第22話:予習
りこが予知夢を見た後、紗夜は社長と二人で木々が生い茂るフィールドの戦闘について話し合っていた。
「社長、森林フィールドのデータある?」
「あるわよ」
社長は事務所の棚からひとつのファイルを取り出す。
そのファイルには資料とUSBが挟まれていた。
紗夜はパソコンを立ち上げると、USBを差し込む。
そこに映るのは研究所で厳選された過去の戦闘記録だった。
「へぇ〜、このチーム上手いわね」
「それはそうよ。なんてたって当時のトップハンターチームなんだから」
紗夜が見ているのはダンジョン省からハンター企業に送られてきた戦闘データ。
画面の中ではハンター達が森の中を縦横無尽に駆けていた。
一人がワイヤーを木の枝へ撃ち込み、振り子のように宙を滑る。
その隙に別のハンターが木の幹を蹴り上がり、上空から巨大なホラーへ斬りかかる。
地上では盾役の男がホラーの注意を引きつけ、後方では射手が静かに銃を構えていた。
「それぞれが己の役割をしっかりこなしているわね」
紗夜の視線は食い入るように画面を追う。
枝のしなりも利用した動き、足場の取り方、ワイヤーの角度。
ひとつも見逃すまいとする目だった。
「森林戦闘は頭上にも気をつけないといけないから、刀だけじゃ対応しきれないわよ」
社長は腕を組んで画面を見ながら言う。
「上から来る奴もいる。横から飛び込んでくる奴もいる。視界は木で遮られるし、音も反響する」
紗夜は頬杖をつきながら呟いた。
「つまり、三次元戦闘ってわけね」
「そういうこと」
動画の中で、ワイヤーを使ったハンターが枝から枝へと跳び移る。
その動きはまるで森そのものを足場にしているようだった。
「……これ、いいわね」
紗夜の口元がわずかに歪む。
「何が?」
「このワイヤー」
画面の中のハンターが振り子の勢いでホラーの側面へ回り込み、近距離から一撃を叩き込んだ。
「刀で斬れないなら、近づいて撃てばいい」
社長はふっと笑う。
「銃を持つつもり?」
「状況次第ね」
普段は自身の能力、加速の力を最大に活用するため、刀を愛用しているが銃が不得意な訳ではない。
ましてや、自身の命を天秤に掛けるほど、刀にこだわりがある訳でもない。
必要とあらば、銃に持ち替える判断力はある。
紗夜は動画を一時停止した。
画面には、巨大なホラーの脚部が映っている。
その脚の一部に、集中攻撃が叩き込まれていた。
「このチーム、脚を狙ってる」
「よく気づいたわね」
「倒すためじゃないわ。動きを止めるため」
社長はゆっくり頷く。
「森で巨大ホラーと戦う場合、一番厄介なのは体格差よ。正面からやり合えば踏み潰される」
「だから脚か」
「そう。まず動きを止める。それから急所を狙う」
紗夜は椅子の背にもたれながら天井を見上げた。
「なるほどね」
しばらく考えた後、小さく笑う。
「このチームに凪がいれば、もっと楽だったでしょうね」
社長が眉を上げる。
「どうして?」
「凪なら見えるでしょ」
紗夜は指で画面のホラーを指した。
「急所」
社長は一瞬だけ黙り込んだ。
そして静かに言う。
「……そうね」
凪の目。
それは普通のハンターには見えないものを見る目。
ホラーの本当の姿。
そして核。
「だからこそ、あんたが動く必要があるのよ」
社長の声は静かだった。
「見えるのは凪だけ。でも、届くのはあんた」
紗夜は立ち上がり、背伸びをした。
「なるほどね」
棚の方へ歩いていき、装備ケースを開ける。
中からワイヤーガンを取り出した。
「久しぶりに使うわ」
「それと」
社長は机の引き出しを開け、小さなケースを差し出す。
紗夜が開くと、中にはショットガンの弾が並んでいた。
「森林戦闘は距離が安定しない」
社長は淡々と言う。
「近距離で確実に破壊するなら、これが一番よ」
紗夜は弾をひとつ摘み上げる。
「過保護ね」
「母親だから」
社長は微笑んだ。
その顔は元ハンターの顔を持つ母親だった。
「必ず生きて、戻ってきなさい」
紗夜は弾をケースに戻し、装備をまとめる。
「そのつもりよ」
無言でワイヤーガンを肩に担ぐ。
「りこがあんな夢を見るくらいだもの」
その瞳がわずかに鋭くなる。
「きっと、でかいのが来る」
そして紗夜は笑った。
「だけど、私たちは死なない――その為の準備をしないとね」




