聖女の像
相変わらず図書館と職場を往復するだけの日々。
遊ぶ友達も居ないため基本的に勉強漬けだ。
今日は見かねたクレアに連れられて服を買いに街に出た。日曜日は人が多い。
「初めてあった頃は心配するくらいお子様だったのに、最近は子供らしからぬ生活だよね」
「結構、毎日楽しんでますよ」
「そうかな。不幸に見えるけど。あんたさ、一度お祓いしてもらった方が良いんじゃない?運悪すぎるよ。受験もぶっちゃけ運でしょ」
「そうですかね?」
「だいたいさ、ここだって路上で詐欺に遭うことは滅多にないよ。酔っぱらいの喧嘩は良くあるけどさ。話を聞けばキメラでもドラゴンでも妙な流れで死にそうになってるし」
「言われてみれば確かに」
「IntelligenceよりもLuckのパラメーター上げた方が良いよきっと」
改めて指摘されてみると、どっちも低い気はする。
「どうすれば良いですかね」
「やっぱりあれだよ。お祈りだよ。図書館の帰りに聖女像寄れるでしょ。毎日お祈りしたら?」
「そんなんで良くなりますかね……」
エミリーは神頼みをしたことがない。
都に出て分かったが、どうやら祈るくらいなら自分で解決しようとするタイプらしい。
東区の聖女広場には真っ白な聖女の像が建っている。
エミリーを連れて来たクレアは手を合わせた。
そういえばジュリアと初めて出会ったのもこの像の前だった。
(この像にお祈りかあ)
エミリーも手を合わせる。
像から強い魔力を感じる。多くの人が祈りを捧げた結果だろうか。
(そもそも何をした人なんだろう。……下に生没年が書いてある。ええ。16歳で死んじゃったんだこの子)
改めて顔を見てみる。
(どこかで見たような気がする)
そろそろ営業時間だ。エミリー達は足早に広場を後にした。
酒場に戻ると赤髪の少女と黒髪の女性が待っていた。
「いらしゃいメアリ!」
「約束してた家庭教師をお連れしました」
「はじめまして。ブレンダといいます。甲式魔術学校の三年生です」
「私はエミリー。はじめまして」
「キメラやワイバーンと戦いに行くと聞いていたので怖い子かと思ってたけど安心しました」
「どういう噂が立ってるの私……」
早速、教えてもらう日を決める。
魔術学校が休みの土日の昼間しか都合が合わない。
夜は仕事があるからだ。
「ええっ!エミリーさんはお休み無いんですか?」
「ワイバーンにさらわれた日はお休みでした」
「……」
「でもお金もらえるからね。毎日暇よりも毎日仕事あったほうがいいですよね?」
「ま、まあ、そうですかね。私、宿題を必ず出すんですけど今日出して帰っていいですか?」
「はい」
「苦手な科目ってありますか?」
「歴史」
「じゃあ来週までに帝国の歴史をまとめておいてください。簡単で良いので」
「はい。毎週図書館に行っているのでちゃんと調べておきます」
図書館には異世界の本も並んでいる。
大部分はここ数十年で魔術でサルページされた情報だ。
人類が異世界の技術を利用するにはさらなる研究が必要とある。
「宿題は帝国の歴史だったよね。簡単にまとめてありそうな本は沢山あるなあ」
初学者向けの本を手に取ってパラパラとめくってみる。
王家の変遷、各国の統廃合、帝国の成立、魔族との大戦のまとめについて書かれていた。
「これの目次を参考に大体の流れを書き写してみよう」
二時間ほど取り組んだが思ったよりも捗らない。
(興味のない科目はつらい……)
本を戻し、紙とインクをしまって帰り支度だ。
そろそろ仕事の時間だ。
帝都に着たころは紙もインクも貴重品で手が出なかったが今は自由に使える。
「勉強の環境は格段に良くなってるはずなんだけどなあ」
酒場に帰るとすでにお客が来ていた。ウイスキーの瓶を傾けて手酌している。
「お帰りエミリー。お邪魔してるよ」
「いらっしゃいませジュリア。体の調子はどう?」
「平気平気。あんたこそ大丈夫だったの?生き残った中で一番服がボロボロだったからね」
「うん。私、結構丈夫かもしれない」
「それは良かった」
二階で制服に着替えて降りるともう一人客が増えていた。
「エミリー。この人ほら、この前の」
「ここのウェイトレスだったのか。俺は帝国騎士のウェルターだ」
「この前はどうも。ウェルターさん」
ジュリアに追加報酬を渡しに来たらしい。
犠牲者が多いため、王宮に呼び寄せての手渡しははばかられたようだ。
彼女が受け渡し場所に指定したのはこの酒場だった。
「それからこれ」
彼がジュリアに渡した白い箱。
中には赤いヒールが入っていた。横からクレアが覗き込む。
「へえ。これ高い店だよ」
「なんでまた私に?」
「靴を無くして泣いてたので」
「いや、靴を無くしたから泣いてたわけじゃないんだけどね。報酬だけで良かったのに。でも、ありがと」
さっそく履いてみる。案の定サイズが違う。
「私には大きすぎるな」
「いや、強かったので足もこれくらいはあるかと思って」
「どんなイメージだよ……」
「じゃあ一緒にサイズ合わせに行かないか。少し履いただけなら交換もできるらしいし」
「新手のナンパ?」
「違う」
クレアとエミリーはニヤニヤしながら二人のやり取りを見ていた。
見るからにウェルターは堅物で、本当にそのつもりは無いかもしれない。
「エミリー連れてさ、明日にでも買いに行ったら?お昼もおごってもらいなよ」
「うむ。明日なら良いぞ」
「なんで勝手に話がまとまってるのよ……」
====================
アグラットは顔をしかめた。
「この像ですね。結界の中心は」
「帝都の中までは見れなかったが、遠く離れていても分かっている。この像の前でニコラが毎日結界を張りなおしておったことが。60年間欠かさずだ」
「この像のせいでエミリー様との楽しいはずのひと時が台無しに」
剣の魔将軍は素振りしながら感心した。
「60年欠かさずとは殊勝なこと」
「お主も数百年、毎日素振りを続けてるではないか」
「は。これは愉しみですが、やつのは執念かと」
「それなら汝も心当たりがあるだろう。執念には気を付けよ」
「心得ております」




