キメラ退治
アリスタ村は帝都から馬車で一日かかる。
マスターはフルプレートの鎧とバトルアックスを用意した。現地で着る。
マスターの性格から予想がつくが、よく手入れされ磨き上げられている。
エミリーは感激の声を上げた。
「かっこいい!キラキラしてきれいだなあ」
「お前たち。数日空けるから店は任せたぞ」
「えっ。今日行くんですか?」
「こういう美味しい案件は取られちまうだろうが。さっさと準備しないと」
エミリーは胸が高鳴った。なぜかわからないが、自分の身体は冒険に胸躍るらしい。
「マークさんやクレアさんは付いて行かないの?」
「まさか。なんで俺が」
「めんどくさ。逆になんで目を輝かせてるのよ」
エミリーは色々聞きたくてたまらない。
「キメラって弱いんです?一人で倒せるの?」
「弱いわけない。まあキメラって言っても色々いるんだ。頭の良いやつは人里に理由もなしに出ないがな。ただ、念のために馴染みの魔術師を連れて行く。誰にするか決めないとな」
「魔術師!」
エミリーは回復魔法や、調剤の出来る魔術師を目指しているが、攻撃魔法のことを考えるとわくわくしてしまう。
(パパの村では弓矢で狩りをしていた)
攻撃魔法をこの目で見てみたい。
「あの、私……」
「駄目だ」
「えっ。まだ何も」
クレアが口を挟んだ。
「この子、魔術学校の受験生なんだって。それに人里に出るキメラって雑魚なんでしょ。見学させてあげたら?」
「冒険を舐めてたら死ぬぞ?それでも良いなら勝手にどうぞ。忙しいんだこっちは」
二時間後。
帝国東地区聖女広場。
真っ白な聖女の像には魔法がかかっていて汚れを寄せ付けない。
おそらくこの像に聖女を信奉するマメな魔術師が魔法をかけているのだろう。
「久しぶり。私にお声が掛かるなんてね」
身の丈を超える長い杖に長い髪。ローブをまとった若い女性が現れた。
エミリーは年齢当てに自信をなくしている。
かかとの高いヒールを履いている。
(動きやすい靴を履かなくていいのかな)
「魔術師が必要だからな」
「でも普段はあいつ呼ぶでしょ。あの根暗男。先払いで金貨30枚。成功で20枚頂くわよ」
「ふん。ちゃんと働いてもらうぞ」
エミリーは全く紹介されそうにないので、自分から軽く頭を下げた。
「えっ。広場で遊んでる子供かと思ったわ。ひょっとして娘?」
「うちの店員だ」
「エミリーと言います」
「うわあ!可愛い。リボンなんて付けちゃってまあ。私はジュリア。よろしくね」
馴れ馴れしく抱きしめられてエミリーは狼狽した。
「こ、これは制服です。よ、よろしくっ」
ジュリアは察した。どうやら少女を連れ歩くということで、女である私が呼ばれたのだ。
(このハゲ男。昔から意外と気をまわすのよね)
「で、アックスが連れて行くくらいだから、こう見えて、相当な使い手なんでしょ?」
「いや。戦力にはならない。ゴブリンどころかスライムにも負けるくらいだと思え」
「へ、へえ~」
確かに安物の杖を抱えて不安そうな顔をしている。どうして付いて来たのか。
「いいか、エミリー。宿代と馬車代は自分で払えよ。村に着いたら宿屋から出てくるな。約束通りこれを守れよ」
「はいっ!」
「はいっとか可愛い~」
再び抱きついてエミリーの魔力をそれとなく量ってみたが、確かにライト一回使えるかどうか。
(本当に戦力外なんだ。この子)
村まで馬車に揺られる。
(久しぶりの馬車だな。蛇さん元気かな。出入り禁止になっちゃったからなあ。受験で村を出たのが昔のようだな)
「エミリーって学生?魔術学校はバイトって出来たっけ」
「いえ。落ちちゃって……」
「ふうん」
「あの、お姉さんの杖について聞いて良いです?」
「ジュリア。呼び捨てで良いよ。あと敬語はいらない」
「ジュ、ジュリアの杖って+1なの?」
ジュリアはくっくっくと小さな声で笑った。
「グレード気にするんだ。+2なんだけどね。大枚はたいて買ったよ。命を預ける商売道具だし」
「なんか長くて私は好き」
「ね。この長さが良いよね。気に入ってるんだ」
女たちの会話の横で、マスターは石像のようにじっとしている。
「マスター怖いでしょ」
「ぜんぜん。優しいです」
「認識改めた方いいよ。この人、結構がめついし。酒場周辺のゴロツキは全員支配下に置いてるし」
マスターは相変わらず黙っているが、苦虫を嚙み潰したような表情になっている。
ジュリアはその顔を見て、くっくっくとまた笑った。いじりがいがあるようだ。
村が近付いてきた。煙突から黒い煙が上がっている。
物見やぐらには人影も見えた。哨戒しているようだ。
「腕が鳴るなあ!ジュリアさまの高等魔法さく裂しちゃうよ!」
「使えるのはせいぜい中等魔法だろ。お前がやる気満々だと嫌な予感しかしないんだが」
村長の館は立派なレンガ造りだった。
「豪邸じゃねーか」
着くとさっそく依頼主である村長から話を聞いた。
「キメラがうろつくようになったのは今年に入ってからです。実害が出たわけでは無いのですが、目撃される北側には物流の要である三叉路があります。帝都にも続いておりますし」
「どんな種類のキメラ?」
「獅子の頭に蛇の尾を持つやつです」
ジュリアは少し驚いた様子だ。
「えー。結構ヤバい奴なんじゃないの?」
「ほう。これは少し思い違いをしていたようだ。話しかけられたりしましたか?」
「そのような報告はありません」
エミリーは大人たちの表情から、思ったよりも大変そうな案件だと感じていた。
金貨300枚が支払われるのだ。当然かもしれない。
「目撃時間はいつ?村に入られたことはない?」
「夜がほとんどです。村に入ったら大騒ぎじゃすみませんよ!ただ……」
「ただ?」
「村の様子を覗っているような気がするという者もいます。薄気味悪いことですが」
エミリーは少しピンときた。
村にキメラの好物や餌があるのではないだろうか。
「穀物倉庫狙いじゃないですかね?」
「はあ?森は餌の宝庫ですし、なんで危険を冒して人里へ?」
「お前は黙ってろ」
「ごめんなさい」
ジュリアは口を開いた。
「今年になってから何か村に変化はありませんでしか?」
「ううむ。これといって……。景気は良くなりましたが」
エミリーは首をかしげた。
(景気?)
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「余の悪い予感が的中だ。エミリーが付いて行ってしまったぞ。大丈夫なのか?」
「魔王様。エミリー様は宿から絶対に出ないとお約束されてました」
「余の娘は好奇心が強いから心配だ。サタナキア!」
「は、はっ!」
「アモンの様子はどうだ」
魔王の低い声にサタナキアは冷汗が止まらない。
「それが連絡が全くつきません。魔王様が繭に籠られてから独自の動きをする魔族が多くて」
いつの時代でも魔王が回復繭に入ると、このような事態になる。
勝手気ままなやつらだ。
力を取り戻さねば。
ただ、魔王と人間の怪我とは違う。数年かかって膨大な魔力を戻していく作業になる。
(エミリーを危険に晒したくない。見守るしかできぬ人間の親は本当につらい)




