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16.命の危機


ユーリは鳥籠の外から黒猫マモンをつんつんとつついてみた。あれ以来、マモンはまだ目を覚まさない。

鳥籠もまだ役目が終わらないからか、消える気配はなかった。


「いい加減に起きろ。こら。」


猫が嫌そうに耳をピクピクさせている。見ているだけなら、なかなか可愛い。つやつやの毛並みはきっとツルツルして、触り心地も良いだろう。


ちょっと触りたいかも。


「ユーリ、そいつを出すなよ。」


ジハードに、ユーリの気持ちはバレバレだ。

仕方が無いので、またつんつんとつついて目覚めを待つ。


マモンが目覚めたのは、一日経ってからだった。


「お姉さん、この鳥籠なんなわけ?凶悪すぎ。」

「この猫はどの口でそれを言うのかしら?」

「僕はこんなに可愛い猫なのに。」

「ユーリ、やっぱり、そいつ処分しろ。」

「ええーっ!待って待って、僕はお買い得だよ。情報通だし、戦闘力もある。お仲間にはもってこいだよ。」

「いつからお前が仲間になったんだ。」

「仲間にしたいから生かしてくれたんでしょ?殺しちゃったら勿体ないよね。僕は変身が得意だから、どこにでも潜り込めるよ。ね?どう?」

「裏切るようなやつは信用できないだろう?誰が考えても処分一択だ。」

「やめて、やめてってば!お姉さん、この大男を止めてよ!僕、お姉さんは気に入ってるから、仲間にしてもらったら、裏切らないよ。約束する。」


可愛らしい黒猫の姿でおねだりされると弱い。でも、ここで仲間にと、言えば、ジハードの怒りを買うに違いない。


「お姉さん、僕、大きくもなれるよ。黒豹になったら、もっと毛並みも良くなって、手触り最高だよ。お姉さんを乗せて走ってあげるよ。馬より早くて快適だよ。」


心が揺れる。ジハードの視線が冷たい。どうしたら……



「ユーリの好きにすれば良い。」

「いいの?ジハード。」

「ああ。」


ユーリはマモンと目を合わせると


「約束よ。もふもふさせてね。裏切りは無し。」

「いいよ。約束する。お姉さん面白いし、一緒にいれば退屈しなそうだからね。」

「よし、出したげる。」


マモンを出して膝に抱くと、ツルツルの毛並みが気持ちいい。


「黒豹になる?」

「うん!」

「どうぞ〜」


滑らかでそれでいてもふもふ。最強じゃない?

その夜から、ユーリはマモンと一緒に寝るようになった。もちろん、ジハードは凄く不機嫌だったが。




1か月後、遂にサキュガイアに進軍する事になった。

これまでは、あちこちにあるサキュガイアの補給基地を潰してきたが、サキュガイアの城を中心に闇に侵されるようになってきた。


これ以上闇が侵食すれば、人が住めない土地となり、この世は魔物の世界に取って代わられるだろう。

それは絶対に阻止しなければならない。


ロンドの指揮の元、4軍に別れ、四方から攻めることになった。

ユーリとジハードは別班にしたかったようだが、ジハードがそれを受け入れなかった。

その代わり、中央突破を受け入れたのだ。




明日は進軍を開始する。戦士達は、それぞれの家で、別れを惜しんでいるだろう。


「ユーリ、怖かったら、行かなくていい。ここに残れ。」

「大丈夫。ジハードがいてくれるし、マモンもいるから。」

「そうだな。だが、敵は強い。マモン、頼みがある。もし、ユーリが危なくなったら、ユーリを攫って逃げてくれ。」

「いいの?僕、本当にそうするよ?」

「頼む。ユーリだけは何があっても助けたい。」


ジハードの気持ちはわかる。でも、ユーリはジハードにも何があっても死んで欲しくない。


「ジハード、死んでは嫌よ。死んだら、私を守って貰えないわ。私を守ってくれると約束したでしょ。」

「ああ、そうだな。」



ジハードはユーリの頬を両手で優しく包み込む。ユーリよりも少し温かく大きな手。


「ユーリ、一度だけ口付けてもいいか?」


ユーリはジハードを見つめ、そっと目を閉じた。ゆっくりと、二人の唇が重なり合う。

二人で3年を過ごした。その中で、初めての口付けだ。


ジハードは、ゆっくりと体を離すと、部屋を出ていった。

「ユーリ、おやすみ。明日は早い。早く寝ろよ。」



ベッドの上で、マモンが面白そうに見ている。

ユーリは急に恥ずかしくなって、マモンに背を向けて、寝た。なかなか寝付くことはできなかったが。



サキュガイアへの道は、全てがダンジョンだった。


いくつも枝分かれした道。毒の沼。落とし穴。そして、次々に襲い来る魔物。

仲間は徐々に減っては来ているが、それでも何とか戦い続けられるだけの戦力は保持し続けた。


寝る場所は創造の力で、ロッジを建て、全員が休めて、食事ができるようにした。一番過酷なルートをユーリ達についてきてくれた彼らにせめてもの救いとなればと思ったのだ。


ダンジョン内には扉の閉まっている場所も多い。次の階層に行くためには、それらの扉を開けて進む必要があった。

しかし、それは常に危険と背中合わせだった。



「しまった!モンスターハウスだ。全員かまえろ!」


ジハードの声に全員が緊張する。部屋に溢れるほどの魔物が、開いた扉から溢れ出てくる。

ユーリはオリハルコンの網を次々に魔物に投げるが、キリがない。


ピロリーン

*****


メインクエスト

溢れる魔物。

部屋中の魔物を倒し、魔王の心の欠片を手に入れよう


*****


扉を開ける前に聞きたかった。溢れる魔物って、まんまモンスターハウスでしょっ!とユーリは心の中で突っ込む。

モンスターの体液で地面も、剣を握る手もヌルヌルする。

今夜のロッジには、大きなお風呂を用意しよう。


目の前の魔物の首をはね、飛んだ体液を避けようとして、ズルりと足が滑って、体勢が崩れた。


「危ない!」


大きな体がユーリを抱え込んだ。


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