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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


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第19話:不憫な目



 まだ朝日が昇って、間もない早朝の訓練室。


 私は木刀を握り、素振りを繰り返す。


 紗夜も腕の怪我が治ったので、向かい合って型を確認するようにゆっくりと素振りをしている。


 だが、その目は私に向いている。


「雨宮、振りがブレてる!下半身に力が入ってないからよ!」


「は、はいっ!」


 そんな練習中、りこが寝惚けまなこでふらりとやってきた。


 りこは真っ直ぐ私のところに来ると小さな手で服をぎゅっと握り、目をつぶっている。


「り…りこ、どうしたの?」


「ゆめ…みた…」


 拙い言葉だが、私と紗夜には意味が分かった。


 夢見が発動したのだ。


 これから起こる異界のことを。


 私と紗夜は目を合わせて小さく頷く。


「そろそろ朝食にしましょうか。今から片付けるから、りこは凪とちょっと待っててね」


 前回のこともあるので、紗夜も軽く流すことは出来ない。


 訓練室の片付けを済まし、4人で食卓に着く。


 りこが来てから賑やかになった食卓だったが今日はいつもと違う。


 明るさの中に緊張が混じっているのだ。


「さあ、いただきましょうね」


 朝食を用意してくれた社長が声をかけると、りこが元気よく食べ始める。


「りこ、お箸の使い方が上手になったね」


 私に褒められたのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべる。


 その様子に予知夢は杞憂なのではと思えてしまう。


「りこ、夢を見たって言ってなかった?」


 みんなで何気ない会話をしていると紗夜が切り出した。


「うん……きがいっぱいだった」


 みんなの箸が止まった。


 木がいっぱい。次は森林フィールドの可能性。


「なぎ…いなくて…」


 思考に沈みかけた私に鼻を啜る音が現実へと戻す。


 小さく震えるりこを優しく抱き締める。


「ひとりにしてごめんね、りこ」


 思い出したのか、りこもしがみついてきた。


 頭を撫でる風景が食卓に沈黙を生む。


「さあ、朝食を食べちゃいましょう」


 社長の無理矢理な明るい声が沈黙を破る。


「ご飯食べたら、凪に遊んでもらいなさい」


「うん!」

 

 私と遊ぶ想像をしたのか、りこの表情は戻った。


 朝食を済ませると、りこに手を引かれて部屋に行く。


「なぎ、おひめさまごっこしよ!」


 そう言う、りこの手には人形が握られている。


「いいわよ、じゃあ私はどの子にしようかな?」


 穏やかな日常がそこにはあった。


 遊び疲れたのか、私の膝を枕にして眠る、りこの顔を見つめる。


 まだ幼いのにこの身体には制御不能な力が宿っている。


 そう思うとやるせない気持ちが湧き上がる。


「……ママ」


 小さく呟かれ、一筋の涙が流れた。


 夢の中で予知に苦しめられ、もう夢の中でしか会えない両親を想う。


 夢に翻弄されるりこを見て、苦しくて胸が張り裂けそうだった。


 静かにドアが開けられ、紗夜が入ってくる。


「……寝たのね」


 りこを見る紗夜の目にも慈愛が籠もっていた。


 数秒間、眺めると視線を私に向ける。


「凪、発表があったわ。今夜よ」


 私たちの都合など、天災には関係ない。


「……わかってる。絶対に、守る」


 ダンジョンホールは待ってはくれないのだから……。



 ダンジョンホール発生予測地点。


 午前0時まで残り30分を切っていたがハンター達の姿は多くない。


 前回の極寒フィールドが根を引いているのは明らかだった。


 車から降りると紗夜が辺りを見渡す。


 空気も異変を感じているのか、少しジメッと冷たくなってきている。


「どうやら、予測通りみたいね」


 紗夜は静かに息を吐いた。


「前回の半分くらいで小規模とは言っても何が起こるか、分からないから油断は禁物よ」


 私は紗夜の言葉で刀の柄を握りしめる。


 すると、大手ハンター企業の隊長がやって来た。


「よお、今日は通常装備みたいだな」


 彼の目は私たちを探るように観察する。


「だったら何?」


 その目が気に入らない紗夜は冷たい。


「いやいや、前回は酷い目にあったからな。ただの確認だ」


 前回のダンジョンホールでは、りこの予知夢で私たちは雪のフィールドだと分かっていたので準備が出来た。


 おかげで普通に戦うことが出来たが彼らは違った。


 正確には彼らだけじゃないが前回のダンジョンホールで多くのハンター達に甚大な被害が出ている。


 だから彼は私たちの装備をわざわざ確認しに来たのだ。


 ベテランハンターとしての直勘で……。


「今日は占いを見てないだけかもよ」


 だが紗夜の揚げ足を取る発言に隊長は苦笑いだ。


「それについては悪かったって」


 頬を掻きながら、萎縮する。


「そう思うならさっさと行ったら?」


 更なる追撃に隊長は肩を竦めると背中を見せるが言い忘れたことを思い出し、振り返る。


「あ、そうそう。今回、うちは護衛依頼も受けてるからこっちに来ても、守ってやれねぇぞ」


 それだけ言うと戻って行った。


「護衛依頼かぁ…やっぱり大手は違うね」


 紗夜は眉間に皺を寄せていた。


 私の言葉とは違うことを考えているようだった。


 間もなく、異界の膜が降りる。


 誰もが緊張感を抱く。


 私の体の奥から赤い力の兆しが小さく湧き上がる。


「……来る」


 私の言葉と同時に夜空に深い緑の膜が現れ、舞い降りるように街を包む。


 視界が歪み、景色が塗り替えられる。


 そこは不規則に木が生える森の中。


 空気に湿り気が多く、土の匂いと異界独特な匂いが混ざる。


「……」


 私たちは周りを警戒する。


 現実だったら御神木として、崇められそうな程の樹齢を感じる大木。


 枝葉は頭上を重なり覆い、空を見ることは叶わない。


 そんな大木が当たり前のように並んでいる。


 普通の森程度を想定していた私には嫌な環境。


「ここでは射線が限られるわね」


 紗夜の言う通り、木々が邪魔でメイン武器である弓が活かし辛いフィールド。


 そして、紗夜にとっても戦い辛い条件も揃っていた。


「バイクにも乗れないわね」


「そうね」


 忌々しそうに返事をする紗夜。


 だけど、相手は待ってくれない。


 森の奥から二体の影が現れた。


 一体は純粋なホラー。


 見た目が枯れ木で根でズシズシと歩き、枝が不自然に伸びる。


 もう一体は幹に元人間の面影を残しつつ、目だけが暗く光っていた。


「ぅ…うぅ…?」


 取り込まれてから時間が経っていないのか、意識の欠片が残っている。


 私は弓をバイクに立て掛けると刀を鞘から抜く。


「凪、無理に前へ出ないように」


 小さく頷くと体の奥から赤い力が小さく波打つ。


 紗夜が一歩前に出ると、加速した足取りで一気に純粋なホラーの背後に回り込む。


「逃がさないわよ!」


 残りの元人間ホラーが長い枝を振り上げ、私に襲いかかる。


 私は素早く横に移動し、枝を避けると刀を振り上げ、素振りを思い出しながら振り下ろす。


 アギァ……


 切り落とされた痛みなのか、人に近い悲鳴が木霊した。


 その声に私の身体は硬直した。


 人の形が残った腕のような枝で私を貫こうとするホラー。


 だが一体を仕留め終えた紗夜が加速を維持したまま、素早く間合いを詰め、ホラーを輪切りに一刀両断する。


「ふっ」


 残心する紗夜の後ろでホラーの上半身が後ろに倒れ、足元の落ち葉が舞った。


 私は紗夜の動きに、ホラーの悲鳴に刀を構えたまま身動き出来ずにいる。


「凪、力を抜きなさい」


 近寄ってきた紗夜に肩を叩かれ、息をするのを思い出した。


 刀を持つ手、固く握り込めた指をひとつずつ離していく。


「上出来よ。ここからはいつも通り弓で援護して」


 やはり、近接戦では上手く動けない私を気遣っての言葉だ。


 再び襲いくるホラーが2体。


 今度はどちらも元人間だ。


 赤い帯びを引く矢は緑に光る血管が集う中心、顔の額にある若葉のような核を貫く。


 一方、紗夜は素早く踏むと、邪魔な枝を切り払い、背後に蹴りを入れる。


 倒れたホラーは痛みに呻きながらも反撃しようと枝を伸ばすが、刀で突き刺されて動きを止める。


 その後も紗夜は森の木々の間を跳び、回避し、斬り捨てる。


 私は一射一射狙いを定めて、必殺していく。


 短時間であったが、二人の連携は完璧で、元人間ホラーも純粋ホラーも力尽きて倒れた。


 息を整えながら、私は弓を握り締める。


 紗夜は冷静に周りを見渡す。


 異界はまだ薄暗く、私たちの周りは静寂が森に戻る。


 しかし、私の胸には緊張の余韻が残ったままだった。


 今回のホラーはほとんどが元人間だったため、私は、紗夜と少し言葉を交わす。


「元人間か解る……不憫な目ね」


 望んた力ではないのに、その力に振り回される。


 私とりこは似ている。



続きが気になったらブクマお願いします。


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