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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


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第43話:侵入者



 別荘にやって来てから三日が過ぎている。


「ただいま、事務所に残ってた銃器類、全部持ってきたぞ」


 黒崎の声が入り口の方から聞こえた。


 私は相変わらず、凪の傍にいる。


 その隣にはりこも心配そうに凪を見つめていた。


 凪はあれから人間らしくなってきている。


 間違いなく、人間らしさを学習しているのだ。


 違和感がなくなればなくなるほど、凪らしさは失われているのに……。


 私たちの表情を読み取ったのか、凪らしきものは首を傾げる。


「二人とも、どうかしたの?」


 りこは下を向いて、膝の上で手を握り締める。


「……なぎ……いなくならないって……いった」


「りこ、何言ってるの?私ならここにいるでしょ?」


 りこに手を伸ばし、貼り付けたような笑顔。


 目の奥は絶対に笑わない、歪んだ顔。


「なぎじゃない!」


 りこは部屋を飛び出した。


 私はりこを追いかける。


 部屋から出る時に見た凪の顔には理解出来ないと書かれていた。


 入り口ではスーツの男と社長が話をしていた。


「その子は危険です。速やかに引き渡しを――」


「そうだろうね」


 社長はあっさり頷く。


 一瞬、空気が止まる。


「私もそう思うよ。あれはもう“人間側”じゃないかもしれない」


 黒崎が目を見開く。


 偶然聞いてしまった私も言葉を失う。


 だが社長は続ける。


「だからこそ、渡せない」


「……は?」


「お前らに渡したら、どうなる?」


 静かに問う。


 スーツの男は答えない。


 答えられない。


「検査、観察、隔離、そして実験……そんなところだろ」


 淡々と並べる。


 まるで見てきたかのように。


「それで“研究”は進むかもしれないね」


 一歩、前に出る。


「――でもそれは、あの子を“人間じゃないもの”にする手順だ」


 視線が鋭くなる。


「私はね」


 わずかに笑う。


「ハンター企業を経営する商売人なのさ」


 場違いな言葉。


 だが、妙に重い。


「だから損得で考える」


 その目にはハッキリとした覚悟が見えた。


「“まだ人間かもしれないあの子”を、確実に人間じゃなくする選択は――」


 首を振る。


「割に合わないねえ、ましてやあの子はうちの従業員で私の娘だ」


「そうですか、では貴方が選んだ選択です。後悔なさらぬよう」


 スーツの男は一瞥すると踵を返した。


「全く……何処から嗅ぎ付けて来たのか……」




 夜明け前。


 空はまだ暗く、山の輪郭だけがぼんやりと浮かんでいる。


 静かだった。


 風も止み、虫の音すら消えている。


 ――静かすぎる。


 社長は窓際に立ち、外を見ていた。


「……来たね」


 誰に言うでもなく、呟く。


 その瞬間。


 ――カチッ。


 小さな電子音。


 次いで、視界の端で何かが弾けた。


 庭の一角。


 見えないはずの“何か”が、淡く光って消える。


 セキュリティが発動する前に解除された。


「やるじゃないか」


 巧妙に隠してあったのに外側から解除されたのだ。


 社長の口元がわずかに歪む。


 完全に“プロ”だ。


 しかも数人じゃない。


 統制が取れている。


「紗夜、起きな」


 低い声。


 だが、それだけで十分だった。


 ソファでうたた寝していた紗夜が即座に目を開く。


「……何人?」


「最低でも八。外に四、中にもう入ってる」


「は?」


 一瞬で眠気が消し飛ぶ。


「黒崎は?」


 紗夜は問い掛けながらもソファーの下に隠された銃を取り出す。


「もう気づいてるよ」


 その言葉とほぼ同時に、廊下の奥で床が鳴る。


 黒崎が、銃を持って現れる。


「チッ……」


 短く舌打ち。


「足音消す気ねえのかよ」


「消してるさ」


 社長は肩をすくめる。


「こっちが気づいてるだけでね」


 その時――


 コン、コン。


 玄関の扉が、叩かれた。


 場違いなほど丁寧なノック。


 全員の動きが止まる。


「……出ると思うかい?」


 社長の問いに、黒崎は鼻で笑う。


「出るわけねえだろ」


 紗夜はすでに窓際へ移動し、外を確認している。


「囲まれてるわね。逃げ道も潰されてる」


「だろうね」


 社長はため息をつく。


 ――完全に“捕獲態勢”だ。


 殺す気はない。


 だからこそ厄介だ。


 コン、コン。


 再びノック。


 今度は、声が続いた。


『おはようございます。ダンジョン省・特異事象対策局です』


 丁寧で、よく通る声。


 なのに感情が薄い。


『そちらにいる対象の保護を目的として参りました。抵抗は控えていただけると助かります』


「……保護、だとよ」


 黒崎の声に、明確な殺意が滲む。


「便利な言葉ね」


 紗夜が吐き捨てる。


 社長は、わずかに目を細めた。


 ――予想より早い。


 しかも、この規模。


 だが結論は同じ。


 ――ここは、もう安全じゃない。


『繰り返します。対象の安全確保のため――』


 その声を、パンッ、と乾いた音が遮った。


 黒崎の銃弾が、玄関扉のすぐ横を撃ち抜く。


「うるせえよ」


 一言。


 それで十分だった。


 外の空気が変わる。


『……警告と受け取ります』


 声のトーンが、わずかに下がる。


『これより、強制執行に移行します』


 次の瞬間。


 ――ガンッ!!


 重い衝撃が、建物を揺らした。


 窓ガラスが一斉にひび割れる。


「来るわよ!」


 紗夜の声。


 同時に、外から閃光。


 視界を焼く白。


 遅れて、爆音。


 ――閃光弾。


 閃光の中で、ベッドで身体を起こしていた凪だけが目を細めなかった。


「視界、確保」


 呟きと同時に、一人の侵入者の動きが止まる。


「ちっ……!」


 黒崎が舌打ちしながら身を伏せる。


 社長はすでに動いていた。


「紗夜、後ろ!黒崎は正面!」


 紗夜の視線が、一瞬だけ凪とりこがいる部屋へ向く。


「了解!」


 次の瞬間、窓が内側へ弾け飛ぶ。


 黒い装備の人影が、無音で侵入してくる。


 統制された動き。


 無駄がない。


 完全に“捕獲のプロ”。


「はっ、上等じゃねえか!」


 黒崎が笑う。


 凪はベッドから動かない。


 その隣でりこは震えながら、布団を被っていた。


 銃声も、怒号も、侵入者も、そのすべてをただ観察している。


 その目は、完全に戦闘のそれだった。


 銃声が、夜明け前の静寂を引き裂く。


 ――破滅の始まりだった。



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