表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/53

第20話:苛立ち



 事務所がある一室で、りこは夢を見ていた。


 恐怖からか、りこは震えながら小さくつぶやく。


「なぎ、もっと…おおきい…くる…」


 その呟きを傍らで聞いた社長は息を呑む。


「やだ……こわい……」


 震えるりこに布団を掛け直すと、娘たちの無事を祈るように手を合わせた。


 ダンジョンホールの中、私はりこの声が聞こえた気がして、ぞくりと背筋を伸ばす。


 小さな体に宿る予知の力。


 りこはまた夢の中で見ている。


 私たちの傍にいる。


 不確かな確信があった。


「紗夜、りこが来てる」


 彼女は不敵に笑う。


「ならカッコ悪いところは見せれないわね」


 異界の気配が、ゆっくりと濃くなっていく。


 まだ遠い。だが確実に近づいている。


 三人はそれを肌で感じていた。



 その頃、凪たちのいる場所からそう離れていないところで大手ハンター企業の連中に守られる黒いワゴン車が停まっていた。


 中の男は、暗視双眼鏡で遠くから凪達を見ていた。


「おい、ここからじゃ、よく確認出来ないぞ!」


 苛立ちを隠しもしない白衣の男。


 戦場にいるにも関わらず、何の装備も準備もせずに乗り込んできた大馬鹿者。


 それが大手ハンター達の感じた第一印象だ。


「外の連中に言って、車を移動させろ!」


 ここは外界と隔絶された空間。


 ホラーが蠢く危険なダンジョンホール内。


 なのに無神経に大声を出す白衣の男に、ハンター達の苛立ちが募る。


 男の横に座るのはダンジョンホール前に話し掛けてきた隊長だ。


「それは出来ない」


「なんだと!貴様らは私の護衛だろうが!」


 うんざりするほどの暴論に隊長は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「今、無闇に音を立てれば、ホラーを呼び寄せる」


「それをなんとかするのがお前らの仕事だろうが!」


 埒のあかない説得に嫌気が差してくる。


 こういう時、大手勤めの辛さを感じる。


 まだ、弱小企業に勤めていた頃の気軽が恋しくなる。


「クライアントの意向に従え!雇われ共がぁ!」


 癇癪を起こす男に隊長は御し切れないと悟り、運転手に指示を出すがタダでは引かない。


「わかった。今から移動させるが命の保証はなくなるぞ。それだけは了承してもらおうか」


 隊長から放たれる圧力に白衣の男はビクッと肩を揺らした。


「そ、それでも私を守るのが……」


「依頼内容はあんたを生きて帰らすこと。あんたの仕事を手伝うことでも守ることでもない」


 男は技術畑出身の人間。


 恫喝でプロのハンターに勝てるわけがなかった。


 黒いワゴン車はゆっくりと移動する。


 隊長は苛立ちを押し殺しながら言う。


「いいか、あんたはここから外に出るな。俺たちはあんたを生きて帰す。それだけだ」


 白衣の男は不満げに鼻を鳴らし、再び双眼鏡を覗いた。


 レンズの先では、二人のハンターが戦っている。


 弓を引く凪。


 その隣で周囲を警戒する紗夜。


 男の視線が、ぴたりと凪に止まる。


「……あれか」


 男の口角が三日月のように上がる。


「何がだ」


 隊長が聞き返す。


 男は興味深そうに言った。


「シェイプシフターだ」


 隊長は眉をひそめる。


 それが凪を指していることだと分かったからだ。


 依頼内容はホラー研究の為に第二研究所の研究員を無事に返すことだった。


 だが、この男の本当の所属は第三研究所の人間だと確信する。


 シェイプシフターに興味を持っていることが他ならない証拠。


 隊長はこの護衛依頼がいよいよ、きな臭くなってきたと内心で毒づく。


 この男が観察している凪、そのバディはあの紗夜なのだ。


 もし、このことが紗夜の耳に入れば、ダンジョンホールの暗闇の中で暗殺されかねない。


 背筋に冷たいものが流れる。


 それぐらいハンター達の間では紗夜は恐れられている。


 自分がそうならない為にも、何気なく探りを入れる。


「それがどうした」


 白衣の男は、双眼鏡を握る手に力を込めた。


「ゴーグルなしでダンジョンホールを活動できる目……」


 そして小さく笑う。


「ぜひ、研究させてもらいたいものだ」


 その瞬間だった。


 ――バキバキッ。


 大木がへし折られ、倒木で活動範囲が限定されてゆく。


 倒木から低い衝撃が地面を揺らす。


 車外も車内の全員が顔を上げた。


 遠くの森の奥から、今まで聞いたことのない重い咆哮が響く。


 隊長の表情が一瞬で変わった。


「……まずい」


 運転手が震えた声を出す。


「ボス級だ」


 森の奥から木々が押し倒されながら、地響きで車内が揺れる。


 次の瞬間、暗闇の中から巨大な影が姿を現した。


 その高さは大木の高さを軽く超えていた。


 白衣の男だけが、興奮したように呟く。


「素晴らしい……」


 隊長はふざけるなと、怒鳴りそうになるのを抑えつけるが白衣の男を見る目は、射殺さんばかりだった。


 車外で警戒していた連中が一斉に銃撃を開始する。


 隊長は舌打ちをしながら、白衣の男の襟首を掴み、車から飛び出す。


「な、何をする!?は、離さんか!」


「うるせぇ!死にたくなかったら黙ってろ!」


 銃で応戦する部下達を横目に隊長は男を引き摺りながら大木の裏に隠れる。


 大木に叩きつけられるように押し込まれた男は痛みに弱いのか、激高し大声を出そうとして口を抑えつけられた。


「死にたくなければ、大人しくしていろ」


 その目は本気だった。


 ブウォン!という空気を押し出す音の後、突風が吹き荒れ、ワゴン車が横倒しで転がっていく。


 ボス級ホラーが隊員達を腕で薙ぎ払ったのだ。


 車は隊長と男が隠れる大木の横を過ぎていった。


 男は自身が危機的状況であることをここで初めて理解する。


 だが自身の好奇心を抑えられず、大木から顔を覗かせた。


 その視線の先には――

 戦場の中央に立つ、凪の姿があった。



ブックマークや評価で応援いただけると、とても励みになります。

感想欄は閉じていますが、もし作品の感想をSNSで呟いていただけたらこっそり拝見して楽しんでいます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ