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モニタリング!魔王令嬢 ※田舎育ちの魔王の娘が普通の人間として社会で学ぶ~帝都で暮らす愛娘を魔王と幹部が極秘観察してる件~  作者: えむ@毎晩10時更新中


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放火犯

今日はリーナが帝国劇場の前で待っていた。


手紙を渡すとリーナは劇場を案内すると言ってくれた。


「今日は練習が速く終わったからね。エミリーちゃんは入った事ある?」


エミリーは帝都で育ったわけではない。あまり馴染みのない建物だ。


「いいえ。大きな建物だなあ」


「先々代の皇帝は芸術に深い造詣があったらしくて、大規模な改修が行われたの。元々は真ん中の広場を取り囲むように客席があったんだけど、建物全体に屋根がついてね。神秘劇ばっかりだったけど、今では随分と色んな演目が上映されてるの」


「リーナさんも舞台に立ったりするの?」


「一応は。でも端っこだけどね」


「リーナさんが出てる劇を見てみたいな」


「おお?興味あるの?じゃあこれを」


リーナは懐から用意しておいた3枚のチケットを取り出した。


「友達でも誘って今度見に来てね」


酒場に帰るとエミリーはチケットを広げてクレアに声をかけた。


「みんなで一緒に演劇を見に行きませんか?リーナさんにチケットもらいました」


「あ~。あんまり興味ないなあ。マスター!エミリーが観劇行きたいって」


「あ?俺は忙しいんだ。マークと2人で行け」


「ええっ。そんなあ……」


確かに職場の人達は芸術には縁遠そうな雰囲気はある。


『音楽の都亭』と名乗っている割には。


「マークさん、一緒に行きます?」


「演劇とか好きなの?」


「興味あります!」


「何枚チケットあんの?」


「3枚です!」


「じゃあ3回行けよ。好きなんだろ?」


斬新な断り方だ。


職場の人達と行くことは諦めた。


リーナは友達を誘ってと言ったが、同世代の子供はメアリくらいしか思い当たらない。


連絡するには魔術学校の寮に行かねばならない。


そもそも家庭教師を紹介されてから一度も会ってないのだ。


エミリーはぐっとチケットを握ってしまいこんだ。


どうするか判断は保留にしよう。


翌日は空の暗い風の強い日だった。


いつものように図書館の帰りに薪小屋に向かう。


薪小屋へは一度山道を登ってから東宮を回り込むように歩かねばならない。


木々の合間から紫色の雲が見える。


(大分暗いなあ。足元気を付けないと)


ふいに頭上を大きな鳥が羽ばたいた気配がした。


(あれはなに?)


蝙蝠の翼に人の身体が付いたような異形だ。


かなりのスピードで飛んでいる。手に何かを抱えているようだ。


(なに運んでるんだろう?)


エミリーはとっさに木陰に身を潜めた。


酷い目にあってから、飛ぶ動物には警戒心が強い。


異形は薪小屋に降り立つと何かを探しているようだった。


気付かれないようにそっと近づく。


ゴソゴソと薪をいじっているようだ。


(魔族だ……)


図書館の大戦の文献で見た。挿絵に描かれていた魔族そのものである。


薪を抱え込んだまま、魔族は飛び去った。


(薪泥棒?なぜ?)


シリウスの手紙は、普段の庇の上の方に差し込まれていた。


エミリーはいつものように手紙を受け取るとその場を離れた。


その日の夜。


エミリーが仕事をしていると常連が酒場に駆け込んできた。


「おいみんな!でっかい火事だぞ!」


「へえ見に行こう。急げ急げ」


机に硬貨を投げると、人々は次々と出て行った。


「どこが燃えてるって?」


「東宮だ」


エミリーは胸騒ぎがした。


「マスター、私も火事を見に行っても良いですか?」


「駄目だ。とういうか客が帰っちまったな。最悪だ」


商売あがったりである。


クレアは残った酒瓶をかき集めながらなぐさめた。


「どうせ連中すぐに戻ってくるでしょ」


しかしかなり大きな火事だったようで客足は途絶えたまま閉店時間を迎えた。


夜が明けた。


エミリーはいつも通り昼過ぎに薪小屋に手紙を置き、図書館の帰りに立ち寄った。


(シリウスさんの手紙、ないなあ)


異変に気付いたのは翌日の事だった。


いつもの場所から手紙を引き出すが、どうもおかしい。


(これって、昨日差し込んだリーナさんの手紙だよね)


夕方に立ち寄ったがシリウスからの返事はない。


はじめてのことだ。


返事のない日は劇場に寄らずにそのまま酒場に直帰すると決められている。


今日はリーナが職場に歌いに来るのでちょうどよい。きっとリーナも何か感じていることだろう。


(1日、返事が来ないからって余計なお世話かな)


夜も更け、演奏の準備も整った。


「リーナさーん。あとでちょっと話が」


「ええ。私も」


詳しくは仕事の後のつもりだったがその瞬間は唐突に訪れた。


常連のマーカスが大きな声を噂話をしはじめた。


「こないだの大火事。放火らしいな」


皆、酒がまわっているが、喧噪の中で聞き耳を立てる。


人が多いといつものことだが、歌姫の歌はそっちのけである。


「へえ~マジかよ」


「大きな声じゃ言えないがな」


かなり大きな声である。


マーカスは注目を集めることができて悦に入っているようだ。


『音楽の都亭』の噂は他の酒場にも拡散されてすぐに都中に広まる。


客層として黙って居られないおしゃべりおじさんが多いのだ。


配膳中のクレアにエミリーは耳打ちした。


「クレアさん、あれって本当です?」


「酔っぱらいの与太話を真に受けても仕方ないよ」


それもそうか。


だがエミリーも興味のある与太話である。


「なんで放火したと思う?」


「はあ?放火したいからしたんだろ?」


真っ赤に出来上がったマーカスは得意げに言った。


「お前ら浅いなあ!実はな。今回の火事で皇子の母親であるエリザベート様やら侍女やらが亡くなった。知ってるか?エリザベート様」


「先帝の妃だから知っとるわ!俺、結婚パレード見たんだよ。ショックだよなあ」


「これは暗殺事件なんだよ!」


「へえ。誰が犯人なんだよ。怨恨か?亡くなったその侍女とか?」


「妃を誰がやったとか、根拠もなく帝都で言ったら殺されちゃうだろ!でもほら、誰とは言えんが皇子の面倒みてるやつ。マインツ」


皆どっと笑った。摂政マインツの強引なやり口は人々の顰蹙を買っているようだ。


経済は責任があるかもしれないが、天災までもマインツのせいだというのが皆の共通のジョークになりつつある。


「マインツって言ってるじゃねえか!」


「奴が火をつけるところでも見たのか!ヒッヒッヒ!」


「いや。今日さ、処刑場の前を通ったんだよ。そしたら犯人の名前が張り出されてたぜ。東宮の下男が捕まったらしい。これ知らないだろ。罪を認めてるってさ。だからそいつがマインツの手先さ!」


エミリーは背筋に冷たいものが走った。人々を押しのけて思わず問いかけた。


「あの!誰の名前が書いてあったんです!」


「おっ!焼きそば嬢ちゃんも政治に興味を持ち始めたか!銅貨1枚で披露しようと思ってたけど、特別にタダで教えてやるよ。犯人の名前はシリウスって言ってたぞ」


ガシャン!


歌姫は気を失って食器が並べられた机に倒れ込んだ。


「リーナ!」


=======================


「アグラットよ。さっき映った羽の魔族、心当たりあるか?」


「正直、分かりませんよぉ。おーい、サタナキア~?」


「そういえば、また奴をみませんな」


「なんか、配下の統率がとれなくてわちゃわちゃしてるみたいね」


魔王が喚ぶ。


「サタナキアッ!!」


慌てて闇から転がり出る。


「は。魔王様。ここに」


「こいつは分かるか?」


拡大されたのは蝙蝠の羽に人間の身体の魔族だ。


「……」


「なんとか言え」


「は。恥ずかしながら、またしてもアモンの配下の可能性が高いです」


「またお前の配下の配下か。で、当のアモンは?」


「それがキメラの件以降、なかなか呼びかけに応じません。魔王様への忠誠心はあるやつなのですが……」


「ですが?」


「餌や旨いものに関わると独り占めするために口をつぐむ傾向にあります」


「どうしようもない奴め。まあエミリーに危機が迫っているわけでもないからどうでも良いが。娘には悲しい思いをさせたく無いから調べておけ」


「は」


アグラットはワイングラスを傾けながらやりとりを見ていた。


(やっぱり少しずつ、人間の親みたいになってきてる。エミリー様に引っ張られておられるのかな)

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