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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち

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第111話 人間怪獣

side 狂信者


「末弟子よ。これが神樹だ……ぬしには、これを癒してもらう必要がある」


 日の出直前。最後の打ち合わせ。

私の仕事が一番シンプルなことはわかっています。

 神樹に回復魔法をかけ続け、師匠が山全体に意識を届かせるのをサポートする。言葉にすればそれだけです。


 しかし……実際にその『神樹』と対面すると、感想も少しは変わるというもの。


「本当に……まだ、完全には枯れていないのですか? 私の目からは、これはもう……」


「ああ、見える部分はほとんど腐ってしまっている。だが、芯と根は生きている。この山を統べる主の位置を護る役目は果たせている……完全ではないがな。末弟子……ぬしの肉体の鍛練は、まだまだ未熟だ。だが、純粋に魔法の癒やしならば、ぬしに勝てる者は居るまい。だからこそ、使えん魔法だろうが……今回は加減はいらん。ぬしが癒やすのは、この山そのものだと思え」


 そう言って、お師匠様は神樹の洞(うろ)へと足を踏み入れ、台座のようになった部分へ座り込みます。


「儂は地脈の制御に全てを集中する……魔王の手勢はリザが止める。ぬしは神樹を癒やし続ける……互いに、その役目を果たすと信じるのだ。信じて、すべきことに全てを出し切るのだ。ぬしは……信じることは苦手か?」


 ……やれやれ。

 お師匠様も、滅多に冗談を言わないのに……こんな時ばかり、どうしてそんな、どうやっても否定できないような問いかけができるのやら。

 それを言われたら、こう答えるしかないじゃないですか。


「僭越ながら、私は『狂信者』などと呼ばれる者。尊敬に足る恩師と姉弟子様を、どうして信じないことができましょうか。このお役目……必ずや、果たして見せましょう」







side リザ


 私の周りには、たくさんの木偶人形がいる。

 これは師匠が精霊魔法で作った森の警備人形。そこらのモンスターよりも強いけど……魔王の分体には及ばない。


 だから、その役割は私のサポート。

 今は、私こそがこの山の番人。師匠がこれまでやってきた、この森の守護者。


 私が護りきれなければ……神樹にいる師匠とキョウくんが襲われる。そうなれば、もう地脈を治すどころじゃない。


「わかってる……『護る』っていうのは、そういうことだ」


 敵を倒すことじゃない。

 何かを奪うことじゃない。


 ただひたすら、通さない。

 そのために必要な手段として敵を倒すことがあっても、それを目的にしてはいけない。そんなことをしていたら、敵はあっさりと私の死角を駆け抜けていく。


「それにしても……結局、やっぱり人間体(これ)が一番慣れてるなー。ま、ずっとこのまま修行してたから当たり前なんだけど。けど……これも、私だよね」


 まだ、完全に元の姿でいることへの恐怖が消えたわけじゃないけど、キョウくんに受け入れてもらえてすごく楽にはなった。そしたら、不思議なことにこの姿でいるときの調子も良くなってきた。


 きっと、どこかでこの姿を『偽物』だと思っていたからだろう。

 『本当』の私は鱗に覆われた誰からも否定される化け物で、この姿はそれを覆い隠すための化けの皮に過ぎないと。


 でも、今になってようやく気付けた……私は案外、この姿でいることが好きなのだと。

 故郷を襲った人間たちと似てるのは少し複雑だけど……師匠と似ているのは嬉しい。外来種として私を追い出したり殺したりせず、この山に受け入れてくれて、私に安心をくれた山の番人。

 私が鍛え続けられたのは恐怖から逃げたかったのもあったけど……疵付いて、磨かれて、師匠の姿に近付いていく自分の身体が好きだった。


 その師匠と比べたら、まだ全然弱くて未熟だけど……もしも死んでしまうとしても、この姿で戦って死ぬのなら悔いはない。

 ま、死んだら護れないから死なないんだけど。


「さて……と、そろそろかな。さあ、いくらでもかかってきなさい」


 夜明けと同時に森がざわつく……いや、森が動いている。

 何が起こっているかはわかる。こちらの儀式の気配を察知した『剛樹の魔王』が、その前に地脈を乗っ取ってしまおうと潜ませていた分体を活性化させ始めた。


 次々と湧き上がり、神樹へと向かって移動してくる鋼色の木人軍団……まさに、動く森。

 とっておきは用意してあるけど、これはまだ前哨戦。

 強力な分体を育てるための力を吸い上げる時間稼ぎとして、促成栽培の小物を大量生産しただけ。


 こっちもまだ、ウォーミングアップだ。


「リジェネ道師範代、リザ……参る!」







side 狂信者


「リジェネ道門下生、狂信者。参ります」


 朝日を浴びて活性化を始めた神樹へと触れ、魔法を発動します。これが、今の私の全身全霊全力魔法。


「【偉大なる時 偉大なる祖霊 偉大なる神々よ 彼の者に刹那の全盛を】……【過剰回復(オーバーヒール)】!」


 本来、治癒魔法というのは自身と相手の魂を参照して破損を修正していくため異種族にはかけにくいもの。

 そのセオリーに倣うのなら、私は対植物用の術式を使用して然るべきですが、私が【治癒】を習得する際に発覚したデメリット……回復対象に『私』の形質が色濃く移りすぎてしまうという、癌発生リスクのようなものが発生してから、私は自分用の特殊な治癒術式へと路線を変更しました。

 自身の魂を一切参照せず、対象の回復力の強化活性励起に全力を注ぎ込む術式へと。


 これによりまた新たなデメリットが発生しましたが、今回の場合はそれを無視しても構いません。


 そして、この術式のメリットは、対象がどんな生物だろうが区別なく治せてしまうこと。

 相手が神樹であろうと、治すことはできます。


 ただ……


「くっ……【過剰回復】! 【過剰回復】!」


 問題は単純な出力不足です。

 使用頻度の低かった魔法自体の熟練度が足りないのもありますが、それ以上に魔法の対象である神樹が、あまりにも巨大すぎる。見えている部分など、本当に地上の一部分だけ……『山を癒やす』というお師匠様の言葉は誇張ではありませんでした。


 たとえるのなら、残りHPが私の最大値と同程度の数値なのに……それが、数え切れない何百本というHPバーの最後の数ドットでしかないようなイメージ。

 並みの人間やモンスターを相手に使えば余裕で回復量が最大HPを超えて溢れるはずの【過剰回復(オーバーヒール)】が、雀の涙程度の回復にしかならない。


 洞に入ってしまったお師匠様の姿は見えませんが、お師匠様も神樹を活性化させ、私の流し込む回復力(エネルギー)を全体に行き渡らそうと、効率的に弱った部分を治そうとしていることがわかりますが、行き渡らせるだけの量がない。


 ならば、足りるまで何度でも。

 魔法そのものの熟練度が足りないというのなら、打ち込みながら効率化するのみ。


 ありがたいことに、神樹の立つこの地はこの山の生命力の中心。

 私自身の魔力の回復もいつもよりずっと速い……いえ、魔法を使い始めてから、魔力の回復は加速している。きっとこれは山の意思と呼べるものなのでしょう。私という存在を生態系に受け入れ、己を正しく治すための回復手段として選んでくださったのでしょう。


 ならば、その期待に応えねばなりますまい!


「【過剰回復(オーバーヒール)】!!」


 雨垂れが石を穿つように、枯れ木に花を咲かせましょう。

 山に響く喧噪など無視し、リザさんとお師匠様を信じて。







side リザ


 戦い始めてから、何時間経っただろう。

 日の出直後から戦っているはずなのに、気付けばもう大分日が傾いてきている。つまり、半日は戦い続けているということだ。


「ハッ、ハッ……第十四波、撃破……」


 だんだんと追い込まれているのを感じる。

 それも単純な物量のせいじゃない。敵の戦略だ。

 第一波はこちらの戦力や戦い方を見る様子見。木偶人形が木人の動きを止めて私が走り回って止めを刺してるのを学習された。


 第二波からはそれを踏まえた上で露骨に私の体力を削りながら、タイミングの調節や戦力の集中で木偶人形を減らそうとしてきている。こちらは精霊魔法で作った簡単な命令に従うタイプの木偶人形だから、複雑な指揮はできない。


 敵に特に知能の高い『指揮個体』がいる。

 しかも、そいつが一番強い。


『疲れたのか? なら、仲間を呼べばいいじゃないか。こちらは最初から数で押しているんだ。卑怯とは言わないぞ?』


 大きさは人間大。キョウくんが戦ったタイプと違って、素早く動けることを重視したスリムな体型。

 前回の襲撃での失敗から学習して、対策を取ってきてる。そして、おそらくこちらのしていること、しようとしていることを把握している。

 私には増援が来ないことをわかってるから、敢えて仲間を呼べと言いながら、自分の姿を見せてジワジワとプレッシャーをかけてきている。


『あの老爺はどうした? 貴様を慕う若い男の方は? また同じようにすれば、我を倒せるかもしれんぞ……貴様一人では、どうやっても無理なのだからな!』


 この指揮個体は、頭がいいだけじゃない。

 量産個体なんて問題にならないほど強いし、今も強くなり続けている。おそらく、地脈の漏れ出ている場所から多くの力を受け取って成長し続けている。


 あれが、今の『剛樹の魔王』本体が選んだ、新たな本体に相応しい苗枝の分体。

 魔王がこの森を本気で落とすために送り込んだこの襲撃の要。


 あれが助けを呼べと言ってるのも、作戦の内だ。

 あの分体がいくら力を吸い上げて強くなっても、師匠には敵わない。

 けれど、あれだけの数と強さなら、消耗した私を集中攻撃させて師匠に護らせることで足止めできるという算段だ。そうなれば、隠密性や俊敏さに長けた分体が背後に回り込んで地脈を奪ってしまう。


 今はまだ、足留めと警報装置に徹している木偶人形のおかげで防衛ラインは抜かれてないけど……あちらは、やろうと思えばいつでも木偶人形を突破できる。


 そうしないのは、私に対処させて消耗させるため。

 あちらは無尽蔵の物量を持っている。無理に短期決戦に持ち込まずとも、私を疲労させてまともに動けないところまで追い込めば、師匠が出てきたときに利用できる。


 こいつらは、人間の心理を理解して動いている。

 規格外の『魔王』だからといって慢心せず、自分たちでも倒せない師匠が戦闘に出てきたときの対処を計算しながら私をジワジワと嬲り殺しにしようとしている。


 私が山を護らなければ、師匠とキョウくんは地脈の制御に集中できない。けれど、私が追い込まれることでどんどん敵は師匠に有利になる。


 つまり……私は、どうやっても一人で勝たなければならない。

 この魔王の軍勢を相手に、この指揮個体の仕掛けてくる陰湿な消耗作戦を覆して、地脈の制御が終わるまでこいつらを圧倒しなければならない。


 つまり……


「出し惜しみなんて……していられない」


 全滅させる。

 この時間が経つほど強くなる軍勢を、この厄介な指揮個体とその命令を実行する部下たちを。


「……師匠、今こそ『いざという時』だよね」


 私の体内には、いくつかの血を溜めておく袋みたいな臓器がある。

 飲んだ血を混ざらせず、劣化させずに溜め込んでおける非常時の貯蔵庫。そして同時に、異生物の血液を消費してその種に擬態できる私の種族の擬態ストック。


 その中には、師匠から『いざという時以外に使うな』と言われている特別な血液が大切に残してある。未熟な私でもそれで化ければ強力な力を得られるけど、負担が大きくて危険な血液。

 使うならば……追い込まれてはいるけど、体力が多少なりとも残っている今しかない。


 使わせてもらう……他ならぬ、師匠自身の血を。


「【種族変換】……【変異種族:怪獣】!」


 立っているだけなのに、地面が悲鳴を上げて沈み込む。

 人間大の私の身体に不釣り合いな巨大な生命力が溢れ出し、力の奔流が体内で暴れ回る。

 私の擬態している『人間(ヒト)』という種族に『怪獣』という新たな概念が付加される。


 今にも破裂してしまいそうな肉体が、そのエネルギーを発散しようと、暴れさせろ、手当たり次第に壊させろと吼える。

 こんな小さな肉体から解放しろと、勝手に身体を変化させようとするのを自己を見失わないように意識を強く保つことでどうにか耐える。


 これが『怪獣化』……そして、このもはや破壊衝動と呼べるような暴力的な生命力を涼しい顔で抑え込んでいた師匠の偉大さが改めてわかる。

 前に私が力を求めて一度だけ少量で試したときには、師匠がいなかったら戻ってこられなかった。


 だけど、今は……大丈夫。

 私にはわかる……私の背後には、『壊させてはいけないもの』がある。私がこの力を使うのは『護るため』だ。


 今ならわかる。

 前に暴走した時も、肉体の鍛練は足りていた。

 いや、それ以前にこれだけの生命力なら、たとえ草木や昆虫だろうと、十分に強大な生物に変化させるだろう。


 師匠が私に期待していたもの、私に足りなかったのはその力に振り回されない精神の強さ。

 これだけの力を、明らかに過剰だとしても、決して『護ること』以外に使おうと思わない意志の強さ。


 キョウくんに……彼に会えて、本当に良かった。


『な、なんだ貴様……その、力は……』


 近くにいた分体を捕まえて、軽く殴りつける。

 それだけで、段階的に強化されて一撃や二撃では倒せなくなっていた木人は建材にも使えないほど小さな破片となって砕け散った。

 こんな強力な力があればなんだってできそうだ。

 けど……目的なんて、一つでいい。


「『護るための力』だよ」





 その森は、百年以上も前に『人語を解す巨大な怪物』が住み着き、当時の人々は森を切り拓かないことと引き換えに西の荒野を人の住める土地にするための力を貸してくれたのだとか……


 フォッフォ、迷信深い年寄りの言い伝えじゃよ。

 じゃが、儂らは今も信じておるんじゃ……あの山奥にはまだ、言い伝えにある怪物様が住み着いておって、この街を見守ってくれているのだとな。


──山の近くの街に生まれ育ったとある老人の長話より

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― 新着の感想 ―
地味に狂信者が半日暴走魔法を使い続けてるの尋常じゃない。 さすが呼吸に問題なければ魔力切れしないという太鼓判を押されただけある
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