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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち

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第130話 『兎粥』

side 狂信者


 ディーレ教徒の教団『兎粥(ラビットポリッジ)』。

 シンボルは自ら鍋に飛び込む献身的な兎のシルエット。

 ディーレ様が過去に行ったという、飢えた民に自らの化身の肉を与えたというエピソードの暗示。


 テーレさんから聞いたことのある『注意の必要な組織』です。

 詳しい理由に関しては教えて貰えなかったのですが、言葉を濁しながらも教えていただけた話を聞く限りではいわゆる宗教団体の中でも『過激派』としての側面がよく知られているためとのこと。


 そもそも武力衝突への抵抗や忌避感が少ないこの世界で何をもって『過激派』と定義されるのかは謎ですが、ともかくテーレさんとしては極力関わらない方針を保ちたいと念を押されている組織です。


 その組織が……『指導者となってほしい』と来ましたか。

 まあ、信仰する神からの御使い様とされる者が現れたら利用しない手はないというのはわかりますがね。


「とりあえず答えは保留しておきますが、是非以前の感想としていきなりそんなことを言われても困ります。『転生者』を味方に付けることにメリットがあることは理解できますが、残念ながら私は他の転生者の方々のように強力な兵器になるわけでもなく、カリスマ性などにも縁はありません」


「であれば、我々こそがあなた様の力となりましょう。武力だけでなく、財力、権力、あるいはそれ以外の目的だろうと……あなた様の望むとおりにしてくだされば」


 ……声からして女性ですか。

 聞き取れる声のニュアンス的に『望むとおりに』というのは、性的な関係を覚悟の上での『接待』も含んでという話ですか。


 ……はあ、ヤレヤレ、というやつですかね。

 話を聞く限りではそのための訓練を受けた工作員などではなく、偶然にこの街のこの商会の宿に居合わせただけの構成員の方が、ほとんど見ず知らずの私にそこまですんなりと滅私奉公を申し出て来るとは。


 確かに、テーレさんが警戒するのもわかります……とても敬虔で、見習いたいほどの信仰心です。私のように平凡で名ばかりな狂信者や『聖地創建』のためにある程度の悪行も許容するつもりで現世に来ているテーレさんは彼らの期待に応えきれなければひどい目を見るかもしれません。


 テーレさんが帰ってくるまで時間を稼げればよいのですが。


「あなた方はどの程度、こちらのことを把握していますか? さすがに転生者であることについてはもう否定しませんが、それ以外については何を知っているのですか?」


「……冒険者ギルドと商会の記録に載っていることは。それから、一緒に行動されているテーレという方はおそらくあなた様のお力としての『従者』ではないかと考えております」


 ふむ、守秘義務のあるはずの冒険者ギルドと商会の記録を調べられる組織力……おそらく、内部に『兎粥』の関係者がいるのでしょう。

 彼女が宿の従業員として働いていたように、目的のために潜入しているのではなく、生活を変えずに日常を暮らしながら教団の構成員としての心構えを持っている。

 そして、私とテーレさんのために無私の心で働く覚悟すらある。


 しかし、何よりも憂慮するべきことは、これだけの『利用することへの利点』を持ちながらもテーレさんが『関わりたくない』と判断したという事実。

 多少の黒さや策謀なら受け入れて出し抜くつもりで利用する覚悟であろうテーレさんが、です。これは怖い。


「……一つ、訂正と言うほどではありませんが。テーレさんはただの従者ではなく人間体で性能こそ抑えてはいるものの『天使』です。もちろん、ディーレ様にお仕えしている身であり、今回は目的があって現世に降臨しています。むしろ、私はその口実のようなもの……実質の立場は私よりも上です。くれぐれも『失礼』のないように」


「……はい、申し訳ございません。『テーレ様』とお呼びします」


 あまり情報を渡したくはありませんが、テーレさんを私を受け入れる上での『邪魔者』として排除しようとされては困りますからね。

 私の転生特典を戦力として求めているわけではないというのなら、私が保護を求めなければならなくするためにテーレさんを天に還そうとするというのもありえない話ではありません。


 慌てて連絡に戻る様子はないので、既に排除のために動き出しているというようなことはないみたいですがね。安心しました。


「それなら結構……では、そうですね。すみません、外に移動していただいてもよろしいですか? この部屋の窓から見える位置へ」


「……え、あの……それは……」


「もちろん、『命令』ではなく『提案』です。先程も話したとおり、扉を開けるわけにはいきません。テーレさんに怒られてしまいますので。しかし、このままでは会話に支障が出ますし、あなたの顔を見て話がしたい。商会の宿には簡易な結界もあるそうですし、窓の外からなら攻撃されても多少は対応できる距離がある」


「お話を……聞いて下さるんですか?」


 どうやら、私がテーレさんについての認識を改めるように促したことで自分が不快にさせてしまったように思っていた様子。

 このまま何も答えなければすんなりと帰ってくれたかもしれませんが……対話もなく相手を突っぱねるというのは、やはり苦手です。


「お仕事中で宿の外に出るのが憚られるというのなら……ふむ、これと、これが使えますかね。後は細い糸が……ああ、テーレさんの刺繍糸をお借りしましょう。ゼットさん、接着と整形をお願いします。上手く行くかわかりませんが……ふむ、まあ機能しなかったら肉声で頑張りましょう」


「あ、あの……何をされているんですか?」


「申し訳ない、窓の外にあるものをたった今、落としてしまいました。それを拾ってもらえませんか? それなら仕事の一つとして言い分も立つでしょう」


「……はい、少々お待ちください」


 慌てたような足音。

 ちなみにここは二階です。廊下を進み、階段を降り、外に出て……窓の下へ。


 落としたものの片割れを手にして、窓から外を見下ろして待ちます。あまり乗り出して落ちると警報結界に触れて迷惑がかかりますが、小物を落とすくらいなら大丈夫でしょう。


 窓の下に、エプロンドレスのお嬢さんが……あの人ですか。

 大人びた声だったのでもう少し年上を想像していました。テーレさんの外見年齢と同じくらいですか。自らを差し出すような言葉から察してはいましたが、確かに整った目鼻立ちをしています。

 まあ、テーレさんには届きませんが。


 お嬢さんは私が落としたものを拾い上げて、興味深そうに見ています。使い方がわからないようですね。


「こうです、耳に当ててみてください」


 私がそう言って見本を見せると、お嬢さんは耳にカップ部分を当てます。


 まあ、大したものではないのですがね。

 厚めの紙をカップ状にして糸で繋いだもの。いわゆる糸電話です。紙は型紙の切れ端、糸は刺繍糸。どちらもテーレさんの裁縫セットから拝借しました。私の装備の補修のために出してあったので。


「テステス、聞こえますか? 聞こえたら声を吹き込んでみてください」


『は、はい! 聞こえました!』


 ふむ、ゼットさんの工作技術もなかなかですね。

 今度、ボトルシップでも作ってみましょうかね。私はそれほど器用ではないので一人ではできませんが、一度やってみたかったので。


「声は糸を通して伝導しているので、引っ張りすぎて糸を切らないように。先程と同じように、話すときには口元に、聞くときには耳元にです。大声での会話は他の部屋の方々に迷惑になります」


『はい、わかりました。転生者様』


「あと、一応は転生者であることはあまり大声で言いたくはありません。呼び方をそうですね……とりあえず、今は単なる従業員と宿泊客の関係なので『お客様』とでも呼んでください。まあ、別に他の呼び方がよければ構いませんが」


『い、いいえ……では、お客様。お客様と、呼ばせていただきます』


 ふむ、ある程度の融通は利くようでよかった。

 まあ、それだけ私の要望には応えたいということかもしれませんが。

 私としては『転生者様』と呼びかけ続けて情報が余計に拡散するのは困ります。形式からなし崩しに忠誠を誓った形になられても面倒ですしね。


「では、まず始めに……先程も言ったとおり、今の所は私にあなた方の指導者になるつもりはありませんし、超越者や上位者を気取りたくもありません。あくまでも、女神ディーレの信徒の一人として、同じく女神ディーレの信徒の一人と会話を交わすだけ。私の言葉に強制力はありませんし、私の言葉が真理や神託というわけでもありません」


『し、しかし我々にとってあなたは……』


「私は『我々』ではなく『私(あなた)』と話をしようと言っているのです。実を言えば、私はまだ『兎粥(ラビットポリッジ)』という組織と関わり合う予定はありませんでした。その理由は……そうですね、煩わしいですが外聞やスキャンダル対策のような話です。私たちは訳あって、冒険者として活躍していく計画を立てています。それは手段の一つですが、その上で無闇に痛くない腹をつつかれる口実は増やしたくないのです」


『そんな、我々は決して悪事を働く組織では……』


「わかっています。しかし、関わり合うことでこちらの計画に支障が出るのならそれは合理性を欠いた『悪』になります。今できるのは『兎粥』との会話ではなく、あなたという個人との個人的な会話だけです。それを留意してください」


『……はい、軽率な行動をお許しください』


 ……ふむ、よかった。

 どうやら、世間からの評判があまりよくないという自覚はあったようです。いや、だからこそ必死になって私に接触してきたわけですかね。『転生者』を味方に付ければ神の意向に従う『正しい組織』として活動しやすくなるわけですし。


「ではまず……先程までの言動を覆すわけではないのですが、『兎粥』と呼ばれている組織はどんな組織なのか、あなたの私見でいいので教えてもらえますか? 私はまだ、この世界の知識が少ない。あまり詳しいことは知らないので、詳しそうな方に教えてもらえると助かるのです」


『あ……はい! それでは何から……えっと、てんせ、じゃなかった。お客様は、聖ホワイト様を知っていますか?』


 それはまあ……『聖ホワイトの日』を祝っているレグザルで、丁度今日がその『聖ホワイトの日』ですからねえ。知らない方が難しいでしょう。


「一応、昔話くらいは。毒を持つとされた生物の毒抜きの方法をいくつも確立し、多くの人々を飢餓から救った聖人であり、最期には対立する貴族の男女の結婚式を両家の刺客から守り抜いたと」


『はい、その聖ホワイト様が我々……じゃなかった、「兎粥(ラビットポリッジ)」の創始者なんです。世間ではあまり知られていませんけど』


「……すみません、初めての知識に少し驚きました。なるほど、それでですか」


 その『聖ホワイトの日』に頭角を現したディーレ教徒の転生者かもしれない男。

 それはまあ、詳しく調べたくなりますよね。

 全くそんな気はありませんでしたが、メッセージ性を感じさせるものと理解することもできるでしょう。ともすれば、自分たちに協力する気があるのかもしれないとも。


「『聖ホワイト』の信仰対象については世間で確たることが知られていないようですが、彼は知られていないだけで女神ディーレの信徒であったということですか?」


『はい……あ、いえ……聖ホワイトは個人としての武勇が有名になりすぎたと言いますか、「兎粥」との繋がりがマイナス扱いになっていて意図的に隠されているといいますか……一応、生前からあまり慈善活動に熱心ではあっても女神ディーレの名にはこだわらない性格でぼかして伝えることも多かったそうで……』


「なるほど……まあ、炊き出しや慈善活動について信仰対象を明言しないのは信仰の対立でのトラブルを防ぐためにあり得ることですか」


 治療院で患者さんを分け隔てなく治すべき立場のココアさんやティアさんも、患者さんから拒絶されないようにテーレさんの友人でありながらディーレ様の信徒ではないという立場を取っていましたからね。


 アーク嬢から聞いた限りでは、聖ホワイトという方の生前の有名な活動は毒抜き料理の炊き出しやレシピの普及。そのための組織が『兎粥(ラビットポリッジ)』という団体に変化したと考えれば、過激派と呼ばれるようになったのは創始者の死後のことという可能性も十分にあります。


 世間で『聖ホワイト』と『兎粥(ラビットポリッジ)』が切り離されて伝わっているのも、それを反映した結果だと考えればしっくり来ます。


 でなければ伝承に残るように、『聖ホワイト』が『たった一人』で刺客から結婚式を守り抜かなければならなかった、ということもないでしょう。

 私はあまり、かの聖人がテロ行為を指導するような人物だったと思いたくないのでそう思いたいだけかもしれませんが。


「わかりました……して、これはまだ私が無知故に偏見を持っているだけかもしれませんが、『兎粥(ラビットポリッジ)』が『過激派』と呼ばれるようになった原因はどのようなことで?」


『過激派だなんて……そんなデマを信じちゃいけません! 誰ですかそんなことを言ったのは! 罰当たりな!』


 誰も何も他ならぬ女神ディーレ様にお仕えする天使のテーレさんなのですが……まあ、言わぬが花ですかね。

 私は噓は言いませんが、黙することはあります。


『我々……いえ、兎粥の先人達はただ、護るべき弱い立場の人々を護るために……その……戦乱の時代に、ちょっと派手なことをやっただけです。難民や、孤児の人たちを虐殺や略奪から護るために』


 言葉を濁しましたが、まあ理解できないことはありません。

 戦時中はモラルが低下するもの。

 軍人崩れの盗賊や傭兵部隊の私掠行為、つまり『黙認される非道行為』というのはいくらでもあるでしょう。


 ましてや、先の戦乱では『ガロム王国』が停戦の中心になるまで戦争での倫理などを取り締まる、地球でいう『国連』に当たる組織が機能しなかったそうですから。


 法の届かぬ悪に、現地の判断で『対処』していたと。

 いわゆる『独善』というやつですかね。

 まあ、確かに風聞はよろしくない。私はそういった生存意志の強さはそれほど嫌いではありませんが、それで被害を受けた『強者』の側からすれば煩わしいことこの上なかったでしょう。

 当時は必要な行為だったとしても、後の時代から見れば『歴史の汚点』となってもおかしくはありません。


 まだ、『過激派』として名を残すには弱い気もしますが……言葉を濁したということは、まだ私に言うべきではないか言いたくないと判断したことがあるのでしょう。


 問題は……


「今でも……動かせる『戦力』は残っているのですか?」


『は、はい! いつでもお力になれる準備は……』


 未だに女神ディーレの立場は三大女神に圧迫されよくなっていない。

 そのために、彼女たちが『弱者』として『強者』を倒すこと、この状態をひっくり返すことを目標としていることですか。


 なるほど、テーレさんが関わりたくないと言っていた理由がわかりました。

 テーレさんはあくまでも、正規ルートで『聖地創建』という形を取り、女神ディーレ様への信仰を増やそうとしている。それに対して、彼女たちは『武力行為による信仰の回復』を容認する姿勢を取っている。


 戦乱の時代なら、それも黙認されていたのでしょうが……今の、ディーレ教徒にとっては不遇でも安定して平和になった時代にそれをやられては、逆に女神ディーレへの信仰を減少させてしまうでしょう。


 そして、そういった組織に関わった上で私たちが他の転生者との戦闘を行えば……それは正当防衛であっても『信仰の略奪(テロ)行為』として認識されかねないと。


 困りましたねえ。

 さすがに、私が指導者を引き受けて『武器を捨てろ』と命じたところで、すぐに意識が変わるとは思えませんし……仕方ありません。


「わかりました、いえ、指導者になる気はないのですが。あなた方の気概は多少、伝わってきました。ですので……善意の徒として、私たちが今陥っている厳しい状態を脱却するために少々ご協力願えますか。いえ、これも命令や強制ではないので断っていただいても構わないのですが」


『い、いえ! お客様の願いであれば我々……いえ、私たちにできることなら、喜んで……』


「そうですか、それはよかった。では、確認しておきたいのですが……」


 私が転生者であると確定した以上、『戦の女神』が本気でこちらを組織的に狙ってくるとしたら大いに困ったことになります。

 そして、『兎粥(ラビットポリッジ)』も既に私たちを認知してしまっている以上は、ここから『金輪際関わるな』と言ったところでまた勧誘に来るでしょうし、『接触している』という情報を流されるだけでもかなり痛い。


 今の私たちがそれなりに危険視されている組織である『兎粥(ラビットポリッジ)』に接触すれば『取り込まれた』と噂されただけで致命的になります。私たちにはまだ、それを否定できるだけの功績も後ろ盾もありません。


 であれば、こうするのが最も合理的でしょう。


「作戦の詳細は後で出しますが、私たちを軽く『襲撃』していただくことはできますか? こう、『女神ディーレの転生者のふりをして我々を騙そうとした不埒者は許さん!』みたいな感じで」




 平凡で名ばかりの狂信者(自称)。


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襲撃提案() 流石や!
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