18.魔王との対決
ロンドの指示で、怪我人はハッサンが付き添い、白エルフの転移魔法で街に戻す事になった。
まだ意識の戻らないジハードも。
ユーリとジハードと出会ってから、彼がそばに居ないのは初めてだった。彼が居ないだけで、とてつもなく心細い。足が震えそうだ。
黒猫姿で駆け寄ってきたマモンが、素早く肩まで上がると、小さな舌で頬を舐めてくれた。
ニャアッ!シャーッ!
ひょいと摘まんだマモンの体を、ポイッと放り出し、トーマスはユーリの肩を抱いた。あの魔物はユーリに馴れ馴れしすぎる。あの時、他の魔物と共に消滅していれば良かったのに。
「大丈夫。ユーリ、今度は僕が君を守るから。」
そうだ。ジハードには負けない。ユーリの心は自分が掴んでみせる。
数年ユーリと離れていた間に、ユーリは蝶が羽化するように綺麗になった。そして、彼女を慕う男達も……。
しかし、最初に彼女に出会ったのは、自分だ。
彼女の横は自分のものだ。誰にも譲れない。
「ありがとう。トーマス。」
ロンドの出発の合図を受け、ユーリ達は、ダンジョンの出口に向かった。
ダンジョンを抜けた先にあったのは、禍々しい王城。
魔王の城だった。
集結した仲間に城の外の魔物を任せ、ユーリ達は、城の中へと踏み込んだ。
トーマスのあの魔を滅する力は、魔力が満ちている状態で、一度しか使えない。
それでも強い魔力を持つトーマスと、黒豹に姿を変えたマモンに守られながら、ユーリ達は、城の奥へと攻め進んだ。
広間を制圧し、魔王の座す謁見の間もあと少し。
最後の決戦を前に、傷を治し、水分をとって、休憩する。
既に出てくる魔物も居なくなった。残るは魔王のみ。
それでも、何故か勝てる気がしない。
言い伝えでは、ユーリが魔を祓うと言うが、それ程の力はユーリには無い。
水を受け取り、腰を下ろす際に、ポケットに違和感があった。ポケットを探ると、あのモンスターハウスで拾ったものが出てきた。
魔物の血で汚れているそれを服で拭って綺麗にする。
「これ、は……。」
魔王の心の欠片。システムの声は確かにそう言っていた。
しかし、この欠片の中に見えるものは……。
「それは何?」
ユーリの両側からトーマスとマモンが覗き込む。
「陶器の欠片?」
「なんで割れた皿の欠片なんか持ってるの?お姉さん。」
彼らには白い陶器の欠片にしか見えないようだ。では、これを見ているのは、見えるのは、ユーリだけ?
出発の合図を受け、立ち上がり、ユーリはポケットに欠片をしまった。
これを使うのは今じゃない。多分、最終決戦のその場所。ユーリには、その使う場所を欠片が教えてくれる気がした。
ロンドの手で開けられた謁見の間は、まるで異次元のようだった。
正面には人ならぬ姿の魔王。
そして、辺りは、すぐ近くにいる相手しか見えない真の闇。トーマスとマモンが左右でユーリを守っている事だけが、わかる。
「よく来た。アミュダットの王女。」
「サキュガイアの王。いえ、魔王。この地に生きるものを守る為、お前を倒しに来たわ。」
「弱き者が。」
靄のような魔王の姿が揺らぐ。笑っているつもりだろう。
その指先と思われるものが動くと、青い光が襲ってきた。
辛うじてトーマスの魔法で、攻撃を退けたが、その威力にユーリの体が震えた。
今までの魔物とは格が違う。
隣でトーマスが詠唱を始めた。
「ほお、その詠唱、今でも唱える事ができるものがいるとは思わなかった。しかし、無駄な事だ。」
詠唱を終え、光がトーマスから放たれる。
しかし、謁見の間の闇は、消えなかった。
「まさか。」
「無駄と言っただろう。」
魔王の楽しそうな声が部屋の中に響く。
ドクン!
ユーリのポケットの中の欠片が光を受けて、大きく脈打った。
ユーリ以外には陶器の欠片にしか見えなかったが、ユーリにはこの欠片の中に、心臓が見えていた。
今、その心臓が鼓動しているのだ。
ユーリは欠片を床に置くと、短剣を取り出して、そこに見える心臓に思いっきり突き刺した。
「お前……なぜ、それを。」
魔王は胸を掻きむしりながら、苦しげな声をあげる。
部屋の闇が消え、王座には醜悪な表情を見せる初老の男が居た。
ロンドが駆け寄り首を撥ね、トーマスの火魔法がその体を焼き尽くした。
ゴトリと、焼け焦げたものが玉座から滑り落ちた。
「終わった?」
「終わったのか?」
「倒した……倒したぞ!」
口々に歓声をあげる仲間の声が聞こえる。部屋の中には大勢の仲間がいた。
全員の歓声の中、ユーリは、ヨシッと拳を握り締めた。
凱旋し、街に戻ったユーリをジハードが出迎えてくれた。彼に駆け寄り、首に縋り付き、ユーリは大声で泣いた。嬉しさと安堵が湧き上がり、言葉にならなかった。
泣き疲れたユーリを休ませ、トーマスとジハードは久しぶりの再会を祝い、杯を傾けた。




