17.懐かしい人
「ジハード!!」
崩れるジハードの体を抱き支えると、その支えた指の間から血が溢れていく。
ゴホッ。
ジハードの口元から血が零れた。肺まで魔物の爪が達したのか?
「しっかりして!ジハード。」
「前を向け、ユーリ!!」
二人の体をマモンの腕が掴んで下がらせた。魔物の爪にマモンの腕が二本切り飛ばされて飛んでいく。
「マモン!」
「立ち上がって、戦え!」
今戦っているのが一番強い魔物だ。このダンジョンのボスかもしれない。
マモンの言う通り、戦ってこいつを倒さないと、ジハードの治療もできない。周りには既に立っている味方も僅かになった。でも、敵も残りわずか。
ユーリは剣を握り直して立ち上がった。
突然、何も無い空間に魔法陣が浮かび上がる。更に魔物が現れるかと思ったが、そこに現れたのは、白いローブを身にまとった20人程の一群。
その中の一人が片手を高くあげ、詠唱を始めた。
この詠唱は!
「マモン、小さくなって、私のところに。あなたが消えて……。」
マモンが小さくなって、ユーリの懐に飛び込むのと、詠唱が終わって、周りが光で溢れるのは同時だった。
魔を祓う聖なる光。今では使える人も居なくなったと、トーマスから教えられたあの詠唱。
使える人がいたのね。
光が収まり、目が見えるようになると、ユーリはジハードの元に走り、傷の具合を調べた。
魔力を極限まで使っても構わない。ジハードを死なせたくない。
だが、あの力のおかげか、ジハードの傷は既に血が止まっていて、今は気絶しているだけのようだ。
白いローブの人々が近づいてくる。ローブからはみ出す毛は乳白色だ。白エルフ。
周りの魔物の死体が消えているのを確認し、ユーリはロッジを出現させる。大浴場付きだ。
白い人々から、感嘆の声が上がった。
「怪我人を建物に運んで手当を。」
ジハードが動けないのだから、今は、ユーリが指示を出さなければならない。
建物内は不思議な結界に守られるため、マモン以外の魔物は侵入できないので、安心して、体を休める事ができる。
足元に何か光るものが落ちていたので、とりあえず拾ってポケットに入れた。
ユーリは白い人々に近づくと、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。御助力感謝致します。よろしければお話を伺いたいので、あちらの建物に共にお越し頂けないでしょうか。」
詠唱を唱えた白い人が他の人を左手を軽くあげて抑え、前に進み出た。
「そんな他人行儀な言葉は、寂しいな。遅くなってごめんね。」
ユーリは、この声を知っている。忘れもしない大好きな声。
顔をあげれば、あの頃よりももっと大人っぽくなったトーマスの顔が、懐かしい笑顔を向けていた。
「トーマス!!」
「ただいま、ユーリ。」
ジハードは傷は治ったが、体の中に入った魔物の毒で、まだ意識は戻らない。治療に手を貸してくれた白い人が言うには、すっかり毒が消えるのに、5日はかかるらしい。
ユーリがジハードの治療をして、他の仲間の様子を確認し終えたのは、夜中近くだった。
その後、風呂に入って汚れを落とし、そのままベッドに入って死んだように眠った。
起きたのは既に昼を回っていたが、眠ったおかげで、体が軽くなり、お腹も空いた。怪我を治して、身支度を整え、食堂に降りていくと、同じように顔色が戻った仲間達が、お腹を満たしに来ていた。
いつもなら温かい食事も用意するのだが、昨日はそんな余裕も無かったので、とりあえず、大量のおにぎりと、サンドイッチ、水とお茶を用意しておいた。
仲間は食べ慣れているのでおにぎりを頬張っているが、食堂の一角に集まっている白い人々は、不思議そうにおにぎりを見ながら、サンドイッチを口にしていた。
ユーリはその一角に足を進めた。
「僕、ジハードの様子を見てくるよ。」
昨日、消滅させられそうになったのが、余程嫌だったのだろう。マモンが黒猫の姿になって、ユーリから離れて行く。
「ユーリ、体の具合はどう?」
昔と変わらない笑顔。
「大丈夫よ。ここへはロンドからの依頼があったの?」
「違う。僕が君の元に戻りたかっただけ。君を守れて良かった。」
ユーリはトーマスと向かい合って座り、食事をしながら、別れた後の話をした。
あの後、トーマスは白エルフの里に戻り、修行をした。そして、既に真の力に目覚めていた彼は頭角を表したが、逆に彼を里に閉じ込めようとする勢力に阻まれて、里から出ることができなくなってしまった。
トーマスは里から脱出する為、更に力をつけ、伝説の詠唱まで唱えられるようになった。遂に里長をも超えたトーマスを抑えられるものが居なくなり、彼はようやく里から出ることができ、ユーリの元に戻ってきた。
「大変だったんだね。」
「君の元に戻る為だ。なんの苦労も無かったよ。ユーリも色々苦労したんだろうね。」
「私は、ずっとジハードに守ってもらっていただけ。」
「そう。僕は遅すぎたのかな。もうユーリの中に僕が入る余地はないの?」
「トーマス。」
「話はそれ位にして、魔王の話をさせて貰ってもいいかな?」
「ロンド!いつ着いたの?」
「ついさっきだ。はじめまして白エルフの長。私は、ロンド・アクトス・ルーレイア、魔王討伐軍の軍師を務めています。今回の御助力に感謝致します。」
「……いえ。」
「皆様には、このまま、魔王討伐までご協力頂けるのでしょうか?」
「そのつもりです。」
「助かります。ジハードが倒れた今、ユーリエ王女をどう守ったら良いか頭を悩ませておりました。是非、王女をお守り下さい。」
「そのつもりです。」
なんだか、トーマスとロンドの間に言葉とは逆の刺々しいものを感じる。笑顔を交わしているのに、体が凍りつきそうだ。




