第17話:不穏
ダンジョンホールという天災が発生するようになってから、7年の月日が経っていた。
世界中の国で研究はされているが成果は見える程度。
それはこの国でも変わらない。
都心部から離れた研究所の建物は、外見は病院のようで、中に入ってもイメージ通りの室内だった。
入り口のエントランスを抜けると各部門ごとに別れた通路を進む。
その先にある広いフロアのあちこちには、モニターや分析機器が整然と並び、研究員たちが忙しなく動き回っている。
壁一面に設置されたスクリーンには、先日発生したダンジョンホールの地図や、ハンターたちの戦闘記録がリアルタイムで映し出されていた。
凪たちが提出したSDカードも、ここで解析される。
モニターには、ハンターの動きや戦闘ログ、ホラーの行動パターンが映像として再現され、細かいデータと照らし合わせながら研究員が解析を進めていた。
「このパターン、関西で発生した前回のダンジョンホールと似ていますね」
若い研究員が同僚に指摘する。
「確かに。だが、この種類のホラーは突然変異の可能性もある。注意が必要だ」
その横では、装置に繋がれたハンター用のゴーグルや装備品のデータが吸い上げられ、戦闘効率や行動の統計が解析されていた。
データの元になってるのは研究所と契約しているハンター達の戦闘記録。
研究所内には、ハンターの討伐報酬や調査報酬のデータも保管されており、どのハンターがどのダンジョンホールに強いのか、どの行動が効率的なのか、詳細な分析結果が毎日更新されている。
「前回に続いて、このバディの調査データ、非常に精度が高いです」
ベテランの研究員が、提出されたSDカードを手に呟く。
それは凪と紗夜が提出したSDカードだった。
「はい。映像とゴーグルの位置データが完璧に同期しています。ホラーの行動パターンも明確に捉えられました」
奥の部屋にはこれまで解析したデータが保存され、ダンジョンホールの種類別に並べられ、研究員たちは慎重に扱っていた。
研究所全体に、科学的な緊張感と冷徹な合理性が漂っている。
一方で、データの解析だけでは見えない「人間の心」も記録されていた。
戦闘の記録に残されたハンターと被害者の動きや表情から、心理的な負荷や行動傾向を推測し、訓練や戦術の改善に活かすのだという。
ここは第三研究所と呼ばれ、表向きにはハンター、裏ではシェイプシフターについての分析と研究が行われている。
通称、SS研。
ダンジョンホールで高い適応を示した者、シェイプシフターを被験体として欲している節があり、良識のある一部のハンター達からは忌み嫌われている。
国の研究所は、ダンジョンホールについて研究する第一研究所。
ホラーの解明に心血を注ぐ第二研究所。
そして、ハンターという存在そのものを科学的に管理し、次の危機に備えるのが第三研究所。
ここで集められたデータは、戦闘現場のハンターたちの安全を守るだけでなく、国の戦略や政策にも反映される、最前線の情報網でもあった。
凪たちの戦闘データに見入るベテラン研究員。
その元にシェイプシフターの研究責任者が現れる。
「このデータ……」
白衣の男はモニターを見つめたまま呟く。
「やはりこのバディ、普通じゃないな」
ベテラン研究員は画面から目を離すことなく、返事をする。
「本当にそうですね。特にこの弓を扱うハンターはシェイプシフターらしいですし……」
「……ほう」
責任者の瞳に興味の光が宿る。
「そのシェイプシフターの能力は?」
ベテラン研究員は顎に手を当てて、思い出す。
「ハンター達の間で"夜目"と呼ばれているらしいです」
夜目と聞いた責任者の口角が明らかに上がる。
「なんでもゴーグルなしでダンジョンホール内で活動出来ると聞きましたよ」
「それは素晴らしい。その目を解明できれば、第二研の奴らも研究が捗るだろうな」
そう言った責任者は、モニターに時折映る凪の姿をじっと見つめた。
まるで標本を見るような目だった。
「このハンターのデータ、すべて私の研究室に回してくれ」
「……え?」
「できれば本人もな」
その言葉に、ベテラン研究員はわずかに顔をしかめた。
研究所の中で、その意味を知らない者はいない。
被験体。
つまり――
捕獲対象だ。
ベテラン研究員は心の中で独りごちる。
このハンター、面倒くさい人に目をつけられたな……
「……長くは、持たないかもしれないな」
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