第10話:緊急
りこが来てから、もう3日が経つ。
あれ以来、りこと一緒に寝てもダンジョンホールの夢は見ていない。
おかげで紗夜からは疑わしい視線を向けられている。
りこはだいぶ慣れてきたのか、私と一緒に子供番組を見たりして、はしゃいでいる。
新しい環境にもだいぶ慣れてきたのだと思う。
この日も何気ない一日になると思っていた。
その時までは――
『ここで臨時ニュースをお伝えします。』
真面目な顔のアナウンサー。
声も少し重い。
何より臨時ニュース。
聞かなくても分かる。
問題はどこで発生するかだ。
『只今、ダンジョン省から発表がありました。今回は全国的に発生するとの見通しです。』
これまでとは違うアナウンス。
かつてない程の緊張感につつまれた。
『続いては○○県です。場所は○○市、××市、○○市、××市です。今回はこれまでよりも多く発生すると予測されています。』
ニュースを聞いた瞬間、私の心臓がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
「…やっぱり、きたか」
りこはテレビ画面を見上げ、眉をひそめた。
「なぎ、だいじょうぶ?」
握ってる手にも力が入る。
私は笑顔を作ろうとしたが、声が少し震えた。
「うん、大丈夫。でも…すぐに行動が必要かも」
その言葉に、社長と紗夜も顔を引き締める。
「これ、以前の規模よりやばそうね。準備は早めにしておいた方がいいわ」
「そうね、りこちゃんは私が見ておくから、あんた達は早く準備に取り掛かりなさい」
社長も紗夜もこれまでとは緊迫感に包まれていた。
ダンジョンの発生は、日常を一瞬で変える。
しかも今回は、予測以上に多くの場所で同時に起きるらしい。
私はりこの手をそっと握り、心の中で誓った。
…何があっても、生きてりこの元に帰るからね。
だが、拭えない不安があった。
りこと見たあの夢の異界。
紗夜には話したがイマイチ信じてもらえてない。
だけど、私はりこの力を信じたかった。
「紗夜、今日の装備なんだけど……」
紗夜は少しうんざりした顔で言う。
「何の根拠もないでしょ」
「……でも、あれはただの夢じゃなかった」
あの寒さ。
あの雪の感触。
そして、りこの温もり。
あれをただの夢だと切り捨てるにはあまりにも現実だった。
「はぁ、わかったわよ!好きにしなさい!」
紗夜がため息をつきながらも折れたことで、私は少し胸を撫で下ろした。
「ありがとう、紗夜。ちゃんと準備しておくから」
りこは不安そうに私の顔を覗き込み、手をぎゅっと握る。
「なぎ、こわいの?」
「うん、ちょっとね。でも大丈夫」
私は笑顔を作るが、胸の奥で小さな警鐘が鳴り続けていた。
テレビでは続報が流れる。
『現在、○○市周辺では市民の避難が開始されました。ダンジョンホールの数は全国的に前回の2倍と見られ、危険度は非常に高いとされています』
りこが小さな声でつぶやく。
「なぎ、あのさむいところ…またいくの?」
私は一瞬言葉を詰まらせた。
夢で見たあの異界、あの寒さ、あの雪。
あれが現実になるかもしれない――その思いが、心の奥でずしりと重くのしかかる。
でも、手を握るりこの温もりが、恐怖を少しだけ和らげてくれた。
「うん、行く。でも大丈夫、りこが教えてくれたから」
紗夜は鋭い目で私を見据える。
「あまり時間がないわ。急いで準備する。違ってたら怒るからね」
部屋の空気が一気に変わる。
日常の温もりと、迫りくる危機。
その間で、私たちは覚悟を決めた――今日、再び異界に立ち向かうと。
いつものバイクに雪上の装備も積んでいく。
「これ取り付けるの手伝って」
私は紗夜の指示に従い、雪上パーツを持ち上げる。
バイクは雪上パーツを取り付けることでスノーモービルのように走行することが出来る。
およそ30分で準備を終えるとバイクを車に積み込む。
ふと見上げれば、2階の事務所の窓からりこが覗いている。
りこは私に一生懸命、手を振ってくるので私も振り返す。
ついでに口パクで「良い子にしててね」と添えて。
「凪、行くわよ」
紗夜の戦闘モードに私の気持ちも切り替わる。
車に乗り込み、もう一度、りこを見る。
……必ず帰ってくるからね。
紗夜の運転する車はスムーズに発進した。
目的地はここから一番近い、ダンジョンホール発生予測地点。
今日、すべてが分かる。
りこが何者なのか。
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