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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち

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第118話 馬小屋での会話

side 狂信者


 『戦力を整えるまで他の転生者に目を付けられてはならない』、それはテーレさんから強く釘を刺されていたことです。その理由も、よく言い聞かされました。


 まず単純な計算ですが、戦闘能力を比較すると『強力な転生特典』を持つ他の転生者と『魔法をまともに使えない従者』を持つ私とではスタートラインからハンディキャップが存在します。


 これはテーレさんが自身を卑下しているわけではなく、純粋な性能の差の問題。

 三大女神から転生特典を渡された転生者であれば、同じ『万能従者』であっても信仰というリソース源の差で三大女神の方がスキルレベルの高い従者を生み出せます。

 しかも、魔法のハンディキャップに関してはテーレさんの性質を軽減するために魔法を常時発動しているだけなのでその分さらにこちらの不利が増えています。


 そして、経験の差。

 つい最近まで平和な日本にいたまだまだ新米な転生者の私と、転生してきてから何年も経って戦闘技術も転生特典の扱いも熟達した他の転生者では、装備が同じだったとしてもこちらは分が悪い。


 実際、私も山籠もりで修行してきたわけですが、それは戦闘技術というよりも単純な身体能力の強化に主眼を置いていたわけですし、精々がリザさんの狩りを手伝って野獣を仕留めていたくらい。

 対人戦の経験値を積んだわけではありません。


 そして、何より敵対すべきではない理由。

 それは、こちらには権力的な後ろ盾がほとんどなく、対してこの世界で活躍する転生者の多くが転生特典を用いて高い社会的地位を築いていることにあります。


 こちらはまだ無名の冒険者、女神ディーレの神殿というものは主神様の教会の片隅に小さく作られたものがほとんどであり、権力と呼べるものはほとんどなし。

 やろうと思えば、敵対した転生者は直接的な対決を避け、権力者に働きかけて私やテーレさんに濡れ衣を着せて軍隊に襲いかからせるという手もあるわけです。


 しかし、それらの懸念についてはあくまでハッキリと敵対した場合の話。

 そもそも前提としての話ですが、転生者同士には基本的に敵対する理由がありません。


 転生者は神々の手によってこの世界に転生しますが、私を含めてその神々の命令を聞かなければならない義務はありません。

 義理はありますが、それにしてもわざわざ強力な転生特典を持ち基本的に生きるのに困らない転生者が危険を冒して同等の能力を持ち得る他の転生者と衝突するのはリスクが大きいでしょう。


 つまり、私とテーレさんにできる最大限の防衛策は敵対を避けること。

 そして、その最も合理的な手段がそもそも接触せず認識されないことです。


 小柳さんのような最初から敵対するであろう性格や能力を選んで送り込まれた転生者であれば話は別ですが、元々関わりのない赤の他人に対して自らの身を危険にしても攻撃しようという気はあまり起きないもの。

 それ以前に、個人として特定意識認識されなければ攻撃対象になりません。


 神々の間でも代理戦争の駒となる転生者の個人情報は共有されていないそうですし、ターレさんからの情報漏洩で私の情報を持っている『美の女神』もそれをターレさんという一天使の暴走として処理したためか他の転生者に私の情報を公開してはいないようです。


 『研究施設』に関しては敵視されてもおかしくない関係ではありますが、転生者であることは一応は秘匿しているつもりですし、ルビアさんの一件から気配を感じないのでまだ明確に敵として認定されたわけではないか居場所が特定されていないのでしょう。

 いずれにせよ、今の私は小柳さん以外の転生者の間では『いるにはいるらしいけれども直接的な関係はなく争う理由もない女神ディーレ初の担当転生者』というだけの存在だったはずです。


 しかし、今日の冒険者ギルドでの一件。

 あれは失態です……よりにもよって、偶然にこの街に居合わせた転生者に一人の転生者として認識されてしまった。


 今の所は敵対する理由は特にありません。

 あちらからはそれなりに友好的というか、言葉から察するに『転生者同士はお互いに衝突すべきではない』というスタンスが感じられましたが、それは決して『仲良くしよう』という姿勢とは限りません。


 むしろ、ニュアンスとしては『お互いに不干渉でいよう』という、転生者同士が潜在敵であることを意識したものにも取れました。

 それはつまり、何かのきっかけであちらの考え方が変われば先制攻撃を仕掛けてきてもおかしくないということです。


「結論として、とりあえずテーレさんと合流するまでの間、私は身を隠し、アーク嬢にお願いしてここで寝泊まりさせていただくことになったわけです。そういうことですので、厩(うまや)の片隅をお借りします。ジルさん、ライルさん」


「ブルルン……」

「バルル……」


 ここは商会の宿から少し離れた馬小屋。

 ジルさんとライルさんのスペースです。日銭が足らず宿を取れない冒険者が馬小屋に泊まるというのは珍しい話ではありません。


 宿部屋を取れば記録が残ってしまいますし、逃げ隠れするにも少し困ります。

 ここならばたとえ囲まれても音ですぐにわかりますし、先に察知できれば【神を試してはならない】で認識的に存在を隠匿してやり過ごせます。


 多少寒いことと臭いのすることは悩みどころですが、まあ最近まで山籠もりして洞窟を塒としていた身としてはそれなりに快適な寝床です。藁と毛布もありますし。


 明日の正午近くまでここで待機し、目立たないように待ち合わせの店へ移動してテーレさんと合流。転生者と接触してしまったことについてのお叱りを受けて、今後の方針を話し合うとしましょう。

 個人的な興味もありますし、本当ならあちらの転生者の情報を手に入れておきたいところですが、探りを入れること自体が敵対の意図を勘繰られることにもなりかねませんし。


「善い友人になれたら、一番なんですがねえ」


 小柳さんとも今度は落ち着いて話し合いたいものです。

 他の転生者の皆さんも、今の所は潜在敵であると言っても……敵対するのであれば、ちゃんと相手を理解してから排除したいものです。殺してしまってから友人になることなんてできませんから。

 『みんな仲良く』が綺麗事や理想論と呼ばれることはわかっていますが……


「厩での就寝も悪くありません。贅沢を言わなければ、雨風を凌げるだけで十分に快適です。しかも毛布まである、これでは文句のつけようがありません」


 強いて言うのならそうですねえ。

 ベッドや暖炉など望みませんが……


「テーレさんと、早く会いたいですねえ」


 予定通りにテーレさんがこの街に来ていれば、明日の正午には会えるはずです。

 私も日程が遅れ気味でしたし、テーレさんの性格なら来られるのなら早めに来ている可能性は高いでしょう。

 明日まで待てばいい話です。

 だというのに……


「……眠れませんねえ」


 テーレさんに何かあったらと思うと不安で。

 私が気を揉んだところでどうしようもないことなのに、不合理な感情です。今の私にできることなんて、目を閉じて朝を待つことだけなのですがね。

 静かに目を閉じて……ん?

 ジルさんとライルさんが何やらソワソワと……


「ジルさん、ライルさん……もしや気配を……」


 私が問いかけるのとほぼ同時。

 馬小屋の入口に駆け込むような足音と共に現れたのは、よく見慣れた少女の影。



「あっ! このバカマスター! こんな所にいた! 探したんだから!」



 テーレさんです。

 二ヶ月ぶりの、装備以外は以前とほとんど変わらぬテーレさんです。何やら慌てているようですが……間違いなく、テーレさんです。

 となれば、私のすべきことは……


「ふむ、眠れないと思っていたのは既に夢の中でしたか。であれば、目覚めれば既に朝。さっさと目覚めるとしましょう」


「こらっ! 夢じゃないから目覚めると言いつつ寝るな!」


 関節技で叩き起こされました。

 この痛みは現実ですね。おはようございます、夢にまで見たテーレさん。




side テーレ


 『個人依頼』を見つけた私が一番にしたことは、依頼の受注者に混じって情報を得ることだった。


 依頼者がどの程度『討伐対象』の情報を得ているか、どの程度の荒事まで許容するつもりなのか。

 そして、どういう経緯でジャネットが私の代わりに依頼の対象となってしまっているのか。


 私の正体がバレても困るからすぐに抜け出したけど、得られた情報はかなりマズいもの。


 まず、盗掘容疑をかけられた二人組……マスターとジャネットは、今この街にいることが確定。

 街から出ようとしたら城壁を通り抜ける関所で引き留められるから、誰にも気付かれずに抜け出すことは困難。

 仮にも元要塞都市だ。魔法を使っても簡単に出たり入ったりは難しい。


 そして、盗掘容疑のことだけど、そもそも冒険者をやっていれば『盗掘』くらいはよくある話だ。

 古代の遺産の発掘なんて言っても、その本来の持ち主の子孫がいれば正当な継承権を主張できるわけだし、その証明が難しいことを利用して所有権が曖昧になっているものを『置き引き』していると言い換えることもできる。


 それでも問題になるとしたら……その『盗掘』をされた側が、遺産の奪還のために過激な行動に出て面倒なことになり得る場合。

 それが政治的に大きな意味を持っていて勝手に所有権が移り変わったりしたら困る物品である場合。


 今回の場合、名目となった『盗掘』の対象は『森の民』に関連するものだった。

 それも、必ず無傷で回収……そのためなら、盗掘容疑のかかった二人の方には傷をつけても構わないという依頼だ。


 『森の民』に関わる物品の扱いは確かに政治的にもグレーだし、中には安全な使用法の失伝したマジックアイテムが人手に渡って事故を引き起こすこともあるから、依頼としてはない話ではない。


 けれど……問題は依頼の金額だ。

 これは、単なる危険物の回収依頼どころじゃなくて、下手をすれば人が死ぬくらいの金額だ。

 これの意味するところは、依頼人が『どんな手を使ってでも』その盗掘品とやらを回収したい……あるいは、それにかこつけて盗掘容疑者を始末したいということ。


 そして、何故私の名前の人相書きにジャネットの絵が使われているのか……これに関しては単純な問題だった。

 『この街でマスターと一緒に行動していたから』……私(テーレ)の主人であるはずのマスターと一緒に行動していたのだから、つまりはこの人物が『従者(テーレ)』なのだろうという逆説的定義。


 この情報の不完全さからすると、美の女神の仕業ではない。

 美の女神ならば、私が今現世で使ってる人間体の特徴を把握しているし、何より『より優れたもの』を司る神としてこういう質より数に頼る追い込み方は好まない。あのラタ市での一件だって、見方を変えれば使役系の上位互換能力を持つ転生者との一騎討ちのようなものだった。


 この依頼人の背後にいるのは『マスターが従者使役型の転生者であること』と『私(テーレ)が従者をやっていること』を知っている存在……それを、不完全な情報からでも推理して手を打てる存在。

 そして、同時にマスターがこの街にいることを察知できる存在。


 この表立って騒ぎを起こすやり方は、おそらく『研究施設』なんていう秘密組織じゃない。

 そして、私の名前を知っていること、現世での接触がなくても私が従者をやっていると推理できる……最近、ディーレ様の側に私がいないことからそれに勘付ける立場にある者。

 ディーレ様に与えられた転生者候補のリストを作ったあの女神ならマスターの特徴をある程度把握してるだろうし、信者を動かしてのこういう行動も可能だ。


 何故なら、その神格が司るのは『知恵』『閃き』『謀略』といった概念。

 真っ向勝負で性能差を見せつけることを最上とする『美の女神』と対を成す女神。かつて人間として人々を導き、明らかな戦力差を覆し続け……ついには、人間でありながら『神殺し』を成し遂げて自身も神格化された戦乙女。


 戦の女神『アービス』。

 三大女神の中で、ディーレ様に最も激しい敵意を向ける争いの女神。


 人間としての小細工を嫌わない智略を失わず、神として眉一つ動かさず人間を駒のように動かす冷淡さを持った『戦争』そのものを司る女神。

 よりにもよって、一番目をつけられたくない女神に目を付けられた。


 はあ……まったく、合流早々こうなるんだから、自分の『不幸』が嫌になるわ。

 

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