制服姿
四日目。
エミリーが制服に着替えていると、クレアが入ってきた。
「あんたさ、今日も焼きそばすすめるの?」
「駄目です?響きが覚えやすいし、本当に美味しいと思ってます!」
「そうじゃなくて、すすめるなら麺を市場で買ってきておくれ」
初めてのお使いである。
銀貨のたっぷり入った革袋を渡された。
「麺なんて普段は買い足ししないんだけどねえ」
「どれくらいですか?」
「知らないわよ。あんたがおすすめしてるんでしょ」
「はい!」
クレアは思わず噴き出した。
「あんた返事だけは良いよね」
休日ということもあって、通りは人であふれていた。製麺所に向かう。
「焼きそば用の麺をください。私が持てるだけ」
エミリーは両手に袋を提げ、市場の店に並んだ食材を興味深そうに眺めて歩いた。
果物や野菜、魚も並ぶ。
途中で女学生の集団とすれ違った。
みんなタイトなミモレ丈のスカートに魔術学校のマントを羽織っている。
(今、メアリが居た!?)
振り返ると赤毛の女学生の後ろ姿が見えた。おそらく間違いない。
政治家を目指すと夢を語っていたメアリだ。
集団は果物屋の前で立ち止まった。リンゴを選んでいるようだ。
(声を掛けられない)
エミリーは足早にその場を立ち去った。
(どうしてだろう)
気が付くとエミリーは走り出していた。
「おめでとうって。どうして言いに行けないんだろう私」
メアリの制服姿、後ろから見てもカッコよかった。
私も魔術学校に通いたい。
心の底から湧き出る思い。
その前にやるべきことがある。
(村のみんなに……パパに受験落ちたって伝えなきゃ)
「戻ったです!」
敬語はまだ少し慣れない。
メニュー表を持ったクレアが酒場の外で待っていた。
「おかえり。結構早かったね。そうそう、店長が今日はこれを使えって」
「これは……!?」
営業が始まった。
常連からオーダーだ。
「嬢ちゃん、注文いいかい?」
「はい!」
エミリーはメニュー表を出した。
「えっ」
男たちはメニュー表を覗き込んで驚くと、一拍おいて爆笑した。
メニュー表にはマスターの書いた大きな字で
『焼きそば』
と一品だけ書かれていた。
下に小さな字で「エミリーが慣れるまでその他のご注文はクレアに」とある。
男たちは笑いながら言った。
「エミリーに注文したら何が出てくるか楽しみだったのに残念だな」
「焼きそば以外がちゃんと来るのか賭けてたのにな」
その日からエミリーは再び銀貨5枚を手に入れた。
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「魔王様。店員も客もエミリー様を気にかけてくれましたね」
「おお。エミリー専用のメニュー表を作ってやるとは。人間のこういう所は非常に好ましいな」
アグラットは足のネイルを塗りながら言った。
「真面目に頑張る子だからでしょうね。私だったらいい加減な態度だから、ここまでしてくれないと思いますよ」
剣の魔将軍は両手に剣を持って二刀流の練習だ。
「魔王様。人間どもの親も娘の職場を見るのでしょうかね?」
アグラットが横から口を挟んだ。
「無理でしょ。親から一定の需要はありそうだけど。娘も全力で嫌がりそう」
「アグラットは人間の精神構造への解像度がやけに高いな。エミリーと働いてみるか?」
「気は乗りませんが良いですよ。でも酒場に来る男を喰いまくりますが宜しいですか」
今度は剣の魔将軍が横から口を挟んだ。
「見たところ、お前好みな男が通うような場所には見えないが」
魔王は繭の中で思わず苦笑いした。
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10話まで読んで頂きありがとうございました!
小説の読み上げ動画も作ろうと思っています。
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