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ダンジョンは壊れた夜に舞い降りる――壊れたのは、世界か、私か  作者: くろのわーる


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第11話:孤立無援



 紗夜の運転する車がダンジョンホールが発生すると予測された地区に着く。


 いつもなら同業者のハンター達で溢れ返っているのに今日はやけに少ない。


「どうやら分散したみたいね」


 その言葉は歓迎ではない。


 同業者の数が減れば、その分負担は大きくなる。


 今回の調査と戦いは厳しいものになると紗夜は覚悟を決めた。


「凪、気を引き締めなさい」


 彼女の忠告を胸に刻むと手早く準備に入る。


 雪上パーツをつけたバイクは他の同業者達の目を引いた。


「おいおい、フィールドの決め打ちか?」


「雪装備?ここ、まだフィールド確定してねぇぞ」


 通常装備ではない私達に厳しい視線が向けられる。


 そこに先日、世話になった大手ハンター企業の隊長が近付いてきた。


「これはまた……占いでも見てきたのか?」


 私達は揃いの雪上装備を纏い、着膨れしている。


「そんなとこよ」


 紗夜は簡潔に言うと親指で私を指差した。


「この子がそう言ったの」


 隊長は紗夜が指した先にいる私を見据える。


「新人の言う事を聞いたのか」


 彼の言葉にはベテランとしての呆れと矜持が滲み出ていた。


 私はなんだか居心地が悪く、下を向く。


 そんな私を見てか、紗夜が言い返す。


「そうよ、悪い」


 紗夜は腰に手を当て、隊長を睨んでいた。


「いやいや、悪いなんて言ってないからな」


 紗夜の睨みは効果抜群なのか、退散するように離れて行った。


「せいぜい、吠え面かくといいわ」


 一番否定的だったのは紗夜なのに……。


 ここに集まったハンター達の準備が整う。


 間もなく、ダンジョンホールが舞い降りる。


 私の目はすでにその予兆を捉えていた。


「……来る」


 午前0時の鐘音と共に夜空から青黒い膜が降りてくる。


 街並みが揺らぎ、一瞬で景色が変わる。


 そこは青白い光が降り注ぐ雪原。


 私だけがそう見える。


 少し離れた場所では寒気を感じた同業者達が驚いたようにこちらを見ていた。


「いい気味ね、それにしても……」


 紗夜の表情がわずかに変わった。


 りこの力の意味を、きっと誰よりも理解している。


 吹雪のせいで視界は悪く、膝まで沈む雪が足を奪う。


「……間違いない。ここ、りこの夢の中と同じだ」


「凪、私達は出来ることをするわよ」


 紗夜のスノーモービルバイクのエンジン音だけが冷たい空気を裂き、雪煙が舞い上がる。


 私は後ろで弓を構え、赤帯を帯びた矢を手元で確認する。


 ……まただ。


 自身の感情が昂ぶっていることに気付く。


 思考を遮るように紗夜の声が響く。


「凪、アクセル全開! このまま中央部まで突っ切る!」


 紗夜の声が凍った風にかき消されそうになる。


 私は頷き、矢を引き絞る。


 雪と吹雪のせいで体勢は不安定だが、赤い帯の矢は狙った核を逃さない。


 このダンジョンホールに入ってから私の調子は良い。


 正確にはホラーが弱く感じた。


 いつもより消耗も少なく感じる。


 前方に青く暗いホラーが立ちはだかる。


 氷の体躯、複数の腕、雪に紛れた目玉たち。


 雪に紛れていたはずの目玉が、気づけばこちらを向いていた。


 一部に生前に着ていたと思われる衣服が残っている。


 その痕跡も事実を受け入れつつ、私は深く息を吸い、矢を放つ。


 赤帯が雪の中で閃き、ホラーの核を貫く。


 低い呻きとともに、氷の巨体が雪を蹴散らして崩れ落ちる。


「次は右側、二体同時に来る!」


 紗夜はスノーモービルを軽く傾け、雪面を滑るように操作する。


 私の矢が続けて放たれ、二つの青い核を正確に貫く。


「なかなか、やるじゃない!」


 吹雪にかき消されそうな叫び声が雪原に響くが、二人の呼吸は互いに同期していた。


 冷たい空気のせいで顔の感覚が遠い。


 だが、雪原はまだ終わらない。


 視界の端で影が揺れる。


 巨大な氷の腕が吹雪を切り裂き、二人へ迫る。


 私は赤帯矢を引き、腕の間を狙うがホラーが雪に隠れる。


「消えたっ!?」


 紗夜の視線が、一瞬だけ空を泳ぐ。


 ゴーグル越しでは消えたように見えるが私の目はしっかりとホラーの核を捉えていた。


 矢が飛び、雪に埋まる核に命中すると、氷の腕は鈍く砕け、雪を巻き上げて崩れ落ちる。


「凪、次は左!大技、行くわよ!」


 紗夜の声に合わせ、スノーモービルは急旋回。


 雪煙の向こうからもう一体の青ホラーが飛び出す。


 そのホラーは雪上を滑るように移動してくる。


 今までのホラーよりも確実に早い個体だった。


 だが彼女はフロントを浮かせると枯れ木を利用して、空中で一回転する。


 視界が逆転する。


 紗夜は空中で襲いくるホラーを避けると、逆さまの状態で刀を抜き、ホラーを一閃した。


 その姿はまさに歴戦のハンターだった。


 崩れ落ちたホラーの雪煙の間で、私たちは短く息を吸う。


 鼓動は荒い。腕は痛む。


 だが次の瞬間、次の襲撃が待つ。


 戦場に一瞬の安息はない。


 雪原の異界は、二人を試すかのように無限に広がる。


 すでに2時間は経過していると思うが、誰も助けは来ない。


 指先の感覚がない。


 弦を引くたび、皮膚が裂けるように痛む。


 分かっていたことだが私の赤い帯びの力も徐々に落ちてきている。


 疲労なのか、感情なのか、それとも両方なのか。


 今は考えるよりも行動だと自身に言い聞かせる。


 私と紗夜だけで、この吹雪の迷宮を切り抜けるしかない。


「紗夜!前!潜んでる!」


「ちっ!もっと早く言いなさい!」


 咄嗟に紗夜が逆ハンドルを切り、車体を傾けるが私は構えの制約で狙いをつけられない。


 雪の中から飛び出したホラーを紗夜が刀で受け止める。


「くっ!?」


 金属と金属のようなものが当たる音が響く。


 逆手で受けた紗夜は支え切れず、もう片方の手もハンドルから離した。


 横転するスノーモービル。


 雪上をもつれながら、紗夜とホラーは転がる。


 私は雪に半分が埋まる身体を無理矢理起こし、彼女を確認する。


 彼女はホラーに上を取られ、形勢不利な状態だった。


 私はホラーに狙いをつけ、即座に矢を放った。


 崩れるように消えた後、紗夜は大の字で大きく息を吸っていた。


 そして……その雪煙の中で、かすかな声が届いた。


「……ありがとう……」


 凪だけが聞こえた。


 氷と雪の塊の奥から、かつての人間の声が響く。


 助けられなかった者たちの、微かな感謝。


 私は凍りついた息を整えながら、心の奥が震えるのを感じた。


 誰も知らない、でも、私だけは知っている。


 その声は風によって、運ばれた。


 助け起こすように手を出せば、その手を引っ張られ、私は顔から雪へと突っ込む。


「もっと早く、助けなさい」


 助けたのに酷い仕打ちだ。


 2人でスノーモービルを起こすと再び走り出す。


 スノーモービルの振動と矢の衝撃が、二人の鼓動と重なる。


 雪と風の中、赤帯の光と刀の斬撃が舞い、青いホラーたちが次々と崩れ落ちる。


 吹雪の向こうで、雪山が動いた。


 最初は錯覚だと思った。


 だが違う。


 凄まじい雪煙の中から、ゆっくりと巨大な腕が持ち上がる。


 雪と氷に覆われた異形の巨体――私の赤帯が再び呼応するように光を帯びる。


「……まだ来るの」


 私は凍てつく息を整え、りこの夢で見た場所を思い浮かべる。


 ここを越えれば安全圏。


「紗夜、行って!」


 紗夜はスノーモービルを傾け、加速。


 雪煙と吹雪を切り裂きながら、二人は雪の異界を進む。


 雪と青の光の中、赤帯の矢が周囲の邪魔なホラーの核を打ち抜く。


 誰も頼れない孤独な戦場で、私と紗夜の連携だけが命を繋ぐ。


 目の前の安全圏まで後少し。


 だが雪山のような最大級のホラーがその行く手を阻んでいた。



続きが気になったらブクマお願いします。


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