6 婚約とお兄様
それから両家で話がまとまるのは、あっけないほど簡単だった。
わたしの両親は大喜びで、数日後には、両家の間で正式にこの婚約が結ばれたことを、わたしにそれはそれは嬉しそうに伝えてくれた。
お母様なんて、
「さっすが、うちのディーラだわ!それにしても、こんなに早く婚約がまとまるとは思ってもみなかったわ。聞いた話では、お相手の方があなたに夢中みたいじゃない?ウィルフォードの子息もなかなか見る目があるようね」
と、大変上機嫌である。
ただお兄様は、
「う、うちのディーラがああぁぁぁっっっ!!こんなに早く他の男のものになるなんて、聞いてないぃぃぃぃぞぉぉぉぉぉおう〜〜〜ーーー!!」
とか、ずっと喚いてたけど。もともとお兄様のものだったことなんて一度もないけどね。
そしたらお母様まで、
「でも、困ったわね。シアルト様は、ウィルフォード家のご長男でしょう?ディーラには婿をとって、ずっとシャールトンにいてもらうつもりだったのに」
と言い出した。…ん?なんか初耳なんですが。
「え?お母様、わたしをどこかに嫁がせる気はなかったんですの?」
「そりゃあそうよ、ねぇ、あなた。かわいいディーラを外へやるわけにはいかないわ。ずっとわたしたちの元にいくれると思っていたのに」
「そうですよ、父上!ディーラを嫁にやるわけにはいきません!!」
とか、お兄様まで言い出した。
「そうだな。だが、ヴァージスの話では、シアルト君はウィルフォード公爵位を次男に譲るつもりでいるようだよ。彼はすでに優秀な魔法師で、将来魔塔の筆頭魔法師になるのは確実だろうからね」
「あら。それなら、彼を婿入りさせることもできるわね」
「っクソ、その手があったか!」
……ストォーーープッッ!!ちょっーと待って!!え?シアルト様が、将来の魔法師団長?!それは確かに、考えてみればそうなんだろうけど……え?そのつ、つ、つつ妻がわたし?!
え?シアルト様、改めてすごすぎない?やっぱりわたしにはもったいなすぎるお方なんじゃ…
「あ、そういえば。ディーラ、シアルト君がさっそく君に会いたいと言ってきているんだ。それで、今度の日曜なんてどうかな?うちで、家族ぐるみで交流するなんていうのは?いい考えだと思うんだが…」
お、お父様…。話が全く入ってきません…。
わたしはお父様の提案になんとなく頷いた……?のかもあいまいなまま、お兄様もいる家族揃っての久しぶりの朝食を終えたのだった。
わたしがなんだかすごく疲れた気がして、早く部屋に戻ろうと廊下をいそいそと歩いていると、後ろからお兄様が追いかけてきた。
「ディーラ、少しいいか?」
「もちろんですわ、お兄様」
お兄様はなんだか複雑な表情で口を開いたり閉じたりしている。
……なんだか、口をぱくぱくして、お魚みたいだ。
「…お兄様、お話があるのでは?もしかして、言いにくいことなのですか?」
「い、いや。そういうわけではないのだが…。つまり、だな。その、…シアルト殿のことなのだが」
つい、訝しげな表情になってしまう。
「…シアルト様が、どうかしたのですか?」
「…ディーラは彼に会ってどう思ったんだ?その、実際のところは…」
「すごく優しい方でしたわよ?物腰も柔らかくて、とても紳士でしたわ」
「そ、そうか。まあ、それならいいんだが。…ディーラは本当に彼でいいのか?つまり、婚約者としてだな…」
「ええ、もちろんですわ。彼以上の殿方は、きっとどこを探してもいないでしょう。それに、わたしを気に入ってくれたようですし」
「まあ、うちのディーラに惚れない男はいないだろう。だか、ふーん、そうか、意外だな…」
「…お兄様?先ほどから、らしくないですわよ?なにか言いたいことがあるなら、はっきりおっしゃって!」
「う、まあ、ディーラが気にするようなことではないんだ。だが、うん。彼はな、有名なんだよ、"氷の貴公子"だとか、なんとか…」
「氷の貴公子?」
「ああ、人嫌いだとか、何があっても無表情だとか…」
わたしはお兄様の真剣な表情をみて、つい笑ってしまった。
「な、笑うところか?学園でも何度か見かけたが、確かに見目はいいが、女生徒から声をかけられても完璧にスルーしてたんだそ!あんなスルースキルは初めてみた!それにあの目つき!いかにも冷酷…」
わたしがお兄様に構わずクスクス笑っていると、お兄様はついにいじけてしまったようだ。
「おい、僕はディーラを心配して…」
「す、すみませんお兄様。でも、くふふ。お兄様のいうシアルト様と、先日のシアルト様のお姿があまりにも違いすぎるんですもの。正反対ですわ」
「う、だがディーラが嫌だと思ったら、すぐお兄様にいうんだぞ!わかったな?」
「はい、承知しておりますわ。お兄様、心配してくれて、ありがとうございます」
「うん。でもまあ、ディーラが満更でもなさそうでよかったよ」
ま、満更でもなさそうって…。わたし、そんなふうに見えてた!?




