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モニタリング!魔王令嬢 ※田舎育ちの魔王の娘が普通の人間として社会で学ぶ~帝都で暮らす愛娘を魔王と幹部が極秘観察してる件~  作者: えむ@毎晩10時更新中


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予期せぬ来客

最近のエミリーの生活は規則正しい。


図書館で勉強をして、夕方から働き明け方に眠る。


この繰り返しである。


(ここでの暮らしも慣れて来たなあ)


人生にはつねに新しい不安が生じる。


蛇の杖の行方も気になるが、やはり一番の心配事といえば。


(勉強が進んでる気がしない)


ルーン文字の意味や呪文の暗記は出来るが自分の力ではどうしようもない内容もある。


(来年も歴史から出題されるのかな)


優秀な人間なら本さえあれば自ら学ぶことも容易いだろう。


歴史の本を開いたエミリーはその量に圧倒された。


どこが重要でどこがテストに出ないのか見当もつかない。


(私はあまり出来が良い方ではないみたい。字は読めるんだけど、どんな本を読んでもさっぱり分からない)


「エミリー!お客さんがもう来たよ」


下からクレアの呼ぶ声がする。今日の一番客は早いようだ。


「はい!今いきます!」


階段を降りると彼女が立っていた。


「エミリーさん!」


「メアリ!」


続く言葉が出ない。二人は無言で近付くと抱き合った。


「メアリ。合格おめでとう!」


不思議なことだが、エミリーはこの一言を発することで自らが救われたような気がした。


メアリに対しての劣等感はもちろんある。


だがその気持ちも素直に受け入れらるように気持ちが変化したのかもしれない。


再受験を決意したからだろうか。


「ありがとう。エミリーさんはここで働いてるんですか?」


「見ての通り。でもどうしてここに?」


「ほら、家庭教師の募集が広場の掲示板に貼られてて。『エミリー』ってあったからひょっとしてと」


「ああ……」


あの一文がメアリの目にとまるとは思わなかった。だが何よりも会いに来てくれた事がうれしい。


クレアは隣の席を拭きながらに二人の顔を見比べた。


「あんたクリミアハリルに友達居たんだ」


「受験の時に知り合いました」


「ごめんなさい。仕事中ですか?」


「そうだよ」


「じゃあオレンジジュースください」


メアリはクレアにオレンジジュースの代金、銅貨10枚を払った。


(へえ。賢そうな子じゃないか)


注文を受けたエミリーは厨房でマスターにことわりを入れた。


「オレンジジュース注文です。友達が来てるんです。ちょっと話してもいいですか?」


「ああ。次の客が来るまでならいいぞ」


「はい!」


ジュースを運ぶと、メアリは酒場の掲示板でエミリーの依頼を読んでいた。


おそらく人生初の酒場だろう。


メアリはエミリーにジュースをすすめた。


「リンゴのお返しです。お先に半分どうぞ」


二人でジュースを飲む。


「学校は楽しい?友達は出来た?」


「ええ。楽しいです。宿題は多いですが。……エミリーさんは村に帰らなかったんですか?」


エミリーはこれまでの経緯をかいつまんで説明した。


「じゃああの蛇の杖を取り戻すために帝都に?」


「最初はそのつもりだったんだけどね。今は違うかも。私、ママが死んでから、パパや村の人に護られて育ったの。村では自覚無かったんだけど、ここで暮らしてみて分かったの。甘ったれだったんだなって」


「そんな。エミリーさんはかなり自分に厳しいと思いますよ」


「ありがとう。でもここでどんなに頑張ってても、村に帰ったら私はきっと甘えてしまう。私は甘えん坊だからね。私はここで頑張ったら素敵な大人になれるかもしれない。そんな気がするの」


あの宿屋で会ったエミリーとは大分印象が違う。


「エミリーさん。……私も頑張らなきゃって思いました」


「ええ?メアリはすでに合格してるし頑張っていると思うよ」


メアリは本題に入った。


「それで、家庭教師の件ですが……」


「そうそう!勉強教えてくれる?もちろんお金は払うよ」


「いえ。丙式魔術学校は校則が厳しいのです。バイトがばれたら叱られちゃいます」


「そかあ。じゃあ仕方ないかな」


「その代わり上級学校の甲式魔術学校の女の先輩に頼んでみます。甲式は働いてる人も多いですし」


「本当に!?」


「今度話しておきますね」


「ありがとう!メアリ大好き!」


酒場に客が訪れた。二人はまた会う約束をして別れた。


いつものように営業が始まる。


今日はあまり客足が伸びない。


静かな日に一風変わった客が訪れた。


幾重にも重なる薄紅色と白のフリルに身を包み、ふわりと広がるスカートにはリボンが付いている。


髪留めは髑髏で爪は黒い。目の下には隈があり、けだるげな表情を際立たせている。


「いらっしゃいませ!ご注文は?」


「どもども!エミリー様、じゃなかったエミリー!」


「アグラット!」


「なんて可憐なお姿!伯父様からのお手紙持ってきたよぉ」


まさか村人がこの酒場に姿を現すなんて。


机にピンクのトートバッグをドンと置く。


空けると中には干し肉がぎっしりと入っている。


「一緒に食べようよ」


「ちょっとお客さん。持ち込みは困るよ!」


クレアが渋い顔で近付く。


「あ~!あなたがクレアさんね?いつもエミリーがお世話になってますぅ」


スカートの裾をつまんでお辞儀をした。実際の所、感謝している。


「この子、いとこのアグラットです」


アグラットは両手を広げて一回転した。


「どうもどうも。伯父さんが職場の皆に感謝してるって。それを伝えに来たの。マスターいる?」


「キッチンに」


カウンターから身を乗り出して首を傾けた。


「私、エミリーのいとこのアグラット。いつもエミリーに優しくしてくれてありがとう。あと、マークさん?もね」


「そうか。ゆっくりしていってくれ。今開店直後で忙しくてすまんな」


忙しいのか、少し警戒しているのかそっけない。


(人間と話すことなんてないから距離感難しいなあ。エミリー様たいしたもんだわ)


「アグラット、ごめんね。今みんな忙しいの。私も村のこととか聞きたいから私の部屋で待ってる?」


「エミリーの部屋行きたい!でもぉ」


「でも?」


「干し肉、一緒に山ほど食べようと思ったんだけどな。お腹すいたし」


クレアが営業スマイルで近付く。


「ここの料理はおいしいのよ。ぜひ」


「ああ、そうだ。伯父さんに人間の料理を沢山食べてきて感想を聞かせろって言われてたわ。エミリーの酒場へ恩返しにもなるし。じゃあ食べて恩返しだ」


懐から銀貨の袋を出した。


クレアの目が輝く。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「メニューの左上から一つずつ持ってきて」


クレアは少なからず驚いた。村にはメニュー表というものがないのだろうか。


「左上から?えっと。一品ずつ食べ終わったのを見てから出せばいい?」


メニュー表は食べ物のカテゴリー別に分かれている。米をふんだんに使ったパエリアやリゾットが十種類ほど並ぶ。


「最初は米ばっかりになりそうだけど」


「急いでないしそれでいいよ」


メニュー表を見て、料理の名前を覚える。


香り、味、見た目、量などを確認しながらゆっくりと味わう。


(魔王様と味覚をつなげようとしたら拒否られたからなぁ。覚えて帰らないと)


食べ物を刺し、口に運び、飲み込む。淡々と作業をこなしているようだ。


骨付き肉を骨ごと音を立てて食べ、熱いスープもそのまま飲むとさすがにクレアも心配になってきた。


「大丈夫?無理してない?エミリーの村は大食い一族なの?」


「大丈夫。成人男性1体くらいは食べれるからぁ」


「いや、男性もそんなに食べれる人いないよ……」


食べながらエミリーを観察する。


無駄な動きもなく、迷うことなく、仕事をこなしているように見える。


(私には無理だわ)


今日も演奏に合わせて歌が始まった。


歌い手は帝国劇場の研修生リーナだ。


レチタティーヴォの丘の歌。


アグラットの様子を見てエミリーは皿を落としそうになった。


(な、泣いてる)


口に食べ物を運ぶ動きは変わらないが、拭う気もなくとめどなく涙が流れている。


(アグラットって意外と感受性豊かなんだ)


曲が終わるとアグラットはエミリーに向かって手招きした。


「なあに?」


「このメニューの『エミリー』ってなに?まさかエミリー様……」


慌てて否定する。


「ちがうちがう。焼きそばって食べ物なんだけど、そればっかりすすめてたら常連さんがエミリーって呼ぶからそうなっちゃったの」


「びっくりしたぁ」


「私もびっくりだよ。それより食べ過ぎじゃない?お腹壊れないの?」


「え?食べ過ぎてる?私」


まわりの客も見ている。


「メニュー全制覇チャレンジやってるんでしょ?あとはアルコール類だけど無理しないでね」


アグラットはエミリーの耳元に体を伸ばして囁いた。


「あまり目立ちたくないんだけど。さっさと呑まないといけないので全種類持ってきて」


早めに飲んでエミリーの部屋へ退散したい。


キッチンではマークもマスターも呆れを通り越して恐怖を感じ始めていた。


食べる速度はゆっくりだが、尋常ではない量を食べている。


「アルコールは瓶で出すなよ。値段下げていいから。死人を出したくないからな」


ビールからはじまり、ウイスキー、エール、ワインとゴクゴク呑んでいく。


火酒も水のように飲む。


全メニューの味を確認した。魔王様によい報告が出来そうだ。


「これでメニューはお終い?」


単なる確認のつもりだったが、大食い自慢の余裕のような発言に聞こえたようだ。


見ていた客達は数秒の沈黙後、割れんばかりの大歓声と拍手で称えた。


「すげええ!」


「おい!全メニュー制覇だぞ!」


「嘘だろ!こんなの初めて見た!」


「嬢ちゃんすげえよ!飲み代おごってやるよ!お前たちも出せ!」


熱狂する酒場の中心でアグラットはぽかんとしていた。


=================


魔王は呆れていた。


「あれほど目立つなと言っておいたのに、しっかり浮いておるな」


今日の剣の魔将軍は腹筋を繰り返している。


「人間に近しいアグラットですらこうなので、行かなくて良かったです」


「お主が行ったら喧嘩自慢に挑まれ続けて戦争になるわ。まあアグラットがマスターに感謝を伝えてくれたので満足とするか」


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