14.地下の闇
ユーリの部屋を訪れたロンドは、顔色が悪い。
深く頭を下げて、守れなかった事を謝罪した。
「もういいです。無事だったんですから。」
「無事じゃない。」
ジハードの低い声がいっそう低い。
「子供たちは無事ですか?洗脳は解けたのでしょうか。」
「はい。あの、それで、洗脳はどうやって解いたのですか?」
「え……何となく、でしょうか?」
ユーリにもあの力がまだよく分からない。起きたら色々試してみたいとは思っているが、厳しい保護者と化したジハードは、まだ彼女がベッドから出ることを許してくれない。
まだ何か言いたそうにしながらも、ロンドはジハードの威圧に負けて、帰って行った。
「ジハード、私は本当にもう大丈夫だから。」
「駄目だ。」
「ジハード、お願い。」
「……今日だけはこのまま寝ていてくれ。」
「明日は?」
「仕方ない。」
「ありがとう。」
百合子の記憶では、ネットでハードモード主人公の力はチートだと話題に上がっていた。イージーモードでは、力の発現が無く、仲間の力で魔王を倒すため、ハードモード限定の力。中盤以降にしか取得できないため、たどり着く人が少なくて、詳細は語られていなかった。
これが主人公の勇者の力。
やっと一歩、勇者に……。
ずっと付き添っているジハードが食事の支度に部屋を出た隙に、少し力を試してみる。
冷たいコップに氷、そして、冷たいソイラテ。
今、ユーリの手の中には、かの有名店の味そっくりのソイラテがある。この世界に氷は氷魔法でしか作り出せないのに。
「んん。美味しい!」
一気に飲みきったユーリは空になったコップを手に、悩んでいた。どうしよう。このコップ。
出したのは良いけど、消えない。
創造の力は作り出す力。消す力はないらしい。
ジタバタ慌てているうちにジハードが戻ってくる足音がした。
どぉしよぉぉぉぉぉぉ
扉が開くのと、手に持ったコップが消えるのは同時だった。挙動不審なユーリは、手に何も掴んでいない変なポーズでジハードを迎えることになってしまった。
「何をしてるんだ?」
「え?何も?」
無駄に手を握ったり開いたりしてみる。
「そうか?」
怪しんでる。そう、そうだ。次は意外に甘党なジハードにフラペチ〇ノをご馳走しよう。そして、力を報告する。
ユーリはジハードから受け取ったお粥を食べながら、そう心に決めた。
やっとベッドから脱出して、思う存分、力を試せるかと思えば、過保護なジハードは一時たりとも離れてくれなかった。
「あのね、ジハード。」
「なんだ?」
「私、もう大丈夫だから。」
「……まだ心配なんだ。」
「ちょっと休憩しようか。」
ユーリはキャラメル味のフラペチ〇ノを2つ取り出して、ひとつをジハードに渡した。
「今、何をした?これはなんだ。」
「美味しいから、ジハードもどうぞ。」
スプーンですくい、太いストローで飲む。はぁ、美味しい。この世界で口にできるとは思わなかった。
ジハードも、ユーリを真似て口をつける。顔が美味しい顔になった。
「美味いな。」
「でしょう?」
「しかし、どうやって出した?」
「新しい力に目覚めたの。」
「新しい力……なんでも食べ物を出す事ができるのか?」
いやいや、食べ物限定って、それじゃ勇者できないよ。
「食べ物だけじゃなくて、色々。ただ、生き物は駄目だと思う。」
「そうか。」
ジハードが嬉しそうだ。何を出して欲しいんだろう?
二人でのんびりしてから、部屋に戻った。
飲み終わって間もなく、コップは消えた。
部屋にはロンドが待っていた。
ピロリーン
*****
イベントクエスト
地下に潜む敵を倒せ
敵を20体倒せば、クエスト達成
達成報酬:ラッキー値500、敵を一人仲間にできる
受ける/受けない
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は?敵を仲間に?裏切るんじゃないの?大丈夫なのかなぁ。でもラッキー値500は大きい。
敵20体ぐらい、ジハードと行けば楽勝だ。
【受ける】を選択しよう。
「何の用だ。」
「ジハードさん、ご機嫌が悪いですね。」
「お前の顔を見たからな。」
「随分と嫌われたもんですね。まあいいでしょう。今日はお願いがあって来ました。」
「お願い?」
「この街に地下空間を発見しました。今までに10人探索に出しましたが、誰一人戻って来ません。お二人に探索をお願いしたい。」
「なぜ、ユーリにも?」
「戻って来ない者が洗脳されて攻撃してきた場合、洗脳が解けるのは彼女だけですから。」
「ジハード、私も行く。」
「ユーリ。……分かった。それで、行くのはふたりか?」
「いえ、あと5人つけます。出発は明日の朝、8時。」
「入口はどこだ?」
「教会の裏です。」
ユーリとジハードが頷くのを見て、ロンドは帰って行った。
ユーリは忘れていたのだ。このゲームのイベントクエストの過酷さを。




