第11話 宿敵との決着
初めての魔物討伐から一日を終え、布団に入りながら、お楽しみのスキル振りの時間だ。
まずはスキルポイントの確認から……。
16ポイント。まあ、温存する必要はないだろう。
しっかり強化すれば、その分レベル上げの効率も上がるはずだ。
強く念じる。
スキルツリースキルツリースキルツリー。
出でよ!スキルツリー!
ぼやっと視界にツリーが浮かび上がる。
ツリーの根っこの部分である剣術と水魔法が白く光っている。
この間は詳しく見れていなかったが、生活に関する技術に関してもツリーにあるようだ。
ゲームでは必要なかったが、たしかに現実となったこの世界では必要かもしれない。
というか多すぎである。スクロールバーが豆粒のようになっている。
習得しているものが上のほうに来ているのはありがたいことだが、こうなると検索機能が欲しいところだ。
それはさておき、どういったビルドにしていこうか。
とりあえず、ヴィンセントのSTRとINTの高さを活かして、魔剣士ビルド辺りを目指そうかな。極悪魔剣士……なかなか強そうだ。
もしくは、暗黒騎士というのも邪悪な感じがあるので、悪役貴族っぽいかもしれない。となると、闇魔法を習得する必要があるが……。
まあとりあえず、今ある水魔法を実用できるぐらいにポイントを割り振って、剣術系を中心に伸ばしていく方針にしよう!
さてさてどれを取ろうかな。
短剣術、片手剣術、両手剣術、刀術……。
やっぱり日本男児としては刀だろうか。居合で一撃の下に敵を斬り伏せるというのは非常に魅力を感じるところだ。
よし!決めた!刀にしよう!
刀スキルと魔法をいくつか取り、あとは能力強化に回した。
これで少しは戦えるのではなかろうか。
そういえば、この世界にはアレはあるのだろうか?
ビルド構築系のゲームといえば、気になる要素だ。
落ち着いたら調べてみよう……。
そんなことを考えていると瞼が重くなり、その日は眠りについた。
*
社交界への出発までの間、朝から礼儀作法と一般教養の勉強、昼からは日が落ちるまで、ロクサーヌの……というよりデヴォラーウルスのしごきが待っていた。
先日の一件からロクサーヌは、自身の懐を肥やしつつ、僕を効果的に痛めつけられる魔物狩りに味を占めたのか、毎日のようにデヴォラーウルスと死闘を繰り広げる羽目になった。
というか棲息しすぎだろうデヴォラーウルス。
こんなにたくさんいるのに、毎回単独での遭遇。
しかも、ロクサーヌは敵のいる場所を予見しているかのように、的確に僕を放り投げるのだ。
おそらく、探知系のスキルを持っているのではないだろうか。
あまり使ったことはないが、ゲームでも似たようなスキルはあったはずだ。
それはいいとして、熊との戦闘自体は、レベルの上昇とともに楽にはなってきたが、やっぱり三回に一回は死にかけるし、五回に一回は丸呑みにされる。
それに経験値効率が悪い気がする。ロクサーヌと経験値を分配しているからなのか、それともロクサーヌの言う通り死ぬ思いをするぐらいの経験が必要なのか……。
とはいえ、大分戦いの形にはなってきている。このままいけばあるいは――
そして、出発を前日に控えた今日。
向かって右から大きく回り込んで、迫ってくるデヴォラーウルス。
「ちょこまかと……! 【ウォーターランス】!」
空中に描き出される幾何学模様の円陣が三つ。
そこから、デヴォラーウルスの左右に円錐状の流水が二つ放たれる。
退路を塞がれた熊の化け物は正面から突っ込んでくる。
そこに最後の円陣から一点突破の水の騎槍が空気の弾ける音とともに射出された。
「チェックメイトだ! 熊ちゃん!」
円錐を形作る流水が轟々と音を立て回転力を増し、大気をも巻き込み、獲物を貫かんと推進する。
水の槍は対象に吸い込まれ――地鳴りのごとき爆音が鳴り響く。
だが――
「グァァアアアア!!」
デヴォラーウルスは倒れない。
人間の胴体ほどの太い腕を眼前でクロスさせ、水の槍を受け止め、その巨体を二メートルほど後退させて止まっていた。
とはいえ、奴の身体も無事では済まない。
渦潮のように回転する槍状の流水が腕の皮膚を抉り、赤黒い液体をまき散らす。
しかし、それでも致命傷には至らない。
回転力が弱まったところに、肉厚の腕を力任せに振るい、水の槍を霧散させた。
デヴォラーウルスが咆哮とともに怒りに身を任せて再び突進を始め――既に僕は奴の懐に潜り込み、鯉口を切っていた。
「【一閃】」
鞘から抜き放った勢いのまま、横一文字に振り抜く。
一拍、奴の胴に一筋の線が引かれ、刀の切っ先を追いかけるように一気に噴き出す鮮烈な赤。
残心――
「ゴガァァアアアア!!」
三たび、咆哮。
間もなく極太の腕が振り下ろされる。
「……ちっ!【受け流し】!」
刀の刃を頭上に向けて、デヴォラーウルスが振り下ろした左腕を受け、そのまま手首を返して軌道を逸らす。
身体の左側面を掠めて、巨大な拳が地面を抉る。
「【兜割】!」
下がってきた頭に、大上段から空気の層を斬り裂きながら刃を振り下ろす。
「かち割れろぉぉおおおおッ!!」
――ザンッ!
勢いよくデヴォラーウルスの頭蓋骨に刃が侵入し、脳漿をまき散らしながら、顎の下まで抜ける。
数拍ののち、巨体が前のめりに倒れ伏した。
「……は、はは……よ、よっしゃー!! 遂にやってやった!」
今まで散々暴虐を受けてきた相手を倒し、歓喜に身を躍らせる。
「うわ……」
すると、顔を顰めたロクサーヌがこちらを見ていた。
なんだ?せっかく初めて一人で倒したのに水を差すな、この野蛮人が!
「なんですか。僕が一人で倒したのにそんな表情しなくたっていいじゃないですか」
「いや、だってお前……脳みそいっぱいついてんぞ? そういうの平気なタイプか?」
自分の姿を冷静になって観察する。
ふむ。確かに色々な肉の塊のような、あるいは脂肪の塊のようなものが付着しているのが見える。
いや、まさかこれは夢か?
「きゃぁぁあああ!!」
僕のSAN値がなくなったところで意識は途絶えた。
*
鼓膜を揺らす水の流れる音。
あれ、僕は何をしていたんだっけ。
微睡みの中にいた意識が急速に浮上する。
「……はぁっ!」
飛び起きると、目の前には川。
隣には焚火をいじるロクサーヌの姿。
「目ぇ覚めたか」
「一体僕はなにを……?」
「ああ、脳みそを体中につけて喜んでたんだ」
いや、確かにそうだったかもしれないが、言葉にすると酷いな!
というか、その言い方は悪意があるだろう……!
熊を討伐したという一番大事な情報が抜け落ちているのだから。
それではまるで僕が、脳みそを愛している異常者ではないか。
そこまで考えて思い至る。
「そうだ! 脳みそ!」
体を見回してみるが、脳みそは付着していない。
というか、服すらも付着していない。
堂々たるブリーフ一丁であった。
「きゃあ! エッチ!」
「一人で何やってんだ。服ならもう乾いてるんじゃねぇか?」
ロクサーヌの視線の先には、僕の服が木と木の間のロープに、見世物のようにぶら下げてあった。
どうやら、洗ってくれたようだ。
「これは、ロクサーヌさんが?」
「ああ。お前が熊を倒したあと、生娘みたいな悲鳴を上げて気絶しやがったから仕方なく、だ。私に脳みその処理までさせたんだ。貸し一つだからな」
ちきしょう!失態だ!
またこいつに借りを作ってしまった。
だが、いつもの傍若無人な態度からは想像がつかないが、どうやら気が利くところもあるようだ。
……いや、ちょっと待てよ。危うくだまされるところだった。
最初に狩りに行きたいと言ったのは確かに僕だ。
そのうえで、厄介事を処理させたのなら貸しというのは理解できる。
だが、それ以降の狩りはお前が訓練の一環として連れてきたのだろうが!
それは契約の範囲内じゃないのか!?
押しつけがましいんだよ!
そもそもなんだ、脳みそ処理したぐらいで貸しって……!
かわいい弟子が倒れたのなら、それを介抱するのも師匠の役目というものではないのか!人の情も忘れてしまったのか、この獣は!?
あと、お前全然仕事してないからな!
もうデヴォラーウルスに契約料を払うよう、セバスに言っておこうかな。
「……はい」
「……ふん。だが、よくやったじゃねぇか」
「……っ」
き、急にそんなこと言ったって許さないんだからねっ!!
*
出発直前になって、やっと因縁の熊野郎を一人で退治することができた。
無様な結果ではあったが……。
レベルは23に上がり、スキルツリーを進め、新たに【気力活性】と【鑑定】のスキルを習得した。
【気力活性】は、ステータス値を一定時間向上するスキルだ。いわゆるバフというやつである。
【鑑定】は、その名の通り、敵のステータスを覗き見るスキルだ。
……そんなこんながあり、ついにお出かけの日を迎えた。
心配していた礼儀作法についても、二週間びっしりお稽古を頑張った。
おそらく、お辞儀だけで敵対者を圧倒できる……と思う。
まあ、それだけ練習したということだ。
少なくとも恥ずかしい思いをすることはないと願いたい。
子どもなのだし、多少なりとも、目を瞑ってくれるはずさ。
あとは、妹のフランチェスカと仲良くできれば問題はない。
まあ最悪、あのときのように怒鳴り出したりしなければ、僕にとっては成功といえよう。




