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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
三章:異常なる『正常者』

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第98話 魔眼姫

side ヒトミ・フェネリア


 私の右眼は魔眼だ。

 代々受け継がれた能力。

 『視る』という能力に関しては比類のない右眼。

 この眼は時折、未来さえも映し出す。


『ジャネット・アーク。彼女こそ器に……』

『気付かれる前に殺せ、灰にするのだ!』

『あれと器を手にした者が世界を制することに……』

『やったわ、やってやったわ! 待ってなさい、これで主神の座は……』


 断片的情報。

 いつもはっきりと意味がわかる訳じゃないし、遠い未来は変わりやすい。片眼しかないから焦点(ピント)が合っていないのかもしれない。

 けれど、断片的であっても情報が役立つことは多い。だから、私は『巫女』として見えたものを解釈し、教団のみんなに伝えてきた。


 けれど……これは、どうやって伝えればいいのだろう。


『皆さん、残念ながら世界は滅びてしまいました。なので、まずは宴を始めましょう。ありとあらゆるくだらない境界線が崩壊した今だけの、最初で最後の晩餐を』


 答えの得られぬままに、私の意識は現実へと引き戻された。




 最初に認識した、触り慣れた柔らかな羊毛の感触だった。

 その次に、全身に痛みが走る。


「うっ……」


 私は確か、偽教団をリーナと一緒に退治してて……その時、リーナの背中から……あっ、そうだ!


「大姉様はっ、痛!」


 この痛みはあの時の落下と、私を拾おうとしたリーナの踏みつけを食らった時のものだろう。

 まだ怪獣になったばかりの子は細かい力加減とかが難しいからしょうがない。元人間だからと油断した私のミスだ。


 それで死んでもおかしくないダメージを受けたはず。

 けれど、私はまだ生きていて……


「よかった、あなたは本当に幸運ですね。ゼットさんの止血がなかったら薬が届くまで保たなかったそうですよ?」

『残念ながら、世界は……』


 この声、さっきの未来視での……

 はっとして、声の方を見ると、そこには私達とは違うデザインの黒衣の男の人。神官系の修行者としては珍しくない服装だ。

 けれど……


『■■■■(異名:狂信者)


 職業:

 狂信者(神官系特殊職業)


 称号:

 狂信者

 奉納者

 妖精界の鍵


 特化スキル:

 信仰(信仰対象:女神ディーレ)

 狂言

 契約魔法


 種族:

 人間


 転生特典:

 万能従者(天使)

 ※従者として指定された天使一体のみへの命令権』


 転生者……しかも、転生特典とは無関係の称号持ち。

 ヤバい、私が教団の人間だと知られたら……いや、それ以前の問題か。私は死にかけていたところを手当てされたらしい。

 まだ満足に動ける状態じゃないし、今は紳士的でも何をされるか……


「……ふむ。まだ、少し意識がボンヤリしているようですね。反応があまりありません。これはココアさんかティアさんに『癒し手』での診察を頼んだ方がいいかもしれま……」


「お、起きた! 今起きたから! ちょっと低血圧で寝起きが弱いだけだから!」


「なるほど。確かに血を大量に失えば低血圧になって当然ですね。必要なのは増血剤の方でしたか、これは失礼を」


 あっぶな!

 心読まれたらアウトじゃん!

 そうだここ治療院だった!

 心を読まれるのはマズい。それで私の正体がばれて捕まるだけならまだいいけど、万が一大姉様の秘密が知られれば……


「あ、メメちゃん起きた? おっはよー」


「って大姉様!?」


 そうだ、よく考えたら最初に感じた柔らかさはコットン様の羊毛ベッドだし。大姉様が普通に素顔で転生者と一緒にいるとか……ヤバすぎる。


「おや、先程もアンナさんを見て反応していましたが、もしやお知り合いでしたか。ちなみに、この方はどなたなのですかな?」


「えっとねー、メメちゃんはママの教団の……」

「私は迷子になったシスター・アンナを連れ戻しに来たとある小さな神殿の神官です! それ以上でもそれ以下でもありません!」


「なるほど、先程『大姉様(おおあねさま)』と珍しい呼称をしていると思いましたが、『姉(シスター)』の誤変換でしたかね。ふむ、あるいはこちらでは年齢の上下によってシスターの中にも大小が表現として付加されるのでしょうか……いずれにせよ、互いに面識があるということはアンナさんの身元を知る方と判断できそうですね。丁度よかった」


 どうやら上手く誤魔化せたらしい。

 それに、大姉様の関係者ということも納得したみたいだし、後は表向きの身分証でも見せてどうにか……


「では、アンナさん。御家族が心配しているようなので、彼女と一緒にお帰りになることを推奨します」


「うーん……もうちょっとだけ……」


「メメさんでしたか。彼女は怪我をしていますし、一人で帰るのは大変でしょう。しかし、この治療院はこれから村の皆さんの治療で余裕がありません。ですので、メメさんを連れて街まで行き、ついでに手紙を届けてもらえると助かります。おそらく、レグザルまで行くにはアンナさんとコットンさんが一番早いでしょうし……メメさんも、あまり詳しく出自を明かしたくないようなので」


「……えっ?」


「申し訳ありません。治療のために一度服を取り払わせていただいたのですが……こんなものが」


 そこでようやく気付いた。

 私の服装は、どうやら治療の後に着せられたらしい新しくて清潔なもの。そして、目の前の男の人の手には……私の常備している身分証。場合によって使い分けてる、違う名前のやつがいくつも。


「……っ! これは……!」


「いえ、いいのです。まあ、テーレさんも似たようなことをしていますし、地方によって法の穴を突いてそういうことができてしまうというのは理解していますし……その方が生きやすい事情もあるでしょう。詮索はしませんし、どうやってこの村に入ってきたかも問いません。それに……」


 男の人が大姉様を見る。

 大姉様は私の傷を心配そうに見ながら、私の血塗れの服を握っていた。思えば、さっきの寝起きにかけてきた声もいつもより少し元気がなかったように感じる。


「少なくとも、あなたがアンナさんに悪いことをする類の人ではないことはわかります。今回の事件でのかなりの功労者であるアンナさんには、本来なんらかの報償があるべきですが……何らかの事情で彼女が公に姿を見せられない立場であるのなら、街からの救援が来る前にこの村を離れた方が善いでしょう。この村で起きたことに無関係なあなたは、ただ目的通りにアンナさんを見つけ、誰とも諍いを起こすこともなく帰った……それで、問題ありますか?」


 私が『怪しい』ことはわかっている。

 だからこそ、必要以上の探りは入れない。転生者と教団の人間という、出会ってしまえばお互いに無視するわけにはいかない関係だからこそ、立場を確定させない。


 そういうことなら……こっちも、仕方ない。

 相手は転生者だとしても、傷を治療してもらった恩義はある。それに、ここで彼らに何かすれば大姉様も悲しむだろう。


「わかった……ありがとう、ございます。大姉様、帰ろ?」


「……うん! またね、お兄ちゃん! ママ!!」







side 狂信者


 さて、謎多きアンナさんが謎の眼帯少女メメさんに引き取られ、謎が謎のまま終わったところで……ようやく、緊張が解けました。ついでに脱力して、地面に大の字で倒れます。


「ふぅー……いやはや、最後の最後でヤバかったですね……テーレさん、咄嗟の『敵対しない』という指示を守っていただき助かりました」


 メメさんが起きる前に気配を消していただいたテーレさんに合図を送ります。

 下手に戦力のあるテーレさんに注意が向くと反射的に攻撃されるかもしれないという懸念もありましたし。


 あと、ライリーさんとゼットさんにも本当に感謝感謝です。

 ライリーさんの敵意の探知と、ゼットさんの血液検査。二つの結果で、いち早く危機的状況を理解し対処できたわけですから。


『アルジサマ、この人ヤバい……わたしたち、マスターたちをいつでも殺せる……変な動きをしたら、何かされる前に先に殺せるって思ってる』


『隣人。この服の血、この子のやつだけじゃない。すごく前から、たくさんの人の血、いっぱい染みこんでる』


 いやはや……いくらなんでも、事件解決直後にそんな強者と敵対とか勘弁ですよ。


負傷はしていましたが、手負いの獣こそ怖いと言いますし……それでもなお、私とテーレさんを『いつでも殺せる』という確信があるというのなら、少なくとも今の私たちの戦力で敵対すべき相手ではないのでしょう。


 そのような方が、私たちの目の前に現れる時に負傷していて戦闘になる前に友好的態度を示すことができた……本当に、幸運の加護に感謝です。


「……はあ、傷なんて治さずに逃げる手もあったでしょうに。ま、私も危機感知系のスキルでわかったけど……あれ、絶対なんかの即死攻撃持ちだわ。私たち、完全に即死圏内(キリングレンジ)に入ってた……今日分の魔法を使いきった状態で敵対する相手じゃないし、逃げようとしたらそれを敵対の意思だと思われかねないわ」


 もしもそのキリングレンジが距離的な制限を持つものなら、距離を取られてからの遠距離攻撃というのが脅威になりますからね。

 相手がそのまま逃げ続けるのか遠く離れてから攻撃をしてくるかわからないのであれば、とりあえず殺しておくという選択もあり得たかもしれません。


 何せ彼女は敵対の姿勢を取っていないのにも関わらず、死にそうな負傷者を前に逃げ出すわけですから。

 関わりたくないからと放置して離れるような人間は道連れに殺されても何も文句は言えません。


 彼女がこれから、誰かを殺したりということもあるかもしれませんが……それもまた、世界の営みというもの。彼女が大量に命を奪っているというだけで、それが悪行なのか事情があってより大きな幸福を生み出すために行われているものなのかは現時点ではわかりませんし。

 判断材料がないのであれば、見殺しや共倒れよりは両方生き残る方がいいでしょう。


「ハッハッハッ……それにしても、『研究施設』に謎の『教団』、それに三大女神の妨害……まだまだ受難は続きそうですねえ。もっともっと……私たちも、強くならなければなりません。より多くの幸運を、しっかりと掴み取れるように」


 今回の事件、ライリーさんがいなければゼットさんまで含めて助かるという結末はありませんでした。

 強くなる、力を得るとはできることが増えるということ。できることが増えるということは、選べる結末が増えるということです。

 手段が目的になるべきではありませんが、目的のために必要になる手段は積極的に手にしておくべきです。


 今回は、私自身の非力も痛感しましたしね。

 手札が少なかったおかげで、事件解決まで五日もかかってしまいました。もっと早く解決できていれば村の皆さんのダメージも少なかったでしょうし、もう少し遅ければ更なる犠牲が出ていたところです。


 反省せねば。


「さて、アンナさんが救援を呼んでくれることを期待しつつ、村の皆さんの手当ての準備を始めますかね。コットンさんが行ってしまったのが痛いですが、とりあえず滋養の効果があるスープでも……テーレさん?」


 お顔を見ると、何やら少々真剣に考え事をしているご様子。

 何やら気にかかることでもあるのか……そう思いつつ身を起こしていると、テーレさんの口から


「うん、決めた。なら、私も覚悟決める。確かに、私が想定してたよりこの旅は危険が大きい……このレベルの危機が頻発するようなら、今のままじゃ危ない」


 と、そんな声が聞こえました。

 覚悟を決めるとは……


「テーレさん?」


「マスター……提案する。もし嫌なら、それでもいい。けど、『強くならなきゃいけない』っていうのが本心なら、同意してほしい」


 テーレさんは……一度深呼吸をして、決して軽くはない決意の感じられる声音で、私に言いました。



「この村を出たら、しばらく別行動しよう。私は一度、マスターの護衛を離れてこれから先の旅に必要な準備を本気で揃える。だからその間に……あんたには、本格的な魔法の修行をしてほしい。これから先、現れる敵に負けないようにするために」







side ヒトミ・フェネリア


 魔眼で『視た』結界の隙間を通って、村の外に出る。

 今回は入るときと違って大姉様も一緒だ。というか、怪我人の私は情けなくも探しに来た迷子であるはずの大姉様に背負われている。


「もー、大姉様ったら、またいきなり飛び出して行っちゃうんだから……コットン様も、止めてくださらないと。大姉様が本気で出て行っちゃったら、私達も見つけるの大変なんですから」


「あははー、ごめんごめん。でもねー……ママの匂いがしたんだ。それで、見つけたの」


「見つけたって……まだ、封印は」


 見つけられるわけがない。

 我々教団の目的こそが『母』の封印を解き、永きにわたる眠りから解放することなのだから。まだ復活していない以上、見つけられるはずのないものだ。匂いがしたとしても、それは太古の残滓や痕跡のはず。

 けれど……大姉様は、落胆など欠片もない笑顔で応える。


「でも見つけたの。ママの肉体(カラダ)。ママの神格(チカラ)に合う肉体(カラダ)があれば、後はママのことを『思いだしてもらう』だけでいいでしょ?」


 それは、確信に満ちた言葉。

 私の『魔眼』とは違う形で、風の声を聞き未来を知ることのできる大姉様の直感的予知が見つけた……私達に必要な大きなピース。

 また勝手に出て行って何かあったらどうしようかと思っていたけれど……これは、それを叱りつけるなんてとんでもないと思えるほどの大手柄だ。


「なるほど……『天使を使役する転生者』と一緒にいたというのは、そういうことですか。大姉様、やっぱり敵いませんね」


「ふふーん。すごいでしょ、みんなに自慢しちゃおー!」


「でも、その前にお説教です。いきなりいなくなってみんな慌てて探したんですから。しかも『妖精界の鍵』を転生者に渡すなんて……というか、増やせるのなら私にもくださいよ、まったくもう」


「メメちゃんはだめー。迷子になっちゃうから」


「だったらせめて鍵を使って抜け出すのはやめてくださいね。私の眼でも探すの大変なんですから」


「ごめんなさーい……あ、リーナちゃん! 一緒に来てたの?」


 目の前には、村の外で待っていた青銅の怪鳥『リーナ・タングルス』。私に怪我をさせたことを反省しているのか、縮こまって身を隠していたのだ。


「さ、帰りますよ」


「メメちゃん。手紙、忘れちゃダメ」


「……はいはい、途中でレグザルに寄ればいいんでしょう。私が行きますから……素顔がバレるとマズいので、ちゃんと隠してくださいね、大姉様。いえ……」


 私の意図を察してか、コットン様の羊毛が伸び、私を背中から降ろしながら大姉様の身体を覆う。

 そして、それは布のように編み込まれ、表面に血のインクでルーンが刻まれた古い包帯のようになって、大姉様の正体を覆い隠す。



『アンナ・エルフ・キティ=ダグブック

       ↓

 ??(異名:魔王ダーウィン……etc.)


 職業:羊飼い

     ↓

 職業:???


 称号:森の恩人

    生命の守護者

    大魔導師(生命)

    大司祭(ドルイド)

    結界師(自然)

    ↓

 称号:徘徊魔王

    人類の敵

    獣王(怪獣)


 特化スキル:従者使役(羊)

       変異(怪獣)

       呪術(認識)

     ↓

 特化スキル:従者使役(怪獣)

       怪力(獣人)

       神出鬼没


 種族:人間(元妖精)

    ↓

 種族:獣人(羊)


 転生特典:生命の祝福者

 ※傷を手当てした生物を前よりも元気にする

     ↓

 権能:百獣豊穣祭

 ※触れた生物を『怪獣』に変異させる 』


 我らが母に最も長く仕え、最も畏怖を捧げる『魔王様』に膝を突き、頭を垂れる。


「我らが大司教、魔王ダーウィン。帰還しましょう、我々の神殿へ」





 『徘徊(癖のある)魔王』ダーウィン。


 怪我をしている人や生き物を見つけたら手当てせずにはいられない優しい子です。ちなみに実家はちょっとマイナーな宗教の教団本部をやってます。

 よくふらっと散歩に出て数日から数ヶ月行方不明になっちゃうのが玉に瑕です。でも、本人も(世界有数レベルで)強いしコットンさんという頼れる相棒がいるので(本人の)心配はいりません。

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― 新着の感想 ―
授与されたはずの『奉納者』の称号が無いのは何故だろう?
あらあらまぁまぁ
[一言] うすうすそんな気はしてたw
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