19.ゲームの終わり
白エルフの長となったトーマスを目を細めて見つめたジハードは、優しく声をかけた。
「よく帰った。立派になったなトーマス。」
「ジハードに認めて貰えるのが一番嬉しいな。」
「俺がこんな事になってしまい、迷惑をかけた。ユーリの事、ありがとう。」
マモンもユーリのそばに行ったので、今、この部屋には二人だけだ。
「ジハード、あなたに聞きたい事がある。」
「なんだ?」
「ユーリの事だ。」
予想はしていたが、やはりな、と、ジハードは思った。
「僕は、ユーリを守る為に強くなった。今なら、あなたとも互角とは言えないかもしれないが、いい勝負ができるぐらいになったと思う。」
「それで?」
「僕は、これから先の人生をユーリと、共に歩みたい。」
「寿命はどうする?お前は白エルフだ。共に歳を重ねることはできない。それはわかっているのか?」
トーマスはこくりと頷いた。
「わかっている。人の一生はエルフの一生に比べ、恐ろしく短い。」
「看取った後の人生は、永いぞ。」
「そうだろうね。でも、それだけに、とても愛おしい。」
「わかって、その上で、望むと言うんだな。」
「そう。だから、僕にあなたの愛した人を下さい。」
「トーマス。わかった。俺から奪うんだ。幸せにしなかったら、殺しに行くからな。」
「ふぅん。思ったより、簡単に話が着いちゃうんだね。」
マモンが音もさせずに部屋に入ってきた。
「ねぇ、お兄さん、簡単に言うけど、お姉さんがシワシワになった時、あなたは、ピチピチのイケメンなんだよ。それ、わかって言ってる?」
「当然だ。」
「じゃあ、お姉さんが何歳になっても浮気しないって誓える?」
「僕は浮気なんてしない。」
マモンは、ジハードを見て、同じ質問をした。
「ジハードは、このお兄さんが、お姉さんがシワシワになっても浮気しないと思う?」
「多分、しないんじゃないか?」
「そう、多分なんだよね。ジハードはさぁ、お姉さんが大切じゃないの?一緒に歳を取れるジハードなら、死ぬまでお姉さんを大切にできるんじゃないかな。よく考えてみてよ。本当にこのお兄さんに任せるのが、お姉さんの幸せになるの?」
ジハードは口を閉ざし、トーマスはテーブルを両手で叩いた。
「エルフは、顔の美醜で相手を愛するわけじゃない!僕の愛は変わらないよ!!」
「じゃあ、二人で勝手に決めないで、お姉さんに決めさせてあげてよ。」
マモンの後ろから、ユーリが姿を表した。マモンは二人の会話を盗み聞き、ユーリを起こして、ここへ連れてきたのだった。
「ユーリ。愛している。僕と一生を共にして欲しい。」
「……少し、考えさせて。」
ユーリは、走って自分の部屋に戻った。トーマスの気持ちは嬉しい。でも、簡単にトーマスに自分を譲ったジハードには、悔しさがある。
そして、ユーリには気になる事がある。魔王を倒したのに、自分がまだこの世界に居続けている事。
ユーリが魔王を倒せば、自分は百合子に戻れると思っていた。このゲームはここで終わりではなかったのだろうか?
それとも、一度この世界に入り込んでしまった自分には、元の世界に戻るすべはないのだろうか。
翌朝、やはりこの世界で朝を迎えたユーリは、覚悟を決めた。この世界で生きていく覚悟。
「お姉さん。」
「どうしたの?マモン。」
「昨日は勝手な事言っちゃってごめん。」
「ううん。マモンは私の為に言ってくれただけ。」
「それで、お姉さんはどうするの?」
「ねぇ、マモンは魔物として随分生きてきたんでしょ?」
「うん。見た目はこんなだけど、僕はもう100年以上生きてるよ。」
「それなら、残されて長く生きる気持ちがわかるのね。辛い?」
「凄くね。」
「お姉さんはどっちが好きなの?」
「どちらも好き。ジハードといると凄く安心して落ち着く。でも、トーマスといると、ドキドキする。」
「ふぅん。安心と、ドキドキね。」
「うん。」
「お姉さん、僕をお姉さんが吸収すれば、お姉さんはずっとずっと長生きできるよ。もちろん見た目も変わらない。あの白エルフと同じようにね。」
「何を言ってる!!」
バァンと扉を開けて立っているトーマスの目には怒りがあった。
「大丈夫。僕はお姉さんを生かすだけ。お姉さんは変わらない。それとも、お姉さんが長生きしたら、浮気できなくて困る?」
「そんな訳ない!」
ユーリは、トーマスを見て、マモンを見た。
あちらの世界に帰ることは諦めたが、それでももしかしたら、突然あちらの世界に引っ張られるかもしれない。
自分はそれを毎日怯えながらトーマスと暮らすのか?
もし、マモンを取り込めば、こちらの世界が自分をつなぎ止めてくれるかもしれない。
しかし、それをすれば、マモンはどうなるのだろうか?
「私に取り込まれたらマモンはどうなるの?」
「それは……消滅かな。」
「いや。」
「お姉さん。」
「マモンも残れるなら、私はマモンを取り込みたい。」
「ふふっ。お姉さんはわがままだな。その分、寿命が縮んじゃうよ。いいの?」
「今より長くなるんでしょ?それでいい。トーマスもいいよね?」
「あ、ああ。もちろんだ。ユーリ一緒に生きてくれるの?」
「うん。よろしくお願いします。」
トーマスが喜んであまりにもギュウギュウ抱きしめるので、ユーリはそれ以上何も言えなくなった。
マモンは体の半分をユーリに与え、自分は黒猫の姿で、ユーリのそばで過ごした。
ジハードは、新生サキュガイアの初代王として、国を治め、ユーリとトーマスは、アミュダットに戻り、滅びた国を再興した。
ロンドもユーレイアを再興し、かつての学問と芸術の国に育て上げるつもりらしい。
数年後、ユーリはトーマスの子供である長男を産み、更にその3年後、長女を産んだ。
そして、長い長い日々を生き、多くの事を成した。
「トーマス、お別れね。」
未だ美しいトーマスに、やはり美しいユーリ。
「今までありがとうユーリ。君のことは忘れない。僕ももう少ししたら君と同じところに行くよ。」
ユーリは綺麗な笑顔を浮かべ、ゆっくりとその息を止めた。
【ゲームクリア。おめでとうございます。】
「百合子!いつまで寝てるのよ。授業遅れちゃうわよ。」
ルームメイトの雅子の声。
「あれ?百合子、ハードモードクリアしたの?すっごぉい。」
目が覚めた。ここは、百合子の部屋だ。今は、あの翌日。
「ほら、サッサと着替えて。それから、後で着替えに寄る時間は無いから、可愛い服来てよね。今夜は合コンなんだから。」
「う、うん。」
戻ったんだ。この世界に。
急ぎながら、服を着替え、タブレット画面に目を移す。
ハードモードクリア画面が表示されていた。
刺激的で、幸せだった日々。楽しかったな。
「さぁ、行くよぉ。今夜のメンバーはなかなかなんだから。頑張ろうね。」
「はいはい。」
「ん?百合子、なんだか、感じが変わった?」
「そんなはずないでしょ。」
二人で笑いながら、部屋を出る。
扉が閉まる中、タブレット画面の文字が変わった。
【続編まもなく公開予定。お楽しみに。】
最後まで読んで頂きありがとうございました。




