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モニタリング!魔王令嬢 ※田舎育ちの魔王の娘が普通の人間として社会で学ぶ~帝都で暮らす愛娘を魔王と幹部が極秘観察してる件~  作者: えむ@毎晩10時更新中


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リンゴはんぶんこ

宿の食事は時間が定められている。


寝坊したら片付けられてしまう。


エミリーは毎朝早めに起きて勉強することにした。


食堂での朝食は思ったよりも静かだ。談笑もなく、カチャカチャと食器の音だけがする。


誰も視線を合わせようとしない。


(やっぱりみんな受験生なのかな?)


みな食器を片付けると一直線に部屋に戻るようだ。


(私、浮ついていたかも。もっと真剣に取り組まないと)


はじめて感じた焦り。取り残されたくない。


それから蛇の杖に教わる毎日が始まった。


朝から晩までの勉強が、こんなに精神に来るとは想像できなかった。


村でパパと勉強をしていた空気とは違う。


(私、どうも集中力が無いみたいだ)


それに、たった数日でこの孤独感。


水をもらおうと部屋から出ると、隣の部屋の扉が動いた。


中から少女が出て来た。赤毛の短髪、暗い色の服を着ている。


「あ、あの!」


思わずエミリーは声をかけた。


「わ、私、隣の部屋なんだ」


少女は少し驚いた様子だが、軽く会釈をした。


「はじめまして。お二人とも受験生ですか?」


二人?今はお返事してくれたことが嬉しい。


「う、うん。元気?」


思わず間抜けなことを聞いてしまった。


「あ、はい。元気ですよ」


少女は笑った。その笑顔にほっとした。


「わ、私の部屋でリンゴでもどう?」


妙な誘い方をしている自覚はある。


「ふふ。じゃあお言葉に甘えて」


ベッドに並んで座る。エミリーはリンゴを渡した。ちょくちょく宿を抜け出して買っているリンゴだ。


「あなたの分は?」


「半分食べたら返してね」


少女は目を丸くしたが、笑ってリンゴを差し出した。


「私、食べすぎちゃうかも。お先にどうぞ」


エミリーは感動した。きっといい子だ。


「う、うん」


ガリガリと食べる。ちょうど半分、ちょうど半分と意識しながらかじる。


「私、メアリ・ロビンソン。帝都外周のメイヨー地区出身です。受験は最初で最後のチャンスだから気合入ってます」


自己紹介を終える頃、エミリーはリンゴを手渡した。


「私はエミリー。ずっと遠く、ホンウェル村から来たの。よろしくね」


メアリは将来の夢にも関係があるため、帝都の地理には詳しい。だが全く聞いたことがない村だ。


「もうお一人は?お出かけ中ですか?」


「ん?」


「ほら、いつも話してる人が居るでしょう」


どうやら壁は薄いようだ。


エミリーは床に転がる杖を拾った。


「この杖ね。蛇さん。よくしゃべるんだよ~」


メアリの顔に近付ける。


よく見ると蛇の彫刻がしてある。


喋り出しそうな造形ではある。


「ふふっ!」


リンゴを噴き出させるために、弟たちもよくやる食事中の冗談だろう。


「本当だよ。ねえ起きてる?いつもはあんなに喋るのに」


エミリーは杖の先をベッドにコンコンとぶつけた。


素性を探られたくないので耐える。


『コンコン』


「おかしいな……」


『コンコンコン』


(このままじゃメアリに変な子だと思われちゃう)


『コンコンコンコンコンコンコン』


「バカッ!お前!やめろっ!」


ずっと耐えていた杖は思わず悲鳴を上げた。


メアリは驚きのあまり、口を押えて立ち上がった。


「!?」


「ね?面白いでしょ?」


帝都には魔法具の店がいくつかある。


メアリも買い出しのついでに覗くことはあるが、話す杖は見たことがない。


「何でしょう。こんな杖、初めて見ます」


「俺はお前の先生だぞ。いい加減にしろよマジで」


赤い目がチカチカと光る。


「ごめんなさい。だって話さないんだもん」


「なんで水を取りに行って知らない人間を連れ帰るんだよ!」


メアリはまだ信じられないといった表情で、杖とエミリーを交互に見比べる。


「これってエミリーさんの魔法ですか?」


「まさか。やっぱり杖が喋るのは珍しいのかな」


蛇の杖はエミリーに目配せをした。余計なことを言うなと。伝わっているだろうか。


メアリは興奮気味に説明をした。


「貴重だと思いますよ。魔法発動具として杖は金貨1枚くらいが相場です。+1の杖は金貨10枚。+2の杖は金貨100枚。帝都でも作れる人はそう居ないはずです」


「+3の杖は?」


「便宜的に三段階に分けただけなので想像付きませんが、王族くらいしか持ってないんじゃないですか。ショップで見たことありませんが金貨1000枚以上の価値はあると思います。でも喋れたりするんでしょうか?」


「へえ」


「そんな俺はベッドでコンコン叩かれたわけだ」


「ごめんね。もっと大切にするよ」


「当然だ」


「珍しい杖見せてくれてありがとうございます。私、そろそろ勉強に戻りますね。リンゴごちそうさまでした」


メアリと知り合ったことで、改めて試験当日まで全力で勉強しようとエミリーは思った。


それでも朝食後にメアリと話をするのが楽しくて仕方ない日課になった。


少し上のいとこが居るが、村にはいなかった同年代の女の子。同じ受験生だ。


友達と思って良いんだろうか。


メアリはつねに敬語で少し距離をとっているようにも感じる。


知り合った日に、夕食後に遅くまで話し込んでしまったのは悪かったと思っている。


だから朝だけ話しかけることにした。


遊びに来ているわけではない。


「私ね。回復魔法を覚えたいんだ。パパの足を治したいの」


「そうなんですね」


「メアリは将来の夢とかある?」


「もちろん。私は……」


メアリは恥ずかしそうに話し始めた。


「貧民街って分かりますか?帝都って貧富の差が結構あるんです。特に先帝が亡くなってから酷いインフレで。私の生まれたメイヨー地区は貧民街と呼ばれていて、一日働いても大してもらえないんです」


「うんうん」


「それで私は政治家に……」


「政治家?」


「はい。帝国議会には民間人枠があるんです。ギルドの代表が選ばれやすいそうですが。そもそも最低でも魔術学校出てないと立候補すら出来ないので」


「ほええ。難しい話だけど、メアリはすごいな」


政治家とは、どんなものなのかは分からない。


なのでメアリが政治家になる姿を想像してみたがピンとこなかった。


でもきっと素敵な政治家になって、帝都から貧民街が無くなるんだろう。


それを叶えるためには今勉強するしかない。


試験まであとわずか。


夢を語り合ったことで、エミリーの勉強に対する姿勢も少しずつ変わっていった。


今は努力だけすればよい。


その先にきっと未来がある。


でもエミリーはスタート地点に立てるだけでも幸せであるとまだ気付いていなかった。


========================


「魔王様、エミリー様にお仲間が出来たようですな」


「うむ。仲間か分からぬが、心地よい関係だ」


「打算のない仲間などいくら金を積んでも作れませぬし」


繭の中からふっと息を付くように笑った。


「まあお前とわしの関係みたいなものか」


共にくぐり抜けてきた悠久の戦火は、たんなる主従関係を超えているのかもしれない。


「ありがたきお言葉ながら、少し照れますな」


魔王様は戯れに人間のような物言いをされてみたのだと思いつつ、さっきより力強く剣をブンッと振った。


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