第53話:紫の光
「――――」
「…………」
二人の距離が縮まる。
纏っている色は違うのに、歩く姿は瓜二つ。
だが、わずかに。
片方だけが、半歩早い。
「――――」
「…………」
一方は悲しみを写したような青い瞳。
もう一方は怒りを写したような赤い瞳。
お互いに目が合っているが、その間には意思の疎通はなかった。
あるのは兵器としての存在感のみ。
同時に腕を振るう。
――はずだった。
遅れて、もう一つの腕が振るわれる。
静かに、渦巻く青い水。
激しく、巻き起こる赤い風。
恐ろしいほど、静かな衝撃。
色と色がお互いに削り合う。
その中心地のアスファルトがめくり上がる。
「――――」
「…………」
景色が変わっても、二人の立ち姿は変わらない。
同時に踏み込む。
――ずれている。
ぶつかるはずの軌道が、わずかに外れる。
青が遅れ、赤が先に裂く。
だが、次の瞬間には捲れたアスファルトを中心に位置が入れ替わっている。
「――――」
「…………」
擦り合わせていないのに、動きは同調する。
どちらが先に動いたのか、もう分からない。
青と赤が、混ざりかけて――
拒絶する。
青い水が10個、20個、30個と現れては同じ数の赤い風とぶつかる。
その度にアスファルトは壊れ、ガードレールは圧し折れる。
たった数度の打ち合い。
でも、常人を超えた者の戦い。
「――――」
「…………」
二人の足場から、色が吹き出す。
視点が高くなるが、二人の位置は変わらない。
星が消えかけた空に新しい色が混じる。
青い水も赤い風も帯を引く。
流星のように煌めき。
隕石のように燃え尽きる。
衝突のたびに、空を彩り散っていく。
降り注ぐ残光は幻想的で異質。
「――――」
「…………」
月を背景に無音の夜は終わりを告げる。
片方は流麗な青い水を纏い、もう片方は猛烈な赤い風を纏う。
二人が重なった瞬間。
視線が一瞬合う。
「――――」
「…………」
これまでとは違う激しい衝撃音と衝撃波。
幾度もぶつかっては離れてを繰り返す。
その様はまるで磁石の引力と斥力。
紫色に輝く光は夜明けの空に吸い込まれる。
二人が戦うのは運命だったとしか、思えない円舞の共演。
始まりがあれば、終わりもある。
徐々に削り合う二つの色は輝きを失っていく。
揺らめく色は弱々しく、儚い欠片。
「――――」
「…………」
残ったのは、僅かな赤。
それは、まだ脈打っていた。




