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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち

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第119話 ヒーローガール

side 狂信者


 馬小屋にて。

 緊急事態故に合流を前倒しにして私を探し出したというテーレさんから告げられた話をまとめますと、こういうことですかね。


「つまり、私が転生者と接触したことで戦の女神が私の位置を把握。私がお師匠様から預かったアイテムが丁度いい口実だったので、信徒を動かして攻撃を仕掛けてきたと。アイテムに関しては隠していたはずですが……回収前にスケッチを描いた手紙を見られましたか。失敗しましたね」


「戦の女神は転生者からの情報集積に積極的だから、新しい転生者との接触ってことで詳しく調べたのかもね。ディーレ様に面倒な仕事を押し付けておいて自分たちは信仰争奪戦に熱中とかやめてほしいわ」


「戦の女神であるからこそ『戦争(ゲーム)』には本気になってしまうのかもしれませんね。しかし……困りましたねえ」


 問題は、この現状です。

 私が警戒を強めて馬小屋に泊まっていたのは結果的に正解ではありましたが、満点ではなかったようです。

 アーク嬢まで指名手配状態になっているというのは、想定外でした。


「もう、商会の宿は包囲されちゃってたわ……アイテムの反応が離れてたから私はこっちに探しに来たけど、ジャネットは宿から出られなくなってるわ」


 まず前提としてですが、アーク嬢自身に転生者や女神から敵視される要因はほぼ皆無でしょう。

 依頼で公開された人相書きによる人違いです。

 しかし、その人相書きに従って目撃情報などを辿れば商会の宿に行き着くのは不思議ではありません。


 私は念のためあの一件の後は軽く変装していましたが、アーク嬢はそこまで警戒していませんでしたので。

 こうしてわざわざ馬小屋に隠れた私は見つからず、アーク嬢が先に見つかってしまったのは当然といえば当然の流れです。


 そして、商会としてはアーク嬢を引き渡す理由がない。

 商会はアーク嬢とテーレさんが知り合いであっても別人であることはわかっていますし、冒険者ギルドと商会はビジネスの関係であっても上下はありません。冒険者も、商会に派手に喧嘩を売ればこれから先の生活で不便をします。


 その結果が、商会の庇護下である宿からアーク嬢が自発的に出てくるのを待ち伏せるという方策。

 実質的な包囲軟禁状態というわけです。


「ちゃんとした商会の宿に泊まってたのは運がよかったわね。普通の安宿だったら襲撃されてたわ」


「しかし、アーク嬢が危機的な状況にあるということは変わりませんね。しかも、今回は完全にこちらのイザコザに巻き込んでしまったと言えるでしょう」


「そうね……やろうと思えば、さっさと二人で街から脱出するって手も取れないわけじゃないけど……あんたにそれができるなら、ここまでこんな苦労はしてないわね」


 まあ、その通りです。

 呆れられてしまうのはわかっていましたが、だからといって答えは変わりません。ここで逃げるというだけなら、何のために修行をしてきたのかという話です。


「確認しますが、その『個人依頼』というのは、ギルドが正式に認可したわけではないグレーな依頼。つまり、依頼主にキャンセルしていただけばとりあえず丸く収まるのですね?」


「まあ、あっち側の面子とか信用とかは潰れるだろうし、勝手に良心に目覚めて取り下げてくれるなんて期待はしない方がいいけどね」


「テーレさんは、その方がこの街の中にいると思いますか?」


「うん、それは確かめてきた。マスターに対する反応の速さからして、この街の中からの依頼だよ。盗掘品も現物を受け取るつもりみたいだし」


「なるほど、ならばやるべきことは明快です」


 この祭りで賑わう観光都市の中、私を探す不特定多数の冒険者の皆さん。そして、私が転生者であることを知るもう一人の転生者と、謎の依頼人。

 対するこちらは、戦力増強を終えたテーレさんと私のたった二人。


 ふむ、なかなかに悪くない。

 ラタ市の時と違って、今回は初めからテーレさんが味方です。


「こちらが捕まる前に、依頼主を見つけ出して依頼を取り下げていただけるように『説得』を試みましょう」




 さて、方針が固まったところで話は変わりますが、戦力確認に際して。

 テーレさんの装いが大分変わっています。前は特徴を出して目立つことを避けたレンジャー装備に、私の装備の素材で余ったモンスターの毛皮のマントだけでしたが、今はおそらく全てがテーレさん自身のお手製。いわゆる本気装備というやつでしょう。


 二ヶ月間マジックアイテムや装備の準備に時間をかけていたというだけあって、目立ちすぎないようにはデザインされていますが、よく見ればかなり機能性や防御力が考えられているように見えます。


「ときにテーレさん、その服のポケットのデザインは……軍服に似せたものですか? それも地球の近代的な軍隊や警察の特殊部隊で使われているような」


「ああ、これ? よくわかったわね。マスターのいた世界の『現代知識』を色々と取り込んでみたのよ。魔法のない世界だけど、その分いつでも武装を切り替えたり、動くときに荷物が邪魔にならないように配置が工夫されてたりして馬鹿にできない工夫がされてるわ」


 両胸に配置されたポケットや、必要に応じてアタッチメントを付けられるホルダーやフックをかけるためのベルトなどがテーレさんの工夫を示しています。

 そして、よく見れば各所に設けられているポケットの口に使われているのはジッパーやマジックテープですか。ボタンよりも簡単に開き、しかし事故では開きにくい。この世界では見かけなかった構造です。


 そして、以前鞣し革をそのまま使っていたマントは改造され、私のスータンと同じように防刃繊維の刺繍や隠密性向上のための染色などの改良が加えられた立派な防具になったようです。

 戦闘に置いて防御力よりも敏捷性を優先しているテーレさんの身を守るものとしては申し分ありません。


 そして、私の目に付いたのはテーレさんの腰に加わった新装備。

 一見すると、留め金の部分に大きな金属パーツがついたベルトですが……


「テーレさん。こちらの装備は……」


「ふふん。すごいでしょ、これも現代知識を参考にして設計したのよ。もちろん、ちゃんと機能するマジックアイテムになってるから」


「その現代知識とは『特撮ヒーロー』という分類に関するものでは?」


「格好いいでしょ?」


 まあ否定はしませんが。

 現実主義のテーレさんが特撮を好むとは意外でした……いえ、この世界で言えば魔法があるわけですから特撮(フィクション)の世界で用いられるアイテムが再現できないわけではありません。

 魔法や能力の使い方なども、実在しない技術に対しての柔軟な想像力から生まれたものこそ技術に革新を起こさないとも言えませんし。


 他には指環にブレスレット、髪留めに新しいブーツ……シンプルに強化用のアイテムをアクセサリーとして身に付けているようですね。

 普段着として身に付けていても物々しくない範囲でのフル装備。むしろ女の子らしいオシャレに気を遣っているように見えます。


「テーレさん、大変お可愛いと思いますよ。もちろん格好よくもありますが、全体として華美ではない程度にオシャレになりましたね」


「……別に、あんたに見せるためじゃないから。これ全部戦力増強のためのアイテムだから」


「はい、わかっております」


「……あんたも、体付き前よりよくなったんじゃない? 魔法の修行ばっかりじゃなかったんだ」


「ええ、予定とは少々ズレましたが、いい師に恵まれましたので」


「ふーん……まあ、呼吸からして魔力の効率上がってるみたいだし、魔法もちゃんと修行してるんならべつにいいわ。ほら、これあんた用のアイテムと法具(トーテム)。基本的な使い方は今から説明するけど……注文通り、この形でいいのよね」


 そう言ってテーレさんがバックパックから取り出して私に見せたものは……『カード』と『賽子(サイコロ)』。

 法具(ダイス)は魔力の効率やテーレさんと行ったいくつかのテストから選んだ最も私に相性のいい形であった立方体を元にした、手の平にいくつか握り込むことのできる程度の小さな六面体です。


 受け取ったそれを手の中で転がし、魔力を軽く流してみます。

 既にテーレさんに渡してあった私の血や髪の毛が組み込まれたそれは、確かに私の身体の一部のように機能することを示しています。


 そして、『閃光杖(フラッシュタクト)』のように使用すると過剰負荷で破損して一発で使えなくなってしまうという気配はありません。

 刻まれた『蓄積』のルーンにより現実性の歪みをチャージすれば、何度でも使えそうです。


「素晴らしい……ええ、上出来ですテーレさん。これなら、手加減なしで魔法が使えます」


 一般的な杖や転生者がよく作るという銃とは使い勝手が違うでしょうが、私にはこれがいい。世界に命令する道具や他人を殺傷を目的として創られた道具よりも、結果を幸運に、そして神様に委ねるこの形がいい。


「さあ、賽を投げるとしましょう」







side ククリ・コルゾン


 不幸な冒険者もいたものだ。

 こういったグレーな依頼をよく受ける俺の立ち位置だと、よく考えることだ。


「商会の宿に立て籠もっているのは女一人、もう一人は外にいるはずだ。班分けしてしらみつぶしに探せ。変装にも気を付けろ」


 何度もこういった依頼を受けて汚れ仕事の指揮をするようになるとパターンが見えてくる。


 これは正義のための行いでも悪人への誅伐でもなく、依頼人の個人的な利益や都合のための人狩りだ。

 詳しい事情なんて知らないし知りたくもないが、過剰防衛や盗掘容疑なんて大概の冒険者に適用できる。

 権力と財力のある誰かが気に入らない冒険者を吊し上げたいときによく使う手だ。


 才能のある新人を潰したいのか、そうと知らず無礼を働いたと貴族気質の冒険者が憤慨したか、そいつが偶然に蒐集家(コレクター)の欲しいものでも手に入れてしまったか。少なくとも、手配された方からしたら謂われのないことだっただろう。

 でなければ、襲われずとも逃げ場のない商会の宿に泊まったりしていない。


 だが、そんなことはグレーな仕事を受け慣れた冒険者には関係のないことだ。

 食い詰めていたり何かやらかした時の罰金を払う必要があったり、どうしても金が必要なやつからしてみれば後味が悪かろうが依頼を達成して金がもらえるのならそれに越したことはない。


 今回は特に成功報酬が高い依頼だ。

 徒党を組んで分け前を受け取るだけでも十分にうまい仕事だ。

 新人冒険者二人を大人数で囲んで追い込む。大した危険もなく、大勢で希釈した罪悪感の対価としてそれなりの金額を受け取る。それだけの仕事だ。


 気を付けることは精々、街の外に逃げられないようにすることと自暴自棄になったターゲットに怪我をさせられないようにするくらい。

 まあ、冒険者の指揮統括としてここにいる俺には後者の心配は……


「……ん? おい、なんか焦げ臭くないか?」


 煙の臭いに、視界も気のせいか白んで来ているように見えてきた。これは……火事か?


「ッチ! 火元を調べろ! 焼き討ちまでしようとしてる馬鹿がいるなら止めろ! 祭りをやってる街中で火なんか使うやつがいたら……」


 関係ない火事の可能性もある。

 だが、原因が何であれ火は放置すれば取り返しの付かないことになる。戦闘で火を使うこともある冒険者にとって火の扱いは基本中の基本だ。

 少なくとも、こんな街中で使うものじゃない。


 何かのボヤ騒ぎやどこかの商店から煙が流れてきただろうなんて楽観視はできない。

 その僅かな思い過ごしが死に繋がるのが冒険者だ。


「そう、熟練の冒険者はこうやってほんの少しの『煙の臭い』を振りまかれただけでも反応してくれる。一般人は気付かないくらいの、パニックにならない程度の薄い煙を撒いただけでもね。おかげで、すぐに見つかった」


 今回は……その経験が、徒になったか。

 いつの間にか、背後にある気配。

 俺の背中に刃物を突きつけ、余計な動きをしたら殺すと言葉にするまでもなく殺気で示す刺客。若い女の声だが、迫力はその若さに不相応なものだ。


 いつの間に……なんて、決まりきったことだ。俺が煙の臭いに反応して指示を出した時。

 人間が激しく出入りした隙に入り込んだ。

 気付けば、視界が悪くなった中で部屋の中にいた仲間達は無気力に立っているだけ……この煙、薬か何か混ぜてやがるのか。


 こいつは素人なんかじゃねえ……暗殺のプロだ。

 俺が変な動きをすれば、こいつは容赦なく刃を俺の背中に突き立てる。


「お、俺は依頼人じゃねえ……指揮を頼まれただけだ。俺を殺したところで何も……」


「わかってる。だから、情報だけもらいに来た。依頼を受けて動いてる冒険者の数、依頼人の名前、他にも隠してることがあったら全部出して。そしたら何もしない」


「そんなもん、知ってどうする?」


 この手の汚れ仕事をしていたら、どこで意地を捨てるべきかは経験でわかる。

 生きていてこその物種、元からグレーな依頼だ。途中放棄して買う恨みや失う名誉よりも、下手を打てばここで即絶たれることが確実な命の方が重い。

 この手の依頼での犠牲なんかは簡単に闇に葬られるのだから、相手の刃は軽い。


 既に情報を隠す気がない俺の意思を理解したのか、背後の暗殺者は親切に俺の質問に答えてくれた。


「決まってる。こっちが『狩る側』になるだけよ……もしもお仲間が大事なら伝達しておきなさい。今の内に手を引くなら許してあげる。そうでないなら、覚悟しておきなさいってね」





(テーレ)「格好いいでしょ?(得意げな顔)」




 『現代知識』を元に特撮ヒーローの武器からヒントを得て装備を作っちゃうテーレさん。


 環境に迫られて賢くなっただけで、実は内面的なセンスとか感性は人間にして十歳くらいの天使です。特撮にも夢中になっちゃうお年頃。

 しかし性能は『万能従者』のおかげで本物です。

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