冤罪の証拠
リーナはエミリーの部屋に運ばれた。
どうにも信じることが出来ない。
(シリウスさんが放火?しかも認めている?そんなことって……)
看病をしているつもりだったが、エミリーも同じベッドにもぐりこんでついつい眠ってしまった。
奇妙な夢を見た。
パパと一緒に村のキノコを焼く。キノコそのものに必死で火を付けようとするが全くつかない。
アグラットが横から出てきて、湿気っているから無理だと主張する。
焼かれたキノコは泣き声のような音を立てている。
「はっ!」
エミリーが目を覚ますと隣でリーナが泣いていた。
「リーナさん……」
なんとかしてあげたいとは思う。
だが掛ける言葉が見つからない。
エミリーはただリーナを抱きしめた。
翌日、図書館での勉強を休んでエミリーは処刑場に赴いた。
なんとも怖い施設だ。
その張り紙はすぐに見つかった。
「以下の者 失火の罪を認めたため 火あぶりの刑 シリウス=シュマイザー」
エミリーは頭を抱えた。
(本当だったんだ)
さらに詳細が附されている。
東宮に勤務するシリウスは浴場の火を起こしたり、厨の火を起こしたりする係であり、誤って東宮を延焼させたらしい。
放火の罪で騎士に逮捕されたが、失火であると主張。
だが王妃をはじめとして大人数が亡くなったため、放火でも過失でも間違いなく死刑だ。
(失火?放火じゃなくて……?)
なにか見えそうな気がした。
分かったことは、騎士が逮捕して、すでに司法が裁いたということ。そして即日死刑が宣告されたということ。
(死刑執行日が二日後?私にはどうすることもできないの?)
夕方。ジュリアがウェルターを連れて酒場を訪れた。
今日は非番の日らしく鎧を付けていない。
ジュリアは上機嫌だ。
「よ!エミリー元気してる?」
今日もすでに酔っ払っているようだ。またショッピングに昼ビールらしい。
「あまり。ウェルターさんこんにちは」
「お邪魔するよ」
どうやら今日も荷物持ちさせられてるようだ。
(この二人って付き合ってるのかな)
ただの飲み友達のような気もするが、いまいち分からない。
違ってたら失礼な気がして聞くのは抵抗がある。
「なんで元気ないの?」
「色々あって……」
リーナとシリウスのことを話した。火事の件はみな知ってるようだ。
「可哀そうだけど犠牲者も出てるもんねえ……。でも母親が死んだのに、よく皇子だけ無事だったよね?」
「我が騎士団がお救い申し上げたと聞いている」
ジュリアは首をふった。
「いやいや。どうせなら母親も救えよ」
ばつが悪そうにウェルターはウイスキーをチビチビ飲む。
「あれって本当なのかね。マインツが暗殺したって。王妃と仲が悪かったみたい」
ウェルターはむせた。
「そんな憶測が飛び交っているのか」
「っていうか帝都ではみんな思ってるよ。証拠はないけどさ。シリウスって人が手先なのかねって」
エミリーは思わず声を荒げた。
「シリウスさんはそんな人じゃない!」
「おっとごめんごめん。皆がそう話してるってだけだから」
なんとも気まずい空気が流れる。
「私、シリウスさんの最期を見届ける」
「やめときなって。本当にさ」
エミリーの決心は揺るがない。自分と関わった人である。
翌日、気になって再び薪小屋を訪れてみた。
(入ってるわけないよね手紙)
シリウスが何かメッセージを残してないか。
ひょっとしてと思ったが、何もない。
捕まって牢屋にいれられているはずだ。
ずっとあの幸せなやり取りが続き、幸せな仕事が続くと思っていた。
胸が締め付けられるようだ。
(もうここに来ることはないかな)
ふと薪をみた。
(なんかいつもと量が違う。少ないような)
そういえばあの異形はこの辺りの薪を泥棒していたような。
何の気なしに手に取ってみる。
普通の薪だ。
だがよく見ると。
(うん?これってなんだろう)
ある予感が頭をよぎる。
「ジュリアに連絡とるにはどうしたらいいんだろう!どこに住んでるんだろ」
その足でエミリーは騎士の詰所に向かった。
王宮の東、西、北と門前払いを繰り返しているとウェルターが出て来た。
「エミリー。勤務中に何の用だ?」
「ごめんなさい。時間がないの。ジュリアはどこに?」
「知らない。飲み歩いてるか、冒険者ギルドじゃないか?」
エミリーはウェルターにある仮説を語った。
ウェルターは腕を組みながら耳を傾けていたが、思い当たる節があるようで何度も頷いていた。
その日の仕事は手に付かなかった。
珍しくオーダーミスもしたし、グラスも落として割った。
朝が来た。
いつもなら眠る時間だが、エミリーは外出の支度をした。
「入るよ」
クレアが戸口に立っている。
「お疲れさまです」
「エミリー。あんた、まさか処刑を見に行こうってんじゃないだろうね」
「……」
「やめな。マジで」
「……」
「じゃあ私も付いて行く。泣いてるあんたをおぶって帰ってやるから」
「クレア……」
「マスターも気にしてたよ。様子がおかしかったって」
エミリーとクレアが到着した頃にはすでに処刑場に人が押し寄せ居ていた。
「マインツの手先!」
「売国奴!」
容赦ない言葉が飛び交う。
エミリーは何とか最前列に行きたい。
「おら。野次馬はどけ。関係者だ」
スキンヘッドの大男がエミリーの前の人込みをかき分ける。
「マスター!」
「見るんだろ?俺も付き合ってやる」
最前列にはすでにジュリアがいた。
昨日あれほど探し回っていたのに、見つかる時はこのようなものだ。
「あらアックス。エミリーも来ちゃったのか」
「ようジュリア。趣味のわるいこって」
「あんたもね」
刑場には十字架が準備されていた。
すでに処刑の為の火が用意されている。
彼を捕縛したという騎士達が胸を張って並んでいる。
その前をシリウスが力なく引き立てられていく。
顔はあざだらけだ。
最前列のエミリーと目があった。
一瞬驚いたシリウスだったが、微笑むと顔を上げて胸を張った。その目は澄んでいた。
その表情を見て、エミリーは確信した。
「ジュリア!これを見て!」
薪にはルーン文字が書かれている。
ここで受験勉強をしたいようには見えないが。
「カノ。熱やエネルギーを放出する火を象徴するルーン文字」
言うまでもなくジュリアは火の魔法のエキスパートである。
「その薪、発火魔法が仕組まれてるわね」
「やっぱり!マスター!私、シリウスのところまで行きたい」
「何考えてるんだ。処刑を阻止したら牢屋にぶち込まれるぞ。ただでさえ野次馬も殺気立ってるのに……」
エミリーは両手を合わせて目を瞑って懇願した。
「シリウスの冤罪を晴らしたいの。お願い……」
「ああ~。仕方ねえなあ」
マスターは柵をベキベキと力いっぱい押し倒した。
「おっと。力入り過ぎちまったわ」
ジュリアはくっくっくと笑った。
「アックスって過保護だよね!さすが酒場のパパ!」
「うるせえよ」
エミリーは転がるようにシリウスの前に倒れ込んだ。
刑場は騒然とした。
「なんだあのガキ」
「お!売国奴の女か?」
騎士達が槍の穂先をエミリーに向けた。
「まって、みんな聞いて!この人は嵌められたの!これが証拠!」
野次馬たちははやし立てた。
「これは面白い冗談だ。薪を手にしてこれは証拠って。それで火を付けたから当たり前じゃねーか」
「お願い!話を聞いて!」
刑場の騎士はエミリーの襟首をつかんだ。
「クソガキめ。お前も仲間だな。ちょっと来い」
ジュリアとマスターは身を乗り出した。
「待て!」
刑場に現れたのは帝国騎士ウェルターだった。
巨大な槍を担いで武装している。
「その子は俺の知り合いだ。話を聞いてやれ」
「お前は管轄外だろう」
「なに?お前だと?新参者が俺にその口を利くか」
部外者たちの歓声が上がる。
「喧嘩か!やれ!」
「クソ騎士同士で潰し合え!」
一触即発の空気の中、良く通る女性の声がした。
「お待ちなさい!ウェルターが呼ぶので来てみたら。その子は私の知り合いです」
騎士は慌てて襟首から手を離した。
刑場は静まり返って、騎士達は一斉に跪いた。
現れた老女は、白いローブに聖職帽、胸には勲章が並ぶ。
「ニコラ様だ……」
議会で強い発言力を持つ福音大聖堂の最高聖職者である。
「エリザベートがあんな死に方をして、私もはらわたが煮えくりかえりそうです。その子が真相を知るのなら、私は聞きたい」
エミリーはその顔に見覚えがある。
「あ、お掃除のおばあさん……」
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「ニコラが聞いてくれるのか?我が娘の話を」
「魔王様。憎き相手ですが今は信じるしかありません」
アグラットはいつになく真剣な顔だ。
「でもエミリー様。この行動力は何に裏付けされているのでしょう?」
横で聞いている剣の魔将軍は素振りを続けながら言った。
「正義感に違いない。しかし、あの襟首を掴んだ騎士、顔は覚えたぞ」
魔王の声も怒りに満ちている。
「うむ。エミリーが投獄されるようなことがあれば分かっているな」
「はい。お任せください。刑場と言わず、王宮も火の海してご覧に入れます」
アグラットはあの頭が引っ張られる感じにもう一度耐えるつもりだ。




