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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
三章:異常なる『正常者』

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第97話 蛇足潰し

side アーロン・ウエイトマン


 千載一遇の好機とはまさにこのことだ。

 山奥の村、証拠隠滅のしやすい僻地に、偶然に俺の消したいやつが集まっている。


「アーロン様、周囲の哨戒完了しました。やはり、村を囲う結界以外の防衛施設や見回りはありません」


「よし、配置に付け。村の中の目撃者は一人も逃がすなよ」


 黒装束を纏った傭兵団に指示を出す。

 こいつらの装束は危険団体指定されている邪神崇拝者の服装を模したものだ。

 つい最近、観光都市レグザル周辺で崇拝者の目撃情報があったから急遽用意したが、急拵えにしてはそれなりの出来だろう。


 これから、俺達は邪神崇拝者に成りすまして、あの村、レグザル治療院の住人を皆殺しにする。

 一人残らず抹殺し、目撃者も俺達自身の証拠ももちろん残さない。


 そして、明日村へ訪れる乗合馬車の人間を敢えて逃げ帰らせ、『村が邪神崇拝者によって滅ぼされた』という証拠を持ち帰らせる。

 そうすれば、足は付かない。俺はノーリスクで、俺の人生における邪魔者二人を始末できる。


 一人は腹違いの愚弟『ロック・ウエイトマン』。

 わざわざ嫌がらせを繰り返して頭がおかしくなるまで責め立てて追い出してやったのに、回復してきたからと帰ってこようとしている妾の血を引く厄介者。我が家の汚点だ。

 俺の功績でウエイトマン家が地方貴族から中央貴族に格上げになった時に生きていてもらっては足を引っ張られるかもしれない。大事を取ってここで処分しておきたい。


 だが、愚弟はあくまでついで。

 本命は、今頃あの村で実験にいそしんでいるであろう女『ルビア・ショコラティエ』……あいつは、学院でいつもいつも俺の邪魔をする何としてでも消すべき相手だ。


 同じ地方の出身だからと比べられて、しかも平民出のくせにいつも俺より上の順位を取って中央出身のやつらからの攻撃材料を作る女。

 その上、選ばれた者しか入れないはずの『研究施設』に後から入ってきたくせに、女の立場を利用してボスに取り入って優遇されようとする淫売。


 頭のおかしいやつらを治すなんて、そんな無駄な研究にボスがあれだけ興味を示すはずがない。ボスに通じるとは思えないが、もしかしたらあいつは能力すらも使っているかもしれない。


 許せない卑怯者だ。

 だから、ボスの目の届かないこの僻地で殺す。

 医療分野の研究者であるあいつでは、この戦力に為す術はないだろう。

役に立たない研究に心血を注いで、それをあっさりと蹂躙される。あの女には相応しい最期だ。


 俺の方が、俺の研究の方が優れている。

 あいつは生まれつきの能力で卑怯な真似ができるだけで本当は俺の方が頭もいい。俺の方が評価されるべきで俺の方が優秀な人間だけがいることを許される『研究施設』に相応しい。

 そうだ、そうでなければいけない。


「惨めに死んで、俺の優秀さの証明になれ」


 俺自身のアリバイは完璧だ。

 ボスが何か疑ったとしても、まさか俺が実の弟共々邪魔者を消したとは思うまい。

 そして、偽金(ダミーコイン)がバレる前に作っておいた裏の資金で雇ったこの戦力なら不測の事態があっても負けることはない。


 直に、結界を解いて村に攻め込むことができる。

 そうしたら、村の住人は片っ端から殺して、最後に残したあいつに命乞いをさせて、認めさせてやる。俺の方が優れていた、俺の方が上だったと。


 ああ、待ち遠しい。

 もうすぐに、結界が傭兵団の術士によって解かれる。すぐに……



「全く……まさか、『私達』に成りすまして大姉様の命を狙うなんて。なんて卑怯なの」



 突然、周囲が暗くなった気がした。

 いや、何かの影が俺達に覆い被さった?

 それに、真上から声が……


「そんなことされたら、私達が大姉様に嫌われちゃうかもしれないじゃない。ようやく味方だって憶えてくれたのに!」


 真上を見上げると、そこには青い怪鳥と、その背に立つ黒装束の何者かの姿。

 傭兵団の誰か……じゃない、あの装束は俺の用意した急拵えの偽物じゃない! それに、あの鳥の大きさは……まるで『怪獣』だ。


「リーナ、手伝って。大姉様を迎えに行く前に、こいつら掃除するから」

「キュェェエエエ!」




 俺達は、俺達が無力な治療院の住人にそうしようとしていたように、圧倒的で容赦のない暴力によって蹂躙された。







side 狂信者


 何はともあれ、凱旋するまでが遠征です。

 私たちの場合はまず土蔵で待つ皆さんに安全を伝えて安心させることが最優先でしょう。


「無傷の凱旋とは言えないのが少々心苦しいものですが」


 とりあえず、ルビアさんにはテーレさんの持っていた鎮静剤で眠ってもらいました。戦闘でのダメージなどもありましたし、村の人たちに事件の背景などが露見するといろいろと面倒になるので。

 それに、ルビアさん自身もかなり疲弊していたようですし。


「ルビアの言ってた『狂気の癒し手』っていうのは、聞いたことない称号だけど、それが『狂戦士』と同系列の称号変化だとするなら、使用の度にかなりの精神力を使って無理矢理出力を上げてたのかもね。スライムでの攻撃も一度に三体までが展開の限界だったみたいだし」


 ルビアさんは直接素肌に触れないように毛布にくるんでテーレさんが背負っています。私は手以外でも彼女の肌には絶対に触れないようにと念押しされました。


「とりあえず、土蔵に戻ってココアたちに事件が終わったのを説明して、村の人たちの応急処置とかも始めて……あと、囮をやってたアンナにもできれば手伝ってほしいわね。危ない役目をやらせちゃったし、休みたいって言うんなら仕方ないけど」


 ちなみに、私の体内から思念で話しかけてくるゼットさんによればアンナさんは終始余裕、それどころか鬼ごっこを愉しんでいたように見えたそうです。

 まあ、彼女の身体能力なら当然の結果かもしれませんが……


「……正直、意外ではありますね」


「何が?」


「アンナさんですよ。彼女はこの事件に最初から最後まで無関係、というか完全にただの巻き添え被害者です。私やテーレさんのように自分に原因があるかもしれないと考えて責任を感じたわけでもないでしょうに、ここまで協力してくれるとは」


「そりゃ、確かにアンナは純然たる被害者だし、それをわかってて危ない仕事をお願いしたのは悪いと思うけど……」


「いえいえ、そうではなくて。アンナさんなら、やろうと思えばいつでもこの村からは離脱できたかもしれないと思いまして。事件前も『騒がしくなる』と言っていましたし、本来は事件が本格化する前に村を出るつもりだったのではないかと。結界も、警報を無視すれば柵を地力で越えられるアンナさんなら脱出は難しくありませんし」


 これは推測ですが、『妖精界の鍵』が持つという反ミーム性の付与を利用すればその警報すらも……いえ、そもそも『妖精界』が異次元のようなものだとするのなら、その中を自由に移動できるアンナさんには結界自体がそもそも無意味だったかも知れません。

 要するに、アンナさんは好きでこの事件に最後まで関わってくださったのです。


「……結局のところ、テーレさんはアンナさんの『ママ』という呼び方に心当たりはないのですよね?」


「何度もそう言ってんでしょうが! 少なくとも産んだり孕ませたりしたことは……」


「はい、テーレさんがはっきりそう言えるのならそうなのでしょう。だったら……彼女は何故、テーレさんを『ママ』と呼び、騒がしくなってしまったこの村に留まってくれたのでしょうね」


「そんなの、私には……」


「まあ、私にもわかりません。有力なのは単純に精神年齢が退行したアンナさんが、どこかテーレさんと似た部分のある本当の母親の姿を目の前のテーレさんに重ねているという辺りですが……発言からすると、その特徴というのは『匂い』なのでしょうね。偶然にも近い体臭を持っていたか、体臭ではなく冒険者特有の返り血の香りだったりするのか……」


 あるいは、嗅覚ではなく感覚で感知すべき要素、それこそ『天使』の気配や女神ディーレの加護という線もありそうです。

 アンナさんにアーク嬢並みの神性探知能力があれば、地上で人の姿でいることのごく稀な『天使』を母として探してきて、初めて遭遇したテーレさんを母親だと確信したとしてもおかしいとは思いません。

 だからこそ、テーレさんの役に立とうとこの事件で大立ち回りをしてくれていたとしても。


「アンナさんは身元不明の放浪者でしたね。となると、少し困るかもしれません」


「え?」


「いえ、ルビアさんの属するという『研究施設』は偽金を使って貴族達に取り入ったりとかなりのグレーを越えた完全ブラックの秘密組織らしいですし、貴族コミュニティはその存在を隠すでしょう。となると、この事件が自然発生的な感染病として誤魔化せなければ……適当な怪しい人物にテロ容疑をかけるということもあるかもしれないかなと」


 正直、ゼットさんの暴走で起きた今回の事件は私が赦しても国が許すかどうかはわからない類のもの。

 なんとか犠牲者はほぼ出ませんでしたが、完全隠蔽はさすがに厳しいでしょう。


 結果的には村の住人のほぼ全員が倒れているわけですし。

 残った人間だけで全員が回復するまで世話を見るのは厳しいことを考えれば、街に救援要請する必要も出てくるでしょう。


 しかし、救援要請をすればいずれ原因は追及され、その時にルビアさんの背景を隠すことになれば……『突然発生した感染病でほとんどの村人がダウンしましたが数日で回復して感染病の痕跡も消えました』で済むかは怪しいところです。

 下手をすればそんな大感染を許した治療院が閉鎖されますし。


 そうなると、『感染病』ではなく『毒を井戸に入れられた』くらいの方が自然な言い訳になってしまいます。

 数日で立ち直るのなら自然発生ではなく人為的攻撃で、毒の量が限られていたか察知したティアさんが水源を浄化して村人を解毒した、くらいが妥当になるでしょう。事件開始時の暴動は幻覚作用や興奮作用のある毒物だったことにすることもできますし。

 となると、その容疑者は私たちか身元不明のアンナさん辺りに……


「うーむ、悩ましいですねえ。どこか村の近くに毒を発するモンスターや指名手配のテロ組織でも通りかかっていたらそのせいにするというのもありなのですが」


 仮に何一つ秘匿せず噓もつかずに真実を公言すれば、おそらくルビアさんも私たちも『研究施設』とそれに関わる貴族コミュニティに消されます。こちらの権力的なガード能力は皆無なので生き延びたとしても偉業認定に支障が出ます。

 私は嘘は口にしたくありませんが、黙秘権くらいは行使します。


 やはり、村人衰弱の原因は曖昧なままにしておいて、何か別の原因を……ああ、そうです。テーレさんと私で少々遠征してそういった毒を持ってそうなモンスターでも捕獲してきましょうか。

 モンスターの棲息地の移動や外敵に追い立てられてのはぐれ個体というのはよくあることらしいですし。濡れ衣を着せてしまうのは心苦しいのですが、捕獲時に私がその毒を少しもらっておけば完全な嘘にはならないですし。


「単純に集団食中毒のようなありふれた原因のせいにするというのもないではないのですが、それはそれで治療院の過失が問われますし……」


「……普通に新種の感染病『ゼット』の治療法を私たちで見つけたってことにすれば偉業認定通るんじゃない? 何一つ嘘言ってないし、多少無理があっても自然発生的なものだったってことにすれば……てか、勘違いしてるかもしれないけど、そもそもこの世界にはマスターの前世の世界みたいに『遺伝子改造で新種を生み出す』みたいな技術はないから、自然発生と言えば自然発生で通るよ」


「まあ、確かにそれはありと言えばありなのですが……できれば、ゼットさんの存在が公になるのは避けたいのです。『研究施設』の存在には気付かなかったかのように振る舞うとしても」


「どうして?」


「ルビアさんの望んだ『医療技術』としての操作性はともかく、ゼットさんは『軍事技術』としては大成功を収めてしまいました。この事件が話題になれば、『研究施設』はゼットさんの亜種を新兵器として売り出すかもしれません……なので、できればルビアさんの実験は、ルビアさん自身には何の過失もない状況で失敗したことにしておきたいのです」


 『研究施設』の中でルビアさんがどれ程の重要性を持つポジションかはわかりません。

 下手をすれば組織の存在を周知しかねない失敗の責を問われて消されます。しかし、何事もなく実験が成功したと装うには村の状態は異常すぎる。

 ならば、ルビアさんはそもそもまともに実験を行えない状態だったと思ってもらえるのが最も穏当に収まります。


「『研究施設』の全容は知りませんし、この惨状は元を辿ればルビアさんの責任でしょう。しかし、それでもルビアさんの研究そのものは悪いものではないのですよ……むしろ、素晴らしい。彼女は間違いなく天才であり、しかもその才能を優しさを失わずに使うことができる稀な人間です。彼女の研究は、ここで終わらせてしまうには惜しい……少なくとも、私はそう思います」


 地球の技術で置き換えるのなら、医療用ナノマシンの第一発案者。

 私の『他界』した時点での地球でもまだ実現されていなかった、SFの世界にしか実用化されていなかった夢の技術を、彼女はこの魔法の世界で自ら考えついて基礎まで作り上げた。


 魔法による現実改変というショートカットがあるが故に、なかなか純粋な物理的化学的医療技術も脳科学も発達せず、一部の症例に関しては『治せる魔法がないからどうしようもない』と見放してしまうのが当たり前のこの世界。

 その中で直接的に傷を癒やすのではなく欠損した機能を寄生生物との共生という形で補うという革新的発想を生み出した。


 それが兵器として用いられれば、彼女は悪魔として後世に語られるかもしれません。

 あるいは、その後世の話以前に文明が終わるかもしれませんが。


 しかし、しかるべき道筋を辿り、先に『医療技術』として社会に認められたのなら、ルビアさんの研究は未来に想像を超える幸福を生み出すこともあり得る、言うなればコロンブスの受精卵です。

 一日一個の金の卵などよりも遥かに価値のあるものです。


 だからこそ、私は守りたかった。

 研究成果たるゼットさんも、その生みの親たるルビアさんの名誉も。だからこそ、犠牲者を出さないことに拘ったのです。


「詰めを誤りたくはありません。戦後処理こそが最も困難なことはわかりますが……提案です、テーレさんにも協力していただきたいのです」


 今回のそれは、これから少しばかり無理を通す必要があるかもしれませんが。

 正直、テーレさんにも無理強いはしたくありません。この治療院も実害を受けているわけですし。


「はあ……まったく、ここでこそ『命令』すべきでしょうが。まあ、いいけどね。私は、他の天使と違ってちょっと悪い子だから。ココアには私からどうにか説明しておく……ルビアは、確かに道を踏み外してる。けど、この子は獣道だろうと、ちゃんと自分の信じた道を進んでるって」


「本当に、ありがとうございます」


 テーレさんの交渉次第ですが、極論を言えば治療院の長であるココアさんがこの事件を大事にしないと決めれば、この山奥での出来事は外に対してはどうにでもできてしまう。

 逆に、ココアさんが納得しなければ私たちが何をしようと事件は明るみに出る。


 そして、『癒し手』のココアさんに真実を隠し通すのはほぼ不可能でしょう。

 既にココアさんはルビアさんについてほぼほぼ感付いているようでしたし……親の勘というのは怖いものです。


「さて、話を戻しますがどんなカバーストーリーを作るにせよ、戦力として非常に強力でありながら正体不明なアンナさんの存在は意味深かつ怪しすぎて事情の説明を少々複雑にします。私たちは冒険者として一応はギルドに身元を保証してもらえますが……場合によっては、アンナさんは最初からこの村にいなかったことにした方が……」


 いっそのこと、私たちと一緒にさっさと次の乗合馬車で旅に出てしまうというのもありかもしれません。

 彼女に目指す場所や帰る場所があるかどうかを先に聞いておくべきでしょうが……



「称号『妖精界の鍵』……まさか、おまえが……」



 ……ん?

 あれは……


「大姉様に……何かしたな……絶対に、許さ……」


「テーレさん! 大変です! 血塗れの要救助者が!」

「うわっ! ホントだ……まるで高所から落ちた上に怪獣にでも踏まれたみたいな重傷」


 血塗れボロボロの眼帯少女がこちらに這うようにして近寄ってきています。何か呟いているようにも見えますが、蚊の鳴くような声で上手く聞き取れません。

 服もズタズタで元は黒衣だったように見えますが、今は赤黒の布切れで原型がわかりません。


「ゆるさな……くっ、リーナに踏まれたダメージが……」


「しっかりしてください! 誰かは知りませんが気を確かに……!」


 そうこうして騒いでいると、遠くから土煙が。

 あの姿は、コットンさんを頭に乗せたアンナさんですね。


「ママー! 大丈夫ー!?」


「アンナ! 丁度よかったわ! ちょっと土蔵から鞄持ってきて!」


「アン……ナ……?」


 眼帯少女は力を振り絞るようにアンナさんの方を向くと、安心したように脱力しました。


「よかった……無事、で……迎えに、来ました……大姉様……ガクッ」


「しっかりしてください! もうすぐ手当てできますから! 諦めないでください! 眼帯さん!」


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― 新着の感想 ―
>指名手配のテロ組織でも通りかかっていたらそのせいに 草 サクッと退場して行ったなーw
[一言] ………… リーナさんは魔王ダーウィンにナオサレタ方ですよね 邪神と魔王に何かしら繋がりが? アンナさん邪神か魔王なんですかね…… 後何気に人の称号が分かってるの 狂信者さんと違う鑑定魔法の暴…
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