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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
六章:祀ろわぬ『御使い』

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第167話 全体放送

side テーレ


 『永遠の停戦地』と呼ばれる結界内部の山の中腹にある宿舎の一室。

 綺麗に掃除されていて、本棚や化粧台みたいなそこらの宿屋よりずっと整った家具まで揃えられていて、必要な物があれば追加で用意してもらえるという破格の条件付き。


 荒野さんからは、ここを自由に使っていいと言われた。

 賓客としての待遇をすると、不自由はさせないと、そう言われた。


「嘘……では、ないんでしょうね」


 悪意ではない。

 それは、今の私にも経験からわかる。私に対する扱いが、単なる『困っていた赤の他人』へ向けるものよりも丁寧で、それでいて下心と呼ぶには誠実なものであること……その中に、私に選択をさせてしまったということへの贖罪が含まれていることも。


「私は、自分で選びました……それは、間違いありません」


 いつかみたいに洗脳や魅了を受けて、自分で考える力を失ったまま結論を出したわけじゃない。

 むしろ、今までに見たことのなかった視点から物事を考えたからこそ、そう決めた。いや……考えたくなくて、目を逸らしていたことを直視した。


 私は、周りの人々を不幸にする。

 それは、敵も味方も関係ない。単純に、私と関わるほどに、私の周りに集まる『よくないもの』の影響を受ける。

 そして、敵味方関係ないからこそ……長く関わる味方こそ、より確実に不幸になっていく。


 ココア達『癒し手』の一族も、ターレも、そして彼も……私との関わりが多いからこそ不幸に見舞われる。

 私の影響をものともしないのなんて、それこそ『幸運』の女神であるディーレ様くらいしかいない。私と関わり続ければ不幸は頻発する。その内のいくらかは悪い結果が出る前に解決できるとしても、分の悪い賭けを続ければいつか必ず大損をすることになる。


 けれど……この結界の中にいる間は、『不幸』も集まってはこられない。私がここに留まっていれば、私の性質があいつを不幸にすることもない。彼はこの狭くて暗い世界じゃ満足できないだろうけど、私はここでいい。


「これでいい……ここは、地獄に行ったり封印されたりするよりもずっと快適だし、この中でもディーレ様のために働ける。恵まれ過ぎてるくらいです」


 その……はず、だ。

 計画にはなかったけど、その大目的が予定より早く達成できるというだけで挫折したわけでも失敗したわけでもない。私はこれまでと違って、ちゃんとした善良な天使として、ディーレ様にお仕えできる。


 あいつも、本来の『幸運』が発揮されれば私がいなくてもそれなりに上手くことが回る……いや、私が近くにいたときよりもずっと上手くいくようになるだろう。元々、暴走気味とはいえ魔法の才能はあるのだし、迷いなく他人を助けられる性格は見る目のある人間から見れば仲良くしておくべき相手だとわかるはずだ。


 だから、何も問題なんてないはずだ。

 偶然にも大当たりを引き当てて、最善と思っていた道以上のショートカットができた。そのはずだ。

 なのに……


「なんで……泣いてるのよ?」


 化粧台の鏡に映る『私(テーレ)』は、ポロポロと涙を零し続けていた。

 彼に膝枕していたときの、これまでの不幸を詫びる涙はとっくに止まっていたのに……別の涙がこみ上げてくる。


 涙で視界がぼやけているせいか、その顔はここに来る前の、『呪い』で険しく歪んだ自分の顔に見える。

 二重人格になったわけじゃない、感情や記憶を封印したわけでもないのに……まるで、鏡の向こうに今の私と違う私がいるみたいに。


 ポロポロと勝手に溢れる涙を拭おうと、懐にしまったハンカチを出そうとして……ポロリと、何かが落ちた。

 下に目を向けると、それは落ちた拍子にページが開いたままになった手帳だった……何度も予定外のことがあって書き直した、この転生での、『聖地創建』のための計画書をまとめたもの。


 開いているページには、この国の全域地図が広がっていて……そこには、私の手で書き込まれた印がいくつもあった。


『旧都・森の民の壁画』

『ドゥーウェン・平和への祈り』

『王都・初代王の墓所』


 思い出した。

 印の場所は本来、計画には不要だからと書いてなかった……彼にせがまれて書き込んだ、この世界の文化遺産や各地で展示された有名な芸術品のある場所。

 もし近くに寄ったときに行けたなら行きたいと……いつかの馬車の中で、そう言っていた。

 そうだ、それを聞いて、私は疑問に思った……というより、意外に思った。はっきりと、思い出した……その時の会話を。




『観光って……まあいいわよ、余裕があったらだけどね。けど、意外ね。マスター、芸術とかわかるタイプなの? 私が言うのもなんだけど、合理主義というか実用主義で、芸術とかは興味ないかと思ってたけど』


『まあ、実を言えばよくわからないのですが。絵というのも本物に忠実か否かくらいしかわかりませんし、修学旅行で遺跡などを見ても感動したという経験はありませんね』


『じゃあ、なんでわざわざ?』


『……実は、前世の心残りのようなもので。誰かに言ったことはありませんが……私、死ぬまでに一度くらいはエルサレムに行ってみたいと思っていたんです。かの偉大なソロモン王の造った神殿や嘆きの壁と呼ばれるものを、直接見てみたかったのです』


『あんた、前世では特に信仰とかなかったんじゃないっけ?』


『はい、特にこれといったものはありませんでしたね。聖書だってちゃんと読んだことはありません……ごく一般的な日本人的な認識でしたよ。だからこそ、知りたいと思ったのです。何百年と人々の争いの中心にある神殿というものが、そこにあるというだけで多くの命を散らし、人心を大いに揺らし、政治すら動かしてきた物体とはどれ程のものか。私が見ても感動できるものなのか……あるいは、私がそういったものに感動を抱く人間なのかどうかを』


『……信仰心じゃなくて、自分についての研究のため。そういうこと?』


『まあ、そうなりますかねえ。聖地(メッカ)でなくとも、原爆ドームやモナリザもそうです。それを見て、知って、感動したという人々がいて、それに突き動かされた人々がいて、時にはそのために隣人を殺めることすらある。つまりはそうさせるだけの何かが込められているものが世界に点在している。そして、私も同じように心揺らされる人間という生き物の一個体である。きっと、それを確かめたかったのです……結局、その一度は果たせませんでしたがね』


『……この世界のものだって、特別な力が籠もってるとは限らないし、歴史的背景とかを知っていての感動もあるでしょうね。あんたが望むような感動があるかはわからないわよ……もしかしたら、本当に何も感じなくてがっかりするかもしれない。それでもいいなら案内するわよ』


『はい、楽しみにしております』


『がっかりするかもしれないって言ったばっかりなのにあんたは……』


『それでも楽しみですよ……たとえ、そこへ行ったときに何もなくなっていたとしても、テーレさんとそこまで旅ができるのなら、それだけでも十分に楽しみです。他の誰でもなくテーレさんと一緒に旅ができるのなら、それだけで私にとっては常に聖地にいるようなものなのかもしれません』


 彼は、あの時……珍しく、いつもとは少しだけ違う笑顔を見せたように見えた、そんな気がする。


『まだ道は長いのでしょう? なら、せっかくですし道程も楽しみましょうよ、テーレさん。私はテーレさんとなら、どこでも楽しく旅ができると思うのですよ』




 ポタポタと、手帳に雫が降り注ぐ。

 慌てて手で拭って止めようとするけど、それより早く目から溢れてくる。


「なによこれ……なんで、なんで止まらないの……どうして今さら……」


 もう、お別れを言った。

 私から勝手に言い出して、戻ったときにはいなくて、彼は自分の足でこの世界を出て行ったと聞いた。

 もう、終わったことなのに……今からやり直させてなんて言えないのに……どうして……


「どうして……『一緒にここを出ろ』って、命令してくれなかったんですか……バカ……」


 答えなんてわかりきっているのに、無駄なのに、言ってはいけない言葉が口から洩れ出してしまった。

 胸が苦しい……これが、良心を痛めるというものなのか、よくわからない。こんな気持ちにはなったことがないから。

 せめて、もう一度会えたなら……



『ピンポンパンポーン……お祭に参加中の皆様にお知らせです、ただ今、スタンプカード達成者のリクエストにより、新施設「迷子センター」が新設されました。また、既に利用者が一人おりますので、保護者様への呼びかけを……』


 結界に隔離された常夜の世界に、スピーカーを通した声が響き渡った。


『マイク代わりました、この施設の最初の利用者となりました、狂信者です。祭りをお楽しみの皆さん、申し訳ありませんがしばらくご静聴ください。テーレさん、私は今、山の頂上の迷子センターにいます……あなたを、待っています』


 それは紛れもなく、彼の声だった。

 どうやってこんなメッセージを……いや、そんなのは簡単だ。彼は、自分のスタンプカードを持っていた……あれは『要望を叶える』というこの空間のルールの一部だ。おそらく、用途は制限されているけど、屋台が新設できるのならそれ以外の、祭の会場にあり得る施設は造れる。

 管理者であるはずの荒野さんも手が回らないくらいなのだから、自動で運営を行っている鬼にでも頼めば……荒野さんが『祭にあるべきもの』と思っている施設ならそのままに。

 だから、『迷子センター』をリクエストした……私がこの空間のどこにいても声が届くように。


『テーレさん、これは命令ではありません。私も……ここにいることが、テーレさんの幸福に繋がることは理解しています。テーレさんの呪いは私にはどうにもできないことも、荒野さんの話に乗ることが聖地創建の一番の近道になることもわかっています……しかし、まずは勝手に離れたことを謝ります。あれでは、私がテーレさんを見離したのと同じです。本当に……ごめんなさい、申し訳ありませんでした』


 違う……見離したと責められるべきなのは……


『しかし、本当にお別れになってしまう前に、言わなければならないことを思い出したので引き返してきました。いつか、はっきりと言葉にできなかった、何故テーレさんを選んだかという理由です。あの時は、私は今よりテーレさんのことを詳しく知らず、「なんとなく」という言葉しか使えませんでしたが……今なら、その直感の理由を言葉にできます。テーレさん、私は最初にあなたを見たとき、「頑張っていいことをしようとしている悪い子」だと感じたのです。私は、人間にしては頭が良くないところがありますから……動物があなたを避けるように、あなたの本質を感じた。この天使は、本当はどうしようもないほどの「悪いもの」なのだと』


 それを……あの時は、一緒に第二の人生を過ごすのを『それはいいな』なんて言ったの?

 私の本質に、最初から気付きながら……それなら、私が彼を利用しようとしていたことを知ったときも、盗賊たちを殺した時も驚いたりしなかったのは納得できる。けど……


『テーレさんは、「それを感じ取ったなら何故」と思っているかもしれません。それどころか、実際のところはテーレさんの抱える「悪いもの」はそんな簡単に感じ取れる程度のものではなかった。テーレさんには、神々ですら対処の難しいほどの強い呪いがあり、しかし、敢えて自らの意志で女神ディーレのために働くという幸福を求めて奔走していた……その「悪」を解放すれば世界を滅ぼせるでしょうに、そんなことは考えつきもしないみたいに。テーレさん、あなたはあなたであるというだけで世界を救い続けていた。他の誰かに任せることもできるものだったとしても、それを自分の意志で行うということは紛れもない偉業です。それが、誰にも知られず理解されないものだとしても、私はその行いと志を偉大だと感じたのです』


 最初から、私の呪いが世界規模のものだなんて理解できるわけがない。

 だから、あの時はちゃんとした言葉にならなかった。『なんとなく、それはいいな』なんて曖昧な言葉にしかならなかった。

 けれど……言葉にできない直感でも、他人にはわからない理屈でも、私の在り方を認めてくれていた。誰にも理解されないはずの、私という『悪』が善意の女神の眷族として生きるということへの苦悩を……ディーレ様以外の誰にも認めてもらえないと感じていた私の歪さを、肯定してくれていた。


『その時ははっきりと理解して、意識したわけではありませんでした。しかし、そんな偉大なテーレさんとの出会いは、私の人生観を変えるのに十分な衝撃……いえ、救いでした。私は、ずっと昔から……周りとどこかが違う、どうしても物事を同じようにできない自分に疑問がありました。そして、そんな自分が自分の幸福を求めていいものか、確信を持てずにいたのです……そこに、あなたの存在が光を与えてくれたのです。どうしようもなく「悪」でありながら世界を救い続けるあなたを見て、あなたは幸福になるべきだと思えた……他人と違うからといって、不幸になるのを受け入れるべきではないとはっきり確信できたのです』


 スピーカーを通した声が大きくなる。

 声しか聞こえないのに、マイクに向かって叫ぶ彼の姿が脳裏に浮かんでくる。


『「周りとは違う何か」に生まれてしまったから! 最大多数の幸福のためには切り捨てられるべき位置になってしまったから! 誰かに大人しく不幸になれと言われたから! そんなことは、幸福を求めてはならないという理由にはならない!』


 また……さっきとは、また違った涙が溢れてくる。

 これは、本気の言葉だ。嘘を口にしないと幾度となく口にしてきた彼だからこそ伝わる、屁理屈でも単なる世間への反抗でもない、本気の主張だ。

 そして……私への、告白だ。


『私だって、あなただって、もっと幸せになりたいと願い、祈り、努力する権利がある!』


 言葉は止まらない。

 私の涙も止まらない。


『呪われていようと、周りから見て異常だろうと、他人に理解されなかろうと、逃れられない罪や業を抱えていようと、不運だろうと、ハンディキャップを抱えていようと、他人から恐れられる能力があろうと、怖がりだろうと、存在自体が誤りからの産物だろうと、少数派だろうと、理不尽な悪意や妬みに曝されようと、誰もが羨む立場や力を持とうと、大志のために滅私を誓っていようと、生まれた目的が決めつけられたものだろうと、他人より優れているわけではなかろうと……』


 私のためだけの言葉じゃない。

 彼自身のための言葉でもあり、そしてこれまでの旅の中で出会ってきた、彼が認めてきた人々のための言葉。

 私を説得するために取り繕った言葉じゃない……私に、自分自身の心の芯にあるものを真正面から見てもらいたいがための、ひたすら正直で実直な信念の告白。


『誰だろうと、いつからだろうと、たった今からだって、もっと幸せになりたいと思い立ち、そのために行動を始めていいはずです! 他人がどう言おうが、自分の幸福を「これで十分だ」と決めていいのは自分だけです! 既に与えられた幸福で満足できるかどうか、新たな幸福を求めるべきかを決められるのは自分だけです!』


 それはきっと、贅沢な考え方なのだろう。

 不幸な他人を『幸せにしてやる』ことのできる『恵まれた人間』からしたら、何様なのだと怒鳴りつけてやりたくなる理屈なのかもしれない。


 たとえば、頼れる家族もなく、家もなく、服や食べ物すらない子供が大人に連れて行かれ、その先で廃墟みたいなボロボロの家と一枚の布切れ、それに一切れのパンを与えられる。

 そして、大人は子供に『前よりも幸せになったんだから、ずっとここにいろ』と言う。それが何かの思惑のためか、単なるお情けなのかはわからない。あるいは、それから日々のパン切れと交換に仕事を与えられるのかもしれない。

 けれど……その子供は、本当は旅に出ることができる。与えられたボロ小屋なんて捨てて、もっと幸せな場所を探すことができる。最初は何もないのとボロ小屋を比べて、まだマシなボロ小屋を選んだのだとしても……言われるがまま、そこに居続ける必要はどこにもない。感謝があったとしても、義理があったとしても、幸福の上限を決める権利なんてその大人にはない。

 彼の言っているのはそんな理屈だ。


 今手元にあるものを捨てたら、結局は不幸になるかもしれない。二度と同じ幸運の目は出ないかもしれない。

 けれど……不幸の目を受け入れる覚悟があるのなら、何度だってサイコロを振り直すチャンスはある。


 手を伸ばせば……彼はもう、こちらに手を伸ばしている。


『テーレさん……私には、彼のようにテーレさんの呪いを解くことも、簡単に聖地をつくることもできません。けれど……きっと、あなたを彼ができるよりももっと幸せにします。聖地ももっと立派で国中、世界中から人が集まるものを創ります。ここに居続けるよりも、こんなところで満足してしまうよりも、やっぱり私と一緒にいてよかったと思えるように頑張ります。ですから……命令ではありませんが、お願いをします。彼よりも、私を選んでください。私は……テーレさんと、もっと旅を続けたい。私は強欲にも、まだテーレさんと一緒にいるという幸福に、満足できていないのです』


 ここまで、こんなふうに声を届かせる機会を得ながら、彼は一度として『命令』を使っていない。

 それが、彼の幸福に必要なことだから……私に選ばせるのではなく、選んでもらえなければ意味がないから。


『テーレさんはお互いの幸福のためにお別れしようと言いました。それが嘘偽りではないのはよくわかっています……けれど、お互いのより大きな幸福のために、また一緒に歩きましょう。少なくとも、私はこの世界で、テーレさんと一緒に旅ができるということ以上の幸福を見つけていないのです。テーレさんといればどんな場所にも行けますが、テーレさんがいないとどこにも行く気になれないのです』


 切実に幸福を望む。

 それが彼の認める善い人間の定義だと、ずっと前に聞いた。

 だからこそ……彼は、自分自身も最善を尽くすために、こうして切実に私に願っている。

 また、会いたいと。


 そんなこと言われて、無視できるわけがない。


『テーレさん……返事をください』

「そんなの、私も行きたいに決まってる! 私をおいて行かないで!」


 口にしてしまって、ようやく、はっきりとわかった。

 私はここにいるよりも、彼と……あいつと、旅がしたい。

 あいつに向けての言葉に、嘘はつけないのだから。


『山頂で待っています』

「すぐ行く! ちょっと待ってて!」


 与えられた浴衣を脱ぎ捨てて、いつもの旅装を身に付ける。

 冒険者としての、武装を兼ねた装備一式。この世界では必要がないとしまい込みかけていたもの。

 あいつと一緒に受難の旅を続けるための、物騒な服装。


『テーレさん……今、もしかして「ちょっと待ってて」と思いましたか?』

「うん! 必ず行くから……あれ?」


 ここは山頂からは程遠い。

 私の声が直接届くはずがない……なのに、意思が伝わった?

 これって、もしかして……


「心が、通じた?」


 マジックアイテムを使った通信とは違う。

 もっと直感的な意思の伝達、感覚共有。

 転生者と従者の中には、感覚共有ができるタイプがいる。けれど、それは心の繋がりが弱いと精度が低く、知能の高い従者が相手だとそれだけ難しくなる。本来は、言葉での意思疎通の難しいモンスター型の従者専用機能みたいなものだ。


 加えて、私は転生特典としての性能(スペック)が低い……汎用型の従者だから、潜在的にその能力が含まれていたとしても最初からそれを前提にした従者ほどの感度も発信力もない。

 けれど、それでも今、心が通じたのだとしたら……その性能の壁を乗り越えるほど、心が繋がりが強くなった?


『……どうやら、今のが私の勘違いでなければ、テーレさんはここに来てくださるようですね。しかし……』


 宿舎を出ると、外には異様な光景が広がっていた。

 あれほど楽しげに祭りの空気を享受していたはずの人間たちが、足を止め、物音すら立てず、静止している。

 その表情は当惑しているようにも、恐怖しているようにも、怒っているようにも見えた。


 これは……『空気』が、おかしい。

 ただ一つ、ハッキリしているとしているのは……


「どういうわけだか……すんなりと合流させてくれそうにはないのだけは確かみたいね」


 何も邪魔せず私たちを外に帰してくれるつもりなら、それでよかった。

 けれど、それを許してくれないというのなら、仕方がない。

 この世界を敵に回す。いつも通り、私は『悪』に戻る。それだけだ。


「マスター、今からすぐ行くわ……こんな世界、一緒にぶっ壊してやるわよ」


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