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モニタリング!魔王令嬢 ※田舎育ちの魔王の娘が普通の人間として社会で学ぶ~帝都で暮らす愛娘を魔王と幹部が極秘観察してる件~  作者: えむ@毎晩10時更新中


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苦手なもの

貴族の館は帝国の右京区に集中している。


マインツの屋敷には巨大な魔法塔がそびえたつ。


彼はこれを使い、帝都から遠く離れた諸侯の動向を瞬時に知ることが出来た。


帝国議会は、貴族、地方領主、民衆の代表から構成されている。


常に情報を集めておかねば足元をすくわれる可能性がある。


マインツは若いころから自分の力を過信しないよう、用心深く生きて来た。


(何事も根回しだ。必ず貸し借りを作り、積み重ねて、信頼を得てこそ)


魔法塔に作られた贅沢な部屋から策を練る。


マインツは大きな戦争を体験していない世代である。


自分の世代は大戦がもたらした技術を享受しつつ、帝国の発展に寄与してきた自負がある。


(魔族を相手にするだけなら馬鹿でもできる)


二年前の隣国への魔王軍の侵攻。


この時も静観を決め込んだ。おかげで戦力も温存が出来た。


「マインツ様」


「入れ」


官僚のヨハンはよく尽くしてくれる。帝国の発展だけを願っている男だ。


「『流木』のご報告をいたします」


ユーリ達のことである。誰にも聞かれない場所だが、用心にこしたことはない。


「どうなった?」


「失敗したようです」


「ふん。口ばかりだったな。奴らならなどその程度よ」


あまり期待などしていなかったが、相手は子供である。それすらも片付けられないとは。


協力体制も見直す必要がありそうだ。あるいは利用するだけして切るか。


「人を送りますか」


「いや。ただし居場所だけは把握しておけ」


「承知しました」


「それから、魔道具はどれほど集まった」


「まだ目標の半分にも満たないです」


「急げ」


皇女の動向は予想通りであった。


(やはりおいぼれを頼ったか。所詮は子供の発想よ)


暗殺は魔族に任せているが、あえて泳がせてどの侯爵に頼るのかを見ても面白い。


(それより宮廷で不穏な動きがある。こちらが最優先だ)


戦費の捻出もしたい。税に加えて諸侯からの帝国への朝貢も求める。もちろん議会の承認がいる。


「やることが山積みだな」


マインツは椅子から立ち上がりテラスへ出た。


夕闇せまる中、愛する帝都が眼下に広がっていた。



村に滞在して一週間が過ぎるころ。


仕事をみつけ、手伝いをする三人の姿があった。


今日は灌漑整備のために、木材の調達に行く。


「ラフラス様はいつまでここにおられるおつもりですか?」


「その言葉、おぬし達にそのまま返すわい」


リュクロスはラフラスが剣を佩いていないことに気が付いた。


「剣は……どうされたのですか」


伝説の剣士である。健康そうに見えて、もう剣は握れないのだろうか。


「ここでの印象が悪くなるのでな。必要な場合は取りにいくわ」


リュクロスはラフラスの力が知りたい。そもそも世代が違いすぎる。


話半分に聞いても誇張されているとしか思えない。


「稽古を付けてもらえませんか」


「仕事が終わってからならよいぞ」


あっさりと許可が出て拍子抜けした。


夕方。


「そこの枝をとれ」


「この剣ではいけませんか」


「そんなの振り回されたら、わし死んじゃうじゃろ。天国に送る気か。そういう帝国騎士団ギャグか?」


手ごろな大きさの枝を探す。


少し太くても握り込める。


腕力には自信がある。


老人は小枝を拾った。


(私を馬鹿にしてるのか)


「打ち込んでくるのじゃ、あぶなっ!」


リュクロスは老人の言葉が終わる前に全力で打ち込んだ。


ラフラスの着る鎧は一級品である。


多少手荒なことをしても平気だろう。


(こんな年寄りに躱された?でも次の踏み込みは避けられまい!)


バシィ!


乾いた音がした。


手ごたえあり。


だがリュクロスの握る棒は真っ二つに折れていた。


「うむ。久しぶりにやったが当然出来るな」


リュクロスは身震いをした。


小枝で棒を折れるわけがない。


「今のは、何でしょうか」


「少しは考えよ」


「分かりません」


「お主、ユーリと違っておつむが弱いのう」


リュクロスは恥ずかしさで赤くなった。


「二通りの方法がある。一つ目はお前のように、剣に魔力を集めてぶつける方法」


「私のようにとおっしゃいますが出来ません。魔力の発動具である魔法剣でなら可能ですが、枝で出来ると思えません」


「なに?魔法剣を使わねば出来ぬのか」


「恥ずかしながら」


「まあ戦がない時代が長かったからのう。あとひとつはこれじゃ」


老人が素早く手首を返すと離れた場所の葉がバチンと音を立てて散った。


師匠がやっているのを見たことがある。音速剣(ソニックブレード)。


「驚きました。グラハム団長のみが出来る技だと」


「大戦に参加した騎士は結構やってたぞ。ほんの少しだけ魔力を乗せる。慣れれば木の棒くらいは真っ二つじゃ。グラハムから教わってないのか。つくづく指導者向きではない奴じゃの」


リュクロスは唇をかんだ。折れた棒を持つ手が震えた。


「どうした?」


「グラハム団長はこの世にもう居ません」


「なんじゃと」


どこから話せばよいのか。ラフラスを議会に復帰させるためにも物事を正確に伝えねばならない。


感情が高まって自分では上手く話せない気もする。


「グラハムがなぜ?まだ若いだろうに。病死か?」


「団長は帝国騎士団の名誉のために戦い倒れました」


「どういうことじゃ?」


「近年、力のあるものを帝国騎士に登用する事例が増えていました」


力があるものを登用するのは普通のことだ。


だが、帝国騎士団の構成員は大戦で武功を立てた貴族の子弟が多い。


幼少期から騎士道教育を施しやすいからだ。


「帝国騎士は武の力以上に礼節と規律を重んじます。新加入した騎士たちはマインツ卿の息のかかった者ばかり。彼らは街の盛り場や城内でも恐喝や暴力沙汰を起こしています」


「ふむ。騎士は強ければよいというものではない。新参者が勘違いしてしまったか」


「彼らのリーダーはヘルドレイクという男です。もともと北方領主の騎士でレガリア『ダーインスレイヴ』の使い手です」


「以前の持ち主を知っているが、やっかいな剣じゃな」


「マインツ卿の騎士団は強いです。でも強いだけです。彼らは騎士の風上にもおけません」


「なるほど。ならばグラハムは黙っておらんじゃろうな。騎士の鑑のような男だからの」


「マインツ卿は古い価値観を持った人間は去れと団長を挑発しました。一度は突っぱねたのですが、結果としてヘルドレイクと決闘させられました」


「私的決闘は騎士団憲章で禁じられてるはずじゃが」


ラフラス自らも騎士団憲章の草稿に関わっている。


「マインツ卿の招集した議会を通して承認された決闘です。グラハム団長が破れたことで騎士団を去る者も多数出ました」


「しょうもない事に議会を使って、反対勢力が一掃されてしまったわけか。だがグラハムが破れるとは相当な使い手じゃな」


剣の師匠の敗北を思い出し、リュクロスはうつむいた。


「数合打ち合っていました。最後はグラハム団長が渾身の一撃でヘルドレイクの剣を弾き飛ばしました。そしてとどめの剣を振りかざした次の瞬間……」


「地面を擦るように引き寄せられた妖刀がグラハムを刺し貫いたのじゃろう」


「なぜそれを」


「ダーインスレイヴは抜いたからには人の命を奪うまで鞘に戻らぬ魔剣。技量負けを感じてわざと剣を手放したのかもしれぬな」


「くっ!卑怯な!」


「命のやり取りじゃ。それに正式な議会の承認を経た決闘なら文句は言えまい」


「そんな言い方!見損ないました勇者ラフラス!」


「戦場は理不尽な死が待つ。負けは負け。勝たねば大切なものは護れぬ。事実、皇女がこんな辺境にまで追いやられているではないか」


「あれは武芸による負けではありません!死の間際、グラハム団長は私にこの剣を託し、皇女をお護りするように言いました。私は必ずあの男を仕留めます!」


言い捨てるとリュクロスは涙をぬぐいながら小屋へ走り去った。


今日の夕食もラフラスが作った。


魚のムニエルにはトマトが添えられている。


皇女も騎士も料理の経験は浅い。


4人でテーブルを囲む。リュクロスは一口も食べない。


「ラフラス様がせっかく作ってくださったのに。具合でも悪いのですか?」


「ユーリ様。ラフラス様を議会に戻すのはやめましょう」


稽古をつけてもらうと行ってから様子がおかしい。稽古で叱られたのだろうか。


「リュクロス。失礼ですよ。食事が終わってからにしなさい」


「いいえ。今言わせてもらいます。帝国のことを真剣に思ってくださるなら、こんな地で隠遁生活などしてないはずです。私はもう分かりました。私たちが失礼だったのも分かりました」


リュミシーは話が見えず、狼狽するばかりだ。


「リュクロス。魚が食べられないならパンもあるぞ」


老人は木のフォークを置いた。言っておかねばなるまい。


「ユーリよ。帝国の治世にとって大切なものは何だと思う?」


ここに来て初めての問いだ。


少し考えてから言葉を選ぶ。


「統治とは人の扱い。命の扱いそのもの。愚かな王であってはなりません。大切なのは王自身の賢明さ、民を想う心でしょうか」


「大外れじゃ。もっとも必要なものは『王の鈍さ』じゃ」


リュミシーはリュクロスに加勢したくなった。


「王は愚かであるべきと?マインツ卿のような男が跋扈するのを黙ってみていろとおっしゃるのですか?」


「そんなことは言っておらぬ。ユーリ殿下は魔術学校を首席で卒業したと言ったな。歴代皇族の中でも優秀な方だろう。だがな。臣下にとっては疎ましい存在になりうる」


「どういうことでしょうか。まだラフラス様がおっしゃる意味が分りません」


「いつの時代、どこの国でも権力を狙う佞臣が存在する。巨大な集団では権謀術数が渦巻くのは当然じゃ。王は彼らに推戴され、受け入れる度量が必要なのじゃ。王は長く生き延び、長く治世を行う。それが日々の暮らしを大切に生きる民の幸せにつながるのじゃ」


「……受け入れがたいお話です」


「政治などやりたい奴に任せておけ。そなたの賢さは圧倒的な力を持たぬ以上、無駄で危険じゃ。魔術学校を首席で卒業?それが何だというのじゃ。南方のサミュエル公爵を頼れ。そこで庇護をうけるがよい。こんなわしを頼ってきたよしみじゃ。公爵宛の手紙も書いておいた。持っていけ」


ユーリはやっと気付いた。この老人はただ、ユーリの命の心配をしてたのだ。


「私は自分の命のことなど心配しておりません。彼は戦をするために軍政の改革を行っています。戦乱の世の引き金になると危惧しています」


「お主の話は推測ばかりじゃな」


「それは認めます。小娘の勘違いであったならそれで良いのです」


「裏に参謀でもいるのか」


「いいえ」


「誰かの描いた絵図に乗っているわけではないのか。ならもっと危険じゃ。具体的にどう動く気だ」


「諸侯を巡り、支持を集め、議会を動かし摂政マインツ様を更迭します。隣国にも協力を求めます」


「甘い。お主の話通りなら殺されるぞ。マインツが何年政治の世界に居たと思う?16の娘がどうこう出来る相手ではない」


「だからこそ、手始めにラフラス様には議長として立って欲しいのです」


「話にならんわ……」


食卓は沈黙に包まれた。


これ以上話すことはない。


皿をじっと見つめていたリュクロスが口を開いた。


「あの、パンとチーズを頂けますか」


「魚が本当に苦手じゃったんじゃな……」



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