ヒールを脱ぎ捨てて
★おしらせ★
このお話から、毎晩10時に投稿してみようと思います。朝、待っていてくれたかた申し訳ありません。
本日2話目の投稿です。
付いて行くと言い出したのはエミリーだ。
だが、ジュリアは安全だろうと言ってしまった。
(考えられる限りで最悪の最期じゃないか)
まさかワイバーンの餌食になるとは。
彼女が最期に杖で指示した方角には善戦している人々が居る。
(確かに私は周りが見えていなかった。最初から彼らの近くにいけば良かった)
ワイバーンに掴まれながらも、エミリーはジュリアに生きる道を指し示したのだ。
(怖かっただろうに)
目頭が熱くなる。
炎のカーテンが薄くなり、ワイバーンの火炎の熱が通り始めた。
「くっ!」
手前の小さなワイバーンを火球で追い払うと、ヒールを脱ぎ捨ててジュリアは走り出した。
(それどころじゃないけど靴、もったいないな)
その隙を見逃さずにワイバーンが追撃する。
杖で追い払おうとしたが、魔術師はあまりにも無力だ。
空振りして体勢を崩したところをワイバーンの尾で叩かれた。
おそらく転倒させるためで、全力で叩かれていたら崖から落ちているだろう。
「ぐうっ……」
とどめとばかりに覆いかぶさったワイバーンの頭に矢が突き刺さった。
帝国騎士が駆け込みざまに巨大な槍でワイバーンを貫く。
「大丈夫か!」
向こうからも近付いて来てくれたようだ。
「なんとか生きてる」
「そうか。あとは俺たちだけのようだな」
ほぼ全滅。
残った3人を視た。
彼らは力を合わせて効率的に戦っている。
目視で得物の魔力を測ったところ、彼らが手にしているのはどれも+1の武器だ。
技量と得物のレアリティが一致するとは言えないが、この窮地を打破できるような英雄は居ないだろう。
それにしても。
数人逃げたが、30人があっという間に4人。
「すまんな。俺たちもいっぱいいっぱいだ」
「いえ。私も最後までやるわ。申し訳ないけど、私の魔力が尽きたらその槍でお願いね。ワイバーンにつつかれるのは嫌なの」
「分かった」
鞭使いが弓とジュリアを護りつつ、ありったけの力でワイバーンに攻撃を打ち込む。
槍使いの騎士は二人を守ったり反撃に転じたりと忙しく立ち回る。
決死の4人は次第に息が合い、互いを補うように連携が出来るようになってきた。
だからこそジュリアには分かる。
(私の魔力が尽きれば一気に終わるなこれは)
「これで17」
鞭使いは皆で倒したワイバーンの数を数えているようだ。
だんだん個体が大きくなってきている。
弓使いが声をあげた。
「あれは何?」
異形の群れが近付いてくる。弓使いの声は震えた。
「援軍……」
「わざわざご足労頂いて。奴らが来るまで頑張らないと失礼だな」
ジュリアは思わず帝国騎士の顔を見た。諦めてはいない顔だ。
最近の騎士はクズばかりかと思っていたが、なかなか良い男っぷりだ。
「くっくっく」
「何がおかしい。炎の魔術師」
「あのさ。洞窟で死にたいんだけど」
「どういうことだ?」
「せっかくだから自己紹介とお話をしたいわけ。洞窟には私の魔法で数分ほど蓋が出来るから」
弓使いも同意した。
「私も疲れてきました。もう腕が上がりません」
鞭使いは不満顔だ。
「俺はまだまだこれからだ。話すことなどないわ」
「じゃあアンタが責任をもって腐れトカゲどもを調教しなさいよ!芸を仕込んだら見に行ってあげるわ!」
鞭使いは噴き出した。
「この状況で良くつまらん冗談が言えるな」
騎士が大きく槍を傾けてから、薙ぎ払った。
「いちにのさん、で洞窟に駆け込むぞ」
「いち」
「にの」
「さん!」
洞窟に次々駆け込む。不満顔だった鞭使いが一番速い。追い抜かされて最後尾はジュリアだ。
(こいつら女の子速度しらないのかしら)
振り向きざまに杖を振りかざすと勢いを付けて地面にたたきつける。
今まで自分を支え続けてくれた大切な杖。人生最期の大盤振る舞いだ。
「攻撃的戦闘放棄」
杖にはめこまれた真っ赤な宝石が砕け散った。
洞窟の入り口に巨大な火柱が出現した。
火柱は生きもののように手を伸ばしてワイバーンを追い払う。
「しばらくは相棒が戦ってくれるから」
ジュリアは洞窟に腰を下ろした。
「相当な逸品だろうに使わせてすまなかったな」
ジュリアは涙をぬぐった。
「まあね。そこそこ高いよ。私はジュリア。逃げ道とか繋がってないかと期待したけど狭いねここは」
「俺は帝国騎士ウェルター。そっちの弓使いは」
「エルザです。よろしく」
「俺はキア。ワイバーンの援軍が到着するまでよろしく」
「さっきの援軍、ワイバーンじゃなくてドラゴンよ」
「なぜ分かる」
「一般的にワイバーンは赤と緑だから。ドラゴンは知能が高いうえにブレスの威力もワイバーンの比じゃないわ。完全におしまい」
洞窟内に重苦しい空気が漂う。
「……さっきはありがとう。みんなのおかげで助かった」
「うむ」
騎士は槍を拭いている。
「この期に及んで武器の手入れ?帝国騎士ってことはお金持ち?」
立て続けの質問にウェルターは困惑しつつ首を振った。
「普通だと思うが」
「あんたらの普通って信用できないのよね。騎士って貴族ばかりだから。最近はゴロツキも騎士に成れるみたいだけど」
「まあ俺は貴族階級ではある」
「エルザとそっちの鞭男は?」
「私は傭兵です」
「鞭男ってなんだよ裸足女のくせに」
ジュリアの足は泥だらけである。ジュリアは赤面した。
「さっきまで履いてたのよ!さっきまで……」
さっきまでエミリーが荷物を持ってくれていた。
だからヒールを履いていられたのだ。
「今度は靴くらいで泣くなよ」
「うるさいわね!」
表が妙に静かだ。杖の魔力は完全に尽きたのだろう。
ジュリアは覚悟を決めた。
それにこの騎士は腕が良さそうだ。いざとなったら楽にしてくれるだろう。
「……奴ら、なかなか入ってこないな」
「私みたいに靴脱いでるんでしょ」
明らかにおかしい。
おそろおそる外の様子を覗う。
圧巻の光景。
辺り一面黒一色であった。
ワイバーンに代わり、ドラゴンがズラリと並び、じっとこちらを見つめている。
その異様な光景に、エルザは悲鳴をあげて尻もちをついた。
その時、巨大な風が巻き起こった。
上空から黒い影。その翼は山を覆い尽くさんばかりに見える。
あまりの大きさにゆっくりと降りて来るように見える。
「黒龍王……!」
帝国史に記録される黒龍王は先の大戦で魔王に付き従い数万の兵を焼き殺したとある。
あの巨大な口から火炎がマグマのように噴き出すのならば、あながち誇張とも言えまい。
「我が山で……」
黒龍王は人間の言葉を発した。
「大暴れした人間ども。生き残ったのはこの4匹か。ワイバーンも我が眠っている時はさぼり、目覚めると山を守護するとは。これだから知能の低いやつらときたら」
脚の次に巨大な顔が洞窟の前にゆっくりと着地した。
その鼻息に当てられ、エルザは弓を落した。
飛ぶ獣を多数狩って来たからわかる。
この矢でどうこうなる相手ではない。
(でも、なぜ殺さず声を掛ける?)
次の瞬間、ジュリアは信じられない声を聞いた。
「ジュリア!よく無事で!」
黒龍王の頭の上にはエミリーが立っている。
ジュリアは頭が真っ白になった。
「何がどうなって……。エミリー、あんた黒龍王飼ってるの?」
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「良かった。黒龍王はワイバーンのアホどもとは違うようだな」
「申し訳ございません魔王様。忌々しい結界により頭がまわらず、エミリー様が死地へ飛び込むのを救えませんでした」
アグラットは帰還したばかりだ。体調もいつのまにか回復していた。やはり魔王城は落ち着く。
「それは失態であるが、エミリーが生きているかぎりは、お前を評価せねばなるまい。エミリーの仕事がいかに素晴らしく大変なものであるかをお前は示してくれた」
娘が無事ならその他のことは気にならない。
「近頃は娘のことで笑ったり泣いたり、正直、かなり苦しい」
「魔王様おいたわしや……」




