって」
「最初は、仲間の皆さんを強引に連れ出そうとして黒い鬼が現れた……その理解で合っていますか?」
「はい、そうです。みんな、調査に来たはずなのにお祭りを楽しみだして、おかしいって思ったから引っ張ったりしてたら……」
なるほど、想像通りですね。
おそらくは、あの黒鬼は本来『勝てる相手』として設定されていない、ルールそのものの一部が具現化したもの。しかし、どういうわけかあの世界のルールに強い耐性を持つ彼女はその黒鬼を倒せてしまった。精神影響と黒鬼を『敵意を許さない』というルール違反対策の要としてる結界は、ルール違反を取り締まることのできない対象を内側に置いておくわけにはいかない。
そのため、ルールの絶対性を維持するため黒鬼を倒してしまった存在は外側に弾かれることになる。そういうことのようですね。
「あ、あの! つまり、内側で何かをすればいいんですよね! それならわたしが入って、頑張ればなんとか……」
「いえ、私の仕込みだということはあちらにもわかるでしょう。今はあなたもここに入らせてもらえないかもしれません。入れたとしても、黒鬼から逃げ続けながらの達成は困難でしょうね」
ふむ……とりあえず、この先は荒野さんにはあまり聞かれたくありませんし、少し離れますか。
結界から背を離し、森の方へと歩を進めます。
「でも、おにいさんは、どうにかする方法を知ってるんですよね? どうしてわかったんですか? わたしも中に入ったけど、そんなの全然……」
「いえいえ、ゆっくり観察する時間があったというだけですよ。まあ、説明することについては異論はないのですが。ちなみに、あなたはこの『永遠の停戦地』と呼ばれる空間についてどの程度の知識をお持ちですか?」
「あ、えっと……言っちゃっていいのかな……」
「……『転生者が発生に関わっている可能性があって、近いうちに魔王認定が検討されている』ですか?」
「は、はい! そうです! けん、あ、学院の方では『空間を操るタイプの転生者じゃないか』って言われてて、その調査のために」
「では、とりあえずは『転生者の存在』と『転生者が特殊な能力を持つ』という知識に関しては説明不要ということでいいですね? では、次に考えることは簡単です。『この現象を引き起こしているのはどのような能力なのか?』、考えるべきはこれです。それも、今回のこれは転生者一人の能力にしては強力すぎる……そうです。私よりも転生者の能力に詳しいテーレさんの話では」
「は、はい。それは学院の方でも言われてて、もしかしたら何人も転生者が集まって何かしようとしてるんじゃないかって」
「なるほど、空間を隔離して何やら悪巧みをしているのではないかと。それが魔王認定の背景にある懸念ですか。しかし、実際に内部に侵入して確認した限りは、空間異常はある一人の転生者の能力によるものでした。その方は、独断で内部のルールを変更できる力を持っています。複数人の転生者による合わせ技という可能性が完全になくなったわけではありませんが、おそらくは単独でしょう。この世界は自己完結してしまっている。それも、一人の価値観が強く出過ぎています。複数人の意図が絡んでいるのなら、結界の内装はもっと幅のあるものになるでしょう」
「じゃあ……その転生者が、すごく強いってことですか?」
「まあ、間違いではありませんが、あなたの思っている意味とはおそらく違います。確かに、彼は転生者として強い部類でしょう。戦闘向きかどうかはともかく、自らの能力をよく使いこなし、彼なりに芯の通った方針に向けて力を振るっている。しかし、能力の出力自体が反則ということはおそらくありません。おそらくは、戦の女神の与えた転生特典に類する『上手く使えば強い』というタイプの能力なのでしょう」
観光都市レグザルでテーレさんに聞いた傾向からの推測ですが。
使い方により強さが変わるというのは『破砕槍』氏と同じですが、こちらはその使い方が別格に上手い。そういうことでしょう。
「使い方が……上手いだけ? じゃあ……このおっきい壁は、実は小さかったり?」
「なるほど、見せかけの効果範囲ですか。なかなかに柔軟な発想です。しかし、内側の広さから考えてその線はあまり考える必要はないでしょう。それに、こけおどしならば『人間が取り込まれるほど大きくなる』というのはハリボテがばれる危険が増すばかりです。むしろ、考えるべきは壁の大きさですよ……『人間が取り込まれるほど効果範囲が大きくなる』というのは、『内側の人間が多いほど強力になる結界』と言い換えることができると思いませんか?」
「あ……確かに。つまり、この能力が強いのは……たくさんの人を、取り込んでるから?」
「はい、おそらくは。そう考えれば合点のいく部分がいくつかあります。個人の能力としては異様な高出力もそうですが、人を誘引するような『空気』を流出させていることも。そして、これは推測なのですが……私とテーレさんがあの中に取り込まれた後、数分後くらいに結界が少し大きくなりませんでしたか」
「あ……はい! 確かに、そうです! あのすぐ後、少しだけ大きくなりました」
「ふむ、やはりですか。おそらく……あの能力は単に中にいる人数が多いというだけではなく、その心が一つの方向に向かっているほど、その力を増すのだと思います。最初の冒険者の方々が入ってからの範囲拡大までの時間差と、内部の楽しげな空気を『共有』しようとする動きはそれで説明が付きます」
もしも推測が正しいのなら、ある意味では結界の内部の全ての人に自身の能力の一部を付与する能力とも言えますね。
一人一人の『結界内に干渉する能力』が微々たるものだとしても、その方向性が統一されていればそれは驚異的な出力になるでしょう。
テーレさんと行ったカードゲームの喩えで言えば、彼の能力は『攻撃宣言をしたモンスターの攻撃力を0にする』ではなく、『攻撃宣言をしたモンスターの攻撃力を100下げる』が何千人という単位で同時発動するようなものです。
荒野さん自身が言っていた通り、あの『永遠の停戦地』と呼ばれる場所に集まるのは争いに飽き飽きした人々。であれば、その『総意』が特に『敵意を無効化する』ということに関して爆発的な力を発揮するのも道理というものです。
「そして、あの空間には外部まで流出するほどの精神影響があります。あの冒険者の方々のように、最初は血気盛んに敵意を持ち込んだ者がいたとしても、内部の『総意』によりそれは稀釈され、すぐに祭りを楽しむように『感化』されてしまったのでしょう。そして、また『総意』と同じ方向へ能力を発揮する住人が増える。その繰り返しでこの空間はここまで育ったのでしょう」
私がこの発想を思い立ったのは、荒野さんの『お客様は神様だ』という言葉からです。サービス店などならともかく、祭りの実行委員や組合長の言葉としては違和感があります。
そもそもとして、祭りは利益を上げるためのものではなく共に楽しみ心を一つにするためのもの。もっと言えば根本は神事なのですから、一般客の方々を『神様』というのはおかしなものです。
まあ、そこは荒野さんが深く意味もなく軽い言葉として『神様』と口にした可能性もありましたが、仮にそれが真実だとすればお客様のそれぞれが神様のように『物事を好きなようにできる』と考えてみれば、この可能性に思い至るのは難しくありませんでした。
「内側の『空気』はそれこそ内側の住人から発生しているもの。集団心理に共感、雰囲気にその土地の常識。あの中では『争いを忘れて祭りを楽しもう』と思わせる『空気』が常に生み出され、そして新たな来訪者にも干渉し、同じ空気を発するように仕向ける。私やあなたのように精神抵抗値の差もあるでしょうが、既に村や町単位の人間が同じ空気を共有する環境で、一人だけその空気に抗い続けられる方はそうはいないでしょう」
『場に流される』という言葉がありますが、その『場』がさながら激流のように荒れ狂う波の中であれば、また流されたものも激流の一部となりその流れを押し止めるのを困難にしてしまうことでしょう。
それと同じように、一度『波』に乗ったあの結界はそう簡単には止められません。内部の人数もさることながら、半年間という期間による場の加熱熟成感染の度合いによる空気の完成度も結界の強固さを支える大きな要因でしょう。
「じゃあ、解決方法っていうのは……」
「私の仮説が正しければ、最もストレートな解決方法は内部にいる人数を超える『この結界の消滅を望む人間』を連れてきて一度に侵入させることですが、それは現実的とは言えません。失敗すれば大損害の上、この空間はさらに手のつけられないものになります。しかし……それほどの人数でなくとも、特に強い意志を持った人間がある程度いれば、結界に『揺らぎ』を生み出せるかもしれません。結界の強度は、内部の人々の精神と繋がっているわけですから。『空気を読まず雰囲気を壊す』という言い方の方がわかりやすいかもしれません」
「つまり、少しでもあの結界を傷付けることができれば……おにいさんが中に入って、中の人達の『空気』を変えることができるかもしれない?」
結界を傷付けることができれば……?
ああ、なるほど。
『結界の強度は内部の人々の精神と繋がっている』というのをそう解釈したわけですか。意図していなかったニュアンスではありますが、確かにその通りではあります。
「確かに同じ現実的ではない方法というのなら、そういったアプローチもありましたね。あの結界の強度も無限ではなく、内部の人々の『総意』の強度が反映されていると考えれば逆説的に有限となるわけですし。それに、内部の人々が一心に祭りを楽しみ続けられるのも、あの結界により内部が絶対に安全だという安心感があってこそ……確かに、地震なり雷なり、あの結界の信頼性を破壊するような衝撃を与えることができれば、付け入る隙が生まれます」
問題は、それだけの破壊力をどうやって用意するかという話ですが。
とにかく、議論により前進があっただけでも幸運だったとしましょう。『絶対壊れない金庫』が『とても丈夫な金庫』になったようなものですから。
爆薬か何かを入手するために、一度街へ向かうべきか……おや?
「どうしました? 結界の方を見て……」
「おにいさん……あの結界を揺らせれば、どうにかできる手があるんですよね」
「一応は……しかし、まず第一段階がどうにもならなくては……」
「じゃあ……わたしが、それやります。元々、その実験のために来たんだし。それに……愛する人を奪われるのは、すごく辛いから。昨日、助けてもらった恩を、ここで返します」
空気が変わりました。
弱々しく無害そうに見えた少女の雰囲気はどこへ消えたのか、『解決方法』を見据えた途端に彼女から発せられるのは、触れればバラバラにされてしまいそうな、名だたる剣豪ですら竦み上がってしまいそうな鋭く研ぎ澄まされた剣気。
「本当は、どこかで斬らなきゃいけないと思ってたけど、『斬った後どうしたらいいか』がわからなかったから、ずっと悩んでました。でも、おにいさんがその後をどうにかできるっていうんなら……わたしの斬るべきものは一つ、目の前の黒い壁。斬るべき物がハッキリしてるなら、あとはただ斬ればいい」
剣の少女は背中の柄に手をかけ、ゆっくりと目を瞑り、さながら氷柱の先から垂れ落ちる寸前の水滴のように、ギリギリまで精神を張り詰めさせ……剣と一つになった自らの存在意義を確認するように、唱えます。
「ただ斬るばかりの若輩ですが、この一振りにて万事を解決して見せましょう」
少女の身を包む極限まで圧縮された力の流れ。黄金の輝きを幻視させるほどのただならぬ威圧感。
もはや、その気配はどこか神々しくすらあり……
「現実改斬【機械より生まれたる神】」
比喩ではなく世界を断ち切るように。
剣を振り下ろした裂け目の向こうから薄皮の剥けた新たな世界が現れたかのように。
そして、その縦に引かれたキリトリ線は世界を隔絶する黒壁と衝突し……空間そのものを揺るがす衝撃波を放ちました。
しかし、不思議なことにその衝撃波に草木は揺れることすらなく、残ったのは結界の黒壁に生じた『裂け目』のみ。
何人もの転生者が呑み込まれ、帰ってこなかったはずの異常空間が……『永遠の停戦地』と呼ばれた世界の壁が、巨大な剣で一刀両断されたかのように生じた裂け目のようなノイズを生じさせ、その内側をボンヤリと見通すことができるようにその境界を極限まで薄れさせています。
「あなたはいったい……」
わたしの問いかけに、剣の少女は額の汗を袖で拭いつつ、ニッコリと笑みを浮かべながら答えました。
「わたしはアヤメ、通りすがりの『剣神』です」
※『剣神』でも空腹には勝てない




