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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


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第18話:コーチ



 雪の異界での戦闘で片腕を負傷した紗夜は大事をとって、凪の指導だけに注力する。


「ほら!まだ100本も素振りしてないのに腰が引けてるわよ!」


 事務所の4階にある訓練室には鋭い声が響く。


 ダンジョンホールが発生しない時でもハンターに休みはない。


 出撃がない時こそ己を鍛える。


 それが生存率を左右する――社長の格言だ。


「雨宮!あんたは近接戦が弱すぎるのよ!」


 ほんとの事だけにぐうの音も出ない。


「そんなので!りこを守れるの!」


 紗夜の言葉は覚悟した私の心に火を灯す。


「はいっ!」


 私はりこを守ると覚悟して、引き取った。


 その覚悟は生半可なものじゃない!


 それを証明する為に気合いを入れて、木刀を振る。


「あと、素振り100回追加!」


「えっ!?」


 私は腕力でりこを守りたいなんて言ってないのに……。


「えっ、じゃない!腑抜けてるなら、もう100回追加だから!」


 紗夜のスパルタぶりに悲鳴が出そうになる。


 私の厳しい訓練が行われてると、りこがトコトコとやってきた。


「さよ、しゃちょーがよんでる」


 紗夜が膝を着いて目線を合わせると、りこの頭を優しく撫でる。


「教えてくれて、ありがとうね」


「うん」


 私を見る目とは正反対な表情に素振りが止まった。


「はい!そこ!素振り止めない!」


 横にも目がついているんじゃないかとさえ思えてくる感覚の鋭さに舌を巻く。


「なぎ、なにしてるの?」


 紗夜は悟られないように一瞬だけ、悪い笑顔を浮かべた。


「凪はね、りこの為に強くなるの」


「つよく?」


「そう、あの動きを止めたら晩ごはんを食べないつもりなの」


「「えっ!?」」


 ギロリ


 素振りが止まりかけたが、なんとか振り続ける。


「なぎ、ごはんたべないの?」


 私は素振りをしながら、首を振るが見てもらえない。


「そうなの、だからね。りこは凪が止まらないように見ててくれる?」


 りこは両手を握り締めると力強く言う。


「うん!りこにまかせて!」


 二人はハイタッチを交わし、紗夜が訓練室から出て行った。


 入り口で振り返った紗夜の目はサボるなよと言っていた。


 目の前には仁王立ちで見張る女の子。


 私は素振りを止めた。


 その瞬間、叱責が飛んでくる。


「なぎ!とめちゃだめ!」


 子鬼のりこが爆誕した瞬間だった。


 私は彼女に逆らえるわけもなく、泣きながら素振りを続けた。



 コンコン


「社長、何か用事?」


 紗夜は形だけのノックをすると、直ぐに要件を聞く。


「はぁ〜、どうしてこんな風になっちゃったのかしら」


 社長の愚痴も右から左に流し、椅子に座ると煙草を取り出した。


 戦闘後以外で吸うのは彼女がイラついている証拠だ。


「紗夜、りこちゃんに臭いって嫌われても知らないわよ」


 その言葉でライターを握る手が止まる。


 僅かな逡巡の後、紗夜は煙草を置いた。


「それで要件は?」


 社長は再びため息を吐くと、眉間に皺を寄せて話し出した。


「さっき、研究所から協力要請が来たわ」


「研究所から協力要請?」


 怪訝な表情を浮かべる紗夜の反応は正しい。


「どうして研究所からうちみたいな弱小企業に協力要請なんてくるのよ」


 自分の会社を弱小と言われ、社長は少しむっとした。


「雨宮凪のシェイプシフター能力を調べたいらしいわ」


 二人とも戦場もかくやと言わんばかりに険しい顔をしていた。


 凪がここにいたら、きっと「やっぱり親子だ」と言っただろう。


 紗夜は凪の能力が目当てと聞いて、ある研究所のことを思い浮かべる。


「第三研究所の連中ね」


「ええ」


「……やっぱり、あいつらね」


 第三研究所はハンター達の間では有名だ。


 勿論、悪い意味で。


「あの変態どもが!」


 紗夜の怒りで事務所の窓ガラスが震えた。


 煙草を再び手に取りそうになるが、踏みとどまる。


「当然、断ったんでしょうね」


 八つ当たりで、社長を睨みながら問う。


「当たり前よ。私を誰だと思ってるの」


 娘の睨みなど、効かないと平然とする。


「何人潰してきたと思ってるの」


 二人の黒い笑顔に、やはり親子の血を感じる。


「紗夜、分かってると思うけど、これからは……」


「ええ、言われなくても分かってるわ。凪もりこにも絶対に手出しなんてさせない」


 紗夜の瞳にはベテランハンターの気迫が宿っていた。


「それでこそ、私の娘ね」


 娘の気迫に満足した母親は今後の対応について、詰めていく。


 紗夜は凪に素振りさせていることなど、完全に忘れていた。


 第三研究所の名前を聞いた瞬間、そんなことは頭から吹き飛んでいたのだ。



「なぎー!ごはんなくなっちゃうよ!」


 りこは小さな手で凪の袖を引っ張る。


「も、もう腕が上がらないよ〜。素振りどころかお箸も持てないよ〜」


 紗夜が戻ってきた時には凪は泣き崩れ、りこに慰められていた。


 その日常が、いつまで続くのかは――誰にも分からない。



続きが気になったらブクマお願いします。


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