表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/53

第22話:予習

 


 りこが予知夢を見た後、紗夜は社長と二人で木々が生い茂るフィールドの戦闘について話し合っていた。


「社長、森林フィールドのデータある?」


「あるわよ」


 社長は事務所の棚からひとつのファイルを取り出す。


 そのファイルには資料とUSBが挟まれていた。


 紗夜はパソコンを立ち上げると、USBを差し込む。


 そこに映るのは研究所で厳選された過去の戦闘記録だった。


「へぇ〜、このチーム上手いわね」


「それはそうよ。なんてたって当時のトップハンターチームなんだから」


 紗夜が見ているのはダンジョン省からハンター企業に送られてきた戦闘データ。


 画面の中ではハンター達が森の中を縦横無尽に駆けていた。


 一人がワイヤーを木の枝へ撃ち込み、振り子のように宙を滑る。


 その隙に別のハンターが木の幹を蹴り上がり、上空から巨大なホラーへ斬りかかる。


 地上では盾役の男がホラーの注意を引きつけ、後方では射手が静かに銃を構えていた。


「それぞれが己の役割をしっかりこなしているわね」


 紗夜の視線は食い入るように画面を追う。


 枝のしなりも利用した動き、足場の取り方、ワイヤーの角度。


 ひとつも見逃すまいとする目だった。


「森林戦闘は頭上にも気をつけないといけないから、刀だけじゃ対応しきれないわよ」


 社長は腕を組んで画面を見ながら言う。


「上から来る奴もいる。横から飛び込んでくる奴もいる。視界は木で遮られるし、音も反響する」


 紗夜は頬杖をつきながら呟いた。


「つまり、三次元戦闘ってわけね」


「そういうこと」


 動画の中で、ワイヤーを使ったハンターが枝から枝へと跳び移る。


 その動きはまるで森そのものを足場にしているようだった。


「……これ、いいわね」


 紗夜の口元がわずかに歪む。


「何が?」


「このワイヤー」


 画面の中のハンターが振り子の勢いでホラーの側面へ回り込み、近距離から一撃を叩き込んだ。


「刀で斬れないなら、近づいて撃てばいい」


 社長はふっと笑う。


「銃を持つつもり?」


「状況次第ね」


 普段は自身の能力、加速の力を最大に活用するため、刀を愛用しているが銃が不得意な訳ではない。


 ましてや、自身の命を天秤に掛けるほど、刀にこだわりがある訳でもない。


 必要とあらば、銃に持ち替える判断力はある。


 紗夜は動画を一時停止した。


 画面には、巨大なホラーの脚部が映っている。


 その脚の一部に、集中攻撃が叩き込まれていた。


「このチーム、脚を狙ってる」


「よく気づいたわね」


「倒すためじゃないわ。動きを止めるため」


 社長はゆっくり頷く。


「森で巨大ホラーと戦う場合、一番厄介なのは体格差よ。正面からやり合えば踏み潰される」


「だから脚か」


「そう。まず動きを止める。それから急所を狙う」


 紗夜は椅子の背にもたれながら天井を見上げた。


「なるほどね」


 しばらく考えた後、小さく笑う。


「このチームに凪がいれば、もっと楽だったでしょうね」


 社長が眉を上げる。


「どうして?」


「凪なら見えるでしょ」


 紗夜は指で画面のホラーを指した。


「急所」


 社長は一瞬だけ黙り込んだ。


 そして静かに言う。


「……そうね」


 凪の目。


 それは普通のハンターには見えないものを見る目。


 ホラーの本当の姿。


 そして核。


「だからこそ、あんたが動く必要があるのよ」


 社長の声は静かだった。


「見えるのは凪だけ。でも、届くのはあんた」


 紗夜は立ち上がり、背伸びをした。


「なるほどね」


 棚の方へ歩いていき、装備ケースを開ける。


 中からワイヤーガンを取り出した。


「久しぶりに使うわ」


「それと」


 社長は机の引き出しを開け、小さなケースを差し出す。


 紗夜が開くと、中にはショットガンの弾が並んでいた。


「森林戦闘は距離が安定しない」


 社長は淡々と言う。


「近距離で確実に破壊するなら、これが一番よ」


 紗夜は弾をひとつ摘み上げる。


「過保護ね」


「母親だから」


 社長は微笑んだ。


 その顔は元ハンターの顔を持つ母親だった。


「必ず生きて、戻ってきなさい」


 紗夜は弾をケースに戻し、装備をまとめる。


「そのつもりよ」


 無言でワイヤーガンを肩に担ぐ。


「りこがあんな夢を見るくらいだもの」


 その瞳がわずかに鋭くなる。


「きっと、でかいのが来る」


 そして紗夜は笑った。


「だけど、私たちは死なない――その為の準備をしないとね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ